旅立ち・出会い
第5話
ライラは侯爵家の屋敷を出たその足で、王都にある馬車の乗合場に向かった。
近くにいた馬車の御者に声をかけ、王都から一番遠くの離れた街に行く馬車はどれかと尋ねる。
「いやアンタさ、一番遠いって言われてもな……」
「あら、お金なら大丈夫よ。とにかくここから一番遠く離れた場所に行きたいの」
話しかけた御者は怪訝そうな顔をして言葉を濁す。
ライラは金の心配をされているのだと思い、御者を安心させるように微笑んで見せた。
クロードは離婚に際してライラがこれから生きていくには十分すぎるほどの金銭を用意してくれていた。そのため、懐には多少のゆとりがある。彼なりの贖罪しょくざいのつもりなのだろうと信じたい。
「ああいや、金とかじゃなくてさ……」
「ねえ、一番遠くまで行く馬車はどれなのかしら?」
ライラに帰る家はない。
両親は幼い頃に亡くしてしまった。親戚くらいは探せばいるかもしれないが、会ったことはない。
帰りたい場所があるわけでもないので、馬車がたどり着く先なんてどこでもよかった。
ただ一刻も早くここから立ち去りたい。
「ああ、えっと……、一番遠くまで行くのはあれだよ」
「あの一番右にとまっている馬車ね。わかったわ、どうもありがとう!」
ライラは教えられた馬車にためらうことなく飛び乗った。
これからの長い人生をどう過ごしていくのか、それを考えるには馬車旅はちょうどよいだろう。
ライラはそのまま王都を出てひと月ほどひたすら馬車に揺られていた。
久しぶりの長時間の馬車移動だったので、身体に不調が出るだろうと覚悟していた。
だが、意外と大丈夫なもので、ライラは自分に感心しながら背筋を伸ばしてたどり着いた街で馬車を降りた。
その足でまっすぐに冒険者組合に向かう。
ひと月かけてじっくりと考え抜いた結果、ライラは結婚前まで生業としていた職業に復帰しようと考えたのだ。
慎ましく暮らしていれば一生生活には困らないように、クロードは金銭以外にも色々と配慮してくれていた。
とはいえ、さんざん好き勝手に浮気されて別れた元夫に用意された物に縋って死ぬまで生きるなど、ライラはどうしても嫌だったのだ。
ライラは結婚前までは冒険者をしていた。
しかも、それなりに高い評価を受けていた冒険者だ。
だからこそクロードには一人で生きていけるなどと言われてしまったのだが、そんなことは忘れることにする。
ライラが金を稼いで生きていくには冒険者しかないのだから。
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