第11話 「国分衆」と示現流始祖・東郷重位
半日の行軍で土埃に塗れた一行は、「
武張った出迎えの集団の先頭に立つ棟梁らしき浅黒い顔に、お涼は目を瞠る。
――兄弟子どの!
立木から煙が立ち上るまで
先手必勝。
蜻蛉の構え。
立木打ち。
「キィエーイ!」の雄叫び。
他流派には見られない特徴を持つ示現流剣法は、他国の侍に増して向上心と名誉心に富んだ薩摩武士によって熱狂的に支持され、瞬く間に藩内に
――その兄弟子どのが、まさか「国分衆」であられたとは!
亀寿ノ方には大見得を切ったものの、内心では心細かったお涼は快哉を挙げた。
「おお、お涼どの。なかなかの別嬪になったではないか。あの山出しの田舎娘が、これほどまでになるとは、女子とはわからぬものよのう」にっと広げると、何やら蟹を彷彿させる独特な笑顔も、たまらなく懐かしい。
「相変わらずのお口でございますね、兄弟子さま。ご活躍のほどはかねがね……」
「いやぁ、古い仲間にそれを言われると面目次第もござらぬ。孤高の剣の道を追求すべき身としては何とも弁解のしようがない『雇われ指南』に成り果て申したわ」
示現流の評判を聞いた国主・家久からお抱え兵法師範との御前試合を挑まれた。
気は乗らなかったものの討ち負かすと、国主の面目をつぶされたと言って逆恨みされ、あろうことか、国主自ら待ち伏せのうえ、卑劣な闇討ちを仕掛けられた。
それも
その際、過分な食禄も申しつかったが、堅く辞退した……。
面目なさげに頭を掻きながら、訥々といきさつを語る誠実は往古のままである。
弱みを隠さぬ率直こそ強者の証し。小者ほどおのれを飾りたがるものゆえ。
思いもよらぬ味方の出現に、独り力んでいたお涼は小躍りする思いだった。
――ん?
ふと視線を感じる。
お涼の目の先をたどった東郷重位が、他に悟られぬよう、小声で教えてくれた。
「あれは
気のいい兄弟子の口説にうなずきながらも、お涼は何やら胸騒ぎを覚えていた。
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