第10話 隼人の里の国分城





 翌3月11日未の刻。

 落ち延びた一行と共に国分城に到着したお涼は、あっと目を瞠った。


 ――こは如何に?


 屋形造りの館の背後に、もうひとつの城がある。

 隼人の反乱(養老4年=720年)で最後まで残った堅牢な曽於乃石城そおのいわき


 九州を掌中に収めた関白秀吉によって、島津宗家当主・義久が強引に隠棲させられた富隈城とみくまじょうには後詰めの城がなかった。四方から侵入され易い平板な地形に、背後は海。丸腰の城、否、館だった。


 波音が枕辺を浚う老いの胸を去来するのは、自分亡きあとの不穏な未来図……。

 71歳の高齢にして新城の建設を発願した心情もうなずけるというものである。


 上のおふたりはすでに嫁いでいらっしゃるので、ご心配は末娘おひとりだった。


 ――自分亡きあと、夫によって必ず放逐されるであろう亀寿が安心して身を寄せられる館は、薩摩・大隈・日向の3国に境を接する要衝の地に置こう。万物流転。いつか状況が変わるかも知れぬときのため、万難を排しておいてやらねばならぬ。


 将来の政変を見通した灰色の眸が、最後の光を炯々けいけいと放ったかもしれなかった。


 ――お父上が満を持してくださった、ここが亀寿ノ方さまのご安住の地……。


 仰ぎ見れば、過度な贅を廃した質実剛健な造りにも重厚な建築美がうかがえる。

 鴨居や格天井ごうてんじょうに配された唐風様式にも「隼人の里」の城らしい趣が匂っていた。


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