第3話 好奇心

「なんだ、あいつ」

下を眺めているときふと目が合った気がした。

恐らくたまたまだろう。

そう思いながらも、その場所から目を逸らし、真反対の景色を見る。


それにしても、日本人には見えなかった。

風に流された金色の髪。


「まぁ、大学生で髪を染めている奴は幾らでもいるか」

食事を済まし次の教室に向かい歩を進める。

飛車や香車等のように一気に進めたらどれだけ楽なのだろうか。


三時間目の授業はひたすら眠気との戦いだ。


なるべく前のほうに座ろう。

後ろのほうの人間はうるさい。

授業の始まる前から授業終わるまで話し声が流れてくる。

なんで大学生にもなってあんなに落ち着きがないんだ?

そういうのは高校生のやることだ。


「ん?」

席に着き暫くした頃、俺の背後に人の気配を感じた。

少し寝てしまっていたのか。

人が座った気配を全く感じられなかった。


ちらりと斜め後ろを振り返るとあの女だ。

荷物をまとめていて顔全体は見えないが間違いない。

目が覚えている服装とも一致した。


「まさか、二年生だったのか」

思わず呟いてしまった。

正直言うと一年生だと思っていたのだ。

この時期の一年生は入学して間もないため一人で活動していることも少なくない。

いや逆に集団で動くことのほうが多いのか?

自分が前者であったためそう思い込んでいた。


そこからというもの授業が始まってからも少し視線を感じる気がする。

集中できない。

俺は授業をしっかり受ける。

テスト前にアタフタと勉強をするなんて面倒くさい。

それに高額な授業料を払ってるんだから、それを無駄にする訳にはいかないのだ。

だが……なんというか集中できない!!


「それでは、今日の講義はここまでです。皆さん、お疲れさまでした」

その教授の声に溜息を隠せなかった。

結局終始、集中できなかった……


「駄目だ。今日はもう帰ろう」

授業に集中できないのなら残りのゼミ、

出席しても意味がない。

後ろを振り向くとあの女はもういなかった。


教室の階から地上に降りて最寄りの大阪駅に向かい歩き出す。

どこかで買い物して帰るのもいいかもしれない。

大学に来ていく服が少し足りないのだ。

高校は制服だったから、こんなに私服登校が辛いとは思わなかった。


「今日は、いいか~」

考えていると面倒になってしまった。

今日は変な疲れ方をしている。


「これは、後に引きそうだ」

ただ誤解されないように言っておく。

これは俺があの女が気になるのではない。

向こうからの視線に対して疲れただけだ。

見られれば意識はそっちに行くものである。

故に気になっているのではない。

決してこれからの授業も近くに座って欲しいなとか、座れたらなんて思ってはないのだ。


電車に揺られ家に送り届けられる。

それだけの家路において息が何度漏れたのだろう。


「今頃、ゼミでなにをしてるんだろうな……」

自己紹介であることを願いながら家の扉を開けた。

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