・陰キャの俺にギャルが腕を絡めて笑いながら通学している どうする?

 通学路をさらに進み、住宅街を離れて学校のある都市部に入った。

 ざわざわ……ざわざわ……。


「~~♪」

「ぅ……ぅぅ……っ」


 おわかりだろうか?

 オタク陣営かつ貧乏人の俺に、陽キャ陣営でありギャルでもあるクロナが腕をからませて登校するだけで、否応なく人の目が集まるというこの事実が。


 ざわざわ……ざわざわ……。

 高校に近付くにつれて、注目はさらに興味と詮索の色合いを強めた。


「離せ……。もうこれ以上は堪えられん……っ」

「えー、家の前では我慢したあげたじゃん。約束違うー」


 ふりほどこうとすると、彼女は唇を突き出してさらにしがみついてきた。


「んな顔してもこれ以上はダメだ……っ」

「あははっ、じゃああそこまで付き合ってよ」


 クロナの指先を追うと、そこには校門があって男性の先生方がこちらを睨んでいた。

 朝からイチャつきやがってこの野郎、どう難癖付けてやろうか! って顔だ……。


「あの、クロナさん、先生方が見ておられるのですが……?」

「だからー? あ、せんせー、おはよーございまーすっ!」


 先生方の目が怖くて、俺は挨拶も直視もできないまま校門を抜けた。

 そこまでやってくると、クロナは俺を解放しておかしそうにこちらを笑った。


「あはははっ、なんか言われないかスリルあったねーっ!」

「スリル?! ああそうだなっ、スリルしかねーよっ!」


「楽しかったねっ、またやろーねー♪」


 誰がするか、バカ! と言い掛けて、兄ちゃんに昨日口が悪いと言われたのを思い出して止めた。

 疲れ果てて立ち尽くす俺に、クロナは手を振って去ってゆく。


 こっちも軽くだけ手を振ろうかと思ったが、周囲の注目に気づいて止めた。



 ●◎(ΦωΦ)◎●



 クロナは登校だけで満足したのか、その後の学校内では接触してこなかった。


「聞いたべ、与一! お前ギャルと腕組んで登校してきたんだべ!?」

「しかも巨乳にござるよ!」

「あ、ああいうのが……好きだったんだ、ね……。へ、へぇぇ……?」


 親しいクラスメイトに根ほり葉ほり聞かれた。

 ここでバカ正直にただの同居人です、とは言えない。嘘に嘘を重ねてごまかすしかなかった……。


 勉強して、昨晩用意した冷凍食品と残り物の弁当を食べて、最後の授業が終わって放課後に入ると、俺はまず報告もかねて実家に向かった。

 放課後に入ってもクロナがからんでこないことに安心する反面、遊ばれていたのかと残念な気持ちも覚えた。


「……というわけで、問題はあったが、問題なくやれてる。心配はしないでいい」

「キャーッ、同級生と同居なんてそんな……! お母さんそういうのキュンキュンッしちゃう♪」


 家に戻ると兄ちゃんと母さんがいた。

 母さんは最初から細かいことを気にしない人なので、大らかに事態を受け止めてくれた。


「フジワラさんが未成年とは聞いていなかったが、こちらも成人の確認すら取っていなかった……。俺のミスだ、すまん与一」

「兄ちゃんのせいなんかじゃないよ。それに藤原さん、ちゃんとお金も持っているみたいだし、うちに泊まってもらうのが一番安全だと思う」


 こっちは手を出す気なんてないし大丈夫だ。

 むしろ、安全じゃないのは俺の方だったりして、ははは……。


「むぅ……。子猫を連れた家出娘か……」

「そうなのっ♪ あの子猫まだ小さいのにやんちゃでね……はぁっ、お母さんもう一人男の子が欲しくなってきちゃう……」


 六人も産んだのにまだ満足しない母さんに、兄さんと一緒にツッコミを入れて家を出た。

 一つ下の弟は部屋が広くなったのに、まだ俺のスペースを残してくれている。


 いつでも帰ってきていいと母さんに言われて、だいぶ心が揺れたけれど、カマタリとクロナが今は気になる。

 俺はまっすぐに新しい我が家へと帰った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る