第25話
スキルに対する理解度……?
意味が分からない。初めて聞いた内容だ。
私は率直にその疑問をぶつけた。
『……どういう意味だ?スキルはスキルだろう?理解度とはどういう意味だ?』
回答は返ってこないかもしれない。そんな風に思っていたが、無機質な声は意外にも回答をくれた。
【スキルに対する理解度です。自身の継承スキルを。そして、対象となるスキルをどれだけ理解しているのかを示して下さい】
『……!』
私は必死に考える。
スキル……それはこの世界を作り出した神々が、そこに住まう者達に与えた恩恵の一つ。
様々な発動条件と待機時間が存在するが、基本的には魔法と違いMPを消費しない。
唯一、ユニークスキルはこの待機時間が必要無く、恐らくは各々の特殊な条件が存在しているもの……。
【正確です。理解度10%を確認。特別継承を発動させますか?】
『!?』
考えを頭の中でまとめていると、不意に無機質な声が響いた。
“特別継承を発動させますか?”と言う言葉に思わず飛び付きそうになるが、それでは恐らくスキルの獲得には至らない。
前後の文脈から考えるに、この理解度を高めなければ、低いパーセンテージでしか継承出来ないのだろう。
【正解です。理解度20%を確認。特別継承を発動させますか?】
『……!』
間違いない……!この調子で考察を続けて行けば、彼等を助けれるかもしれ無い!!
「……どうした?」
『……待ってろ!!今からお前の家族を助け出してみせるからな!!』
「……ハッ!何か掴んだみたいだな……。期待せずに待ってるぜ」
『ああ……!!』
私はそう言って、再び思考を巡らせる。
“継承”とは、前世代からの権利や伝統、ノウハウ等を理解し、引き継ぎ、そして自らの物とする事……。
“継承スキル”も、恐らくはその概念を踏襲した物の筈。
【正解です。理解度30%を確認。特別継承を発動させますか?】
つまり、“継承スキル”での“継承”は、対象となる物を理解した上で発動させないと、その取得率を上げる事は出来ない。
【正解です。理解度40%を確認。特別継承を発動させますか?】
……その事から考えるに、私が継承の習熟度でスキル取得率が上がったと思っていたのは勘違い。単に理解度の問題だった……。
【正解です。継承スキルは理解する事でその力を発揮するスキル。習熟度は、取得最低量の確保にしか関係有りません。痛い勘違いがやっと治ったね。にゃは】
……この天の声の編集担当は喜びの天使。
【正解です。継承スキルの理解度100%を確認。特別継承を発動させますか?】
比率高くない?天使の。
しかし、
『……させない。対象スキルの考察が終わっていない。そっちに移ってくれ』
【正解です】
……遊ばれているな。まぁ良い。
対象スキルは保存系統のスキル。一定の条件を持つ物を、一定の方法で保管・保存する事が出来る。
【正解です。対象スキル理解度20%を確認。特別継承を発動させますか?】
あのヘビの動作から察するに、スキル発動には口での接触が必要。
【正解です。理解度40%を確認。特別継承を発動させますか?】
奴の体積は変動していなかった事から、保存場所は体内ではなく、擬似空間とでも言うべきものである。
【正解です。理解度60%を確認。特別継承を発動させますか?】
……ジャスティスを追う時、奴は邪魔な岩を保存して退かしたりはしなかった。それだけの知能が無かったと言われればそれまでだが、自力で習得したスキルの使い方はある程度分かる筈。つまり、岩は飲み込む事は出来ないと考えられる。
口に触れる事が条件で、岩が対象とならないと言う事は、恐らくこのスキルの対象は、“使用者が捕食可能な対象”に限定される。
【正解です。理解度80%を確認。特別継承を発動させますか?】
……ここまで来た。
次に出す二つの回答が不正解なら、ここまでの作戦は全て無意味になってしまう。
私は深く深呼吸をする。
そう、この回答のどちらか片方でも不正解なら、彼等を救う術は存在しない事になる。
そして、このどちらも根拠は無いに等しい。しかしそれでもこの回答を最後に口にするのは、“そうであって欲しい”という願望に他ならない。
……頼む!私を……私を嘘吐きにしないでくれ!!
『……保存は、対象となる捕食可能物を捕獲した時点と同じ状態で保存される。また、保存した対象を吐き出す事も可能』
一定の時間の後、無機質な声が再び響く。
【正解。一定以上の理解度が確認されました。対象EXスキル:“異次元胃袋”の継承を実行しますか?】
ーーーーーー
『ちゅ〜……』『チュッチュッ……』『チュゥッ……』『チュッチュッ……』『ちゅ……』「ゴリラァ……」『チュウ〜ッッッ……』『チュウチュッ……』
『……』
私は、ジャスティスを囲む眷属達をじっと見ていた。
あの後、新たに手に入れたEXスキル、“異次元胃袋”の効果の一つ、“リバース”を使用し彼等を解放したのだ。
……ジャスティスはその様子を見ながら、静かに眠りについた。
もう、彼等を置いて行ってもジャスティスは責めないだろう。私は約束を果たしたのだから。
しかし、私はジャスティスが最後に願った事も叶えてやろうと思う。
……貸しの一つでも作った方が、次に会った時に笑えるだろうからな。
『お前らッッッ!!何をボウっとしているッッ!!』
『『!?』』
彼等が一斉に此方を見る。私の言葉が理解出来た事に驚いている様だった。
『ジャスティスはもう、眠りについたんだ!!そっとしておいてやれッッ!!』
『ちゅ〜ッッッ!?』『チュッチュッ!!』『チュゥッ!!』『チュッチュッ!?』『ちゅ!!』「ゴリラッ!!」『チュウ〜ッッッ!!』『チュウチュッ!?』
次々と不満の声を上げる彼等。具体的な言葉は出ないが、そのニュアンスは理解出来る。
“自分達の王を放ってはおけない”
彼等はそう言っているのだ。
『……お前達、ジャスティスが最後に何て言ってたのか忘れたのか?言っただろう!!奴は!!私に対して“コイツらを頼む”と!!』
『『ちゅ……!!』』
全員が息を飲み、じっと私を見つめてくる。
……正直、柄じゃない。本来の私は、他者を思いやる様な人間性は持ち合わせていない。
生前は出世に取り憑かれ、人々の頂点に立ちたいと願っていたが、トカゲとなった今ではそんな願いは無くなっていた。
しかし、それでも。
ジャスティスの最後の願いを叶える為に、私はこう言わなければならない。
『私は!!新たなるお前達の“王”だッッッ!!全員ッッッ!!私に着いて来いッッッ!!』
『『……』』
一瞬の静寂が訪れる。そして──
『ちゅ〜ッッッ!!』『チュッチュッ!!』『チュゥッ!!』『チュッチュッ!!』『ちゅ!!』「ゴリラ!!」『チュウ〜ッッッ!!』『チュウチュッ!!』
「zzz…『ちゅ〜ッッッ!!』『チュッチュッ!!』『チュゥッ!!』『チュッチュッ!!』『ちゅ!!』「ゴリラ!!」『チュウ〜ッッッ!!』『チュウチュッ!!』
『ジャスティスはもう居ない!!しかし、彼は私達の心の中に生きている!!違うか!?』
「……あれ?何これ『ちゅ〜ッッッ!!』『チュッチュッ!!』『チュゥッ!!』『チュッチュッ!!』『ちゅ!!』「ゴリラ!!」『チュウ〜ッッッ!!』『チュウチュッ!!』
『ジャスティスよ!!永遠にッッッ!!』
「いや、なんか死んだみたいな流れだけど生きて『ちゅ〜ッッッ!!』『チュッチュッ!!』『チュゥッ!!』『チュッチュッ!!』『ちゅ!!』「ゴリラ!!」『チュウ〜ッッッ!!』『チュウチュッ!!』
『ジャスティスよ!!フォーエヴァーッッッ!!』
「おい待てトカゲ!!テメェ目が合っただろ!!無視すん『ちゅ〜ッッッ!!』『チュッチュッ!!』『チュゥッ!!』『チュッチュッ!!』『ちゅ!!』「ゴリラ!!」『チュウ〜ッッッ!!』『チュウチュッ!!』
『ジャスティス……!!ジャスティスゥゥゥッッ!!』
「テメェッ!!俺様の群れを乗っ取る気か!?テメェらっ正気に戻『ちゅ〜ッッッ!!』『チュッチュッ!!』『チュゥッ!!』『チュッチュッ!!』『ちゅ!!』「ゴリラ!!」『チュウ〜ッッッ!!』『チュウチュッ!!』
私は、彼等を引き連れてその場から立ち去った……。
さらばジャスティス・ビーバー……。
ーーーーーーーーー
誰も居なくなった河原に、一匹のビーバーが佇んでいる。
彼はその両目に涙を溜めながら、かつての眷属達が去って行ったその方向をじっと見つめていた。
「……殺す……」
エリートリーマンの人外生活!〜トカゲから至龍を目指します〜 @Chibakansai
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