第24話

ーーーーーー



「んで、具体的に俺は何をすれば良い?」


 再び岩の隙間に隠れて直ぐにジャスティスがそう聞いて来た。少しは自分で考えろとも思うが、あまり時間もかけられない。


『シンプルだ。奴を連れてあの砂利地に行ってくれ』


 私はそう言って、川の直ぐ近くの砂利地を指す。

 そこには遮蔽物が無く、起伏も少ない。視界を遮る物は殆ど無いと言っていいだろう。


「あ!?あんな所に行ったら魔眼の餌食じゃねぇか!俺に死ねってのか!?」


『m9(^Д^)』


「テメ……」


『良いか?ジャスティス。こう言っては何だが、お前の攻撃能力は極めて高いと思う。しかし、それはあくまでも我々のヒエラルキーに於いての話だ。奴は愚鈍だが、私達よりも位階の高い魔物。言ってみれば格上だ。お前の攻撃を凌ぎ切った奴を倒せる手段は限られている。確か、万雷千槌ノーザンナインティーンと言ったか。あの技はまだ使えるか?』


「〜〜〜ッッッかえねぇよッッッ!!もう空っけつだ!!万雷千槌ノーザンナインティーンどころか魔法一発も撃てねぇよッッッ!!」


 コイツ……状況わかっているのか?余り大声は出して欲しくないのだが。

 まぁ、仕方ない。所詮は齧歯類なのだ。頭悪いのは分かってる。


『なら仕方ない。まぁ、元々当てにはしてなかったからな。それじゃあお前の眷属達に一斉にあの蛇に雷撃を撃たせる事は可能か?』


「……出来る。だが、奴を殺せるとは思えないぞ?あの耐性とタフネスを貫通させて殺すのは無理だ」


『構わない。目眩しにしか使わないからな。トドメは私が刺す。私があの岩に登ったら、誘導を始めてくれ』


 私がそう言って指差した先には、私が魚に虫を撒いていた岩があった。


「あそこは……」


『そう、あそこから奴の胴体に岩を投げ付ける。なるべく近くに寄せて欲しい。後、誘導自体は派手に頼む。奴の視線が私に向かない様にな』


「……分かった」



ーーーーーー



 どうにか上手くいった。目の前には胴体を潰されてのたうっているヘビが居る。

 懸命に岩を退けようとしているが、それは最早無意味だ。奴の半身はピクリとも動かないのだから。


 今回の作戦での私の担当区分で、ネックになっていた点は二つ程あった。


 一つはヘビの魔眼だ。

 あの停止の魔眼は、無機物にも作用していた。もし仮に奴がこの岩に気付いてしまえば、その効果で岩を回避してしまう可能性があった。

 しかし、私は事前の検証で魔眼の重ねがけが出来ない事を把握していた。その為、私は岩を投げた時点でコカトリスの魔眼を使用し、奴の魔眼での回避を防いだ。

 まぁ、結局奴は気付かなかったのだが。


 次にネックとなっていたのはシンプルな問題。


 “果たして奴を岩で潰せるのか?”だ。


 これはシンプル故に対応が難しい問題だった。岩を当てても奴が死なないのであれば全てが無駄に終わってしまう。そうなってしまえば、残念ながら私にはジャスティス達を見殺しにして逃げるしか無かった。


 しかし、私には秘策があった。



 そう、“重強化マハブースト”だ。



 重強化マハブーストは、対象の重さ、STR(物理干渉力)、SPD(俊敏性)を強化する強化魔法。

 私は、投げた岩に魔眼を使用した後、そのまま重強化マハブースト使用したのだ。


 結果、重さ、物理干渉力、そして速度が強化された岩は、圧倒的な破壊力を持ち、あのヘビの胴体を見事に潰してみせたのだった。


「……へへ……やったか……」


 ジャスティスがそう言って笑う。しかし、その姿には最早力強さを感じられなかった。

 

 そう、彼は死に瀕している。私との戦闘。そして、あのヘビに打たれた事で大きなダメージを受けていたのだ。


 ……もう、永くは無いだろう。


『いや、まだだ。むしろここからが本番だ』


 そう言って私は軽く笑う。

 本当はジャスティスを死なせたくは無い。奴との時間は楽しかったし、きっと奴もそうだったと思う。


 ……思い上がりかも知れないが、これからも生きていてくれたら。


 ……友人に、なれたかもしれ無い。


『……』


 しかし、それはもう叶わない。私が奴にしてやれる事は、これしか残っていない。


『グワッガ!(継承)』


【継承発動成功。何を引き継ぎますか?】


『このヘビの持つ保存系統のスキルを継承する』


 そう、早くジャスティスに仲間を返してやらなければ……。


 そう思った私だったが、返ってきた返答は私の予想を裏切るものだった。


【継承発動不可。対象スキルはEXスキルの為、通常の継承では引き継ぎ不可能です】


『……は?』


 頭が真っ白になる。何を言ってるんだ……?じゃあ、今まで何の為に駆けずり回ったと思っている!?


『ふざけるなッッッ!!継承を発動させろ!!』


【継承発動不可。対象スキルはEXスキルの為、通常の継承では引き継ぎ不可能です】


『黙れッッッ!!継承ッッ!!』


【継承発動不可。対象スキルはEXスキルの為、通常の継承では引き継ぎ不可能です】


『継承ッッッ!!』


【継承発動不可。対象スキルはEXスキルの為、通常の継承では引き継ぎ不可能です】


『黙れぇぇぇェェッッッ!!』


 私は叫ぶ。このままでは奴を倒した意味がない。ジャスティスに命を使わせた意味が無い。


 私に……私にジャスティスを無駄死にさせろとでも言うのか!?


 私は苛立ちから、頭を岩へと叩きつける。


『継承ッッッ!!』


【継承発動不可。対象スキルはEXスキルの為、通常の継承では引き継ぎ不可能です】


『継承ッッッ!!』


【継承発動不可。対象スキルはEXスキルの為、通常の継承では引き継ぎ不可能です】


『継承ッッッ!!』


【継承発動不可。対象スキルはEXスキルの為、通常の継承では引き継ぎ不可能です】


 何度も返ってくる無機質な答え。私はその度に頭を打ち付け続けた。


『継承ッッッ!!』


【継承発動不可。対象スキルはEXスキルの為、通常の継承では引き継ぎ不可能です】


『継承ッッッ!!』


【継承発動不可。対象スキルはEXスキルの為、通常の継承では引き継ぎ不可能です】


 クソッ!!クソ!!クソクソクソッッッ!!

 私は何の為にッッッ……!!


 私が何度目かになる頭突きを岩に見舞った時、不意にジャスティスが声を掛けて来た。


「……もう良い……。十分だ……」


『何を言ってるッッッ!!必ず返すと約束しただろうがッ!!』


「そうだな……嘘吐き野郎……」


『……ッ!』


 私は押し黙る。何も、何一つ言い返せなかったから。


「なんて顔してやがる……冗談に決まってんだろ……」


『冗談……なんかじゃない……!!私は……お前に嘘を付いた……!!』


 私はそう言って俯く。結局私はジャスティスに何もしてやれなかった。ただただ無駄に命を浪費させただけだった。

 しかしジャスティスは、事も無げに言った。


「……お前だって知らなかったんだろ?まぁ、何をするつもりだったかは最初から分からなかったが、少なくともお前が必ず返すと言った時、お前の目に嘘は無かった。……まぁ、アイツらが帰って来ないのは悲しいが、それでもお前は嘘吐きなんかじゃねぇよ……」


 視界がぼやける。上手く奴の顔が見えない。


「……それでもお前の気が咎めるって言うなら、俺が居なくなった後、コイツらの面倒を頼む。テメェになら任せられそうだからな……」


 そう言って笑うジャスティス。

 ふざけるな。なんで笑う。なんで罵ってくれない。私はお前の敵で、お前だって私の命を狙っていただろう!?


 なんで私は……なんで私はこんなにも納得出来ないんだッッッ!!


『継承ッッッ!!』


【継承発動不可。対象スキルはEXスキルの為、通常の継承では引き継ぎ不可能です】


『継承ッッッ!!』


【継承発動不可。対象スキルはEXスキルの為、通常の継承では引き継ぎ不可能です】


『クソっっタレェェッッッ!!』


 私は最大の力で頭を岩に叩きつけた。額が割れ、血が流れて行く。


 ……何がユニークモンスター転生だ。ネズミすらも救えない、哀れなトカゲの一体どこが特別なんだ。

 私は特別なんかじゃ……


『……?』


 その時、私の脳裏に閃くものがあった。

 これは……もしかして……!!


 私は直ぐさま継承を発動させる。


『継承ッッッ!!』


【継承発動不可。対象スキルはEXスキルの為、通常の継承では引き継ぎ不可能です】


『……分かった。なら、継承は可能か?』


 そう、天の声はずっと言っていたのだ。


 “通常の継承では不可能”と。

 ならば別の方法なら可能性はある筈!!


【“特別継承”での継承は可能です。スキルに対する理解度を示して下さい。】



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