第22話



 さて、助けるとは言ったもののどうすれば良いのやら……。

 私はゆっくりと迫る大蛇を観察する。


 身の丈は3m程だが、胴廻りはかなり太い。

 愚鈍ではあるが雷撃耐性と行動制限系の魔眼。それに四次元胃袋とでも言うべき捕食スキルを有しており、尚且つジャスティスの攻撃を物ともしないタフネスもある。


 正直、まともにやり合うには骨が折れる相手である。


『グワ?』


 私が観察を続けていると、奴の瞳が怪しく輝く。

 “魔眼”か、しかしながら私とて魔眼使い。弱点はとっくに調査済みだ。


『グワッガ!』


 私はすぐさま手近にあった大きめの石を拾い、奴の視界から私をさえぎる様に立てる。

 魔眼の効果は、発動時に術者の視界に入っていなければ発揮されない。こうして魔眼発動のタイミングで遮蔽物を用意してやれば、簡単に対象を移す事が出来るのだ。


 私は試しに手を離してみる。すると石はそのまま立った状態を維持した。


 ふーむ。無機物にも効果があるのか。これ、ひょっとしなくても“コカトリスの魔眼”とほぼ同じ効果だな。この状態で私も石に対して魔眼を使ったらどうなるんだ?


 『グワッガ(コカトリスの魔眼)!』

 

 私は魔眼を発動させる。しかし、目の前の石はそのままの状態を維持した。コカトリスの魔眼の効果は“遅延”であり、もし仮に効いているならば石はゆっくりと倒れる筈。

 どうやら魔眼の重ね掛けは出来ないらしい。成る程、勉強になった。


 私が新たな知識を吸収し頷いていると、不意に誰かの視線を感じる。


 私がその方向へと目を向けると、一匹のビーバーと目が合った。

 

 ジャスティスだ。


 彼は全身をピクピクしながら私に視線を向けている。全く、敵が迫る中何を棒立ちしているのやら。


「て……め……自分……だけ……」


『グワ?』


 何だろう?何か言いたそうだなぁ?

 でも分かんない。トカゲ分かんない。取り敢えず指を指して笑顔を向けよう。


『m9(^Д^)』


「……!!絶……対に……コロス……!」


 そこまで言うと力尽きたのか黙ってしまうジャスティス。全く話を途中で区切るなんて悪い子だ。

 しかし、私には彼が言いたいことが手に取るように分かる。

 私は彼に向かって優しく声を掛けた。


『私もドラえも◯より、キテレ◯派だよ。コロ◯、可愛いよね!』


 そう、彼は“絶対にコ◯助が良い”と、私にそう伝えようとしていたのだ。

 私で無ければ聞き逃すところだ。良かったな、ジャスティス。


「……っ殺すぞテメェェェッッ!!」


 叫ぶと同時に私に飛び掛かるジャスティス。私はそのまま彼を引き連れて素早く岩の上に駆け上がる。


 次の瞬間、


 ──ドゴォォォンッッ!!──


 轟音と共に私達がさっきまで居た石に、ヘビの尾が叩きつけられる。

 石は砕け、周囲に飛び散る。威力から見てスキルだな。恐らくレイジングテイルだろう。


「んな……!?」


 ジャスティスがその光景に驚愕する。あのままあそこに居たら、ひとたまりも無かっただろう。

 ジャスティスは私の胸ぐらを掴み詰め寄る。


「テメェ!!マジで殺すぞ!!ふざけてんのか!?」


『ふざけるだと?馬鹿な事を言うな。向こうを見ろ』


 私がそう言って指差すと、ジャスティスはそれを追う様に視線を移す。その先には、体の自由を取り戻して素早く石の間へと隠れるネズミ達が居た。


「……!」


『奴の魔眼は対象を拡散すると、その効果が落ちていた。奴は脅威と捉えた私達を魔眼で拘束する為に、彼等の魔眼を解いたんだ。もし私とお前の両方共が魔眼を回避していたら、奴は逃げ出すネズミ達に直ぐに気付いてしまい彼等が逃げる時間を稼げてたかは分からない。どちらか片方が囮になる必要があった。しかし、最悪の場合を想定するなら、奴の行動を魔眼で抑制出来る私が拘束されるのは避けるべきだった。何か異論があるか?」


「クッソがァァァァァァァァァァッッッ!!ねぇよオォォォォォォォッ!!」


 頭を掻き毟りながらそう叫ぶジャスティス。文句無いなら良いじゃない。何が不満なのかな?トカゲ分かんない。


『さて、拘束されていたお前の眷属達は私の機転で逃げる事が出来たな?私のお陰で』


「あ゛あァァァァァッッ!!そうだな畜生がァァァァァッッ!!」


 喉の調子が悪いのか、“あ”に濁点を付けながら叫ぶジャスティス。しかし、眷属達が解放された事である程度の算段が付いた。

 私は彼の目を見てこう告げる。


『次は奴に呑まれた連中を取り戻す。私の言う通りに動いて貰うぞ』




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