第21話
ヘビがネズミ達を呑み込むのを止める。
どうやら食事の邪魔をした私に御立腹らしい。
それならジャスティスにも同じ様に怒れと思ってしまうが、魔眼で行動を制限出来た私と、有効打が一つも無いジャスティスでは奴にとって脅威度が違って見えるのかも知れない。
さながらジャスティスはそこらのネズミと変わらない餌にでも写っているといった所か。
「……無視すんなッ!!何のつもりだって言ってんだよ!!」
ジャスティスが吠える。
……五月蝿い奴だ。そんな事、私だって分からない。少なくとも、人として生きていた時はこんな愚かな真似はしなかった。
出世の為に使える物は利用し、使えなければ切り捨てる。そこに義理も人情も挟まなかった。
そうして生きて来て、そして、そのまま死んだ。
……それが私だった。
なのに、あのヘビに“家族を返せ”と吠えたジャスティスを見た時、気が付けば魔眼を発動させていた。本当に馬鹿である。……
『グワッガ……!』
「……ハッ!言ってくれるぜ?言うにこと書いて“獲物の横取りを防いだだけ”だと?テメェが俺様の獲物なんだよ!!」
『……グワ』
「減らず口を!!ここからあのヘビ野郎を殺して、テメェも殺すんだよッッ!!こんな傷は屁でもねぇッ!!」
『グワ……』
嘘だ。ジャスティスは既に瀕死の状態だ。無論、継承スキルの効果判定としての意味だが、少なくともこのままでは死ぬ。
そして、それが分からない程ジャスティスは馬鹿では決して無い。
『……お前の家族を助けられるかも知れない。協力する気があるか?』
「んなッッ!?」
ジャスティスの顔が驚愕に染まる。奴も本当は呑まれた眷属達は死んでいると思っているのだろう。
正直言って私もその公算の方が高いとは思う。
「……どういう意味だ?呑まれた連中はまだ生きているとでも言うのか?」
『可能性の話でしかないし、死んでる可能性の方が高い。それでも聞くか?』
ジャスティスは黙って頷く。その表情には明確な意思が伺える。
“例え自分が死んでも家族を救いたい”
そう思っているのだろう。不合理で馬鹿な判断だ。……本当に。
『……奴の胴体を見ろ』
ジャスティスはヘビへと視線を向け、怪訝そうな顔で私に向き直る。まぁ、分からないか。私も根拠のない勘でしかないし。
『既に奴は15匹もネズミ達を呑み込んでいる。それなのに一切胴体が膨れていない。最初は普通に呑み込んでいるのかと思っていたが、奴の体積が全く変わらないのはおかしいと思わないか?』
「そう言えば……!」
そう、最初は私も普通に呑み込んでいるのだと思っていたが、流石にあれだけの数を呑み込む事は出来ない筈。
しかも、恐らく奴は私がちょっかいを出さなければまだまだネズミ達を呑み込んでいただろう。
つまり、少なくとも奴は何らかのスキルによる補助効果であの暴飲暴食を成立させているのだ。
『あれは恐らくスキルの効果だろう。現状で考えられる効果は二つ。一つ目は奴の消化吸収を補助する効果だ。これにより急速な代謝が可能になるなら、あれだけの餌を呑み込めるのも納得がいく』
「……成る程。いや、でもそれだと……」
『そう、それなら奴が排泄行為をしないのはおかしい。代謝に伴った排泄は自然な流れだからな。……だから二つ目の候補だ。代謝では無いなら、何らかのスキルで
「……!!」
ジャスティスの目に光が宿る。例え微かでも、仲間達が生きている可能性がある事に希望を見出せたのだろう。
「……しかし、スキルで保存していたとしても奴にしか解除は出来ないんじゃないか?あれはユニークネームドじゃねぇ。アホ丸出しの野生の魔物だ。少なくとも、“吐き出せ”なんて交渉は出来ない筈だ」
『ああ。付け加えるなら、“保存”が生きたままと言う根拠は全く無い。死んだ状態でしか保存出来ない場合は呑まれた連中は結局の所全滅と言う事になる。……しかし、生きているのなら……』
私はそこまでで区切り、ジャスティスへ視線を向ける。
『絶対に私が助けてやる』
「……」
ジャスティスは黙り込み、こちらをじっと見つめる。そして、自分の頭をガシガシと掻くと、呆れた様に言った。
「……ヘッ!さっきまで殺し合いしていたのに、何がどうなったらそんな結論が出んだよッッ!!」
『知らんな。私が聞きたい。お前等は殺しといた方が良い筈なのに、死なせたくないんだ。どうしたらいい?』
「あぁ!?何で俺様に聞くんだよ!!」
『おちょくってるに決まってるだろう。馬鹿か貴様は』
「あ?殺すぞカスが」
『やってみろビーバーが』
一頻り悪態をついた頃、ヘビがゆっくりと此方に進み出した。
「……テメェの話に乗ってやる。しくじったら殺すぞ」
『しくじったら貴様は死んでいる。まぁ、それで無くてもお前は死にそうだがな』
舌打ちしたジャスティスは、ヘビへと向き直り、私に聞いて来た。
「……もう一度聞く。テメェの名前はなんつーんだよ」
この質問を受けるのは二度目だ。
しかし、一度目とは違うニュアンス。
私は奴に聞こえる様に答える。
『知ってるだろ?私はトカゲだ』
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