第19話
「喰らえッッッ!!“ライトニング”!!」
奴の角が雷光を放ち、私目掛けて雷撃が迫る。
『グワッガッ!!』
しかし、私は既にその場には居らず、雷撃は岩の表面を焦がすだけだった。
「チッ!!」
奴は悔しそうに舌打ちをし、此方を睨む。
残念だったな。その魔法はネズミ達との戦闘で何度も見ているのだ。
雷撃系統の魔法は、イメージと違いかなり避けやすい。何故なら最初に指定したポイント以外には当たらないからだ。
此方は予備動作である発光を確認したら、そのポイントから外れる様に先んじて移動する事で躱す事が出来る。
私は未だに雷撃系統以外の遠距離魔法を見た事が無いので確証は無いのだが、恐らく他の系統の魔法は、ある程度発動後にも制御出来るのだと思う。
しかし、他の系統と違い、雷撃系統の魔法は
発動後に術者自身が認識すら出来ない程の速さの為、最初に指定したポイント以外には当てれないのだ。
私はそのまま岩から飛び降りると、河原に転がる広めの石の隙間へと入る。
「逃がすかッッッ!!」
奴も私を追う様に石の隙間へと入り込んで来た。
馬鹿な奴だ。昼間とは言え、急に暗がりに入ればその視界はどうしても悪くなる。しかし、暗視のスキルを持つ私にとってはここの視界は非常にクリアだ。
私は奴に気付かれない様に後ろから近づき、そして──
「“ボルテックスッッ!!”」
『グワッガッ!?』
奴の全身から雷撃が
……しまった!範囲攻撃か!!
奴は対象を縛らずに、周囲に雷撃を放つ魔法を使ったのだ。
しかし、慌てる必要は無い。私は雷撃耐性を持っており、拡散された威力しかないこの魔法程度ではダメージにはならな──
そこまで考えた私の目の前に、奴の拳が迫っていた。
『グワッガッ!?』
私はその衝撃に弾き飛ばされ、再び日の光の下に戻された。
……やってくれる!
奴は最初から雷撃でのダメージを狙っていなかったのだ。
奴が狙っていたのは、魔法発動時の“光”。
此方が視界を奪おうとしているのを看破して、雷撃魔法で視界を確保。そして発見した私を拳で打ち抜いたのだ。
「チューッチュッチュ!貴様の狙いなど見えておるわ!!俺様に猿知恵が通用すると思ったのか!?」
思ってた。普通に。
しかし、通用しなかった以上、考えを改める必要がある。
私は奴に向かい正面から駆け寄る。
「愚かなッッッ!!無策で来るとは所詮トカゲかッッッ!!」
奴の角が光を放ち、そして──
『グワッガアァァァァァァァッッッ!!』
私は渾身の力でレイジングテイルを放つ。しかし、奴の雷撃も予備動作を終え、着弾の瞬間に放たれる。
「ぐあぁあぁぁぁぁッッッ!?」
『グワッガッッッッッッ!?』
私達は互いの技の反動で、跳ね飛ばされた。
『グワッ……グワッ……』
予想以上のダメージだ。しかし、このまま倒れて居れば追撃を受け兼ねない。
私は肩で息をしながら立ち上がる。
「ハァ……ハァ……」
奴も同じ様に立ち上がった。考える事は同じだろう。
「や、やるじゃねぇかトカゲ野郎。ただの雑魚と思った事は詫びてやろう」
『グワッガッ……』
それは此方のセリフである。正直只のネズミに毛が生えたくらいの知能かと思っていたが、どうやら首から上は付いてる様だ。
そして奴の雷撃はかなりの威力。“雷神に恩寵を与えられた”とか言っていたが、恐らくはその補正があるのだろう。
今更ながら奴を過小評価し過ぎた事を後悔している。
……余裕ぶっこいて攻撃なんか受けなきゃ良かった……。
……しかし、負ける訳にはいかない。奴がこれ程の存在だと分かった以上、尚更生かしては置けない。
『グワッガッ!!』
私は再び岩の隙間を縫う様に暗がりへと入り込む。
今回は奴も警戒してか、誘いには乗らず見晴らしの良い岩の上へと移動した。
「フン!!俺様は貴様の事は過小評価していない!!誘いには乗らんぞ!!しかし、その姿を現した時!!それが貴様の最後だッッッ!!」
そう叫んだ奴は、再びあの詠唱を行う。
「気高き雷獣よ!!
偉大なる汝の咆哮を我が身に宿せ!!
大地を穿ちし雷槌の
“
瞬間、奴に雷撃が撃ち込まれ、全身から雷光が迸る。
……厄介だ。あの魔法が一体どういう効果なのか分からない。
先程は後ろ回し蹴りにその効果を乗せて繰り出していたが、それだけだとは思えない。
私が姿を隠した状態で接近専用の魔法を使う程馬鹿では無いだろう。
考えられる効果は2つ有る。
1.接近専用の雷撃付与、及び身体強化の複合効果。
候補として出したが、これは排除して良い。今の場面に適していない。
2.雷撃魔法全般の威力強化の効果。
これは可能性としては有力候補だ。全てが強化されるなら遠距離魔法にも応用が効くし、今の場面に適している。
雷撃と限定したのは、詠唱に“雷獣”と言うワードが入っていたからで根拠は無い。
しかし無関係な詠唱は多分無いだろうし、当たらずとも遠からずだろう。
取り敢えずの効果予測は出来たので、一度隠密を使用して移動する事にしよう。
奴が私の痕跡を追跡出来ていた以上、奴にも強化嗅覚等の探知系スキルが有るのは間違いない。
このままここに居れば、いずれは特定される。
後手に回れば不利になるのは私の方だ。
私は隠密を使用して、再び日の光の下に出る。しかし──
「“ライトニング・ブラスターッッッッッ!!”」
『!?』
奴はこちらの動きを看破し、雷撃魔法を使用した。しかし、私は間一髪のところでポイント回避を成功させる。
恐ろしい奴だ。恐らくは探知系スキルの習熟度が極めて高いのだろう。
私達の巣が特定出来なかったのは、私が川や水辺を利用し、痕跡自体を殆ど残さなかった事が功を奏していたのだと思う。
しかし、奴の攻撃は回避出来た。このまま次の岩陰へ──
そう思った次の瞬間、私の後方から雷撃が迫って来た。
『グワッガッ!?』
そう、奴は雷撃を
クソッッッ!!私は馬鹿か!!確かにその方法なら雷撃に指向性を持たせられる!!
自分の短慮を呪いながら、私は必死に走り次の岩陰へと隠れようとする。しかしそれよりも先に雷撃が私を貫いた。
『グワッガアァァァァァァァッッッ!?』
全身を苦痛が駆け巡る。やはりあの魔法は雷撃全般の威力強化がその効果なのだろう。私の耐性を上回り、中々のダメージを与えて来た。
私は体を引き摺る様に岩の隙間に隠れる。
「チューッチュッチュ!!見たかッッッッッ!!我が“覚醒解放”!!“
なんて耳障りな奴だ。一々新しい情報を出すな。知らんぞ覚醒解放なんて。
「雷撃に関わる魔法・スキル・耐性!!その全てを発動中は上の位階へと導く究極の秘技!!本来ならまだ使う事の出来ない筈のライトニング・ブラスターすらも使用出来るッッッ!!」
……つまり、レベル制限されてる魔法とかスキルが使える技って事か。微妙に予想から外れてたな。結構自信あったのに……。
「それに対して貴様はまともな遠距離攻撃が存在しないのだろうッッ!?在るならばこれ程分かりやすい“
したり顏でそう言い放つジャスティス。
……大した奴だ。自分を囮にして私の遠距離攻撃を誘っていたのか。
確かに私は遠距離攻撃のスキルも魔法も無い。接近せねばまともな攻撃を加える事も出来ないし、その接近は奴が許さないだろう。
「最早貴様には勝ち目はない!!大人しく出て来れば、楽に殺してやるッッッ!!」
半ば確信を持った様に叫ぶジャスティス。
……しかし、それは思い上がりも甚だしい。確かにスキルや魔法での遠距離攻撃は無いが、私とて遠距離攻撃の手段はある。
『グワッ!!(
私は
さて、奴は私に出て来て欲しいらしい。ならば、望みを叶えてやろう。
『グワッガアァァァァァァァッッッ!!!』
「!?」
次の瞬間、奴の顔に驚愕が浮かぶ。
その視線の先には、先程まで
「なっ!!何ぃぃぃィィィィ!?」
そう、私は自分が隠れていた岩を奴に向かい投げ飛ばしたのだ。
先程の検証でも試したが、私は高いSTR値(物理干渉力)を持っている。肉体強化よりも更に上である
私が言っていた“ゴブリンを殺せるかも知れない”とは、この膂力を根拠としたものだ。
直撃すればゴブリンくらいの体格ならば死ぬかも知れない。
「ッッックソがアァァァァァァァッッッ!!」
奴は慌てて回避するが、残念ながら注意不足だったらしい。
無理もない。図上から迫る巨岩から目が離せないのだろう。
奴は、
『グワッガアァァァッッ!!(レイジングテイルッッッッッ!!)』
岩が落ちたとほぼ同時に、奴は私の存在に気付く。
何故なら、私の渾身のレイジングテイルは、無防備な奴の顎下へと吸い込まれていったのだから。
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