第17話



「皆の者退がれぃ!!ここから先は手出し無用!!俺様とこのトカゲとの正々堂々!一対一の勝負だッッッ!!」


 そう言って周囲のネズミ達を退がらせるジャスティス。


 しかし、“正々堂々”とは良く言ったものである。明らかに一声出せばリンチ可能な状況を整えている奴の言う事を、私が信用出来ると思っているのだろうか。

 まぁ、それでも一対一を宣言して貰えたのは好都合だ。

 この周りの連中が手を出す前にケリを付けてやる。


『グワッガッ!』


 私は一声鳴くと奴が居る岩の上へと登る。

 周囲を囲むネズミ達は、右手を掲げながら必死にジャスティスを応援していた。

 どうやらスター性には恵まれている様だ。流石ジャスティ◯ビーバー。


 ……フッ、しかし残念だが奴に勝ち目は無い。


 今回、私がこれだけ大胆な行動に出たのは、前述の通り彼等の追跡が看過し切れなくなったというのがメインの理由なのだが、もう一つこの選択肢をがある。


 ──それは私の実力。


 そう、今の私は強いのだ。それも……圧倒的な程に。


『グワッガ……』


 口元が緩むのを感じる。つい3ヶ月前までは影に怯え、木の葉に隠れてばかりだった私がこれ程までに強くなるとは思わなかった。


 今の私は例えゴブリンに噛まれても死ぬ事は無い。いや、ゴブリンを殺す事すら可能かも知れない。


 何故私がこれ程の力を手に出来たかと言うと、それには継承のレベルが上がった事と、梅雨という気候が関係しているのだ。


 先ず継承だが、スキルのレベルが上がった事で対象を指定すれば直接触れなくても継承が可能となった。

 更に同時に複数の対象を選択出来るようになった為、一定の範囲からまとめて継承出来るようになったのだ。


 まぁ、これだけだとそこまで効率が良くなったと言える訳では無い。

 何故なら継承には“同意、若しくは瀕死”という前提条件が必要であり、そう都合よくこの条件を満たした複数の対象が居る事など、先ず無いからだ。


 そして継承の二つの条件の内の一つ、この“瀕死”と言う条件だが、“そのままの状態で居れば短時間で死ぬ”というもので、例えば獲物を窒息させている途中等も瀕死として判定される。


 無論、窒息状態から解放すれば直ぐにでも回復可能なのだが、それでも継承は可能となる。

 実際に窒息状態にして継承を発動。そして継承終了後に獲物を解放してみたのだが、普通に回復して逃げて行った。


 つまり、“確実に死ぬ”という条件では無く、“そのままでは死にそう”と言うのが、継承というスキルの条件なのだ。


 私はそれに気付いた時、身震いしたのを今でも覚えている。


 ──“そのままでは死にそう”という条件ならば、雨が降った時の虫達はどうなるのか?──


 無論、実際には虫達は雨が降っただけで死ぬ訳では無い。彼等もそれを回避する術を持っているからこそ、ここまで種を保っているのだから。

 しかし、雨の時に彼等が生命の危機に瀕するのは事実。


 私は試しに最大範囲で虫達を指定して継承を発動させてみた。

 

 すると──


【継承発動成功。1482の対象から何を継承しますか?】


 私は思わず笑ってしまった。

 これは恐らく、継承スキルの裏技に近い。ある程度“遊び”のある条件にしたのだろうが、私はその隙間を見つけてしまったのだ。

 このスキルを作り出した神は、こんな使い方は想定していなかっただろう。


 それから私は延々と継承を発動し続けた。

 梅雨の季節柄雨が多く、継承の効率は圧倒的に良かった。確かに一回一回では僅かばかりの能力値向上でしか無かったが、それでも回数を重ねる毎に着実に強くなって行った。

 

 より強く、より高みへと登る為に──



 ……そして今!私は圧倒的な力を手にしているッッッ!


 幾千幾万という虫達の力を束ねた力!!

 暴虐が血液となり体中を駆け巡る!!

 この小さなトカゲの体に見合わない程の圧倒的な力だッッ!

 フハハ!そんな私を前に、高々30cmのビーバーに何が出来る?

 雷撃に対する耐性と、圧倒的なフィジカルを持つこの私の前では奴は無力!!ただの野生動物、いや、食卓を飾る晩餐でしかない!!


『グワッガ……!』


 いかんな……思わず昂ぶってしまった。

 冷静さを事欠くのは私らしくない。


 私は頭を降り、冷静さを取り戻す。


 ……しかし、奴はなんと哀れな道化なのか。


 仲間達を集めて、その前で私を倒す。そうする事で群れの中での自分の地位をより確固たるものにするつもりなのだろうが、それは叶わない。

 今から始まるのは一方的な蹂躙。

 絶対的強者たる私が行う公開処刑なのだ。


『グワッガッ……』


 私は左頬を奴に差し出し、それを指差す。

 奴にワザと先手を譲り、私と奴との間に横たわる圧倒的な差を教えてやるのだ。


 漫画やアニメ等で見た、圧倒的強者が見せるこういった行動。

 人間だった頃には愚かにしか見えなかった行動だが、自分がその立場に立って初めて彼等の気持ちが分かった。


 そう、これは“愉悦”。


 強者の余裕とは、これ程までに心地良いものだったのか。

 私の様子を見たジャスティスは、ゆっくりと此方に近付く。


「ほう?良い根性だなトカゲッッッ!!俺様の正義を受け入れると言うのだな!?良かろう!苦しまない様に即死させてやるっ!!」


 ふふ、面白い。この哀れなビーバーは私を即死させられると思っているらしい。

 出来もしない事は出来ると言わない方が良いのだが、それを理解する知能は無いのだろう。


 だが、受けてやる。その上で蹂躙して、分際と言うものを教えてやろう。


 私はそう思い、奴をじっと見つめる。


 すると──


「気高き雷獣よ!!

偉大なる汝の咆哮を我が身に宿せ!!

大地を穿ちし雷槌のちからッッッ!!


万雷千槌ノーザンナインティーンッッッ!!”」


 瞬間、天空より撃たれたイカズチが奴の身を包んだ。

 奴の全身からは迸る程の力の奔流を感じる。


 ……え?あれ?


「“稲妻ッッッ発電蹴りィィィィィィィィッッッ!!!”」



 な


     に


         そ


             れ


                 ?




 私は強烈な雷撃と蹴りを受け、6メートル以上吹っ飛ばされた。

 薄れ行く私の脳裏には、死ぬほど爆笑している天使の顔が浮かんでいた。


ーーーーーー

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る