第15話






 私は、巣の在る水場の下流にある河原に来ていた。

 ここは森の中では比較的視界が開けており、何かが近付けば直ぐに分かる。

 無論、此方が発見されるリスクも大きいのだが、周囲に転がる石の隙間は今の私のサイズでも容易に隠れる事が出来る為、を除けば安全は確保出来ていると言えるだろう。


 私は川の直ぐ近くの砂利を掘る。すると奇妙な虫の様な生き物が沢山湧いて来る。

 その様子はトカゲになった今でも中々に来るものがあるが、そうも言ってられない。私は彼等を口に含み、川へと近づく。


『ぺッッッ!!』


 私が大岩の上からその虫達を吐き出すと、小魚が食べに集まる。

 最初は数匹程度だった小魚だが、同じ事を繰り返す内にドンドンと数が増えていく。


 さて、頃合いだな。


『グワッガ!(雷撃)』


 私の前面に光が生まれ、そこから川に向かって雷撃が放たれる。

 着弾した雷撃は、眩い光を放ちそして川の表面に次々と魚が浮いて……


『グワッガ……』


 全然浮いて来なかった。ただ眩しかっただけだ。


『グワーム……』


 私は首を捻り考える。

 今の状況が、スキルの習熟度の低さから来るものなのか、能力値の低さに起因するものなのか、それとも両方なのか……様々な可能性が在り、中々難しい。


 この世界での能力値は、これまでに継承を使用して解明していたりする。

 それがこの7つだ。


HP:生命力

MP:魔力量

STR:物理干渉力

DF:物理防御力

MAT:魔法干渉力

MDF:魔法防御力

SPD:俊敏性


 他にも“器用度”や“運”等が有るかと思ったのだが、その二つは能力値の項目には無く、どうやら個々人に完全に依存するようだった。


 それに対して、今上げた7つの能力値は、能力値が高ければ高い程、実際の干渉力が強化されていた。

 これは恐らく、この世界のシステム的に補正がかかっているのだと思う。


『グワッガ!』


 私は気合いを入れると、目の前の岩を押してみる。

 約60㎝程の岩なのだが、今の私の体長……約20㎝程のトカゲの筋力で動く訳が無い。


 


 しかし、目の前の岩はズズッ……ズズッと音を立てて動く。

 これは、やはり私のSTR値がかなり高いから起きる現象なのだろう。


 続いて私は強化魔法を使用する。


『グワッガ!(肉体強化)』


 私はその状態で再び目の前の岩を押す。すると、先程よりもずっとスムーズに押す事が出来た。強化魔法がしっかりと発動した結果だろう。


『グワッ……』


 しかし解せない。肉体強化は十分な効果を発揮しているのに、雷撃魔法は光るだけだった。


 スキル習熟度は確かに低いが、元々所持していたネズミ達も同程度のスキル習熟度だったにも関わらず、彼等の雷撃と比べても格段に低い性能だ。

 単純に私のMAT値が低過ぎるのか、ネズミ達のMAT値が高いのか、はたまたネズミ達は種族的な恩恵で雷撃魔法に高い補正がかかっているのか、現状では明確な結論は出せないだろう。


 ただ、仮説を立てるとすれば、単純に私のMAT値が低いというのが最有力候補だ。

 強化魔法が強い効果を発揮したのは、強化魔法がSTR値に補正を掛ける仕様の魔法なのだと考えれば納得が行くし、そもそも私のMAT値は多分低い。

 これは体感的なものなのだが、継承してもMATの伸びが悪い様に感じるのだ。

 もしかしたら種族的な傾向があるのかも知れない。


『グワッガ……』


 ……さて、


 態々わざわざ目立つ場所で待っててやってるんだ。さっさと出て来い。


『……チュウ』


 私は鳴き声の先へと視線を向ける。

 そこに居たのは、全身が白い体毛で覆われた雄々しき獣。

 その頭部には、雷光を放つ二本の角があり、真紅に染まる双眸は強い意思の力を感じる。



 やっと表れたか、



 “ボスモンスター”が。

 

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