第14話
私はネズミの死体を引き摺りながら、森の中程にある水場へとやって来た。
まぁ、中程と言っても私が探索出来た範囲での話であり、実際の位置関係ははっきりしないが。
『グワッ』
私は一鳴きすると、ネズミを咥えたまま水場へと飛び込み、前方にある滝へと向かう。
そのまま滝の下を通り抜けると、滝の裏側には水の侵食で抉れた洞窟の様な場所があり、そこを少し進むと壁を塞ぐ様に大きな岩が置いてある。
『グワッガ(肉体強化)!』
私は肉体強化魔法を使い、その岩を退かす。
すると──
『キューッ!!』『ククッ!!』
『グワッガ……!』
大岩の更に奥にある洞窟。そこからこの世界の愛らしさを全て凝縮した至高の萌えトカゲ達が現れる。無論、妹達だ。
そう、ここが今の私達の巣なのだ。
この洞窟は、私達にとってはそれなりの広さが在ると言えるのだが、その高さはおよそ1m程しかない。
この場所まで入って来れる魔物は多いだろうが、その上でこの大岩を退かす事が出来るという条件に成れば、私が知る限り、周辺には私以外には居ない。
つまり、ここはこれ以上無いくらいに安全な巣なのだ。
『クキュウ?』『クク?』
“食べてもいい?”
首を傾げ、私に確認をとって来る。
『グワッ』
“いいよ”
私が許可を出すと、二匹は夢中でネズミを食べ始めた。
以前はこれ程明確な意思疎通は出来なかったのだが、私が経験を積むにつれて彼女達の知性も加速度的に高くなっており、今ではこうした簡単なやり取りも出来る様になった。真実の絆様様である。
……そして、新たに巣に加わった仲間も居る。
『カサ……カサ(オカエリ)』
『グワッ!(ただいま)』
細く長い体に、無数の足。艶やかな光沢を放つが、決して美しいという言葉は浮かばない。多足亜門ヤスデ綱に属する節足動物に似た魔物。
『グワッ?(何か異常はあったか?)』
『カサカサ……(ナイ、ネズミ、イナイ)』
『グワッ!(ありがとう、妹達を見てくれて)』
『カサカサ……(キニ、スルナ)』
そう言って彼女は再び巣穴に戻る。そう、新たな仲間はあの“ヤスデ”なのである。
彼女との出会いは、元を辿れば私が毒を吐かれてのたうち回った時に遡る。そして、その後コカトリスの魔眼の練習台となったのも彼女。
まぁ、つまり結構な腐れ縁というやつである。
そんな彼女が何故私達の仲間になったのかと言うと、相応の理由があるのだ。
私達が巣を追われてから1ヶ月程経った頃の話。
丁度梅雨の時期に差し掛かった……いや、雨季なのか?まぁ、正確な気候は分からないが、便宜上“梅雨”としよう。梅雨の時期に差し掛かった時、その当時の巣に大きな問題が発生したのだ。
“ノミ”である。
これまではそこまで多くなかったノミが、この時期になると爆発的に増えてしまったのだ。
“たかがノミくらいで”と、思われるかも知れないが、私達のサイズ感で言えば、丁度子指の第一関節くらいの大きさのノミが背中に腹にと飛び付いて血を吸ってくるのだ。
しかも、こちらの指先は人間の様に器用では無い。正に地獄だった。
私は必死になり妹達からノミを引き剥がしたが、剥がした所で大量に居るノミ達に対しては焼け石に水。
どうにかせねばと対策を必死に考えていた私に、ある閃きが舞い降りたのだ。
そう、
既に猛毒耐性を持つ私達にヤスデの毒液は通用しない。しかし、私達に付き纏うノミ達はそうではない筈。
そう考えた私は強化嗅覚を頼りに彼女を探し出し、そしてその毒液を浴びたのだ。
……結果は、正に天国だった。体中に纏わりつくノミ達があっという間に死滅するあの感覚。あれは筆舌に尽くしがたい。
それ以降私達は、定期的に彼女の下を訪れては毒液を浴びた。
そのうち、彼女が他の外敵から襲われたりすると助ける様になり、もういっその事ならばと巣へと連れて帰った。
そして気が付けば私達と彼女の間には確かな絆が生まれていたのだった。
まさか最初はあれだけ気持ち悪かったヤスデが、真実の絆で結ばれる友となるとは思いもしなかった。
実に感慨深い。
そして、これは完全に予想外だったのだが、彼女はかなり賢かった。
これが種族的な特徴なのか、彼女が特別なのかは分からないが、“真実の絆”の補助が有れば、会話が可能な程の知性だった。
これにより副次的に“真実の絆”に、同一スキル所持者との意志疎通を円滑にする効果と、真実の絆で結ばれたと判定されれば、スキルが伝染するという効果が判明した。
恐らくまだまだ他の効果もあるだろうが、やはりオリジンスキルと言うだけあって、かなり強力なスキルの様だ。
『クァ〜ッ……』
そんな事を考えていると、つい欠伸が出てしまった。……いかんな、眠くなって来た。
私は、満腹になり遊んでいる妹達を奥の洞窟に戻し、再び岩でフタをする。
攻撃系の魔法も手に入った事だし、明日は攻撃魔法に関して実験してみよう。
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