第7話



『グワッガ!!』


 私はそう鳴くと、目の前のプラナリアみたいな魔物……長いのでプラナリアと呼ぶが、プラナリアを石に叩きつける。

 ようやく動きが止まった奴に手を触れ、私はスキルを発動させる。


『グワッガ(継承)!』


【継承発動成功。何を継承しますか?】


(対象、“軽微再生能力LV1”)


【スキル:“軽微再生能力LV1”の75%を継承します。これにより、個体:スモールリトルアガマにノーマルスキル:“軽微再生能力LV1”が追加されました】


 良し、順調だな。


 あれから約2ヶ月程経過した。その間私は何度かこうして巣穴から抜け出し、狩りを行なう様になっていた。

 どうやらこれもスモールリトルアガマの習性らしく、群れのトカゲ達には邪魔される事も無かった。


 ……巣立ちの時が近いのだろう。


 恐らく私は、妹達を連れて巣穴から出なければならないのだ。外に出ると、やたらと安全そうな場所を探して無数に穴を掘っている。

 そうする事が当たり前で、そうしなければならない様に感じる。


 この体になって、生物の習性とはかくも強烈に刻み込まれているのだと、私は強く実感していた。


 さて、新たにスキルも追加された事だし、久々にステータスを見てみるか。


ーーーーーーーーーーーー

ステータス


種族:スモールリトルアガマ


スキル:ユニークスキル:“継承”

   :ノーマルスキル:“暗視LV2”、“しっぽ切りLV2”、“強化嗅覚LV1”、“硬い外皮LV1”、“隠密LV2”、“毒耐性(軽)LV1”、“軽微再生能力LV1”


ーーーーーーーーーーーー


 まぁまぁなラインナップの気がする。


 “隠密LV2”は、ナナフシの様な魔物を偶然発見した時に手に入れた。巧妙に擬態しており、匂いすらも分からなかったのだが、木に登っていた時に枝かと思って握ったら、偶然それが奴だったのだ。

 スキルは優秀だったが、能力的には弱いらしく、一噛みで瀕死の状態になった。

 そして、継承を発動したのだが、何と一回で“隠密LV1”を取得出来たのだ。

 恐らくこれは、ナナフシ自身の隠密の習熟度が高かった為だと思われる。


 その後、こうして外に出る時は隠密LV1をずっと使用していたのだが、ある時レベルアップして“隠密LV2”になったのだ。


 “毒耐性(軽)LV1”は、ヤスデの様な魔物に毒を吐かれた時に取得した。


 小一時間ほど毒に苦しまされたのだが、その時に天の声が聞こえ、“毒耐性(軽)LV1”を取得出来た。

 この事実から察するに、スキルは継承以外でも、経験する事で取得出来るようだ。


 継承のスキル習熟度もかなり上がって来ている。

 最初は30%程の取得率だったのだが、回数を追う事にどんどんとパーセンテージが上がって行き、今では75%まで来ている。


 つまり、対象のスキル習熟度を100%とした時、その75%を継承する事が出来る様だ。

 かなりのチートスキルと言えるが、対象のスキル習熟度が低い場合は、一度の継承ではスキルの獲得は出来ない。

 先程のプラナリアも、2体目の継承でスキルを獲得出来た。


 最下層の魔物達は全般的にスキル習熟度は低く、基本的に今は二匹倒せば1スキル手に入るのがベターになっている。


 能力値の継承に関しては、一向に上がらない。

 それどころか、1%未満の継承率が殆どだった。

 最初に微生物で試した時は20%だったが、それはどうやら個体の能力値が低かった為に起きた現象だった様だ。


 まぁ、1%の能力値の継承でも、回数をこなせばかなりの上昇率になる訳で、今の私は恐らくスモールリトルアガマの中では最強に近い個体だと思う。


 とは言え、ゴブリンに一噛みされれば死ぬ程度の存在でしかないのだが。


 さて、状況も整理出来たし巣穴に帰る事にしよう。

 このプラナリアのタタキは結構美味いのだ。



ーーーーーー


『グワ……!』


 巣穴付近に来た時、私はその匂いに気付く。


 血の匂いだ。

 巣穴から強い血の匂いが漂って来ている。普段ならば、巣穴の入り口付近に警戒役のトカゲ達が居る筈なのだが、今は何処にも居ない。


『グワッガ!!』


 私はプラナリアをその場に投げ捨て、木の棒を口に咥えると素早く巣穴へと入り込む。


『……!』


 そこには、血塗れで倒れた見張り役のトカゲが居た。

 息も絶え絶えになりながら、必死に警戒音を発していた。最早長くは無いだろう。


 『グワ……!!』


 私は妹達の所に駆けていく。

 前世も今世も含めて、これ程までに早く走ったのは初めてかも知れない。


 今まで私は自分以外の事なんて全く興味が無かった。

 孤児院では疎まれ、学校では認められず、会社ではライバルを蹴落とす日々。

 そんな私に、自分以上に大切な者が現れてくれたのだ。

 絶対に……絶対に死なせたくない。


 気が付くと私は涙を流していた。誰かを心配して涙を流したのは初めてかもしれない。


 やがて、私達の部屋へとたどり着く。


『グワッガ!!』


『クキューッ!!』


『クックク!!』


 妹達は私を見付けると、駆け寄って来て頭を擦り付ける。

 警戒音を聞き、不安に駆られたのだろう。二匹とも今まで見た事無い程に震えていた。


 “もう大丈夫。心配いらない”。


 必死に身体を使ってそう伝える。二匹はそれが伝わった様で、少しだけだが落ち着きを取り戻していた。


『グワッガ!!』


 私は妹達に背中を向けると、乗る様に迫る。

 穏やかな巣立ちが出来るかと思っていたが、どうやらそれは無理らしい。一刻も早くこの巣から逃げなければならない。


 妹達が背中に乗ったのを確認すると、私は駆け出す。スキルだけでなく、各種能力値を継承していた私は、さしたる重さも感じずに走る事が出来た。


 “行ける!!”


 私はそう確信し、外へと向かう道をひたすら進んで行く。

 しかし、女王の部屋に差し掛かった時、この悲劇をもたらしたと対峙することになったのだ。

 

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