第6話
『クキュー!』『クックク!』
私が部屋に戻ると、二匹の妹達が駆け寄って来た。
『クキュー……』『クゥクク……』
彼女達は甘える様に私に体を擦り付ける。
……たまらんッッッ!!
私も返す様に妹達に体を擦り付けると、口に咥えていた肉団子を差し出す。
『クキューッ!!』『ククッ!!』
彼女達は一心不乱に肉団子を食べ始める。
“そんなに慌てなくても幾らでも作ってあげる”。
そう伝えたいのだが、まだ彼女たちに会話が可能な程の知能は無い。
……まぁ、そんな物無くても世界一可愛いが。
私は、口の中に残った肉団子の破片を食べる。我ながら美味い。
前世の記憶がある私にとって、このトカゲとしての生活は苦痛が伴うものだと思っていたのだが、その実、全く抵抗も不自由も感じていなかった。
こうして妹達の世話をする事も、虫を食べる事も嫌では無い。寧ろ当たり前の様に感じる。
恐らくこれは、転生した存在が環境への不適合で死ぬ事を避ける為、何らかの機能が働いているのだと思う。
天使が言った、“この世界で遊んでいる”という発言を考えれば納得が行く。折角作ったオモチャが簡単に壊れてしまっては勿体ないのだから。
『……クワァ……』『クク……』
お腹が膨れた彼女達は、どうやら眠気に勝てないらしい。やがて、ゆっくりと寝息を立て始める。
その様子を見ながら、私は幸せを噛み締めていた。
思えば前世は本当に不幸だった。
天涯孤独だった事もそうだし、努力が報われなかった事もそうだ。
しかし、本当に不幸だったのは彼女達が居なかった事だ。
前世で私に寄って来た女達はクズばかりだった。
初めて出来た彼女は、私からのプレゼントを質屋に入れてホストに貢いでいた。
二人目の彼女は、私の出張中に男を連れ込み、私の部屋で浮気していた。
三人目の彼女は、私の貯金を全て自分の親に流していた。
無論、全員に相応の償いはさせたが、それでも心の傷は癒えず、私は女性不信丸出しの男になってしまった。
しかし、今は違う。
一心に私を慕い、私に純粋な目を向けてくれる妹達に、凍てついた私の心は溶かされたのだ。
彼女達の為ならなんだってしよう。
浮気以外なら、なんだって許そう。
私の全てを捧げたって構わない。私は、彼女達を愛しているのだから。
『グワッ……』
心が穏やかになるのを感じる。出世に取り憑かれていた事が馬鹿馬鹿しく思える。
“この幸せが続くなら、トカゲのまま死んだって構わない。”
この時私は本心からそう思っていた。
──しかし、その幸せも長くは続かなかった。
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