第4話
さて、差し当たり試してみるのは、ノーマルスキルの“しっぽ切り”だろう。
最初は“暗視”と“強化嗅覚”を試そうと思ったのだが、良く考えたら私は卵の内側から全身を普通に視認出来ていた。
そして、卵の外に出てから周囲の匂いにやたらと敏感になっている。
つまり、この“暗視”と“強化嗅覚”は恐らく恒常的に発動している“
どうやらオンオフも可能な様だが、現状切る必要も無い。なので必然的に残されたのはしっぽ切りと継承だけになる。
『グワッ!』
私はそう一声鳴いて気合いを入れ“しっぽ切り”を発動させる。すると、しっぽの先に妙な感覚が走り、次の瞬間──
──ブツッ!ビターンッ!ビターンッッ!!──
『……』
私は絶句する。しっぽの先が切れて、その場でビターンビターンとのたうっているのだ。
なんだこれ?普通にトカゲの
様々な疑問に包まれた私だったが、切れたしっぽの先に妙な繋がりの様なものが在るのを感じた。
『……グワッ!!』
私は意識をそれに集中させてみる。すると、何と切れた筈のしっぽを自分の意思で動かせたのだ。
なる程……。これは通常の自切では考えられない。確かにスキルと呼べる物なのだろう。
暫くしっぽを動かしていた私だが、やがてしっぽとの繋がりが薄れていき、動きが止まってしまった。
『グワーム……』
なる程、一定時間は自分の意思で動かせる訳か。“スキル”なのはわかった。しかし、結局かなり微妙なスキルだった……。
さて、次は本題の“継承”である。
“死に瀕した、若しくは同意が有った対象から、“何か一つ”を継承する、若しくは継承させる事が出来るスキル”
これだけだと解釈に幅がある為使用感は分からない。
とは言え、これが私の生命線になるであろう事は天使の態度から分かる。
徹底的に検証する必要が有るだろう。
そう思った私は手近にあった石に触れ、スキルを発動する。
『グワッ(継承)!』
不思議な物で、このスキルと言うヤツは教わった訳でも無いのに何故か使い方が分かる。この世界では当たり前なのかも知れないが、元居た世界の常識がある私には結構な衝撃だ。
そんな事を考えていると、頭の中で声の様な物が聞こえた。
【継承発動失敗。対象に不備が有ります】
『グワッ!?』
一瞬驚いた私だが、これまた何故か直ぐに理解出来た。これは“天の声”と呼ばれるガイダンスで、この世界に生きる者達全てがこの声が聞こえるのだ。無論、自分が対象となる場合のみだが。
『グワーガ……』
当たり前の様に理解してしまった自分に驚くが、今は気にせずドンドン試そう。私は手当たりしだい継承を発動させてみる。
『グワ!』
【継承発動失敗。対象に不備が有ります】
『グワッ!』
【継承発動失敗。対象に不備が有ります】
『グワッ!!』
【継承発動失敗。対象に不備が有ります】
『グワッ!!!』
【継承発動失敗。対象に不備が有ります】
ふむ、やはり発動しないか。
取り敢えず目に付いた物全てに触れて試してみたが、継承は発動しなかった。
恐らくスキルの条件が満たされていない為だろう。まぁ、触るだけで発動する訳が無いのは知っていたが念の為だ。そして、これからが本番。
『グワム……』
私は前足を強く地面に擦り、そして継承を発動させる。
『グワッ(継承)!』
何故私がこんな行動を取ったかと言うと、指先に居るであろう
知っての通り、細菌や微生物はどんな世界だろうと無尽蔵に居る。この衛生状況なら、指先を擦る程度でも
対象を認識し、瀕死の状態にもなっている。この条件ならどうなるか……。
【継承発動成功。何を継承しますか?】
よし!
どうやら成功の様だ。しかし、選択肢が表示される訳では無いらしい。取り敢えず、“スキルの継承”と言ってみる。
【対象にはスキルが存在しません。何を継承しますか?】
『グワム……』
スキル無しか。いや、確かに微生物までスキル持ってたらヤバイしな。
次に最大HPの継承と言ってみる。
【対象の最大HPの20%を継承します。個体:スモールリトルアガマの本来のHPに加算を確認。継承を終了します】
身体が淡く光り、継承が終わった事が体感的に分かる。
……当たりだ。有るとは思っていたが、“HP”の概念は存在するらしい。この分なら他のATKやDFと言ったゲーム的ステータスも存在するだろう。
それともう一つ分かった事が有る。どうやら“継承”を発動した時、能力をそのまま自分の物と置き換えたりはせず、“本来の自分の能力の上に加算して引き継ぐ”と言う、言わば相続の様な形になるらしい。
まぁ、本来の意味の継承も後継が新たな成果を加える事は普通にある訳だから、そこは問題無いと言う事か。
まぁ、検証はこのくらいにしておこう。
……余り遅くなると目を覚ましてしまうかも知れないしな。
『ギュワッ!!』
私はそう一鳴きすると、ゆっくりと二つの卵に近付く。
継承スキルは、本人の同意が得られない場合、瀕死の状態にする必要がある。
しかし、トカゲの知性で同意させるなど不可能な話で、私が妹達から能力を継承するには殺す以外には手が無いのだ。
私としては正直殺したくは無いのだが、生存確率を少しでも上げる為にはより大きな能力が必要だ。
彼女達には死んで貰うしかない。
地球での私は決して無能な人間では無かった。僅か31歳で
──そう、私は冷酷なのだ。
目の前に来た卵の殻に手を伸ばす。ようやく抜け出した彼女達は、息も絶え絶えに眠りについている。
私は卵の殻を退かして、その様子を見る。
すると──
『ギュワッ!?』
彼女達を見た私は、余りの衝撃に言葉を失う。未だかつて。前世も今世も含めて、これ程の衝撃を受けたのは初めてだった。
それこそ、“トカゲに転生した”と言うこの現実よりも遥かに上回る衝撃だ。
……あぁん……!!超可愛いぃぃぃぃいいぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃッッッッッッ!!!
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