第3話
『グワ……』
周囲には二つの卵があり、その二つともにひびが入っている。
『クワッ……』『クキュー……』
私よりも高音で、若干可愛らしい声。
声で性別が判断出来るとは思えないが、
『グワッ……』
私はまた一鳴きし、
目に入るのは、トカゲの両手。何度見てもその事実は変わらず、私は絶望感に
思えば、不幸な人生だったのかも知れない。幼い頃に両親に先立たれ、哀れな施設暮らし。
同じ施設の連中には、目付きが悪いだのトカゲ野郎だのガリ勉だの言われて妬まれ、学生時代は永遠の二番手止まり。
挙げ句の果てに、仕事で漸く実った果実を齧る前に
『にゃはにゃは!!良いよ良いよ!思ったよりも取り乱して無いね?冷静なのは良い事だよ!!にゃはは!』
『グワッガッ!?』
突然脳裏に響く声。
その声に、私の記憶が蘇る。
……間違いない!!あの時の声だ!!
『元に戻せ!!何故私をこんな目に合わせる!?』
そう叫ぼうとしたが、しかし口から出るのは奇妙なトカゲの鳴き声のみ。
これでは何を言っているのか伝わらない。その事実に私は苛立ちを覚えた。
しかし──
『にゃはは!……
『!?』
そう声の主が返して来たのだ。
タイミングと内容から考えて間違い無い。
『……
『にゃはにゃは!正解正答御明察!!天使ちゃんは天使ちゃんだからね!!トカゲちゃんの心を読むくらい朝飯前なのさ!にゃはは!』
『……』
その軽薄な口調に再度苛立ちを覚えた私だったが、今度は先程の様に
こんな非現実的な状況下で、何も分からないまま放置される事の方が余程恐ろしかったからだ。
今は兎に角情報を集める必要が有る。
そう判断した私はこの声の主に問いかける事にした。
『……もう一度聞く。何故私をこんな目に合わせる?』
『にゃはにゃは!“こんな目”だなんて人聞きの悪い!トカゲちゃんは向こうで死んじゃったんだよ?天使ちゃんはそれを救ってあげただけ』
『……救った……だと?』
『イエス!
『……!』
そう言って笑い出す自称天使。
その笑い声につられる様に、徐々に記憶が鮮明になって行く。
──そう、確かに私は死んだのだ。
あの時、オフィスの床の上で。
『……クソッ!』
『にゃははにゃはは!残念無念また来世!いや、転生してるからもう今世だね!どんな糞エリートでも、どんな金持ちでも、死んでしまえばそこでお終い。“どう死ねるか?”こそが人生の勝ち負けを決めるけど、トカゲちゃんは間違い無く“負け組”だね?にゃははにゃははにゃはは!』
『黙れッッッ!!』
『………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………』
『……本当に黙られるとそれはそれでムカつく』
『にゃはは!ツンデレかな?』
違うぞ糞野郎。
だが、感情的になるのは悪手だった。私はかぶりを振り、再度天使に問いかける。
『……それで何故私を選んだ?転生させるなら人間でも良かった筈だろう?何故トカゲなんかにした?』
『にゃははぁ!質問が多いね?でも答えてあげる!先ず、トカゲちゃんを選んだのは、トカゲちゃんが優秀だったから!』
『……“優秀だったから”?』
『そう!私達上位構造体はこの世界……“チェスボード”って呼ばれてるけど、この世界で遊んでるの!まぁ、実際には“遊び”とは違うんだけど、君達の概念で表現するなら“遊び”が一番近いからそう表現するね。んで、その遊びの中で色々転生者やら転移者なんかも呼んだりするんだけど、トカゲちゃんはその中でも総合的な能力と適性が高かったから選出されたの!』
まぁ、優秀なのは否定しない。少なくとも上から数える方が早いくらいには優秀な自覚は有る。
『……では、何故トカゲに?』
『それはバランス調整だね!トカゲちゃんのスキルと素養をそのままに人間に転生させちゃうと余りにも有利過ぎるからだよ!エンジョイ&エキサイティングな見世物を期待してるのさ!』
『〜〜〜〜ッ!』
余りの言い様に頭が痛くなるが、それが悪ふざけ等では無いと何故か確信出来る。
『……それで、私は何をすれば良い?』
ここまで大掛かりな事をしているのだ。何か目的が有る筈だろう。
そう思って尋ねた私だったが、返って来た答えは予想とは違うものだった。
『……別に?
『……どういう事だ?』
『そのままの意味だよ?さっきも言ったけど、これは“遊び”なの。何か深い目的が有る訳じゃない。何を選択し、何を捨てるのか。どう生きてどう死ぬのか。その全てはトカゲちゃんの手の中にある。私達はそれを少し近い場所で見てるだけ。ほんの少しだけ後押しする事もあるけどね』
『……トカゲにされてる時点で相当足を引っ張られてる気がするんだが』
『にゃはは!まぁ、そこはそうだね!……でも、
『!?』
天使のその声が聞こえた直後、私の脳裏にウィンドウらしき物が浮かぶ。
ーーーーーーーーーーーー
ステータス
種族:スモールリトルアガマ
概要:アガマ系最弱種。真社会性を持つ珍しいトカゲで、大抵の場合一組のカップルとその子供たちで群れを作る。この個体は珍しい雄の個体。
スキル:ユニークスキル“継承”
:ノーマルスキル“暗視LV1”、“しっぽ切りLV1”、“強化嗅覚LV1”
ーーーーーーーーーーーー
『こ、これは!?』
『にゃはは!“ステータウィンドウ”だよ!!やっぱり異世界転生はこれがなきゃね!』
そう言って自称天使は
……これは
『にゃはは!携帯小説フリークのトカゲちゃんなら予想出来るだろうけど、そこに表示されてるのはトカゲちゃんの現在のステータスだよ!スキルとは何なのか、どんな事が出来るのか、それは自分で確認して貰うしかない。だけど、“継承”に関してだけは少し教えてあげる。ちょっと複雑な条件があるし、特典スキルだからね!』
『……まぁ、携帯小説は比較的読む方だとは思うが……。……それで、どんなスキルだ?』
『死に瀕した、若しくは同意が有った対象から、“何か一つ”を継承する、若しくは継承させる事が出来るスキルだよ!ただし同一対象から再度継承をする時はもう一度発動条件を満たす必要があるから注意してね!にゃはは!』
……ん?
『……随分と表現の幅が広くないか?具体例が欲しいのだが……』
『にゃはは!それは駄目だね!教えられない!自分で確認すべき事だから!』
『……そうか。じゃあそこはいい。“継承させる”と言ったが、自分以外も対象に出来るのか?』
『そうだよ!“継承”はそのまま“継承”と言う概念をモチーフにしたスキルだからね!実際の物事でも、自分で継承する事も有れば、自分から継承させる事もあるでしょ?まぁ、そのまま全て同じって訳じゃ無いし、あくまでもモチーフでしかないから、そこは勘違いしない様にね!』
『……』
私は少し考える。
実際の使用感は分からないが、“特典”と銘打つ以上使えないスキルという事も無い筈だ。
“瀕死”か“同意”と言う条件は、天使が言っていた通り“継承”と言う概念を参考にしているものと思われる。
例えば落語家や歌舞伎役者の襲名等も似たような条件で引き継がれる事が有るし、役職や技術を引き継ぐ場合でも同じ事が言える。
『……詳しくは試すしかない、か……』
『にゃはは!そうそう!結局はそれだよ!試行錯誤を繰り返して成長するのはリアルもファンタジーもおんなじだよ!それと、トカゲちゃん。トカゲちゃんは今は弱くて小ちゃいトカゲちゃんだけど、経験を積んで強くなれば
『進化って携帯小説でも見るアレか?具体的にはどうすれば良い?』
『それは体感するしかない!にゃはは!さて、取り敢えず一通りの説明は終わったけど、まだ何かある?』
『……聞きたい事は山程ある。……が、お前が答えるとは思えない』
『にゃはは!正解!……ようこそ転生者よ。異世界“チェスボード”へ。あ、ステータスは強く念じたら自分で開けるからね!バイビー!!』
その言葉を最後に、天使の声は消えた。
私は言われた通り念じてみる。
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ステータス
種族:スモールリトルアガマ
概要:アガマ系最弱種。真社会性を持つ珍しいトカゲで、大抵の場合一組のカップルとその子供たちで群れを作る。この個体は珍しい雄の個体。
スキル:ユニークスキル“継承”
:ノーマルスキル“暗視LV1”、“しっぽ切りLV1”、“強化嗅覚LV1”
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……取り敢えず一通り試すか……。
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