第4話 未来 アンガルの霊薬


そう、アルドが持っていたのは古代の人喰い沼から持ってきていたシロシハンタケだった。


「そうだ、 キキョウ! このシロシハンタケで霊薬を作れないか?」


これは名案だろう、そう思った時。


「・・・?? これはシロシハンタケなの?」


しかし、キキョウから返ってきたのは意外な返答だった。


「どういうこと・・・? キキョウさん!」


フィーネがキキョウを問い詰める。

先ほどシロシハンタケについて詳しく語っていた者の反応とは思えなかったし、わざと知らないふりをしているわけではないと思ったからだ。


キキョウは正直に答える。


「ええ。 霊薬の原料となるシロシハンタケは真っ白な見た目をしているわ。 今までなぜシロ”シハン”タケってシハンが付くのか分からなかったのだけど。 もしかして別の時代からこれを持ってきたの?」


「・・・・!!!」


ヘレナが驚愕の声を上げた。


それにアルドが、


「どうした? ヘレナ? 大丈夫か?」


と伺う。


ヘレナが


「今その古代のシロシハンタケと、紫斑を消した真っ白なシロシハンタケを照合して、同じワードで再検索をかけてみたら、ゼノ・ドメインからの私との秘匿回線がアンロックされて情報が流れ込んできたわ・・・!」


と報告する。

一同はゼノ・ドメインという名前を聞いて驚いた。

そしてヘレナは続ける。


「シロシハンタケとはその生体の代謝の過程で紫斑の紫色の色素がプリズマの汚染物質と反応して汚染を中和する作用があるの。 この未来に存在するシロシハンタケが真っ白なのはその中和によって紫色が消えたから、 だそうよ。 私の創造主であるクロノス博士はいち早くその効果に目を付けて応用しようとしたんだけど、 地上の汚染スピードが速すぎて間に合わなかったそうよ。 そこで博士は古代の人喰い沼に生息するシロシハンタケの画像をどうにかして未来に送り、 私に託したみたいなの。」


「それでハ、 汚染の中和の際に出る副産物がキノコに残り生き物に対するプリズマ汚染病の治療に偶然有効になっタ、 というわけですネ?」


リィカはそう推測した。


「じゃあここ未来のシロシハンタケはどこに生えるんだ?」


アルドはキキョウに確認すると、


「澱みの池よ。 でも自然に生えているものはほぼすべて鬼族が独占しているわ。 だから私も手元になくて・・・、 ?」


その時、ポツ、ポツ、としかししだいにサーっと外で雨が降り始めていた。

嫌な予感のする雨だった。


「さっき出て行った少年はまさか・・・!?」


「シロシハンタケを一人で取りに行ったんだわ・・・!」


アルドとフィーネはその嫌な予感が現実になることが怖くて言葉にできないというふうに怖い顔をしながら目を合わせた。


「少年の身が危ない! 今すぐ澱みの池に行こう!」


アルド達は急いで外に出て、雨の中澱みの池に向かった。



○○○



「お、おまえたちが、 そのキノコをひとりじめしなければ、 父さんはたすかるんだ! だからはやくどっかにいけ!」


少年は鬼族の魔物、重邪鬼3匹と対峙し我慢できずに震える足と声を必死に押さえつけようとしながらそれでも下がるまいと懸命に立ち止まっていた。


「こいつ、魔獣の子どもだぜ。」

「しかも丸腰。」

「馬鹿じゃねぇの!」


重邪鬼はこいつは見ものだなという風に楽しんでいるようだ。


「おまえたちのような悪党は滅ぼされるべきなんだ!」


少年は言う。しかし、重邪鬼の怒りを買ったのか、


「俺たちみたいな悪党に盾突くとどうなるか、 たっぷりと思い知らせてやる!」


鬼たちが吠え、手に持った大きなハンマーを振りかざすと少年はいてもたってもいられずにしりもちをついた。


「おかあさん・・・!」


そう最後に祈るようにすがるように呟くと、そこには少年の母親ではなく腰に大剣をかけた少年の姿があった。だが、その後ろ姿はもう少年のそれのレベルをゆうに超えていた。今までの苦労、経験、失敗、すべてを背負って少年はそこに立っていた。


「負けてられないな。」


それは鬼族に対して放った言葉ではなく、少年の勇気を称える言葉だった。

振り降ろされたハンマーを片手で受け止めたアルドはそれを押し返した後、腰に刺さったもう一方の常用の剣を抜く。


「お前たちはこれで十分だ!」


そう言い放つと一体目の鬼族に切りかかり、そのまま一回転して大技を放つ。

「エックス斬り・改!」

”それ”は空中を深くえぐるように真紅の輝きを放ちながら鬼族3体にまとめて斬撃となって襲い掛かる。×の形となって放たれた斬撃は確実に鬼族たちの急所を捉えていた。


グァ、ワハッ!


声にならない声を発しながら、鬼族たちはその場で無言となって倒れた。


「ふぅ、何とか間に合ったな。」


アルドはそう言うと、一回目の斬り付けで刃についた血を払い、剣を鞘に納めた。


「アルド! 大丈・・・夫、そうね。」


「間に合ったでござるか。」


「お兄ちゃん、 走るの速い・・・。」


エイミとサイラス、フィーネがそれぞれ到着する。



リィカやヘレナ、一緒に来たキキョウもその場に居合わせた。


「濡れたままだと風邪ひくし、 すぐに家の中に戻りましょう?」


キキョウの意見に全員が賛成だった。


アルドは少年をおんぶすると、さっきいた家の中まで急いだ。



○○○



「無事だったのね・・・!! よかった・・・!!」


母親が少年を抱きしめる。

少年は恐怖からか、まだ怯えていた。雨に濡れて冷えた体が震えているのかどっちなのかわからないほどに。


正直これは僥倖だったと言わざるを得ない。もう少しアルドが質問をすることに気づくのが遅れたら、雨が降り始めることにキキョウが気づくのが少しでも遅れたら。


「本当にありがとうございます!! なんとお礼を言ったらよいか・・・。」


もう何回目だろう、謝るために上下に振った頭はその運動がやむのを許さない様だった。


「もう大丈夫ですよ。」


そうアルドが優しく声をかける。


「それとキキョウ? これを霊薬に煎じてくれないか。」


さらにアルドは澱みの池からいつの間にかとってきていた真っ白いシロシハンタケをキキョウに渡した。


「わかったわ、 これさえあれば私の家の設備でも作れるから。」


キキョウはそう言い、家を出るとかなりのスピードで走っていった。


母親は同時に父親に報告した。


「お父さん、息子が無事帰ってきましたよ? だから、安心していいって

。」


父親は目を開けるのさえ困難な状態で、口をにっこりと笑って見せた。


それを見た母親は観念したように涙を漏らした。


そうだ。アルドは思った。

この母親は三人家族で、今さっきその自分以外のすべての家族を失う可能性を考えてたんだ。その絶望、その悲しみは如何ほどだっただろうか。自分には村長やフィーネ、ヴァルヲという家族がいるが、それを失う時にどれほど悲しむだろうか。それを考えた時、アルドは自分の目元を抑えて小さく嗚咽した。


「アルド・・・。」


エイミは心配したようにアルドの肩に手を置く。


「今は、父親の方を看病してあげましょう?」


ヘレナがアルドを中心に全員に言った。

キキョウが霊薬を持ってくるまでその看病は続き、薬を投与した後、父親は深い眠りについた。今夜が峠だという。

一行は一度休みを取るため近くにある簡易宿泊施設となっている建物を訪れていた。


「絶対、無事でござるよな・・・!」


サイラスがそう確認すると、


「ああ、必ず元気になって起きてくるって。」


アルドが願いを込めた声で発言する。


この日少年の父親の看病をしていた全員が、アンガルの現状を深刻に考えていた。

プリズマ汚染って防げなかったのかな。魔獣族と共存の道はなかったのかな、と。


それと明朝、父親の無事を確認してからどうするか、今できることは何かを綿密に打ち合わせることにした。自分達にできることは何か、それを探すことで今の鬱々とした気分を晴らしたいという気持ちもあった。


「澱みの池のシロシハンタケは鬼族がすべて持って行ってるってキキョウは言っていたわね。」


エイミは確認する。


「ああ、どこにあるかはまだ聞いてなかったけどな。」


アルドはそう言うと、


「おそらく、汚染抗の中でしょうね。」


ヘレナがそう推測する。


「じゃあ、もし汚染抗に鬼族がいて、そこにシロシハンタケがため込んであるとすれば・・・。」


アルドはそう言うと、


「やつらのアジトに攻め入るでござるな!」


サイラスが作戦を理解する。


この時起きていたアルド、サイラス、フィーネ、リィカ、ヘレナは翌日、鬼族を倒すための汚染抗での行動パターンを練り、あんまり遅くならないように寝ることにした。エイミは珍しく時空酔いをしていたのか、先に寝るから明日作戦の内容を教えてちょうだい、と言って先に体を休めていたのだが。



一行は簡易宿泊施設で休みを取り、次の日の朝父親の姿を見に行くことにした。




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