第3話 古代 人喰い沼 そして・・・
時代は古代、蛇骨島から次元戦艦に乗り時空を飛び越えてキーラ浜に上陸し、アクトゥールに到着したアルド達一行は宿屋で部屋を借りて休んでいるところであった。
「今日も沢山冒険したな! ヴァルヲ!」
「ニャアァーン」
もう日は暮れている。
時空を飛び越える際に気を付けなければならないのが時空酔いだ。例えば、午後4時に現代から時空を飛び越えて古代の午後2時に飛び越えたとする。時計に換算すると2時間巻き戻ったことになるが、活動時間が増える代わりに日中の長さに齟齬が生じ、一日が2時間増え26時間となる。すると当然、身体が違和感を覚え時差ボケと似たような状態となる。もともと時空を超えることを想定していない人間の体にその状態は酷だ。
しかし次元戦艦が常にメンバーの体内時計に気を払ってくれているおかげもあり、今回はそれほど実際の時間に齟齬が発生せずに時空を移動できた。アルドはそれでもこんなの慣れっこだ、とその鍛え上げられた体躯を休ませようといつものようにヴァルヲに挨拶した。
「それじゃ、もう寝るぞ。 って もう寝てるか。 おやすみ、 ヴァルヲ、 サイラス。」
アルドは男性部屋のもう一人の仲間に小さく声を掛け、部屋に唯一残った光源であるランプの灯を消し暗闇の中眠りについた。
○○○
次の日の朝。
「ふわぁ~。」
アルドは窓から漏れる古代の日の光に目元を照らされ、自然と目を覚ました。
サイラスは既に身支度をして下の階に降りているようだ。
部屋の中にはヴァルヲとアルドのみ。
「今日もよく眠れたな!」
アルドはまだ覚めきっていない頭で自分の体の状態を把握し、昨日までの疲れが残ってないことを確認すると、部屋に用意してあった寝間着から替えの普段着に着替えた。
トン、トン、トン
とアルドが階段を降りると、受付のお姉さんがその音に気付き旅のメンバーはもう町の酒場で朝食を取りに行ったことを伝える。そのことにアルドは感謝を述べると、酒場を目指して少し急ぎ気味に小走りをした。
「あ、お兄ちゃん! おはよう!」
「今日は早かったでござるな。」
酒場に着くとそこには宿屋などに泊まりに来ていた人々が朝食をとりにやってきていた。まずフィーネとサイラスがアルドに挨拶をする。
6人掛けの大テーブルにそれぞれが料理を前に座っていた。
「おはよう。 みんな調子はどうだ?」
そうアルドが聞くと、アクトゥールは水のせせらぎが気持ちよくて良く寝れたであるとか、やっぱり水と空気がきれいだとお肌にも健康にもいいわねだとか、そういった世間話をしている。
「これ、アルドの分よ。」
そうエイミが言った先には、今日の朝ごはんが用意されていた。
アルドは
「ここのスープ、味付けはシンプルだけど味に奥行きがあって深い味わいなんだよな。」
そう言いながら席に座り一人で、いただきますと言った。
この日の朝は天気もよく、酒場にいる人たちも今日の食事をとても楽しんでいるようであった。
酒場で朝食を楽しんだ一行は一度宿屋に戻り、持ち物を確認してからフロントに集合していた。
「お姉さん! いつもお弁当ありがとう!」
アルドがこの日のお弁当、水の都アクトゥールのお菓子である冷製スフィア・コッタを受付で受け取ると、一行は人喰い沼を目指した。
○○○
人喰い沼の入り口はアクトゥールのそばの地下へと続く階段の洞窟の先にあるのだが、そこでアルド達は今朝の話をしていた。
「そういえばアルド、 今日は珍しくねぼすけさんじゃなかったのね?」
「失礼だなぁ、 エイミ。 オレはいつも通りだったぞ?」
アルドは質問の意図を理解しているのかいないのか微妙な返しをしているが、エイミの言う通り今日は珍しくアルドは寝坊しなかったらしい。
ちなみに女子の部屋はいつも大体・・・というか十中八九リィカかヘレナがまず目を覚ます、というかスリープモードからスタンバイモードに時間通りに起動する。以前一度、リィカに目覚まし機能を頼んだエイミがその喧噪さに泡を食ったおかげでそれからは静かに起きるようになった。
まったく、あれは誰が設計したのよ・・・そう言ってその日の午前中ずっと顔色が悪かったらしい。
「そろそろ、 着くでござるよ。」
サイラスがそう報告すると、開けた洞窟が途端に広がって見えた。
「さあ、 ここからどうやって探すかだが・・・。」
アルドが案を思いつく前に、
「ワタシにお任せくだサイ!!」
リィカがそう宣言した。
「お、 スキャンしてくれるか?」
アルドがそう言った時にはもうスキャンが始まっていた。
リィカがレーダーの電波らしきものを沼全体に飛ばしているような音が聞こえる。こういう時にもリィカの探知機能はとても便利である。その結果はすぐに表れた。
「この先、 道の中腹より奥側にそれらしきキノコの反応がありマス!!」
「よし、 早速行ってみよう。」
リィカがそういうと、アルドが率先して前を進んだ。
○○○
「反応が近いデス!!」
一行はリィカが指定したポイントに順調に近づき、すでにその姿を捉えていた。・・・だが。
「今度はシーラスが今にも威嚇をしそうな顔でこっちを見ているわね・・・。」
エイミが残念そうにそう言うと、
「相手は半魚人型の魔物だ。 手加減はせずにどんどんいくぞ!」
アルドが全員に喝を入れ、いつもの戦闘態勢に入る。
「くらえっっ!!」
アルドの剣撃「エックス斬り」がシーラスを襲う。
「隙は与えぬでござる!よっ!」
サイラスの素早い刀裁きがシーラス2体を完全に戦闘不能にした。
「ヒュ~、やるぅ!」
「これくらい何でもないでござる。」
エイミが口笛を吹く音の真似をする。
サイラスはそう言ってかっこよく刀を鞘に納めた。
「サイラスさんの刀裁きって、本当に洗練されてますよね!」
フィーネもサイラスを褒める。
サイラスはカエルの成りをしているが、もともとは古代の東方ガルレア大陸の有名な侍であった。そのため少々褒められたくらいでは調子に乗ったりしない。そのくらいの矜持は持ち合わせている。なので、
「いや、まだまだでござるよ。」
あくまで謙虚に、自分に対して誠実に答える。
その頃、アルドはシロシハンタケと思われるキノコを手に取っていた。
「これだな、確かにかなり似ているな。 でも・・・。」
「紫斑の色が濃い、 そう思うでござるか。」
サイラスは歩み寄りながらアルドが次に何を言うかわかっていたように現代で見たシロシハンタケとの紫色の斑点の濃さの違いを指摘した。
「わかっていたのね・・・ん?」
「今から成分分析をしマス!」
何かに気づいた、もしくは何かが起こったことを察知したヘレナを尻目に、リィカが成分を分析してその違いを解析する。
「これハ・・・とても毒性が強くなってマス!!」
「違うキノコだったってことか・・・? それとも・・・。」
アルドがその結果に疑問を抱く。毒性の強いキノコだとすると同種だとしてもまたたびとしては効力が強すぎて使い物にならないかもしれない。そこにヘレナが、
「今わかったのだけどこのキノコ、 シロシハンタケで間違いないみたいよ。 私の記憶領域・・・つまり未来の記録にこの古代のキノコの画像とシロシハンタケというワードを同時検索したときに記憶が呼び起こされる仕組みになってたみたいね。 きっと、 未来にもあるわよ、 それ。」
「本当か?!」
アルドいや、その場にいた全員が驚く。現代で希少になっていたキノコがまさか未来でみつかるとは思っていなかったのだ。
「未来で珍しいキノコが生えている水場・・・少なくとも空中ではないわね。 もしかしてアンガルかしら?」
エイミがそう推理すると、
「う~ん、 そうだな。 ヘレナの検索に引っかかったっていう記録も気になるし、 ついでにアンガルにも寄ってみよう!」
そうアルドが言うと、今一度一同は人喰い沼を出るためアクトゥールへの出口を目指した。その手には毒性の強いシロシハンタケが握られていた。
○○○
「現代、 古代の次はやっぱり未来か・・・。」
次元戦艦の上でフィーネは胸騒ぎを抑えながらそう呟く。
「大丈夫だ。 何があろうとオレたちは負けない。 そうだろ?」
「・・・うん! ありがとう、 お兄ちゃん!」
アルドとフィーネの兄妹はお互いに支えあうように未来への時空超躍に耐えた。
○○○
アンガルに着いた一行はまず、ものを知ってそうなキキョウのもとを訪ねることにした。
「あら、 久しぶりね。 いらっしゃい!」
そうキキョウは綺麗に整えられた部屋の掃除の手を休めると、訪れた客人たちに久々の来訪を喜んでいるように挨拶をした。
「忙しいところごめんな、 実は聞きたいことがあって来たんだ。」
「シロシハンタケって、 知っているか?」
アルドは早速質問を始める。その名を聞いたキキョウは、よく知っているなと驚いたのか、ちょっと考える仕草をしてからこう言った。
「知っているわ。 ここアンガルでは霊薬と呼ばれている薬の原料になるキノコね。」
「霊薬・・・・?」
アルドの疑問にリィカが答える。
「霊薬とハ特別な効果を持つ薬のことデ、 神の薬とも呼ばれていマス!」
その言葉に
「そう、 主に地上のプリズマ汚染による病気を根本的に治すことのできる霊薬よ。」
とキキョウは答える。
一時的に、だけどね・・・。とも付け加えた。
「そういえば、 アンガルの集落の家の人に、 夫の状態が良くないから急いで来てほしいって言われてたっけ・・・。」
憂鬱そうにキキョウがそう言うと、
「それは急を要する事態でござるな。 アルド殿、 どうするでござるか?。」
「ああ、 俺たちにも何か手伝えることがあれば言ってくれ!」
サイラスとアルドが言う。
「あなた達はいつもそうよね・・・。」
キキョウは浮かない顔をしながらも、ついてきて、というようにアルド達をアンガルの集落の方に案内し始めていた。
アンガルとは、東方ガルレア大陸の南方にある魔獣の末裔たちが暮らす集落のことで、魔獣たちは常に貧困と地上のプリズマによる汚染と闘いながらも、必死に生きようと戦っていた。
キキョウはその家のドアを叩いて声をかけてから開けた。
中には明らかに病に臥せっているであろう三人家族の父親とみられる男性がくるしそうに布の上に寝転がり、その男性に寄り添うように母親と少年が見守っていた。すると、
「キキョウさん!! やっと来てくれた!」
母親の方が顔を明るくする。しかし夫の顔の様子を見るとすぐにその表情は悲愴な色に染まった。
「なんとかなりませんか?!」
立て続けに母親がキキョウに懇願すると、キキョウは
「残念ながら、 今の私には・・・何も・・・。」
と下を向いて首を振りながら答えた。
この魔獣族が暮らすアンガルにはちゃんとした医者がいない。貧しい中で生き残るためには自分で物資を調達するか、イージアからの支援物資に頼るか、キキョウが持っている治療物資を分けてもらうくらいしか現実的ではない。キキョウは今までも物資調達の任務をこなしたり、その情報網で取引先との物々交換をすることで、結果的に多くのアンガルの住人たちを助けてきた。そして、この家族はその状況で最後の頼みの綱であるキキョウに願いを掛けていたのだ。
「そんな・・・。」
母親が泣き崩れる。もしかしたら。そう思っていた最後の希望が崩れ落ちた時の衝撃は想像以上であった。
その時、
「なんで僕のお父さんは助けてくれないんだ! キキョウ姉ちゃんのバカー! 鬼ー!」
一人息子だろうか、魔獣の少年はキキョウに向かって精いっぱいの罵声を浴びせかけ
た。
「・・・!!!?」
キキョウは予想外の言葉にたじろぐ。
「こら! 失礼でしょ! 待ちなさい!」
母親の咎める言葉に耳を貸さず、少年は最後の覚悟を決めたように突然外に飛び出した。
「なんか、 申し訳ないところにお邪魔しちゃったな・・・。」
アルドはバツが悪そうにそういった。
キキョウがたじろいたのは、自分に向けられた「鬼」という言葉であった。自らの父に対して称された鬼という言葉との意味の違いに衝撃を受けたのだ。父は正々堂々と戦って私に未来を託してくれた。なのに、私はなんで何もできないで子どもにバカにされる鬼なんだろう・・・と。
「鬼、か。 私には・・・何も・・・。」
キキョウは自分にできることとできないことの区別がはっきりしている人なので、余計に自らの無力さについてひしひしと感じさせられた。
悲しみに暮れる家の中で、一人の男があることをひらめいた。
その手に握られていた古代から持ってきたシロシハンタケが、まるで光り輝いているように見えた。
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