第2話 シロシハンタケ


合成人間であるヘレナに頼み、バルオキーからほど近いヌアル平原から次元戦艦に搭乗したアルド達一行は蛇骨島の南端、蛇尾コラベルにその艦体を乗りつけ、蛇背ガバラギを通り、魔獣族の村コニウムを訪れていた。


「やっと着いたでござるな!」


「そうねー、 この島の敵ってなかなか侮れないから油断も隙もないわ。」


サイラスが到着の喜びを分かち合い、エイミがそう言いながらもあまり消耗した様子がないのはやはり凄腕のハンターだからだろうか。それに、この二人の掛け合いは日ごろ割とよく見かける気がする。意外と仲が良いというか、息がぴったりなのかもしれない。


でもそんなことを言ったら、エイミに殴られるだろう。


「ははは! でもオレたちなら楽勝だろ? もう何回通ってきたかもわからないんだしな!」


アルドが豪快にそう笑いかけると、


「お兄ちゃん、 あまり油断してるとそのうち怪我をするよ?」


と妹のフィーネが本当は誰よりも信頼しきっている兄のアルドに注意する。


きっとフィーネはアルドのただの妹なだけではなく、この壮大な旅の途中で兄が間違っても大きな失敗をしないよう見守り、導く役を担っているんだと思っているようだった。


「町の様子に特に異常は見られません ノデ!!」


「みんなお疲れ様ね。」


ピンク色の・・・髪にあたるであろう部分をKMS社製アンドロイド、リィカはぶんぶんと振り回しここは私の役割なんだと誇りを持っているかのようにいつものように異常がないことを報告し、こちらも到着の喜びを感じていた。


紫色の機体をした合成人間ヘレナは暖かく見守る母のように一行をねぎらった。


「そうだな。 まずはギルドナとアルテナのところに行ってみよう。」


そうアルドが言うと、一行はギルドナの家を目指すことにした。



○○○



「ごめんくださーい!」


フィーネの高く澄んだ声が響き渡り、


「はーい! この声はフィーネね?」


と、茶色の髪を長い三つ編みにした魔獣の少女は呼応したように応えた。


トントントン・・・という足音の後に、ガチャ。と木製のドアが開く。


「フィーネ! それにアルド達も! みんな揃ってお久しぶりね!」


アルテナというその少女は久々の再会にとても喜んでいるようであった。


「ささ、入って入って!」


とアルテナが案内すると、一行は家の中にお邪魔する形となった。



○○○



「タケコンブ茶って、 独特な味わいだけどなんだか落ち着くのよねぇー。」


一行はギルドナの家に円になってお茶を頂いていた。タケコンブ茶というのは蛇骨島名産の魔獣族が大好きなお茶のことである。エイミはすっかりその風味にはまってしまっていたのか、ずずず、とタケコンブ茶をおいしそうにすすっていた。


「確かアルテナやギルドナさんたちは、 コニウムで用事があるとかでここに残っていたのよね?」


フィーネがアルテナにそう確認すると、


「そうよ~。 さっきようやくその一軒が終わったんだ。 それで? 何か用があってきたんでしょ?」


「そんな慌ててる様子もないようだが、どうした?」


アルテナが一行の来訪に疑問を持つのも無理はない。アルテナの兄ギルドナは同じ疑問を持ちながら、妹の質問に同調するように質問した。


「実は、 さっきバルオキーでね・・・。」


フィーネは先ほどバルオキーで起きた魔獣のまたたびによる事件のいきさつを説明した。



○○○



「えっ、 全部入れちゃったの!? あでも、それじゃ私のせいだ・・・本当にごめんなさい。」


「俺からも謝る。 申し訳ない。」


アルテナとギルドナはその事件の重大さに気づいているようで、本当に申し訳なさそうであった。2人によると、魔獣のまたたびというのは伝統的な料理に使われる他に、祭礼の時参加者の気持ちを高ぶらせる目的でお香として焚かれる場合があるそうだ。


「なんでも、 最近は原料の・・・なんとかキノコが採れなくて大変だそうだな。」


アルドは話の核心に話を持っていく。


「実は、 私もそのキノコに関してはあまりよく知らないの。 お兄ちゃん、知ってる?」


「俺も詳しくは知らないが、 酒場にいる魔獣翁なら知っているんじゃないか?」


「そうね。 翁の所に行くなら私も着いていくことにするわ。 私のせいで起きたことに私が話を聞かないことには始まらないもの!」


そうバツが悪そうにアルテナは言うが、体を伸ばしてから準備万端よ!とでもいうように親指を立てた。実は久しぶりの冒険の香りにわくわくしているようである。


アルドは、


「それじゃあ、 酒場の魔獣翁の所にいってみよう!」


と言うと、


「俺はここに残るぞ。 まだやることがあるしな。」


ギルドナがあとは任せたというようにアルドに言い、みんなが飲んだお茶の湯飲みを片付け始めた。


「ギルドナ様~! それは私がやりますから、ギルドナ様は休んでいてください!」


実は後ろで一部始終を見聞きしていたいたミュルスとヴァレスのうち、ミュルスが率先して片付けをやるところを横目で見ながらアルド達は酒場を目指した。



○○○



コニウムの酒場で魔獣翁は魔獣のまたたびによって起きた事件を聞き、 その原料であるシロシハンタケについて思いを巡らせていた。


「シロシハンタケとはその名の通り白く、紫色の斑点があることが特徴のキノコで水辺などの湿地帯に生えることが確認されておる。 よく観察すれば素人にも簡単に見つかるようなキノコなんじゃが・・・。」


翁は言い淀む。


「ほら、イゴマに釣り場があるじゃろう。 その周辺に生えるんじゃがその生態が未だ謎でのう。 一部では霊長類の魔物の繁殖期にのみ生えるといわれておる。 どうもその魔物の求婚に際しシロシハンタケが使われているようなんじゃが。 魔物が暴れると手が付けられないからなかなか採りにいけないのじゃ。」


「本当に珍しいキノコなのね。 シロシハンタケって。」


ヘレナはどこかで聞いたことあるような気がするそのキノコの姿を思い出そうとするが、どうにもそのワードを検索しても画像が記憶領域から引っ張り出せないようだ。


翁は頷く。


「それで、 そのシロなんとかタケは今は生えているのか?」


アルドは翁に聞くと、


「そりゃ今は丁度その魔物の繁殖期じゃから生えているだろうし、 採ってきてもらえるならありがたいのじゃが・・・。」


と翁は残り少なくなった魔獣のまたたびの在庫に思いを馳せる。


「とりあえず、 注意して様子を見に行ってみないか?」


「百聞は一見に如かず。 でござるな!」


アルドとサイラスがそう言い、翁に挨拶をした後、一行は蛇首イゴマにある魔獣たちの憩いの場周辺を目指すことにした。



○○○



魔獣たちの憩いの場・・・そこは蛇首イゴマにある主にコニウムに住む魔獣たちが魚を釣ったり取ったりして楽しむ、その名の通り憩いの場である。

実はこの池は多種多様な生物が生息しており、代表的な魚でいえば黄金に光るマグロが釣れる。広さも相当なものであり、ちょっとした湖くらいはあると言われている。


アルド達はその憩いの場に到着した後、周辺を手分けしてシロシハンタケを探している途中だった。


「う~む。 それらしきものはなかなか見つからないでござるな。」


サイラスは唸る。


「もうちょっとよく探しなさい?  もしかしたら踏んづけているかもしれないわね。」


エイミはそう言いながらも難しい顔をしている。


「翁が言っていたのはこの辺だよな・・・足元をよく探してみよう・・・。」


アルドはとても集中しているようだ。


するとフィーネが、


「あ、あそこの茂みに見え隠れしている白いのってそれじゃないかな?」


と発見した喜びを込めた声を上げ、全員がフィーネの方を向き、指さした先を視ようと駆け寄る。


「なんと! フィーネ殿が見つけたでござるか!」


「高性能アンドロイドが役に立つ場所はほかにもありマス! ノデ!!」


サイラスが賞賛する傍ら、リィカは悔しそうにそう言った。


フィーネはシロシハンタケを取ろうと駆け寄ろうとすると、


「ちょっと待って! 何かいるわ!」


ヘレナが注意したその時、


グァァァー!


と、角の生えたクマのような凶悪な人型の魔物がフィーネを襲った。


ヘレナの注意が功を奏したのか、フィーネは間一髪のところでその爪の攻撃を杖で受け流し、態勢を整えるために後ろに下がった。


「フィーネ、大丈夫!?」


エイミがフィーネの身を気遣い、フィーネは魔物から目を離さないよう注意しながら大きく頷いた。


「この魔物は、 グアンナだな! 普段はおとなしいと聞くがこんなに気が立つのか!」


アルドがそう言うとアルテナが


「私が弓で援護するわ! みんなはこいつらを追い払って!」


「絶対にそのキノコは渡さないわ!」


と言い、気迫のこもった顔で矢を番える。そして、アルドを中心にメンバーを前衛と後衛に分け一同は戦闘モードに入った。


2~3体いただろうか、オスのグアンナの群れは前衛のアルド、エイミ、サイラスの武器によるけん制と、後衛のアルテナ、リィカ、ヘレナによる援護射撃、それにフィーネの回復などの後方支援を加えた傍目に見ても隙が無い構成の戦闘によって無事追い払われた。


「これがその・・・シロシハンタケだな。」


戦闘を終え周りに他の魔物の気配がないことを確認した後、アルドはシロシハンタケを手に取った。


「うえぇ、 毒々しい見た目ね。」


とエイミが率直な感想を漏らす。


「え、これって・・・?」


「うむ・・・。 ちょっと薄い、 でござるか・・・。」


ヘレナとサイラスは共に意味深な感想を呟いた。


「とりあえず一つ手に入れたけど、 こんなに小さかったらあんまり足しにならないだろうな。 まだこれから探すのもありだろうけど、 見つけるたびに戦闘してたらきりがない。 それに、 生えている数自体やっぱりそんなに多くないみたいだし。」


「確かに、 このままこの方法で探し続けるのは得策ではなさそうね。」


アルドが状況を整理したあと、エイミがそれに賛成する。


「でも、 魔獣翁にこれ一本でしたっていうのも忍びないよな。 何か手はないか

・・・。」


アルドがそう言うと、


「それに関して少々案があるでござる。」


先ほどシロシハンタケを見て何やら思い出したような顔をしていたサイラスが声を発した。一同がサイラスの方を見る。


「確か、古代の人喰い沼に似たようなキノコが生えているのを見たことがある気がするでござる。少々手間がかかるかもしれないが、見に行ってみないでござるか?」


「それ、本当?」


サイラスの発言にヘレナは怪訝な声を向ける。


「でも、 現状それ以外に有力な情報はないわけだし、 実際に見に行ってみて確認してみよう!」


こういう時、リーダーのアルドは決断が早くて頼りになるのよね。とエイミは思った。ニブチンだけど。そうも思った。


「はぁ・・・。」


「人喰い沼かぁ あそこ薄暗くて苦手なのよね。」


エイミは心の中でひそかにつぶやいたことに対するため息を実際の発言に繋げる、ある意味高等技術を、 あくまでひそかにこなしていた。


「じゃあ、魔獣翁のところには私が結果を報告しに行くわ。」


アルテナがその役目を自ら任される。


「お願いするわ。 アルテナ。 いつもありがとうね。」


フィーネがそう言うと、アルテナは唯一採ったシロシハンタケを持ってコニウムの方に去っていった。


アルドは


「みんなお疲れだろうけど人喰い沼まで移動するから、 一旦アクトゥールを目指そう!」


とみんなに言い、


「余裕でござる。」


「あんたの棲み処だったから帰りたいのね?」


サイラスとエイミがいつものようにやり取りをする。


一行は一度アクトゥールを目指して次元戦艦に乗り込むのであった。





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