盗賊

 この後も特に魔物とかに出会うことはなく空は夕暮れに差し掛かってきた頃、俺達を乗せた馬車はどこか懐かしさというか既視感さえも感じる草原につきもうここで休むことにした。


 この森一面の山の中に草原があるなんてなぁ......ここを抜けたらすぐにも山の山頂部につきそうだ。


 そんなわけで夕ご飯の準備やら寝床の準備を始める俺達一行。俺もフレアで火起こしをしつつその火でお湯を作っている最中だ。なんでフレイムを使わないのかって? フレイムって火の粉を撒き散らすフレアの全体版魔法なんだから、すぐに森に燃え移ってしまうかもだろ?


 ちなみに女性陣が夕ご飯を、ガドラがテントとかをジュンティルと共に建てている。


「ハルトは今日大変だったでしょ! そこら辺で休んでてもいいよ!」


「えっ? いいの?」


 こうして夕ご飯ができるまで暇になったのでそこら辺をブラブラとしていたんだけど......


 ふと、どこからか聞き覚えのある会話が聞こえてきたので誰か居るのかなと思い、その声を頼りに近くまで近づいてみるとそこにいたのは......


「兄貴、後売り捌いてないのこの剣だけやけど......どうします?」


「知るか、なんか素材一つ一つが高級品で固められてて売る時に逆に怪しまれる代物だというのにどうしろってんだ?」


 あいつらは例の盗賊2人組だ! 確かパレンラトス王国の首都の郊外にあった草原で、マールの荷物とか剣とかを盗んでさっさと去っていったという......


「そうだ! もういっそのことこの剣家宝としてもらってもいいすか? 一生の宝物にして末代まで祭り立てたいなって! ゲヘヘやっぱりいい剣なンゴ!」


 これは悪くない誤算が起きたぞ。多分だがこの剣はマールの物だ。これだけでも返ってきたならば、ここ最近悪化の一途を辿っていた破滅思考の精神状態が安定期に入ってくれるかもしれない。


 ていうかマールはねぇ......もういつ底知れぬ感情の何かが弾けてもおかしくない時限爆弾なのだ。


 そうと決まれば俺は奴らに対して無策でもなんでもいいから突撃するのみ! だって目を離した隙にこのまま剣と共に姿をくらまされるのが怖かったからだ。なら行くしか選択肢はないだろう。


 盗賊の兄貴分らしき男は俺が来るのを察知しやがったのか、すぐにサッと距離を取られてしまった。


 兄貴分らしき男は冷静な口調で俺達に何か用ですかと俺に問いかけてきてるが、悠長に答えてると逃げる隙を取られてしまうと思い徹底的に無視を決め込んだ。


 盗賊の兄貴分は舌打ちをしたのち、もう1人に小声で何かを伝え合っている。正直隙だらけだから俺としては今すぐにでも奴らに近づきときたい。


 しかし、少しでも動いたら素早い奴らのことだしすぐに逃げられてしまう可能性が生まれてしまう。ていうかわざと隙を作って逃げる隙を伺っている可能性もあるのが奴らの怖いところ。


 それに......多分だけどあの剣はマールが大切にしてた物だと思うからこの千載一遇のチャンスを不意にしたくない。だから今迂闊に動けないのだ。


 これはアレだ、コイツらは盗賊のプロで相当の手練れ者だ。


 いくつもの修羅場を潜り抜けてきた経験なのかこいつらも機転が効く。現にアイツらは俺に奇襲を食らって不利な状況になっていたはずなのに、現状膠着状態になってしまっているのがなりよりの証拠なのだ。


「ええい、もうどうにでもなれ!?」


 ここは山の中だから夜になるのが早い。そして盗賊が得意な暗闇になってしまったら俺は奴らを取り逃してしまうだろう。だからどっちみち追い込まれていた俺は一か八かフレイムをぶっ放すことにしたんだ。


 俺は決心してフレイムを放す構えをしつつ奴らに狙いを定める。当の本人達は構え的に物理攻撃を警戒してるっぽい。


「食らえ! 金奪いの盗賊共! フレイム!」


「ナニィ!? アッチィィィィンゴォォォォォ!?」


「落ち着け! チィ、まさか盾使いが魔法を放ってくるとは......」


 盾使いは遠距離攻撃なんて撃ってこないだろうと高を潜っていたアイツらには完全に予想外の攻撃だっただろう。俺のフレイムをあたふたと避けている盗賊は今、あからさまに隙だらけだ。


「シールドアタック!」


 この機会は逃さない。近づきながら盾の突進攻撃をアイツらに当ててそのまま動けないように地面に押し付けてやる!


 勢いを強めながらついに攻撃射程圏内まで来たところで、念には念をと空いてる手でスパークを奴らに向けて放ったのが逃げ遅れた片割れに直撃する。


 初級魔法とは言っても当たった場所を1分ぐらい痺れさせる力はあるぞ! 今この場面なら1分あれば充分なのだ。


 よし、まずは剣確保! 捕らえる前にまずはこの剣はマールの物なのかを確認するのが先。


 よし、剣にマールの名前が刻まれているし本人のだな。てか......重すぎて持てねぇ......


 この剣は一旦置いておき、再度盗賊を目視しようとしたのだけど、すでに黒い煙幕が立ちこもっていた。どこからか盗賊達の声だけが聞こえる。


「チッ! この剣はお前らにくれてやる。こっちとしても不良債権が無くなって良かったぜ! あばよ!」


 あっ! 剣に気を取られている間にもう片方がせっかく痺れさせた奴を担いでいって逃げ出している。慌てて追い討ちのフレアを放ったが後の祭りだった。


「嘘でしょ兄貴~! 待って欲しいンゴォォォ!」


「うるさい! 本当は見捨てるところを逃げるために担いでやるだけありがたいと思え! なんならお前一回捕まっとくか?」


 いやこれ以上追いかけて逆に俺が遭難でもしたら目も当てられないわ。それにこの剣はマールの物だったのがわかってるのでとりあえずみんなの元に帰ろう。


 そんなわけでやっと今日一息つけると思った男ことハルトがいたのでした。


◇◇◇◇◇

次回に続く

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