イノシシとの戦い
よつば視点
◇
いつになく私はごきげんみたい。これで窮屈な宮廷生活もこれで終わりと思うと晴れ晴れした気分になってこれが自由かと感動している。過程はどうであれついに旅の始まりですの!
家来の屈強とは言えないけど程よく肉体が鍛えられている世にも珍しい盾使いハルトを連れて出発だ!
兄上がついでにアルシア行きの馬車を手配してくれたお陰で雲色は順調です! 多分兄上の最後の援助ですしここから先はなんとかしないとね!
「アルシアってたしか王国随一綺麗な都。別称第二の都とも言われてる所ですわね! 私は馬車で来たことがありますが、とにかく風景がいいですの!」
あれ? この人いつになく挙動不審だ。どうしたんだろう? そうだ、ちょっとした挑発やってみよっ!
「あれあれ? どうしましたの~? 身体が震えてますわよーー。もしかして怖い、」
「怖いに決まってるだろ。世間知らずのお嬢様にはわからないだろうから一応言っておく。この世界での旅はすごく危険を伴うんだ。最悪の場合死ぬ。俺は勇者パーティー時代に一回だけ味わった」
はえぇ......安い挑発で怒らせてしまいました?
「そもそもさ、お前はなんか魔物と戦ったことあるの?」
なんか無理矢理話をずらされた気がするけどまあいいですわ。そういえば実戦経験は皆無に近い。暇な時ですら屋敷から一歩も出ずに興味を持った魔法を覚えたり、いろんな本を読み漁って薬系の本に興味を惹かれるという完璧インドア派。
「な、無いですの」
「やっぱりそうなのね。そうだ! 馬車止めてくれ」
「はいよーー!」
「今から俺が盾使いとして、モンスターとの戦い方のお手本見せるからお前は適当な場所に隠れといて!」
なんだろうね......嫌な予感がしますわ。私でもわかるくらいには情緒不安定ですし。とにかく今日はハルトらしくないですわ。
いうことに従って馬車の中に隠れて様子見しよう。するとワイルドボアという名前のイノシシ集団がチラホラと......
「ここから先はモンスターとの殺し合い。前みたいに仲間にも頼れない中、俺がやるしかない。行くぞニードルガード!」
盾から無数のトゲトゲが出現しました。触ったら痛そう。これも一種の魔法で、盾使いという称号を持っている人達が重宝するようですわね。
「盾使いは誰もが防戦一方的な戦いをしているわけじゃない。俺もできるんだという所を見せてやる!」
本当に戦えますの? 盾使いってたしか攻撃専門じゃなく防御専門だったはず......
ちなみにこの世界では実力を証明するために称号というものがありますの。各部門で実力を認められた者にしか名乗ってはいけない、権利みたいなものなんですね。
ハルトは私がわかってる時点では盾使いと剣見習い中級。ついでににわたくしは見習い魔法使い......厳密には見習い上級者で、次のステージに上がることができれば晴れて魔法使いになれるのですの!
◇
「ちょうどいい所にワイルドボアが来てくれた。しっかり見とけよーー!」
まあ、この畜生相手には負ける理由は無さそうですわね。むしろ食料ゲットのチャンス! 調理の仕方とかまったくわからないですが、焼いたら食べれるでしょ!
「フレイム!」
「グルルルル......」
ハルトの初級魔法がイノシシ達の近くに着弾しましたわね。これはあくまでおとりに近いでしょう。これでイノシシ達は臨戦態勢に入りましたけど、こっからどうなるのでしょうね。
「ガルルルルル......グワァ!」
イノシシ集団の突撃によってイノシシVSハルトの戦いの鐘が鳴りましたわ!
「シールドブレイク!」
先陣を切った1匹がトゲトゲ盾に脳死突撃しました! それをあっさりと返り討ちにするハルト選手!
仲間をやられ逆上したイノシシ集団が知的に陣形を作り一斉に飛びかかってきましたわ!
「グフッ!? グボッ!? グハッ!?」
一方的にやられているのはハルト選手! そしてイノシシ達によってどこかに運ばれていく......
「ってホゲェェェェェェ!? 待ちなさーーい!」
[数分後]
なんとか追い払うことに成功したけど......確実にこの人心身共にやられてますわね。どう擁護しようかな......
その前に盾によって殺されたイノシシ達に向けて成仏できるように念仏を唱えときましょう。
[それからさらに15分が経ち……]
「ふう……」
唱えてる最中も意気消沈のまま地面に倒れてるハルトがそこにはいてもう見てられない。仕方ない、王女自ら慰めのお言葉でもかけておきましょう。
なんて言いますか......一撃で倒れないのは素直に凄いとは思う。10発くらい食らっているのに致命傷をおってないとか。何気にもう1匹倒してるし。
耐久力だけ一級品ですけど決定力に欠けるといいますか、攻撃力が無いというか、
「あなたが追放されてしまった理由がなんとなくわかった気がしますの」
あらトドメ刺しちゃいました。ハルトの目から水滴がこぼれた気がしたけど見なかったことにしよう。
◇
本人は相当心にきたようで、夜になるとさっさと野営の準備をして寝てしまった。馬車の人も眠りについてしまったので私も寝るために一日中つけていた帽子を取って、三角形の魔法使いの帽子に被り変える。
この帽子は宮廷にいる時や就寝する時に使ってたけど、あなたが言ってた通り店にいる時はこの帽子を使おうかしら......
「私は外じゃなく馬車で寝ましょうか......」
◇
ハルトはこの一夜でなんとか気持ちを立て直したそうで、私の知ってる状態に戻ってますわね。かといってまだ昨日の傷は癒えてないだろうから私も頑張りますわ。
「昨日取ったイノシシは半分丸焼きにしてもう半分は保存食用に干す」
まあ丸焼きとは豪快ですわね。これが冒険者の食べ物……
「豪勢だねぇアンタ! この食いっぷりを見たら俺も腹が減ってくるぜ。おっちゃんも食べていいか!」
「いいっすよ。あっ、目ん玉いただき!」
「目ん玉!?」
「うん目ん玉。ワイルドボアの目ん玉は珍味だぞ。食う?」
「いや……遠慮しときますの」
ハルトは目ん玉を一口で食べてしまった。しかもとても美味しそうに食べている。
これが盾使いもとい冒険者か。目ん玉を食べることに一切の躊躇も迷いが無い!
◇
まあいろいろありまして馬車で先を目指していると、目的の場所まできました。なぜ街も村も無い場所にわざわざ降り立ったかと言いますと、こっからは自分の足で前に進みたかったからです。
これをハルトに話したら『王族は変人揃いとは聞くけど、お前は特にそうだな。昔からそうだった』と呆れられましたけど。
さあここから私の冒険が始まりますのです!
「それじゃ馬車降りたら荷物持ちお願いしますわ!」
「うん」
「嬢ちゃん。ここまででいいのかい?」
「はい、馬車のオッさん。何から何まですみません」
「え、ええ......」
いや心の傷も思ってたよりも深いようですわね。いや私のほうが調子狂わされてどうしますの! やっぱりどこかで話をつけておかないといろいろ気まずい。
「ん? あっちに倒れている人がいる」
そんな考えごとをして一面草原畑を歩いていたら、旅人らしき人が倒れてるじゃないですの!
これは何かの事件に巻き込まれてしまった被害者の末路に遭遇したかもしれないですわ! 事件の匂いがプンプンします!
「何があったのかは分からないけど、とにかく助けないと」
「言われなくてもそうするつもりですの!」
とりあえず近くまできてみることにした私達なのでした。
◇◇◇◇◇
次回に続く
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます