第1章

旅人が倒れていました

 あ、ありのまま今起こっていることを整理するぜ。俺は隣町まで2日かけて来たわけだが、なぜか街の入り口手前にある道の真ん中に人が倒れていた。何を言ってるのかわかんねえと思うが、俺も状況はよくわかっていない。


 馬車を運転してくれた人と別れ、しばらく草原を歩いていたらこんな状況になってた。


 俺自身、心身ともに昨日の傷が癒えていない。もしかしてだけど全身ボコボコにされた影響で幻覚が見えてるんじゃ......? いや無いか。


「あのぉ......生きてますのぉ?」


 よつばはこんな調子で語り続けているが、返事は返ってこない。ていうかこの子どこかでみたことがあるけど......


「ふむふむ純白の綺麗な髪の毛ですわね。長いですが後ろに髪ゴムで整えられますの。耳が尖ってる......ということはもしかして地面に寝そべっている貴女ってエルフ族なの!」


 この特徴的な耳で全てを思い出したぁぁぁ! 盗賊に何もかも全部盗まれていた人だ!


 それと同時にあの時野次馬変質者になってて何も出来なかった自分を同時に思い出し嫌悪している今日この頃。はあ......よつばみたいな肝っ玉が欲しい。


 てかあれ? これって実質俺が殺してしまった感じなのか? そう思ったら急に血の気が引いていく......


「おい! 大丈夫か!? ほら生きているなら手を握ってくれ!」


 よかった、まだ死んでない! 微かに握り返してきたもん! ならまだ助かるはずだ。なんとか助けないと!


「あれ? 地面に何か書いてありますわ。もしかしてダイニングメッセージ?」


 よつばが何か発見したらしい。そういえばツッコんでなかったけどさ、さっきから探偵になりきってない? この探偵コスプレどっから持ってきたし。


 よつばが指差す先には『オナカスイタ』と地面に描かれている。これが何かを動かす証拠となった。


「真犯人がわかりましたわ! ズバリ空腹衰弱病という凶悪犯ですの!」


「そうか! このダイニングメッセージ、そして何より状況証拠が整っている。間違いなく空腹で衰弱しているんだ! よつば探偵は凄い推理力だな!」


 ん? 当然の如く流してたけど空腹衰弱病って何? そもそも真犯人って人間ですらないし。推理力はすごいけども。


「真実はいつも一つですの!」


「はいはいさすが迷探偵さまですね。とにかく荷物の中に食料あるから、この子に何か食べさせよう!」


「名探偵よつば様には不可能なんてないのですわ!」




[数分後]


 試しに食べ物を目の前に置いてみたら、さっきまで倒れていたとは思えないぐらいの速さで飛び起き、食べ物をまるで虫の捕食みたいに貪り食い始めていた。


 俺達はただただ得体の知れない何かに圧倒されている。その何かとは、生きるためなら恥も外聞もかなぐり捨てる、生き物の生存本能なんだろうか......


「助けていただきありがとうございます! おかげでマールは助かることができました!」

「おっおう! よ、よかったな!」


 なんだろう......初めてみた時と今の状況。仕方ないとはいえなんだか悲しくなってきますよ。


「私の名前はよつばですわ。私は有名人なので、どんなならずものでも名前だけなら聞いたことがあるはずですの!」


 おいこら、一言余計だ。


「そういえばここの王国には同名の王族がいますね。さすがに王族の名前を名乗るのは僕基準でも不味そうな気がするけど、とにかくよろしくね!」

「え......? 私は本物......じゃない?」


 そりゃあ一国の代表者である王族がまさか目の前にいるとは思わんわよなぁ。


「そうか......全てはこのコスプレが悪いのですの! よいしょっと。これが本当の私ですわよ! さあ崇め讃えなさい!」


 探偵のコスプレを取ったところで何か変わるわけでもなく、ただよつばが赤っ恥かいて終わった。


「よつばは悲しい心を持ち合わせる痛い人なの。察してあげてな」


 エルフの子は深く頷いた。


◇◇◇◇

次回に続く

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