武器屋に来ました

「おっ! 今巷で有名人のにいちゃんと......いや王女様には敬語じゃないとな! ガッハッハ!」


 俺が有名人......なら家族友人にいろいろバレている可能性が高い。ならばさっさと首都を離れたほうがよさそうだ。


 王宮から出た俺達は今装備品を揃えるために今装備屋にいる。そういえば、向かう道中民衆にチラホラ見られていた気がするけど、もう気にしたら負けだと思ってる。


「ごきげんよう。敬語じゃなくていいってくわよ」

「よう、相変わらず変な帽子かぶってるなぁ!」


 よつばは慌てて帽子を取る。そしたら薄い金色の長い髪が表に現れる。恥ずかしくなるなら最初からつけてくるなよと思うが、本人は頑なに取らないのだ。取ってたら美しいロングヘアーの金髪美少女なんだけどな。まあ何かあるんだろうね。


「ハルトよ。昨日はとにかく大変だったな」


 まさかアンタとまた会うなんて思ってもなかった。初対面から盾のことバカにしてきた店主と。


「ていうかまさか俺の前にもう一回現れるとは夢にも思わんかったぞ! 次会うときは英雄の仲間としてだと思ってたからな! ガッハッハ!」


 ウグッ......それ言われると改めて現実を再確認させられる。


 俺は勇者様に盾使いとして、仲間として失格の烙印を押されている男。その事実が俺の脳の中でグルグル回り、それは一生消えることはないだろう。


「おっと? 2人とも黙りこけているが腹でも痛めたか? まあいいや。さあ好きなもん選んでくれ。うちは品揃えで負けることはないからなあ!」


 極めて悪意のない武器屋の店長の言葉に苦しみつつ、なんとか気を取り直しこの店の品を見てみよう。俺の懐事情と相談して......


「そうだ。そういえばお前、金持ってきた? 昨日分けた旅資金とかぶっちゃけどんだけ持ってるの?」

「人が萎えてる時にそんな話はさすがにそれはデリカシーが無さすぎますわ!」

「す、すみません」


 ああ......お前はお前で、ある意味この武器屋の店長の被害者だったということか。この店から出たあと、よつばに建物の中に入っている間は帽子取ろうと提案してみよう。アイツには余計なお世話だろうけど一応ね。


 本題に戻し、よつばの懐事情を覗いてみたが、意外にも浪費してなかったようで......いや一晩に一万使ってる時点で充分やばいんだけども。俺の予想では全額使い切りそうだなだったからなんとも意外だった。ついでによつばはお小遣い10万アース持ってきているもよう。さすが王族。


 紆余曲折ありながらも俺は装備を慎重に選ぶ段階に入った。つってもいろんな盾があるな。腐っても盾使いだから盾が無い状況は穏やかじゃないからね。


「一応これでいいかな。安いし」


「おっ!『スパイクド・シールド』を選んだか! 小型の盾で表面に刺を備えた攻撃的な盾で、盾による体当たりなどで威力を増すように作られているんだぜ! そういやお前さん、前来たときは値段が高い盾とノーマル盾と買ってたが、これだけでいいのか?」


 資金にあまり余裕は無いのでね。


 追放されてしまった時に装備を置いていったせいでまた装備を買わなくちゃいけない。そしたらあまり手元に残らない。それに未知数的存在がいるわけで。だったら比較的安くかつ性能がそこそこの盾を選ぶ。


 盾を無事に手に入れたその後、よつばに勧められて甲鉄の鎧を着てみることになった。よつばが言うにはこの鎧を着ている人はみんな強そうだから、あなたがこれを着て旅をしたら王女の護衛として成り立ちそうだから。だから着てみてと......


「重!? 1パーツが既に重たいんだが!?」

「いいのに目をつけたな! どれ、俺が手伝ってやる」


 店長に着替えるのを手伝ってもらいながらなんとか着てみたものの、まったく動けないです......


「うむ、さすがにヒョロガリじゃ扱えんよ。この鎧の重量は合計60キロあるんだ。ハルトのにいちゃんにはもっと軽めの装備をオススメするが......本当にそれでいいんだな?」


 あっ......軽めのやつでお願いします。


「ウーン。まあこの鎧を着こなせていたら勇者パーティー解雇されてないですわよね。さすがに求めすぎましたわ」


 どうやらここに味方はいないようだ。けど本当のことなので言い返せないのが辛いです。なら実力で示すしかないな!


「舐めるなよ! フン!」

「おーー! この姿は普通にカッコいいですわ!」


 フフフ......勢いでこのデカイ剣を持った感想を言ってやろう。鎧ほどではないにしろとにかく重い! 誰が使うんねんこの鉄の塊! 絶対実戦用じゃないだろ! よつばは柄にもなく褒めているが俺には扱えん代物だった。


 こうして俺の買い物は己の精神を傷つけただけだった。ダメだ。さっきからネガティブ思考になってるぞハルト! 一回ポジティブに考えてみよう。


 よくよく見て考えてみると、俺は黙ってみればハイスペック魔法使いの美少女で王女の旅に同行しているって一周回って誇らしいことなんじゃないか? ていうか逆になんで俺を選んだんだ? 他にいくらでもいるだろうにわからない。


 当のよつばは楽しそうに商品を選んでいる。ここだけ切り取ってみるとただの女の子なんだけど、この国の第二王女なんだよな。なら婚約者とかいそうだし......やめだやめだ! もういろいろと考えすぎてるよ俺よ!


「お前さん繋がりでついさっき思い出したことなんだが、おとついくらいに勇者様一行が俺の店に来てたぞ」

「はっ? その話詳しく!」


 店長は少し狼狽したものの事情をなんとかく知っていることもあってか、すぐに話し始めた。一昨日の夕暮れに差し掛かった頃現れたという。どうやらこの町を去る前にあいさつにいってたようだ。


「今思えば勇者様がクソ雑魚盾持ち一般人を解雇したと言ってたが、それがアンタだったんだな」


「はい。暴言のバーゲンセールみたいなあだ名ですが、間違いなく俺です」

「何があったんだ? 俺でも力になれるなら話してみてや」


 よつばの様子をチラ見してみたが呑気に水晶を選んでいたので、恥ずかしながら俺の黒歴史を店長に話すことにした。



        ◇



「勇者様は仲間を守ってくれる盾使いとして拾ってくれたんだと思いますが、毎回勇者様御一行の攻撃で魔物がすぐに壊滅するため盾使いとしての俺の出番は一度も無く、次第に雑用係とかになっていき、そして今に至るというわけです」


 本当は過去を振り返って愚痴を言いたくない、けど俺は心が弱いから発散しないとやっていけないんだ。


「すみません。気分を悪くさせちゃって」


 すると店長は俺の肩をポンと叩きながらこう言う。


「なんだ、そんなことか! 大丈夫、ハルトのにいちゃんが気にしてるほどみんなは気にしてねえよ。アンタの過去なんて他人にとっちゃあどうでもいいんだ。ハルトは今を生きればいい。過去に囚われんな」


 確かに勇者様に迷惑をかけたのは俺の方だし、事故だったと割り切るしかないだろう。現に俺は勇者様には憎悪の感情とかまったくないし。ただ、何も貢献出来なかった事実、せめて勇者様に俺の力を認めてもらいたいという感情が自念として残っているんだ。


 過去に囚われないことは確かに大事なことだけど、俺は過去に向き合って生きていく。


 けどもう俺は人の前でこんなことをくちにするのはやめにするよ。せめて信用できる人に言おうと思った。店長がいい人でよかったけど、悪い奴は一生ネタにしかねないから。


 長いようで短い装備屋での買い物はある意味とても高い買い物をした気分だ。ていうかよつばはまだ決まってないのだろうか? さすがに長いなと思っていたら、急に話しかけてきた。


「見てみて! 杖がより一層可愛くモデルチェンジしましたわ!」


 これははたして変わっているのか......? 素人目にはまったくわからん。まあ本人が満足ならいいや。


 こうして俺達は装備屋を後にした。とりあえず目指す場所は代理王が言っていた占い婆さんがいる水の都アリシアに向かう。てか知ってる人に出くわさないうちに早く首都から離れたい。



        ◇



 ......本格的に動く前に腹が減ったのでご飯が美味い店に行き昼ごはんを食べていた時、俺はふと冷静になり。とある天才科学者の如く思考を巡らせる。


 こいつは果たして過酷な旅についていけるのだろうか? 隣町は大した距離じゃないにしろ。ていうかよくよく考えてみたら、よく見なくても可愛い美少女と2人旅だと!?


 俺の苦労と苦悩は始まったばかりだ。


◇◇◇◇◇◇◇

次回に続く

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