決闘

 そんなわけで俺は幼馴染で王女でもあるよつばとの決闘が始まろうとしている。帰っていいですか?


「ルールは私が決めますわ!」


 どうしてこんな状況になってしまったんだ......


 そもそもこの決闘は誰も得しないでしょ!? いやどっちかにお金を賭けている人は勝敗次第で得するが......


 例の代理王は1番上の玉座に悠々釈然と座っている。多分妹よつばを傷つけたりしたら速攻ギロチン送りだろうな。間違いなく。


「そうだ。もうお前と旅するのは確定的だからそれはいいんだ。それより第二王女の仕事とかなんかあるだろ? そこんとこ大丈夫なのか?」


「逆に今年16歳になる女の子、しかも親戚とかいっぱいいる中まともな仕事をしていると思うのですの?」


 ウーン……そういうものなのか? 俺は王族の出身じゃないからこの人らの仕事とかようわからんし。


 ていうか逆の逆に王族が16歳ぐらいの歳になってたら既に王族の責務を全うしてるはずじゃないだろうか? いや王族の実情とか知らんからあくまで勝手な推測だけど。それでも何も無いわけ無いはず……


「何かを察したかのような顔はやめなさい。それに貴方はもう逃げれないですの」


 うわぁ......流石にゲリラ決闘で満席じゃないにしろ、それでも野次馬がいっぱい来てる......王族らしき人達もちらほらといるし......職権濫用が過ぎるだろ。


「貴方がもし私の全力の一撃を真正面で受け切れたなら貴方の勝利にしてあげますわ! 腐っても盾使いならこれくらい受けてもらわないと!」


「ええ......普通にやりたくないんだけど。だって俺がこの茶番をやるメリット無いし。そもそもこの勝負自体フェアじゃないでしょ。よつば側に勝ち条件が実質無いし」


 とは言ったけどもうここまで来たらやるしかない。てかやらざるおえない。無関係野次馬共が文句言い始めてやがるし。


「ご心配は無用ですの! もとより勝ちに拘ってないので。あくまでただの余興。茶番であってますわ」

「なら尚更やりたくないわ!」


「あら? さっきからのこの発言は王様批判ともとれますわよ。ていうか私もさっさと終わらせて早く外に出たいのですわ! 私の気持ちも汲み取ってほしい」


 ぐぬぬ......極論勝っても負けてもよつばと旅することには変わりないんだし。負けたとしても不甲斐ない姿を晒さない、それを目標としよう。


 懐と頭に付けている青のハチマキを締め直して対峙した。


「決闘を始める前に一つだけ言っておく。ハルト......貴様がもし我が妹の一撃を耐え切ったならば僕直々に旅資金を出そう......そし、」


「よっしゃ! やってやるぜ!」


 俺の中で最悪負けてもいいという考えは消滅した。『大義名分この世は金だ』さあバレンラトス王国の王女よつばよ。お前が何してくるかわからんが、俺の耐久力を舐めてかかったら火傷するぜ!


「スチールシールド!」


 盾に魔法をかけてどんな攻撃も受け切れるようにカッチカッチに硬くした。


「よいしょっと。準備は整ったようですわね」


 使用人から杖を受け取って、魔法をいつでも放てるように構えているよつば。ちなみにこの杖は先っぽが槍みたいに鋭くなっていて、次に水晶球があるのが何度見ても特徴的だな。


 さてさてどんな魔法を放ってくるのだろうか。俺も構えた所で開幕の鐘が鳴った。


「あらゆる現象 水の精霊よ! 我が魂よ! 我に水の刃を宿し発射せよ!『スターリングウォーター•ザ•グングニル!』」


 水の槍みたいなものが杖に出現し、数秒の溜めがあった後に俺めがけて放ってきた。


 水の槍と俺の盾が交わった瞬間ズドンと衝撃波が起き、周辺の石ころが吹っ飛ぶ。野次馬達はこの時一斉にどよめき勝負の行方を見守っている。


 よつばはというと、攻撃の構えを一切辞めぬまま俺を微笑み続けており、その反面ニヤリと口元を緩めている。この眼を見た瞬間アイツは殺さない程度での本気の一撃を放ったなと悟った。


「ウウウオオオオオアアアアア!」


 前言撤回、これ完全に殺しにかかってきてますね。槍状の魔法が盾をグリグリ抉ってきて勢いが衰えないのだ。


 確かにこういう系の技は当たれば強い。けど大抵当たらないし、相当溜めが必要となる。はっきり言って実戦向きじゃない。


 現状に目を戻してみると、この一点突破の一撃で盾ごと貫かれたら俺の命は一巻の終わりだとヒシヒシと感じるヤバさ。どこかに受け流そうという考えも頭によぎったが、周りには観客もとい野次馬達がいる。もし流れ弾が無関係の人に当たったりしたらと考えると安易に受け流せねえ!


「絶対に負けるかぁぁぁ! 金の力を舐めるなぁぁぁ!」


「何で庶民はこんなにも金に執着しちゃうのですの? 今の貴方はまるで金の亡者ですわ。オホホホホ!」

「うるせえ! 黙りやがれ! お前は勝っても負けてもデメリットないんだし大人しく負けろ!」

「さっきから言い分が酷すぎますわよ!」


 ああ......盾がピシリピシリと亀裂しだしている。しかも俺の身体自体がズルズル押され始めているし。そうだかくなる上は......!


「フン!」


 凄い地響きが決闘場に鳴り響く。代理王含む野次馬達が目を見開き、そして歓声をあげた。


「これは......土煙が待っていて奴の姿が見えんな。どうなったのだ?」


 俺は土煙からひょっこりと顔を出してみた。すると野次馬達からたくさんの祝福のメッセージと沢山の花が降り注ぐ。同時に悲痛な悲鳴が聞こえてしまった。ただの茶番なのに金が


「耐えやがった!」


 そう、装備している盾こそはぶっ壊れてしまったけどなんとかこの一撃を耐え切ったのだ! いや厳密にいうと、よつばの一撃を地面に叩きつけて衝撃を軽減。それで耐え切っただけだけど。まあ勝ちは勝ちだろ!


「アッハハハ! 面白い余興を観させてもらった! やはり貴様は凡人じゃない。凡人に近い非凡の持ち主じゃ!」


「凡人に近い非凡?」


 代理王でありよつばの兄でもある男は玉座で高笑いをした後、ニヤリ顔でこう言った。


「貴様なら妹を任せても良さそうだ! そもそも貴様と妹は昔からの仲だし......いや何も言うまい。約束通り旅資金をくれてやる。それで必要になるであろう道具を買うがいい!」


「ありがたき幸せ!」


 拝啓 やったよ母ちゃん! 一時はどうなるかと思ったけど、旅資金次第では俺は多額の金を有する金持ちになります! 魔王討伐? 友人に会う立場が無い? スローライフ? そんなの知るか! もう俺は安全で豪邸な場所で優雅に暮らしてやるぜーー!


「さすがですわね。私の本気を受け止めるなんて。何で勇者ユウキは貴方を追放したのか分からなくなりましたわね! さあ行きますか!」


 あっ......王女よつばとの旅旅。当の本人は敗北したわりに上機嫌だし間違いない。そうだったね、この子本来の目的忘れてなかった。


「とことんブレないっすね」


 呆れ気味に言い放ちながら決闘場を後にしようとすると、どこからか待てと言われ王様に呼び止められた。どうやら忠告兼金を直々に渡してくれるようで......


 あれ? 俺って勇者様だっけ? 王族に面識があるだけのただの一般人のはずだけど。この時点で恵まれてると思う。


「我が妹よ、もう行くのか......寂しくなるな。お前があわよくば魔王討伐目指すなんて最初に聞いた時腰が抜けそうになったなぁ......辛かったらいつでも戻ってこいよ!」


 いやその、旅資金を渡してくれたのはいいんだけど、ちょっと旅したくなくなってきたっていうか......ていうか思ったより旅資金少ないな。5万アースって豪邸どころか贅沢もできない。ただ俺が図々しいだけだったのかな。


 そんなことをしているとよつばがまた暴走しかけていた。なんかどこから持ってきたのか俺の身長二倍くらいのリュックを取ってきている。どうやら大切なものやらいろいろ全部持っていこうとしていたのだ。俺はこんなの持って長い距離歩けるわけないだろと一蹴。なんとか明日までに準備することで話は収まった。


 先が思いやられる......やっぱり一人旅のスローライフか故郷に帰りたい。そんなことを思っていたら、代理王がまた何か話し始めていた。


「先に武器屋に向かうといい。お前たちの装備じゃ僕でも心配になる。あとついでに隣町の占い婆さんの所にも行っとけ。得意不得意がわかると有名だからな。行っといて損は無いばすだ」


 えっとやっぱり行かなきゃいけないんすね。まあ俺にも旅の目的はあるし、全然悲しくもなんともないし......グスン。


「兄様は昔からお節介さんですわね。大丈夫ですの!」


「まあ我が妹はなんだかんだ図太い性格してるし大丈夫だろうが、気がかりなのは父上のほうだ。帰ってきたらなんとか話を尽力する」


 お節介め......いやただの一般人にこれだけの厚い援助ありがとうございます! 正直俺はもうこれで充分なんだけども......


◇◇◇◇◇◇◇

次回に続く

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