第11話 Thank You For The Music

「陛下、せっかくですがその申し出はお受け出来ません」

陛下のご用命に即答で答えたから3人とも目を丸くしていた


「何故だ!?これ以上ない程の報酬だと思うが」


「そうよ!あなたなら適任だし楽団の為にも!」


「報酬はきっちり頂くつもりです、私の要求は交響楽団とは別の音楽団を設立させて頂きそこに在籍させていただくことです」

「またそこでの活動にあたり私以外に先日講堂での演奏をしたメンバーも正式に加えて頂きたいです、現在の楽団は楽団長がアンダンテ、副楽団長にプレスコを推薦します、彼女達は数少ない私の味方であり、また陛下と同じ様に変革を望んでおりました」


かなりの要求だろうがこのくらい報酬があっても

文句は言えないはずだ、俺がこの国に来なかったら

何も変わらないままだったかも知れないのだから


「ユヅル!ちょっと待って!私にはそんな大役、とても務まらないわ!」

「私もよ!あなたなら何か変えてくれそうってそんな他人任せの考えだけで...」


「確かに2人にも報酬を与えないと不公平だな、ただ今の楽団とは別となると、どう差別化する?確かにお前は功労者であるが他の者も養ってやるほど余裕はないぞ?どの様に成果を出す?」


ごもっともな意見だ、俺だけじゃなくて他の連中も養ってくれは流石に通らないよな、差別化か...


「はい、現在楽団で演奏される音楽は私の故郷ではオーケストラと呼ばれています、オーケストラは主に管弦楽曲を演奏します、一方私のやっているのはバンドと呼ばれるものでジャズやロックなどポピュラー音楽を指します」

「音楽の違いについて細かい定義はありませんが先日演奏したようなものが私の追求する音楽となります」

「よって、楽団と私の音楽とでは最初から目指す先が違うのです、とは言えお互いの良いところを踏襲する事は可能です」


この国にジャズやらロックやら具体的な定義はないから

高度な専門用語に聞こえるだろうな

まぁ、知らない人間にとって俺を凄いと思わせるには丁度いい


「何がどう違うのか、私には良く分からないが明確な違いがあると言うことは分かった、して、具体的にどの様に成果を上げていく?」


「格式のある式典には現在の楽団が相応しいと思います、我々が行うのはどちらかと言うとお祭りに近いものがあります、そういった明るい意味での盛り上げは適していると考えます、そこで」


「そこで?」


「音楽フェスを年1回、2回開催します」


「音楽フェスと言うのは何だ?」


「私の故郷にある音楽だけのお祭りです、講堂だけでなく屋外で演奏したりします、演奏するのは我々だけでなく、街の者から参加もあるとより盛り上がると思います」


「お前の故郷は音楽に関して随分と発展しているのだな、一度でも見て良く検討したい」


困ったな、異世界ですと言う訳にはいかないし

かと言ってこの世界にそこまでの国があるか分からないしな


「それが...故郷は滅びました...私は最後の生き残りなのです...」


涙ぐみながらさも本当の事のように話す

もちろん嘘だ


「それは...すまない事を聞いたな」


信じるんだ...


「ならばその意見を採用してみよう、バンドと言ったか、そちらの楽団に関しては成果が出ないと判断すれば廃止を検討する、心してかかれ」


「ありがとうございます」

「あともう1つ」


「図々しいな、何だ?この際だから聞いてやる」


「私達バンドが勤めておりますテヌートにかなり助けて頂きました、私達が居なくなった際の人員と今後の営業について何かご配慮頂ければと」


「ラルゴにはすまない事をしたと思っている、不足した人員の確保と店での演奏を王宮公認として許可しよう」


「ありがとうございます!!」


そうして、陛下から直々に楽団へ説明があった

レガートに不満を持っていた人間は多数居たようで

アンダンテの楽団長就任、プレスコの副楽団長就任は

滞りなく進められた


王宮の兵士が店に辞令を出した数日後

店に顔を出した


カランカラン


「みんなー!!元気にしてたーっ!?もうすぐまた一緒になれるね!!」


扉を開けた瞬間にバンドのみんなが抱きついてきた


「ユヅルさん!私達にここまでしてくれるなんて...本当に感謝しかないです!」

「あなたの期待は絶対裏切らないわ!」

「ユヅルが居ない間もちゃんと練習してたぞ!!」


「みんな...これからも宜しくね!」


側から見れば美少女4人がキャッキャウフフしてるんだ

目の保養になるだろう

1人は中身男なんだけどな


「お楽しみのところ悪いが...」


「ラルゴさん!こんな形で店を離れる事になってすみません...」


「いや、むしろ感謝してるくらいだ、陛下から店の人員も補填されたしこの国唯一の演奏が聴ける店になった、本当にありがとう」

「それから...」


「改まってどうしたんですか?」


「また楽器をやる事にしたんだ、10年くらいブランクがあるから中々取り戻せないが...お前達には負けない!」


そう言ったラルゴさんの目は好きなおもちゃを

貰った子供のようにキラキラしていた


「いつか対バンしましょう!!」


「対...何だって?」


「演奏しましょう!って事ですよ!」


心の底から出た笑顔でありがとうを言った

音楽が紡いでくれた、紡いでいる関係は

これから先も大きな財産になるに違いない


俺達4人は別枠となるが正式に楽団のメンバーとなった

元々在籍していた団員に不満を漏らす者も居たようだが

異なる楽団の為、それほど気にしないで良いと

アンダンテから話があった

また、4人部屋へ移動となり俺達は寝食ともに過ごすことになる


「じゃあ私はこれで、ユヅル、明日はスケジュールの提出をするのよ、練習場所だって優遇されたりしないのよ」


そう言って部屋から出ようとするアンダンテにドルチェが


「私達のユヅルがお世話になりました」


ちょっと怒っているのか?機嫌が悪いな...


「どういたしまして、一緒に寝られないのが寂しいわ」


ガチャンと部屋の扉が閉まった瞬間、


「ちょっと!どういう事なのよ!!大体誰よあの女!!」


「いや、不正を暴く為に協力してくれた人で、ちょっと!落ち着いて!」


こんなのが毎日続くのか...

異世界転生お決まりのやれやれだぜ


「えーっと改めてまた、今日から宜しくね!明日はみんな自主練をお願いね、私は陛下と楽団の今後の事を報告してくるね」

「またみんなと一緒になれたけど、私達はあくまで可能性を買われてここに居るだけで結果が出なかったらいつ無くなるか分からない存在だから」


このメンバーに慢心という言葉は無いと思っているが

仲の良さと真剣に取り組む部分はきっちり分けたい

なぁなぁで中途半端な事しか出来ずに

消えてったバンドを沢山見てきたからだ

それと何をもって成果をあげたとするか

式典のような公の場での演奏は不向きだしな


「ではどの様に展開するしていくか、聞かせてもらおうか」


「はい、先にも申しました通り音楽フェスを開催致します、と言ってもいきなりでは街の人達も何なのかわからないと思うため当面は収穫祭にて行いたいと考えます、広場に特設会場を設けそれぞれの楽団と街の有志で演奏します、音楽以外でも活用出来ますので表彰等のセレモニーなども盛り上がると思います」


「試みは面白そうだが収穫祭は終わったばかりだ、その間は何をする?」


「楽団と同じスケジュールで練習します、それと電気の研究に参加させてください」


「それも知っているのか、科学の知識もあるのか?そういえば不思議な楽器を使っていたな」


「楽器については私が製作に関与しておりませんので同じ物を作るにはかなりの年月がかかるでしょう、それに私は科学者ではありません。ですがこれは電気を使用しておりますので壊さない範囲で研究に役立てて頂きたいのです」


「それは良い提案だ、お前の持っている物はかなり科学が発達した国で作られたと思われる、いい研究対象だ」


転生する際に与えられた特殊ギターを引き換えに

ここに居る理由を先延ばし出来る

まぁ、正直楽器だけでもこの国の技術と比較すればかなりのテクノロジーが詰まってるんだ

4人を一生養ってもお釣りが来てもいいくらいだ


「それから陛下」


「まだあるのか?」


「いえ、個人的に考えている展望をお話しさせて頂きます」

「この国は貧しくありませんが裕福でもありません、特段突出した文化や産業もないためこれから大国に迫る発展は難しいでしょう、そこで」


こいつ次は何を言い出すんだ?そんな空気になった


「この国を、音楽の国にします!!」


目指すはオーストリア、ウィーンのような

音楽の国と聞いて真っ先に名前が上がる

伝統と革新を持ち合わせた

そんな国を俺は音楽の力で目指す



Thank You For The Music

Fin

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る