第10話 Bad 3

「貴様ぁぁぁ!!待たんかあああ!!」

二手に分かれた俺達は陛下を探す事になり、

俺が囮になった訳だがまずいな

男と女じゃ体力が違いすぎる、もう捕まる!


「追い詰めたぞ!」


まずい、せっかく手に入れたヒントなのに!


「事の重大さを理解しているのか!すぐにでもその首を刎ねてやる!」


持ち出した書類に手をかけたその時


「そこまでだ!」


レガートが後ろを振り返りどんどん顔が青ざめていく


「陛...下...!」


アンダンテとプレスコが間に合ってくれた

今回ばかりは心臓が握り潰される思いだった


「良かったぁ〜アンダンテ〜プレスコ〜!!」


涙ぐみながら2人に抱きついた

今は女だからこれで良いのだ、女の友情だ


「待たせてごめんなさい!」


「話は聞かせてもらった!マリシャスと共にすぐに聴取を始める!」


語気の強い陛下に観念したのか急に大人しくなった

シュンとしたまま兵士に捕まり連行された


「陛下、助かりました、ありがとうございます」


「当然の事だ、お前達も早くついて来い」


陛下の後ろに着いていき、謁見の間へと到着すると

すぐに側近のマリシャスも連れてこられた

マリシャスはあまり動揺していない

俺達が掴んだ証拠は証拠とは言えず逃げ切れる算段なのだろう

こいつはノートの存在に気づいているのか?


「マリシャス、レガート、貴公らには盗作の疑いがかけられた、これより聴取となる」

「虚偽の答弁は断じて認めない!発覚した場合の罪の重さを貴公らなら承知のはずだ、心して答弁する様に」


「はい」


2人は小さく返事をした


「まずは容疑についてだ、ユヅル、アンダンテ、プレスコより本国の楽曲が他国より盗作されていると指摘があった、これは本当か?」


2人は顔を合わせ、マリシャスが答弁を始めた


「陛下、何か誤解をされています、その様な盗作を行っておりませんし、何より確証があって疑いがかけられたのでしょうか?」


やはり否認か

ここからどう白状させていくか


「お前達3人、どうなんだ?」


アンダンテが初めに答弁をする


「陛下、先ずは部屋の鍵を壊してまで侵入した事、大変申し訳ございません、この件に関しては釈明の余地がありません、どんな罰でも受けます」


「うむ、本件が片付いた後、処罰を決めよう」


「はい、それでは本題に入ります」

「私達が楽団長から持ってきたのはこのメモと楽譜です、これには我々の国での曲のタイトルに他国の国名が記載されております、また楽譜には本来の曲名であろう箇所が黒く塗りつぶされております」

「確たる証拠ではありませんがこのメモにある国々で調べて頂ければ白黒ハッキリすると思います」

「また、楽団長は常に持ち歩いているノートがあります、もしかしたらこちらに何か重要な情報があるかも知れません」


「ふむ、この事についてどうなんだ?ノートとやらには何が書いてあるんだ?」


マリシャスはわざとらしく答えた


「その様なメモやノート?がある事は私は全く知りませんでした、全てはレガートが知る事です」


自分はシラを切るつもりか


「そんな!マリシャス殿!?私は...」


「全てはレガート!お前1人でやった事では無いのか!?陛下の質問に答えろ!」


「どうなんだ?レガート」


「いえ、その...私は...」


陛下が痺れを切らした


「レガートの所有しているノートとやらを押収しろ!」


「待って下さい!それには!ああっ!!」


兵士よりノートが取り上げられ陛下に渡る

パラパラと内容を確認する


「ムシク:エリナに捧ぐ 白金貨100枚、パルテナ:猛獣の集い 白金貨120枚、インストラ:地獄の権化 白金貨170枚、プルーハング:プテナラト版逆歌 白金貨200枚...何だ、これは?」


間違いない!

買い取った時の価格だ!証拠としては充分だろう!

レガートは逃れられないと降参したのか

魂が抜けた抜け殻のような表情だった


「私が周辺国の楽団のコネを使い...楽譜を買い取りました...」

「買い取った楽譜の曲名を変えて...そのまま本国の曲として使用しました...でも!これは私の一存ではありません!!マリシャス殿の!!」


「私は何も関与してないぞレガート!!これ以上の侮辱は許さん!!」


「2人とも黙れ!衛兵、2人を勾留しろ!」


「私は指示してません!!陛下!!どうか!!」


2人は兵士に連れて行かれた

陛下はため息をつきながら玉座の背もたれに寄りかかる


「ユヅル、アンダンテ、プレスコ、ご苦労だった」

「見苦しいところを見せてすまなかったな、今回の事は詳しく調査する、盗作の件はクロで間違いないだろう」

「今後については調査後、追って連絡をする、申し訳ないが父の三周忌での演奏は中止とする、楽団は当面の間、活動を休止する」

「不正を暴く良い機会となった、礼を言う」


3人で深々と頭を下げて部屋へ戻っていった

一旦俺の部屋に集まり今日の話をした


「いや〜捕まりそうになった時はどうなるかと思ったよ〜、2人とありがとうね、本当は味方してくれないんじゃないかって疑っちゃった、ごめんね」


「私達もあまり力になれなくてごめんなさい、本当はもっと色々出来たと思うのだけれど、あなたに甘えてしまった」

「この生活が無くなってしまう事と、不正を正す事を天秤にかけたらどうして良いか...」


それもそうか、楽団に入れば生活の保証はされるし

何より好きな事で生きていける

不正に目を瞑って現状に満足してしまう人も多く居るんだろう、2人は本当によく頑張ってくれた

緊張の糸が切れてしまい、3人でわんわん泣いてしまった


「良かったよ〜良かったね〜」


泣き疲れてしまい俺のベッドて3人で寝てしまった


翌朝


「おはよう、ユヅル」


アンダンテが起こしてくれた

メガネを外した彼女はどこか幼く見えた


「おはよう、アンダンテ、プレスコ」

「ってちょっと待って!!服!服!!」


肌があらわになっていた

俺は童貞じゃないがこんなハーレムみたいなのは

全然慣れていないぞ


「別に良いじゃない女同士なんだし?」


「あ、え?あ、そうだよね、ははは...」

童貞みたいなリアクションになってしまった...


「これから...どうなっちゃうんだろうね...」


俺は帰るところがあるけど2人はそうもいかないのだろう


「私も結論が出るまでは店に帰れないから...まだ暫くは一緒だね」


それから数十日、3人で自主練をする毎日を送っていたある日、陛下から3人の呼び出しがあった

結論が出たんだろう


謁見の間へ入ると陛下は穏やかな顔をしていた


「調査に時間がかかりすまなかった、結論から言おう、あの2人は背任の罪で国外追放とする」

「マリシャスも関与している事が判明した、2人で共謀して行っていたようだ、それだけじゃない、かなりの額の賄賂を受け取っていたりとやりたい放題だった」

「3人には本当に感謝する、長年の膿を少し取り除く事が出来た、鍵を壊して部屋に侵入した件については奉仕で免除とする」


「アンダンテ、プレスコ、奉仕って?」


「王宮や街の美化に努めたり、教会での仕事を手伝ったり、色々ね」


ああ、ボランティアの事か


「それからお前達が1番心配している楽団についてだが...」


3人ともごくりと息を呑む

流石に解散とはならないとは思うが...どうなる


「現在在籍している団員で続行する、学団長は再考とし少数派の意見も尊重する様、団員で構成する組合を結成して私と意見の折衝を行う」


3人でホッと胸を撫で下ろした

互いに顔を合わせて微笑んだ


「肝心な楽団長だが、ユヅル、お前はどうだ?適任と考えているがどうだろう?」


俺が国の楽団のリーダー?

考えられないくらいの大出世じゃないか!

民主主義になるとは言え、俺の意見だって通すことが出来る

俺にとって最高の申し出となった

が、答えは既に出ている


「陛下、せっかくですかその申し出はお受け出来ません」


Bad

Fin

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