第8話 Light my fire 1

ドンドンドン!タンタン!


ブンブンブンブン、ボーンボーン


ポロンポロン


ジャカジャカジャーン!




各々が音を出して最後の確認をする


それぞれと目を合わせてお互い頷く、準備は出来たようだ




ジャーン!とコード1回鳴らして


「皆さーん!おはようございます!収穫祭楽しんで行きましょう!私達はテヌートで結成しました音楽団...」




あれ、バンド名決めるの忘れてた!ヤバい!


曲作りと練習ですっかり頭から抜けてしまってた...


えーっと、えーっと、えーっと


何かないかと咄嗟に考える、ステージからも使えそう名前がないかキョロキョロして見ていた




ああ、もう時間もないしこれでいいや!




「私達は窓際ウェイトレスです!」




シーン...


やってしまった、思いっきり滑っちまった...


陰で見ているルーシーだけが手で口を覆い笑っている


笑っているのはバンド名が面白いんじゃない


滑ってるのが面白いだけだ


あいつ、案内人って割には絶対性格悪いだろ




いや、こうなれば演奏でこれ以上滑る事は絶対ない


演奏を始めるか




最初はこの国で誰もが知ってる曲、王謡をチョイスした


中でもドルチェが得意とするタナトスだ


ただ、単純に原曲をそのままに演奏はしない


ドルチェにしか出来ない表現で、最大限崩してもらう




「こんなアレンジ冒涜なんじゃ...」




「もっとやっても良いくらいだよ」


「楽譜の再現を突き詰める音楽もあるけど、その反対の元の曲を可能な限り崩す音楽があるよ、私の故郷ではそれをジャズって言うの」


「アレンジは原曲を知らないと上手く出来ないでしょ?だから原曲をしっかり理解した上でやるから冒涜にはならないよ、寧ろ尊敬から生まれたんだよ」




そんなやりとりをした


正直言って反対されると思っていたが


加入の時点で吹っ切れていたようだ


ただジャズの崩し方に驚いていたようだ


そりゃそうだよな、全く知らない人間が


曲をどこまで崩せるか突き詰める音楽のジャンルがあるなんて信じられないよな




ポロン、ポロロン


ジャンジャーンジャーン




冒頭は原曲通りB♭mから始める


最初が分からないと崩した時に驚きが少ないからな




段々と崩し始める


ここから観客の違和感を感じてるのが露骨に見える


一気に崩すやり方もあったが曲が変わったと思われるのは


嫌だったからゆっくりやる事に決めた


その方がアレンジしてると分かりやすいからだ


もっとも、シンプルなカデンツ第1型


トニック(始まりや終止の和音、言葉で言うと主語だ)


ドミナント(最も緊張感のある和音、言葉で言うと述語だ)


トニックのシンプルな構成




さぁここから更にアレンジを加えていく


王立交響楽団の奴ら見てろよ!


これがドルチェの才能だ!




ジャッ!ジャッジャッジャッ!


ジャッ!ジャッジャッジャッ!




休符を入れながら緩急をつけていき


ドルチェの好きなオーギュメントで構成していく


暗さではマイナーコードにも劣らない




メインの所まで演奏が進み元に戻す


と同時に観客の驚きを隠せない


どうだ、今までいかに退屈な音楽を聴いてるか分かったか


ドルチェの演奏はここまでのものなんだ!




終始驚いている人、ワクワクしている人、


訳が分からず笑ってしまう人、リアクションが様々だ


でも、観客は徐々に集まり出してきて掴みとしては


最高の曲だろう、何せジャズを初めて聴くのだから




B♭m


おお、我が主人を讃えよ


E♭m


我々を慈しみ、愛を与える御心


A♭m


我が国に生まれてなんと喜ばしい


D♭m


宝石の様に瑞々しく美しく澄んで輝く




B♭aug


おお、我が主人を讃えよ


E♭aug


我々を慈しみ、愛を与える御心


A♭aug


我が国に生まれてなんと喜ばしい


D♭aug


宝石の様に瑞々しく美しく澄んで輝く




B♭m


おお、我が主人を讃えよ


E♭m


我々を慈しみ、愛を与える御心


A♭m


我が国に生まれてなんと喜ばしい


D♭m


宝石の様に瑞々しく美しく澄んで輝く




ポロロポロロロポロロロン、ジャーン




最後の音を鳴らす前から拍手喝采だった


拍手が鳴っている間に俺は後ろに居るドルチェを見て


小さい声で




「流石だね」




と声をかけた




「当たり前でしょ」


と応えたドルチェは顔が赤くなっていた


照れてる照れてる




人が人を呼び段々と集まってきた


全体のキャパ半分は埋まってきただろうか


出だしでこれはありがたい




「みなさーん!いかがでしたでしょうか?これは王謡タナトスをアレンジしました!」


「私の故郷に出来るだけ元の曲を分からなくする音楽、ジャズというものがあります!」


「知ってる曲でも新しい曲に聴こえたのではないでしょうか!?」




パチパチパチパチと拍手が鳴った




「続きましてはロックというものをやります!」


「これは特に定義はありませんが自分の中にあるコンプレックスや闇、それらを曲に昇華し、さらけ出すのがロックと言われています」


「楽しみ方は人それぞれでいいんです!」


「踊るも良し!、歌うも良し!、ただ突っ立ってるだけでも良し!、悪口言っても良し!自由に楽しみましょう!」




いいぞー!!っと野太い声で歓声が上がる


居酒屋だから男の客が多い、しかし野郎とロックの相性は良い


これを使わせてもらう






ロックフェスの再現、とはいかないが


俺達なりのフェスの幕開けだ






Light my fire


To be continued


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