第8話 Light my fire 2

「それじゃ〜次の曲の前に!皆さん私の真似をして下さい!」

同時にドラム2ビートを叩き始める!


ツッタン!ツッタン!

まずはリズムに慣れさせる、次にノリ方だ


「それじゃあいきますよ!」

「ッハイッ!ッハイッ!ッハイッ!ッハイッ!」


スネアに合わせて簡単な合いの手を入れてもらう


「皆さん恥ずかしがらずにっ!呑んで時の方が声が大きいですよ!こんなものですか!?」


客を煽り始める

コールアンドレスポンスは演者側は良いが客側は結構恥ずかしいものだ

煽るだけ煽ってこっちの世界に引きずり込まないと

盛り上がるものも盛り上がらない


野太い声が段々と大きくなってきた

長くやるとどちらも疲れてしまうから

この辺りが頃合いだろう


振り返りフォルテをチラッとみる

フォルテは俺の顔を確認して少し頷いた


ここから一気にギアを上げる!

シャンシャンシャンシャンとハイハット4回叩いて

イントロに入る!

前回店でやった曲だが今回が完成系だ!

ピアノがあるから俺はコードに専念出来る


コードを激しく弾く俺とは対照的に

イントロのメロディとなるピアノはとても繊細だ

このギャップこそが壮大な臨場感を生み出すのだ


C5 D5 A5 G5

C5 D5 A5 G5

C5 D5 A5 G5

C5 D5 A5 G5


Dm

なぁ聞いてくれよ

Cm

おかしな話だろ?

B♭m

明日には死ぬだなんてさ

Cm

何で分かるんだ?


Dm

ねぇ聞いてくれよ

Cm

明日なんてさ

B♭m

当たり前のように

Cm

来るはずだったんだ


G5 A5 F5 G5

居るはずない神様は

G5 A5 F5 C5

暇つぶしに飢えていた

G5 A5 F5 G5

居るはずない神様は

C5 F5 E5

彼女を奪っていった


D5

もしも、もしも、もしも、願い

F5 C5

ひとつだけ叶うなら

D5

君は、君は、君は、君は

F5 G5

僕が攫うから


D5

だから、だから、だから、だから

F5 C5

その日まで待っていてよ

D5

君は、君は、君は、君は、

F5 G5

僕が攫うから

Dm

時間を止めてよ


ジャーン!!ダカダン!!


街中に轟くような大歓声

盛り上がりは一気に最高潮になった


「あ〜気持ち良い」


喝采を浴びる事がこれほど気持ちいいとは

知らなかった、最高の気分だ

この気持ちが冷めない内に、次の曲だ!

と意気込んだのも束の間、予想してた事が起きてしまった


「貴様ら!何をやってるか!さっさと辞めろ!お前たちも!散れ!散れ!」


王宮の兵士がやってきて演奏を止められ

観客もその場を解散させられた

流石に捕まる訳にはいかなかったので

片付けを行い店に戻ることにした


「はぁ〜予想はしてたけど止められるの早かったねぇ〜」

ため息を混ぜながら愚痴った


「まだまだここからって時に!何なのよ!もう!」

ドルチェはお怒りモードだ


「ちゃんと許可を取らない限りは...仕方のない事ですよね...」

ヴィヴァーチェはいつも正論だ


「もっとやりたかったなぁ、ユヅル次はいつ?」

フォルテは楽観的でこういう時に卑屈にならなくて助かる


結局収穫祭は通常通りの参加となってしまい

これ以上演奏する事は無かった、そして

祭りの最終日、兵士が店までやってきた


「この店の責任者はいるか!令状が出たぞ!!」

「呼び出しの理由は分かっているな!?」


「分かりました」

ラルゴさんは何も口答えせず兵士に従った

これは許可をもらう検討をしてもらうチャンスか?


「私も行きます!今回の首謀者は私です!」


「お前は来なくていい!」

そう言いかける前に兵士が応える


「そうか!お前も来い!こんな事しでかして穏便に済むと思うなよ!!」


ラルゴさんに迷惑はかけられないが俺の主張は

通させてもらうぞ

音楽が不自由であってたまるか


「ユヅルさん....」


「心配しないでヴィヴァーチェ、みんなに迷惑はかけないようにするね」


そう言い残して兵士について行く


店から王宮までの道のりは15分程度だろうか

その間に兵士は俺達に対する文句ばっかりだった


「俺はな!そもそもお前らの店が気に入らない、そうやって客を洗脳して反体制を強化するつもりだろう!」

「音楽はな!国王様が認めた王立交響楽団さえあれば充分なんだ!!余計な事はするな!!」


2人ともダンマリだった、俺は国王とやらにボロクソ言ってやろうと目論んでたがラルゴさんはどう思っているのだろう?

好き勝手やれとは言ってくれたがこうなる事を予想出来ていたのか?


王宮に着き謁見の間とやらに案内される

国王と言うからにはもっと年寄りだと思っていた

ラルゴさんよりちょっと上の世代か?

40代であろう若い国王だ


「ご苦労だった、下がって良いぞ」


俺達を連れてきた兵士はそう言われて部屋を出て行った



「開店前にすまないな、ラルゴ久しぶりだな」


楽団に居たのは知っていたが...昔の楽団員も覚えているのか


「陛下、ご無沙汰しております。この様な形での再会となり申し訳ございません、今回の事は私の教育不足です、彼女達に悪意と責任はありません」


「正直今回の事は兵士からの又聞きでな、いまいち良く分かっていない、確かに公での演奏は楽団以外の許可をしていないが街の活気が出るなら考えなくもない」

「何故申請しなかったか言ってみろ」


すかさず俺が答える


「初めまして、ユヅルと申します、今回の事は私が企画し、実行しました、責任は私だけにあります」

「10年ほど前...でしょうか...才能ある若者がつまらない自己防衛の為に潰されました、直接陛下へお願いを出来れば問題ありませんが、揉み消されると思い申請しませんでした」


「お前!」

ラルゴさんが俺を制止しようとする


「ユヅル...と言ったか、お前が首謀者で間違いないようだな...」

「つまらない自己防衛か...確かに彼等のやり方は多少強引な所があるかも知れない、だがそれは伝統を守る為にやっている事でもあるだろう?それをつまらないとは聞き捨てならないな」


「確かに伝統を守り継承していく事はとても大事な事です、ですがつまらないのはそれだけではありません」


少し間を置いた


「彼等の演奏も私にはつまらないものでした」


「!?!?」

「!?!?」


2人ともコイツは何を言っているんだと言わんばかりの顔だ


「ほう、どういう意味だ」

低い声で迫力が増してきた、ちょっと怒っているが、

悪いな、もっと怒らせるぞ


「楽譜の再現を突き詰める、これは素晴らしい事ですが同時に新しい解釈も必要です、この国の楽譜には表現の方法が書いてない、だから淡々と譜面をなぞる事しか出来ない、私の故郷でそんな事はあり得ません」

「継承されてきた音楽を守る事、と同時に新しい音楽の追求もやっていました」

「この国の音楽は閉鎖的で、楽団の演奏は魂が無いからつまらない、そう感じています」


ここまで侮辱されて黙って居られない様だ


「貴様!!黙って聞いていれば好き勝手言ってくれるな!!ならばお前の故郷の音楽とやらを聞かせてみろ!!」


「分かりました、講堂をお借りさせて頂けますか?」


「良いだろう、5分だけ時間をやろう!私を満足させられない様ならお前達はこの国から出て行け!!」


帰り道、沈黙が続いたが俺から先に話しかけた


「ラルゴさんすみません、感傷的になってしまいあんな約束を...」


「気にするな、何かしらの罰は受けるつもりだった、この国に居られなくなったら別の国に行けばいい、お前の故郷とやらも楽しそうだからそれも良いな...」


「それは...困りましたね...」

苦笑いするしか出来なかった


店に戻りみんなに事情を説明する


「もっと穏便に済ませられなかったの...!?でも...ハッキリ言ってくれたのはスカッとするし感謝するわ」


「ごめんねドルチェ、ついカッとなって...」

「この国を出て行くことになっても私だけになる様にお願いするよ、でもその前に」


「やれる事をする、ですよね?」

ヴィヴァーチェ、頼もしくなったじゃないか


「陛下の前で演奏する曲はどんな曲が多い?」

「後は5分という制約をどうするか...」


「組曲5番が多いですよ、楽譜もあります、5分だと...1曲で終わっちゃいますね...」


アレンジをした曲の系統か...

本来なら自分のアイディアで勝負するべきだが

存続がかかってるんだ、悠長な事は言ってられない

「あの手法」を使わせてもらおうか

コールアンドレスポンスよりも一瞬で観客をこっち側に

惹きつける方法がある


「みんな、私に考えがある、すぐに楽譜を書くから覚えて欲しい、また元の曲のアレンジになるけど」


「やるしかないんだから構わないわ」


「ががが頑張ります!」


「早く練習させろー!!」



講堂に来た連中全員いまに見てろよ

お前ら全員、嫌でも俺達の音楽にノらせてやるからな



Light my fire

Fin

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