第7話 Blowin' in the Wind

「だから何でこんなコード進行なの!」




「ここはこれで良いよ、その方が後が壮大になるよ!」




「だいたいこんなに急いで何曲作るつもり!」


「予定も無いんだからゆっくりでも良いじゃない!」




「そんな悠長なこと言ってるとチャンスが来ても何も出来ないよ!」




晴れてメンバーが揃いこうして曲を作っている訳だが


どうもドルチェとは音楽的な好みと性格が違うため


曲作りがまとまらない、というか全く進まない


フォルテはひたすら練習に励んでおり


あまり関心がないようだ


ヴィヴァーチェはというと俺達のやりとりに圧倒されてしまいおろおろとしてしまった




「お姉ちゃん、ユヅルさん、そんなに喧嘩しないで...」




「ヴィヴァーチェ、これは喧嘩じゃないよ...」




まとまらない俺たちをみかねてなのか良いタイミングで


ラルゴさんが話に入ってきた




「お前ら朗報だぞ、今年も収穫祭の開催が決まったそうだ」


「飲食街の俺たちは広場を当てたぞ」


「何が言いたいか、後は分かるな?ユヅル」




ほとんど答え言ってるじゃないか


なんかのお祭りがあって広場で「何か」やって良いんだろ?




「好きにやらせてもらえるんですか?」




「俺は止めないが...王宮の連中が止めにきたら終了だ」




許可とか取れないだろうからゲリラ的にやるんだよな


早めに盛り上げないと即中止になったらシャレにならん




「分かりました、ありがとうございます」


「みんな聞いたよね?やるよ!!」




仕事中にも見たことのない真剣な顔つきになった


仲間になればこれほど頼もしい事は無い




「その収穫祭っていつですか?」




「3か月後だ、それまで目立つ事はするなよ、収穫祭の前にお前らの活動が無くなるぞ」




「分かりました」




曲作りに時間を取られても話にならないな


ここまでまとまらないと期間まで間に合うか際どいな


出来るだけ練習時間の確保が必要だ




「みんなはどんな曲を演奏したい?私は音は派手でテンポは早め、だけど暗めの歌詞の歌、この店で最初にやったようなやつね」




ドルチェが真っ先に言う


「私はテンポの遅いバラードね、歌詞はそうね、特に希望はないわ」




ヴィヴァーチェは欲がない


「私は今まで聴いた事ないような曲ばっかり演奏出来ると思うので特に希望とかは...お任せします」




フォルテは...


「すごいやつ!すごいやつ!すごいやつ!」




時間が無いのに...どうすんだこれ


ヴィヴァーチェとフォルテはまぁいいだろう、問題はじゃじゃ馬娘のドルチェだ




「ドルチェ、しばらく私と曲作りね、バラードはあなたの意見を最優先でいいよ、口出しはするけど」




「分かったわ、ユヅル優先の曲でも私は妥協しないわよ」




俺より空気読めないな...




「ドルチェの理想とする曲はどんな曲?」




「好きな曲はたくさんあるけれど...王謡の5番組曲タナトスかしら?一回弾いて見る?」




タナトス...死の神か...




演奏を聴かせてくれたその曲はB♭mか...?


マイナー調が好きなんだな


すすり泣くような旋律、中間部終わりの激しく突き上げる慟哭のようなクライマックス


劇場型だな、こういうのは俺もかなり好みだ


なんとなくではあるが、音楽の思想が分かってきた




音楽的な部分は1900年以降のクラシックに似てる


音楽が庶民に根付いていない割には音楽としてはかなり発達してるな、進化が早いのか?




「ありがとう、ドルチェがどんな人か少し分かったきがする」


「こんな感じのコード進行はどう?」




ドルチェの横に座りコードを弾く


マイナーコードをメインに構成してみた




B♭ E♭M7 Dm7 Gm7


E♭M7 Dm7 Cm7 F7sus4 F7




「うん、かなりいいと思うわ、この辺りのコードを使って作りましょう」




初めて否定されなかった


ほとんど7thなんだけどな




その後はすぐに曲が出来上がり練習に入る事が出来た




それからあっという間に月日が経った


収穫祭の1週間前から準備に入る、国を上げてのお祭りなので開催期間も2週間と長い




収穫祭前の営業が終わり、片付けが終わった


「いよいよ本番なんですね...なんだか緊張します...」




そういうとすかさずドルチェが言う


「ヴィヴァーチェ、やる事はやったからそれで良いのよ、それに誰も聞いてないわ、誰かさんが路上でやってた時みたいにね」




見てたのかよ


皆がクスッと笑い空気が和んだ




「ドルチェの言う通り、ゲリラ開催だからその場に居た人達が見ない限り誰も見ないよ、だから足を止めてもらうためにも練習通り、いやそれ以上の情熱をぶつけよう」


「みんなよろしくね」




一応言い出しっぺなんだ、ちょっとカッコつけておいた




その日はちょっと寝付けなくて夜中に散歩した


こういう時は決まってあそこに行く




夜風が気持ちいい、星空も綺麗で吸い込まれそうという表現がよく分かる


この世界に来てから音楽ばかりで景色なんて楽しんでいなかった


風が気持ちよくて、星が綺麗で、人が優しくて、


良い世界に来れたなとしみじみ思う




「誰か...居るんですか?」




聞き覚えのある声、こんな夜中だからちょっとびっくりした




「こんばんわ、ヴィヴァーチェ」


「私もお気に入りの場所になっちゃった」




「いよいよ...ですね」




「うん」




「初めてユヅルさんにお願いした時、こんな事になるなんて想像出来ませんでした」




少し笑いながら言う




「私も想像出来なかったなぁ、まぁバンドはやるつもりでこの街に来たんだけどね」




「そういえばどうしてこの街に来たんですか?」




「え、うーんと見識を広めるというか、新しい世界でやり直すというか...故郷には戻れなくて」


「この街に来たのは本当に偶然なんだ」




嘘は言ってない




「ユヅルさんにも...色んな事情があるんですよね」


「それなのに私達の事ばかり気にしてて...」




「私の願いを叶えるためには、まずみんなの問題を解決してないとね」


「ここまで来れて嬉しいなぁ、でも当日は兵隊さんに止められるかも知らないけどね」




冗談混じりに言ったけど本当になったらどうするか


次の方法を考えなきゃいけなくなるな




「私は正直、どうなっても良いんです」




「えっ、それはどういう...」




「私は世界が変わりました、閉じた夢の続きも目標も」


「それだけで本当に良かったです」


「ここでダメになったとしても終わる私達じゃないですよね?」




俺が励まされる側になるなんてな


でも本当に頼もしい、それは初めて会った時から変わらない




「そうだね、ダメなら違う方法を考える、それもダメならまた違う方法、それの繰り返し」


「諦めたりはしない」




その後は2人とも何も言わず星を眺めていた


ただ、ただ星が流れている




「そろそろ帰ろっか、明日からお祭りの準備だしね」




翌日から街をあげて収穫祭の準備に入った


普段とは違う賑わい方の街


学生時代の文化祭を思い出す


もっとも当時はこんなに熱心に準備はしなかったけど




準備中、後ろから肩をちょんちょんとされた


振り返ると懐かしさすら感じる奴がいた




「ご無沙汰です♪中々いい感じに転生ライフを送ってますね」




こいつに言いたい事はひとつだけ


「お前俺を女にしやがっ#$#^*€£€%^*£*^$」




「声が大きいですよ!転生した事がバレたら即人生終了なんです!」




聞いてない!




「お前、ちょっと来い!!」




人目のつかない場所に連れて行く


常にニコニコしやがって...こっちは大変なのに...




「えーっと、どこから突っ込めばいい?まず何でこの世界に来れてんだ?」




「それは勿論、弓弦さんの状況を見に来ました、あ、わざわざこの世界に来なくても確認出来るんですけど、演奏、楽しみだったので♫」




屈託のない笑顔で返されると怒る気にもなれなくなっていく




「それで、何で女の子の姿にしたんだ?」




「良いじゃないですか美少女、何かとお得だと思いますよ♬」




この野郎...




「まぁおかげさまでバンドはやれそうだし感謝してるよ、い!ち!お!う!な!」




「当日まで居ますので、頑張ってくださいね〜♪」




絶対俺で遊んでるだろ...あいつ...


視線が外れた瞬間には居なくなっていた


さすがと言うべきなのか




1週間の準備期間もあっという間だった


祭りの準備、練習、常連客へ宣伝、


本当に学生に戻った気分だった




いよいよ迎えた当日


簡易ステージ、といっても木材で作ったちょっとした足場に


楽器を配置する


各々が準備を始める


不思議と誰も緊張していなかった


勿論俺も


店で最初に演奏した時と同様に誰も聞いてない


失敗しても問題ない、という考えが緊張を和らげた


チューンニングOK


アンプの設定OK




さぁ、いよいよだ、楽しもう


この退屈な音楽の世界に革命を起こしてやる






Blowin' in the Wind


Fin

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