3.金髪美少女の妹ができた (円)


 マドカ:信じてもらえないかもしれないが、今日、金髪美少女の妹ができた。

 

 深夜。

 ニコと母親は隣の部屋で寝ている。さっきまで楽しそうな話し声が聞こえたが、さすがにもう寝入っている。

 狭いアパートで部屋が2つしかないので、俺の寝床は必然的にさっきまで飯を食っていたリビングになる。


 暇だったので同じく停学中の友人に今日のことを報告すると、すぐに返信がきた。


 タケミツ:夢でもみたのか。哀れだなあ。


 シアン:停学食らって頭がおかしくなったんだねぇ。かわいそうに。

 

 まるで信じてもらえない。

 と言うかこんな時間に返信が来るとは、こいつらもなかなか暇だ。


 マドカ:本当だってば。て言うか何で、このトークに色杏しあん先輩がいるんですか。


 シアン:竹満たけみつくんに誘ってもらったの。金髪美少女の妹とか、さすがに話し盛りすぎでは。

 

 タケミツ:でもあり得ない話じゃないですよ。マドの家に、鬼の形相の女が殴り込みに行くところ見たことあるし。


 シアン:へえ。そうなんだ。


 タケミツ:だからこいつ女が苦手なんです。そして、その金髪美少女の写真がみたい。


 シアン:そうだ写真、見せてよ。


 さっき会ったばかりなのにそんな物持っているはずがない。


 マドカ:持ってない。


 シアン:今撮ってくれば。


 マドカ:もう寝てます。


 シアン:妹なんでしょ。別に良いじゃん。こっそり。


 タケミツ:金髪美少女の寝顔期待。


 マドカ:それは流石に無理だわ。


 シアン:はあ。やっぱり嘘か。


 マドカ:嘘じゃないって。


 シアン:はいはい。寝ます寝ます。

 

 タケミツ:金髪美少女はこの世に存在しなかったのか。

 

 どうも信じる気はないようだ。


 まあ良い。明日にでもニコの写真を送れば、認めざるを得ない。


「寝顔か」


 今の竹満の言葉を思い出す。

 きっと綺麗なんだろうな。地図を見ていた時のニコの横顔は、見惚みとれてしまうくらい可愛かった。スッと通った鼻と、透きとるような白い肌。


 後ろのふすまが開いたのは、ちょうどそんな妄想をしていた時だった。前触れもなくソロソロと開き始めて、変な声が出た。


「うひ」


「あ、ごめんなさい。起きちゃった?」


 振り返るとパジャマ姿のニコがいた。こっちの部屋に入ってきた彼女は、お風呂上がりの石けんの匂いがした。


 今更だけど。


 俺の家に女の子がいる。


「ごめんね、起こしちゃって」


「いや、普通に起きてた。どうかした?」


「あの、水飲もうと思って」


「あ。コップ。棚にあるやつ使って良いよ。ミネラルウォーターとかないから。水道水だけど」


「うん。ありがとう」


 静かな足取りで、彼女はキッチンに歩いて行った。


 その後ろ姿を目で追う。


 写真。

 写真か。


「こんな時間まで何してたの」


 グラスに水を注いで、ニコは俺に言った。


「もう2時だよ」


「学校の奴らとラインしてた」


「仲良いんだね」


「そいつらしか友達いないから」


 そうなんだと言って彼女はうなずいた。

 彼女が着ていたパジャマは、白のショートパンツだった。脚は細くてすらりと伸びている。


「あのさ」


 手に持ったスマホに力を込めて、ニコに呼びかける。


「なあに?」


 彼女がこっちを振り向く。

 長い金髪がふわりと風をまとって、静かに揺れている。彼女を照らしているのは、小さな蛍光灯の光だけだった。


「どうかした」


「いや。やっぱ何でもない」


 やめよう。

 こんな時間に写真撮らせてくれなんて、流石におかしい。変なやつだと思われる。


「どうしたの、何か変だよ」


 ニコはクスクスと笑って、再びふすまに手をかけた。


「おやすみ。夜更かし、身体に良くないよ」


 彼女はまた静かに寝室に戻って行った。


「おやすみ」


 うーん。


 心臓が破裂しそうだ。全然寝れない。

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