第2話

彼泣いてたわ。

大声で泣いてた。

まるで、幼子がお気に入りのおもちゃを取られたみたいに。

なんで泣いてたのか、それも知らせてくれなかった。


家に帰ってくるや否や、床にバッタリ倒れ込み

顔をあげた頃には顔がぐしゃぐしゃだった。


大の大人があんなみっともない泣き方するかしら?

顔は真っ赤、涙と鼻水が大量に流れてどれが涙で、どれが鼻水か判別がつけれない。

あまつさえ、体から怨霊が出てくるのかと心配になるほどの嗚咽。


そこまで、悲しむことってなにかしら。

家族が亡くなった?

いや、その前に彼に家族はいたのかしら。

記憶をさぐると姉らしき人はいたかも。

でも、ホントかどうかは分からなかった

私が、

「あれはお姉さん?」

と聞いても、黙ったまま首をかしげていただけだった。

「はて?自分に姉だろいただろうか?」

彼はそんな表情

いや、彼そんな表情してなかったかも。

私が、勝手に彼の心を推測しただけだったか?

兎も角、その人と彼、ホントに姉弟かとおもうほどそっくりだったんですもの。

しかし、全くの他人かもしれなかったら、と考えるととんだ無礼をしている事に気づく。

これ以上、この話題はするべきではないと思い違う話をふった。


彼の背中をさすりながら、私はその姉らしき人を思い出していた。

どこで、いつ、見たのか忘れてしまっていたが顔だけは鮮明に記憶にハッキリと残ってる。

なんせ、隣にいる彼の顔を毎日見ているんですもの。


しかし、どうも気がかりでならない。

その事ばかり考えていら、いつの間にか隣が静かになっていた。

見ると泣き疲れてしまったのか、ぐっすりと眠ってしまっている彼の姿がある。

ホントに子供だ、ピーターパンでもココロの中に飼っているのかしら。


彼に毛布を掛けたあと、涼しく凜とする空気を煙で汚すためベランダへと出た。

火を灯す。

一息するたびに短くなっていくそれを見るとこの短くなる分だけ彼と一緒にいる時間も短くなるとおもうと歯痒く思う。

だが、どうも辞めるとこはできないでいた。


目一杯肺に煙を流し込む。

ココロの中のモヤモヤが晴れていく。

煙はモヤモヤしているのに、その煙でココロのモヤモヤを消すなんておもしろい皮肉だ。なんて考えていた。

ふと、ベランダの下に目をやった時思わぬものを目にした。

あの女がいた。

まさかだと思った。

いつ、どこで会ったかもわからない、あのお姉さんらしき女が、丁度そいつについて考えている時に出会えるなんて。


神頼みしていたら、ホントに神のお陰だと言ってしまうほどに偶然だった。


そして、その女はあろうことか、私たちの家のドアの前に立っているではないか。

ワクワクと共に、心臓が強く脈打つ。

チャイムが鳴る。


下に降りドアをあける。

いやはや、久しぶりに見るとやはりにている。

これは、勘違いしても仕方がない。


「御用件は?」


私が尋ねると、その女はとんでもないことを口にした。


「阿婆擦さんこんばんわ

さぁ、 家族を返してくださる?」


私は口にしていた煙を思いっきり吐き出して彼のように嗚咽した。


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彼のことば @nunhan

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