第15話 やった意味のあること

 数日後、告知アカウントの反応を見ると次々と通販告知がリツイートで拡散され、『プラネットノース』ファンの多くの目に届き次々と通販申し込みが来た。

「通販申し込みすっげ!」とパソコンの画面を見て声を上げた。

 通販の申し込みはあっという間に二十件を超えていたのである。まさかこんなにも二十周年アンソロジーを欲しがってた人がいたとは。

 僕は順々に通販の申し込みの対応をした。 

 一人一人の通販希望メッセージに返信して住所と名前を聞き、口座番号を教えて数日後に入金を確認したら通販用封筒にアンソロジーを入れ、住所入力ののちコンビニから発送する。

 発送する度にコンビニに行くのは大変だったがこうして一冊一冊を遠方のファンの手元へ届けられるという嬉しさからそれほど苦難ではなかった。

 そして光さんとの約束で僕は通販分とは別に光さんが教えてくれた住所、つまり光さんの実家にアンソロジーを送った。その時に送り主の名前として光さんの本名を知った。

「『津田光子』だから名前からとって『光』ってハンドルネームだったんだな……」

 今までハンドルネームで呼び合っていた人の本名を知った時はちょっと不思議な気分だった。


 その数日後光さんからメールが届いた

「アンソロジーの出来栄えに感動しました!私のデータ原稿がちゃんと本になってて。もう二度と同人とか書けないと思ってたので……。みなさんの作品も素晴らしくてまさに私が読みたかった理想のプラネットノースの本です!」という激励の言葉だった。

 そのメールを読み終わった時、読んで欲しかった人の元へとアンソロジーが無事にお届けできてよかったと心から思った

「よかった……。光さんのやりたかったことをちゃんと叶えられたんだな……」

僕は改めて自分のやったことに達成感を味わっていた


 三月はとっくに卒業式も終わり、学年末試験も過ぎ、あとは終業式を待つだけという残り少ない高校一年生の時間。

 イベントから数週間後のそんな時期にアンソロジーの申し込み数が瞬く間に増え、最後の在庫数に届いた。その画面を見て僕は一人飛び跳ねるほどの感動に包まれていた。

「完売……だな!」

 パソコン画面で僕はつぶやいた。その事実に僕は心からガッツポーズをした。

ついに在庫がすべてさばけたのだ。

 いろんな苦労を乗り越えた末に発行された二十周年アンソロジーはついに完売を迎えた。

 心から今までの「売れなかったらどうしよう」という不安感から解放された気がして今までずっと引き締めていた心が途端に達成感で満たされる。

 一生懸命作った本が全て売れた。イベントで売れただけでも嬉しかったのに在庫を抱えていたらその在庫までもが通販にてついに完売となった

 僕が発行した本はすべて発行した数だけの人の手に渡るのだ。

「このこと、光さんに伝えないと!」

 僕はさっそく光さんにメッセージを送り、二十周年アンソロジーの通販は次に送れば在庫が全て完売になったことを報告した。

「報告ありがとうございます。元主催として企画を思いついた身としてすごく嬉しいです」と始まり、そこにはびっしりと激励の言葉が書かれていた。光さんの喜びも伝わってくる

「イベント参加だってお金とかの面大変でしただろうし、イベント参加も通販設備まで整えてくれて。感謝しきれないほどです」と書いてあり僕は嬉しくなる。

「本が完売したのはソウジロウさんのおかげだよ。二十周年本が無事に発行できたのも、イベントも通販もソウジロウさんがしてくれたから。イベント、通販も本当にお疲れ様でした」と書かれていた

そのメールを読み終わった時、僕は再びやり遂げたという気分になった


 なぜイベント参加も印刷代も通販等主催を引き継ぐ負担は大きいのにそれでもやったか、理由は「光さんの「プラネットノース」本を初めて読んだ時の感動を他の人にも味わってほしかったから」だ。

 僕は夏のイベントで光さんの同人誌を読んだ時の感動はえもしれないものだった。昔から大好きなゲームの同人誌がこんなに今になってから手に入るだけでもすごいことだが何よりもその本の完成度に感動して、僕はこの「大好きなゲームの同人誌」を読んだ時の感動をもっと多くの人に届けたかった。だからどうしても「プラネットノース」の二十周年本を出したかった。

「プラネットノース二十周年記念アンソロジー」の告知アカウントで今回の注文で在庫がなくなり完売になったことを報告するツイートを流した

そのツイートに「買いたかった!」と残念がるリプもついたが「完売おめでとうございます!」というお祝いメッセージもついた。


 その翌日の放課後の部室で加奈と僕は部室で雑談をしていた。

「すごいじゃん完売するなんて! 二十年前のゲームでまさかこんなに売れるって思わなくてびっくりだったよ」

 恍惚の表情で加奈はさっそく激励していた。

「うん、意外とこのゲームのファンがこんなにいるんだな、って直接数で見れてすごくいい経験だった」

「だよねー。ネット上でやりとりしてた人達以外にもこんなに本を欲しいと思う人がいっぱいいたとかプラノスファンってたくさんいたんだね。私も、自分の作品が載った本がそれだけ多くの人の手に渡ったってことが嬉しい」

 僕も正直これは予想外だったのだ。イベントで売れるだけではなく通販でこんなに欲しいと思う人がいたとは思ってなかった。

「こうなるんだったら私達の活動はきっと意味があったと思うよ!この一年間やってきたことは全部無駄じゃなかったね!」

 春にこの場所に来て、プラネットノースを広げようと計画を立てて、SNSを始めて投稿したり、イベントに行ったりそのうちにオフ会と色々あってさらには二十周年企画を成し遂げたこともあり、僕らの活動は結果オーライだ。

最初はネット上にアカウントを作りただ語りツイートをしたり、作品をアップロードするくらいだった。そしてただそんな地道なことをしていただけな部分から動き出して自分がこのゲームの為に何かできるとは思っていなかった。

 光さんが立てた企画にただ乗っただけだったのがまさか自分が主導権を握ることになるとも思っていなかった。

「やっぱ、ちゃんと昔のゲームだろうとファンはいるんだなあってことがわかったよね。ただ私達の周りにあのゲームが好きな人があんまりいなかったってだけで世界には会ったことがないだけで同じものが好きな人がたくさんいるってわかった」

「僕も二十周年の企画でファンとの想いが一つになったことを感じたよ。こんなにも需要があることだったんだから」

「僕はとりあえず今日はツイッターにアップする完売記念のお祝いイラストでも描くよ」

「じゃあ私にも何かできないかなー」

加奈はそう言いながら鞄に入れて持ってきた二十周年アンソロジーを読んでいた

「じゃあ僕もちょっと作業を」

 僕はとりあえず明日発送する通販申し込み分の発送予定物に同封するカードを書き始めることにした。

 いつもは自宅でやっているのだが今回は明日までに発送せねばならないので急いでいたのだ。

 僕は小さいカードの束を取り出し、1枚1枚に手描きのメッセージをかいていた

「何してるの?」

「通販封筒に入れるメッセージカード作ってるんだ。本を送るのにただ本だけってのも寂しいかと思って。昨日で終らなかったから学校に持ってきてでもこの作業するしかないんだ」

「ふーん。そんな地道なことしてたんだ」

「そりゃあやっぱりせっかく通販を申し込んでくれた人には何かお礼の気持ちを届けたいからね。ただ商品が届くだけよりも何か一言メッセージが同封されてる方がいいかなって思って」

 カードには『お買い上げありがとうございます。この度は通販申し込みありがとうございました。商品をお届けします。プラネットノースへのファンのの想いを目いっぱい詰めた本なので楽しんでいただけたら幸いです」という短いメッセージを書いていた。

 そして最後に僕が昔から使っているペンネームのデフォルトマークを書くのだ。「ソ」というカタカナを絵文字風にしたマークだ。

「このマークって……何?」

カードを書いていたら加奈は驚いた表情で訪ねてきた。何か僕が文字を間違えたんだろうか?と僕は一瞬ドキっとした。

「え?何?なんか僕文字とか書き間違えた?」

「そうじゃなくて、この最後に書いた絵文字みたいなの何?」

「これ?保育園時代にあだ名から作ったマークなんだ」

「僕は「宗助」だから「ソーちゃん」ってあの頃呼ばれててそれにちなんで手紙のやりとりでこのマーク作ったんだ」

 僕はこのサインのできた成り立ちを説明した。

「気に入ったからあの頃からよく使ってたんだけど、中学校でふざけてプリントに使ったら先生に怒られてさ。以来使う機会なくてさー。でもツイッターでハンドルネームを「ソウジロウ」にしたからこのマーク、サインとして使えるなって思ってこうやって通販とかのメッセージカードに入れてたんだ。もうリアルじゃ使う機会のないマークだしね」

「へえ、そうなんだ……。じゃあ、宗助くんがあの時の……」

と何か聞こえたがうまく聞き取れず「ん?何?」と聞き返すと加奈はさっきまで読んでいた二十周年アンソロジーを鞄にしまい込み、立ち上がった。

「ごめん!私、ちょっと今日はもう帰るね!」

いきなり加奈は荷物を持って部室から出て行った。

「なんだろう?」

もしかして僕が作業に集中してるから邪魔しちゃ悪いと加奈なりの気遣いだったのか?と思ったが気に留めても仕方がないので僕は作業に戻ることにした

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