第14話 いよいよイベントだ

 いよいよイベント当日が来た。

 イベントの朝はさすが三月で寒かった。

 いよいよこの日が来たのだ。とうとうアンソロジーを頒布する。半年前から動いていた企画がとうとう実現するのだ。

「よっし! 気合入れていくか!」と僕は自宅を出た。


 イベント前に加奈と駅で合流して共に会場へ向かった。。

 加奈は春目前とはいえまだ肌寒い三月には暖かそうなベージュのニットワンピを着ていてメリハリがありながらスリムな加奈の色っぽいボディラインが出る服装だ。

 夏に来たイベントの時のようにきちんとイベント用の姿だった。

 思えばここ最近は加奈と学校以外の場所で会うことはなかったので久しぶりの加奈の私服にドキっとする。やはり色っぽくもあり、可愛い。今日はこんな人と売り子なのだ。

 イベント会場は夏のイベントと同じく展示場だが今回はあくまでもその中のゲーム系オンリーということで規模は小さいのでサークル数は夏のイベントより少ない。

 今回は以前のような「一般参加者」の入り口ではなくサークルチケットを見せて入場する「サークル参加者」だ。

 一般参加者の入り口は参加者の数が多く、混雑していた。

 まだ三月という春とはいえ完全に冬が終わってない寒さの中、夏とはまた違う冷たい風に吹かれる空の下で参加者はそれぞれ寒さに耐えながら並ぶ。

 サークル参加者の入り口は一般参加者の入り口ほど混雑しておらず、人もまだらでスムーズに会場に入ることができた。

 本を売る方の立場という場所から会場に入ることにもそれを感じさせた。

「前にイベント行った時は一般参加者だったのに今はサークル参加者なんて何があるかわからないものだねー」と加奈は言った。

「そうだね、まさかあの時はあの後光さんと仲良くなるとも思ってなかったよね」

あの時はあくまでもプラネットノースの同人誌を買いに行く、という一般参加者だったのにその数か月後は自分が本を売る側になるなんて想像もつかなかった。

「今日はどんな人が買いに来るかな? やっぱりプラノス発売当時のファンとか来るかな?もしかして私達の本を見てプラノスを好きになりましたってファンとかできたりして……」

「はは、夢は広がるね」


 そんな雑談をしながら僕らは会場に入りサークルスペースに向かった。

 会場の中は会議用の机が縦にまっすぐサークルの島ごとに並べられており、サークル参加者は各自のスペースで準備をしている。

 会場内は風が吹いていないのと暖房の為か、外ほど寒くないので僕は上着のパーカーを脱いで手に持って運んだ。

 まだ開場前の時間ということもあり、会場の中は夏のイベントほど人がぎっしりというわけではなく人はまばらだ。

「僕らのサークルスペースはここだよ」

 会議用机の上にはチラシが置いてあり、机の下には搬入用段ボール

「これの中にいよいよアンソロジーが……」

 ついに待ちに待った二十周年記念本を目の前にする興奮が伝わる。

 まるで玉手箱を開ける浦島太郎のような気持ちでドキドキしながら用意してきた小道具のカッターナイフで箱を開ける。

 そこにはまごうことなく光さんと作った表紙の『プラネットノース』のメインキャラ九人のイラストが印刷されているアンソロジーがぎっしりと詰まっていた。

表紙は絵描き参加者がキャラクターを数人ずつ描いて集合させるという各キャラによって書いた人が違う、まさにファンの集まりでできた本と表紙からアピールする「プラネットノース二十周年記念アンソロジー」とタイトルが箔押しされた分厚い本が入っていた。

「ちゃんとできてる!」と僕は本を手に取り中身をパラパラとページをめくって確認した。僕の漫画から各執筆者のページもちゃんと印刷されている。

最初のページから終わりのページまですべてがプラネットノースのストーリーや絵でいっぱいだ。

 表紙をめくった最初のページには光さんの扉絵があり、目次ページ、その次から各執筆者の渾身の本文となっている。

 全てがプラネットノースの漫画、イラスト、小説、コラムといった内容で埋められ、巻末には参加者によるあとがきスペースと奥付。

 僕の漫画に加奈の小説、に喜助さんやモモさんにモリタさん等他の参加者のページも綺麗に印刷されていて、あの夏以降会うことはなかったメンバーがこうやって揃って一つの本を出すことができたのだと実感する。

 その空きスペースや後書きといった部分にもプラネットノースのキャラの絵が描かれ、紛れもなくまさにプラネットノースの内容が百パーセントのアンソロジーである。

 そのページ数は百二十ページにも及び、同人誌にしては厚みがあった。

 僕はただこの瞬間が感動だった。

 自分達が苦労して作り上げた原稿がちゃんと本という形になってこうして自分の手元にあるのだ。本をめくれば各参加者のページも生き生きしていてまさに「プラネットノース」の二十周年をお祝いするにはふさわしい出来だった

 その完成度にまさにプラネットノースのファンによって作られた努力の塊なのだと感じた。


「うわー!すっごーい! 本当に私達の本、できたんだねえー!」

 加奈は目を輝かせて本を見た。手に取ってパラパラとページをめくり「よかった!私のページも綺麗に本になっている」と自分の原稿が無事に印刷されたことを確認する。

 机上にテーブルクロスを引き、本を並べて値札をつける。

こういった同人誌即売会のサークル参加に必要な小道具は事前にネットで調べて用意しておいた。 

 光さんがすでにイラストを作っておいたアンソロジーの表紙絵のポスターもスタンドで立てて飾る。

 こうすることでイベントに来た参加者がこのスペースの前を通る際にこのポスターが目に入るということだ。

 光さんに教えてもらったように小銭を用意して、おつりを入れる箱なども持ってきた。

 さすがは光さん、ちゃんとその知識生きてますと感謝だった。

 さらにスタッフによる印刷物のチャックも無事に合格だった。

 同人誌即売会には頒布する印刷物はイベント前にスタッフが内容をチェックして全年齢向けか、問題がないかをチェックし、もしも違反があれば頒布停止になると聞いていたのでドキドキしていたが無事に問題もなかった。

 これっで準備は整った。あとは開場時間を待つだけだ。

「サークル『プラネットノース二十周年本部』開始っと」



 準備が終わり、開場時刻の十時になり一斉に拍手が鳴る。

「いよいよ始まったね……!」

 僕と加奈は同じスペースの椅子に座って待っていた。

しかし期待と反面、サークルスペースの前を人が行き来するがこのサークルに立ち寄る人もいなかった。

「やっぱりいきなり売れるわけないか……」

 いきなりこんな昔のゲームの同人誌を出してもイベントで人が買いに来ることはないか……と想像していたことが現実になろうとしていた。

 僕はその間、サークルスペース内の椅子に座ってアンソロジーの一冊を読むことにした。

 今まではデータ入稿の際に他の執筆者の原稿はデータ上で見ただけでこうした本として完成させた形ではまだ読んでいなかった・

「私も読んでいい?」と加奈が申し出たので一冊を渡すと隣の椅子では加奈もアンソロジーを読み始めた。

 ページをめくると、光さんの相変わらずクオリティの高い漫画に、喜助さんのコラム、モモさんの四コマ漫画など読みものも全てプラネットノースだ。

コレクターらしいモリタさんはプラネットノースの関連商品にいてのレビュー、つまりコラムページで加奈は小説だ。

 それ以外の募集からこのアンソロジーに参加した執筆者の作品もどれもプラネットノースの内容だけで構築されていて、まさにこれは僕がこんな本、読みたかった! と願ったプラネットノースのファンの傑作集である。

ふと隣を見ると、加奈は本をめくりながら涙を流していた。

 ぎょっとした僕はハンカチを差し出す。

「どうしたの?涙なんて流して。なんか誤字とかミスでもあった?」

 執筆者本人が完成したアンソロジーを見て涙を流すという場面にはそういったミスが生じることがあるのだ。

理由を尋ねると

「ううん。あまりにもアンソロジーの完成度すごくて感動のあまり涙が……。ちゃんと私が書いた小説も本になってるし、他の人が描いた作品もすごくて。これが私がまさに読みたかったファンの形なんだなあって」

 加奈にとっては涙を流すほどの感動だったようだ。

 このアンソロジーが完成するまでにもさまざまな壁にぶつかったが今日は無事にこれをこうして本として完成させらた。

 もしも売れなくてもこうして完成させただけでも僕にとっては満足だ。


 開場から三十分が経過したが今だアンソロジーは一冊も売れなかった。

 開場から時間が経過するとこのサークル付近にも人は集まったが買う人がいる様子もない。

 本当に売れるのか?まさかこのまま一冊も売れないままイベントが終わるなんてこともあるんじゃないだろうか?

 誰も来ないサークルスペースにいて手持無沙汰になった加奈が席を立ちあがった。

「ねえ、私がここにいてもしょうがないからちょっと買い物行ってきていいかな?今日はゲームオンリーってことでコミケとはまた違うサークルさんいないかなって思って」

「ああ、いいよ。その間僕がここで売り子してるから」

 どうせこのままここで二人でいても仕方ない。それなら今は加奈は好きなところへ行っていた方がいいかもしれない。

「さて、どうなるかなあ」

 みんなで頑張って作った二十周年アンソロジー。あれほど告知ツイートをしたところでこのまま無駄になり、そのまま終わるのではないだろうか?

 やはり現実的に二十年も前のゲームで今頃ファンを集めての一冊のアンソロジーを作ったところで昨今のファンの目に入るなんて甘かっただろうか?


 そんなモヤモヤした気分のまま開場から一時間が経過する頃にそれまでの不安を翻す出来事が起こった。

「あの、一冊ください」

 サークルスペースの前には一人の男性が立っていた。

 見た目からして僕よりずっと年上で大人の男性だった

 今までずっと誰も来なかったサークルスペースに人が来た。

 突然の出来事に一瞬頭が真っ白になるがそうだった、お会計!と正気を取り戻し「千五百円です!」という声が震えた。

 男性はポケットから財布を取り出すと、金額ぴったりのお金を出した

「はい、ちょうどですね」と金額を確認して本を渡して僕は「ありがとうございました!」と言った。

 その時、初めてアンソロジーが人の手に渡ったという事実に感動だった。

「う、売れた……僕たちが作った本が初めて売れた……」

僕たちが作った本が今売れたのだ。

 こんな自分達のことを誰も知ってるわけではない他人の手に作った物が売れたというのは感動である。

 感激に飲み込まれてるうちに加奈がサークルスペースに戻ってきた。

「どうだった?」

「それが、今一冊売れたんだよ!買ってくれた人が来たんだ!」

「本当!?」

 僕らはやったね!と感激のあまりハイタッチをした。

 たった一冊の本が売れただけなのに僕らの喜び方はすごかった。

 ついに半年近くも前に計画していた企画がこうして実現の結果成果が出たのだ。

 さらに感動はそこだけでは終わらなかった。

「あのー。すいません」

喜びの舞の中、声をかけられた。またもやサークルスペースに人が立ち寄ったのだ。

「この本一冊お願いしまーす」

 人がいる場所で僕らはサークルスペースではしゃいだことを恥ずかしく思った。

「千五百円です」と値段を言い、会計のやり取りをした。

まやもや本が売れたのである。

 そしてその本を買った人物はそのまま立ち去るのかと思いきや僕に話しかけてきた。

「この本を作った方ですか?。

「はい。そうですが……」と答えると。

「ぼく、このゲーム大好きなんです!ツイッターで「プラネットノース」の二十周年本出るって知ったんでずっと楽しみにしてました!」

「ほ、本当ですか!?」

 なんとこの人はツイッターからこのアンソロジーのことを知ったというのだ。告知アカウント等を作っていた宣伝効果があったと思い知った。

「十五年前にプレイしてからずっと好きなゲームだったので……。栃木県からこの本をイベントで買う為に来ちゃいました!来る時間遅れたんですけどまだあってよかったです!この本を作っていただいてありがとうございます!」

 その言葉にこの本の為にわざわざイベントにまで来てくれた人もいたのだと告知アカウントの宣伝効果がまさに出た、と嬉しくなった。

「こちらこそ、来てくださってありがとうございます!」

 僕らはがっちり握手をするように挨拶を交わした。

「昔からのこのゲームのファンがわざわざ僕らの本を買う為に来てくれたなんて……」

 その参加者がスペースから立ち去るのを見送ると、「私達のやってたこと、無駄じゃなかったんだ……」と嬉しさのあまり加奈と二人で放心していた。


 さらに会場から二時間が経過し正午になってくるとこのサークルスーペースの前を通る人が多くなて来た。

 どうやら通る人の話し声の内容から推測すると大手サークルのスペースにまわっていた人や一通り買い物に行っていた人の目的が終わり、イベント会場はあちこちの島が参加者でにぎわうごったな雰囲気になってきた。

 またもや僕らのサークルスペースには人が訪れる。

「サークルカットでこの二十周年本のこと知って。昔プレイしたんですが懐かしいなーと思って買いに来ました」と言ってくれた人もいた。

 つまり事前に告知アカウントなどの宣伝でこのアンソロジーの存在を知った人もいれば今日のイベントのカタログを見て直前にこのアンソロジーの存在を知った人もいたのだ

「すごく嬉しいなあ……こうやって作ったものが売れていくって」と僕が漏らすと

「プラネットノース知ってる人がこんなにいるなんて……直接人の動きを見れるイベントってすごいね」と加奈とイベント会場を傍観していた。

 周囲のサークルもゲーム系オンリーとあってゲームを題材にしたサークルで、どのサークル主もゲームの二次創作の同人誌を頒布していた。

二次創作という分野でもこんなイベントが開かれるほど盛り上がってこうやって楽しみを共有できる文化とは素晴らしいと思った。

 その後も一人、また一人、と時間が進むにつれこのスペースを訪れる人、アンソロジーを買う人が増えていった。もはやいちいち感動していられなかった。

(なんだ……?どんどん買う人が来る……)

 大半の人は会計だけを済ませて立ち去る人が多い。同じくプラネットノースのファンなのかこのゲームを知ってる人それだけ来てるということだ。

 自分達が知らなかっただけでまだプラネットノースを知ってる人は結構いたのだとイベントで本を買う人を実際に見てみて実感した。

 自分達のことを全く知らない人達がお金を出して本を購入している。

 その本が売れていく感覚にちょっとだけプロの漫画家の気持ちがわかった気がした。

 買っていく一般参加者は女性だったり男性だったり、二十代くらいの若い層もいれば大人びた人もいたり様々だった。


 午後一時にもなると一般参加者は会場直後より増えてきて、サークルスペースの前を通る二人の参加者が「プラネットノースの本がある!」と会話しながら買っていくということもあった。

 その後も売り上げは好調で一人、また一人、と買いに来る人が何度も何度も来てくれた。

 この日一日だけでも在庫は半分になるほどにはイベント頒布分は売れたのである。

「私、ちょっとお手洗い行ってくるね」と加奈は席を外した。

一人でサークルスペースにいると、またもや誰か来た。

 僕らと同じ年くらいの女の子だった。ピンクでフリフリのいわゆるロリータ属性といった衣装を身にまとい、ウサギ柄のポーチを肩にかけている。

「あの、プラネットノース二十周年記念アンソロジー主催のソウジロウさんですか!?」と女の子は言った。

 突然女の子に名指しされたことに戸惑いを隠せなかった。ツイッター上でアカウントやツイートで名前を出していたのでそこらから知ったのかもしれない、と僕は正気を保った。

「はい、僕ですが」

「よかった!ちょっと自分のサークルから抜け出せなくて来るのがこんなギリギリの時間になっちゃって。とりあえずこの本ください!」

 会計のやりとりを済ませると、そのロリータ衣装の女の子は言った。

「私、ソウジロウさんの絵、とても好きなんです!このアンソロジーのことを知ったので来ました」

 そういえば僕は最近ツイッターの本アカウントでもよくアンソロジーのことをツイートしていた。どうやらそれを見た人が来てくれたらしい。

「あんまりにもソウジロウさんがこのゲームについて熱く語ってるのをみて、プラネットノースが気になったのでハードとソフト買ってプレイしました!」

「ええっ! そうなんですか!?」

 まさか自分がネット上にで投稿していた内容に影響されてこのゲームのファンになった人がいるとは!と僕は驚きを隠せなかった。

 リメイクも移植も配信もされてないあのゲームをわざわざハードとソフトを買いそろえてまでプレイしたというのである。

「私、普段は別ジャンルで活動してるのでソウジロウさんのことはツイッターで共通のフォロワーさんのリツイートで知って作品を見たのがキッカケなのでこのゲーム全然知らなかったんですけど、面白そうだなって思ったので。そしたらはまっちゃって! しかも今回二十周年アンソロジー出るって聞いてぜひ買いたかったんです!」

「あ、ありがとうございます!」

 まさか僕の作品からこのゲームを知ってはまったあげくアンソロジーまで買ってくれるとはこんなことがあるなんてと僕は喜びを隠せなかった。

 このゲームを昔から知ってた人、最近知った人、自分の活動により興味をもってくれた人等など直接言われると嬉しい。

 今なら光さんが同人活動を続けていた意味もよくわかった

「光さん、ぼくらやりましたよ……」とその場にはいない光さんのことを想って僕は呟いた。


 閉館時間も近づいて来たので周囲のサークルは頒布物を段ボール箱に片づけ、宅配便を送る撤収を始めるサークルがちらほらと見え始めた。

 撤収の際は宅配便が込むから早めに撤収を始めた方がいい、と事前に光さんに聞いていたので僕もサークルスペースの撤収作業入ることにした。

「でも、今日、結構売れたな」

 残った在庫を段ボール箱にしまう際、約半数の本が売れて数が減ったのを目で見ることで僕は同人活動の嬉しさが身に染みたような気がした。


 加奈も戻ってきて撤収作業を手伝ったことにより、在庫を宅配便に送りこれで今日のイベントは終了だ。いや帰るまでがイベントか。

二十周年記念アンソロジーは完売とまではいかないが6割と売れた。

 もちろん大売れというわけではない。いきなりマイナージャンルのアンソロジーを出したところで大売れするとは思っていなかった。

 それでもみんなで作ったアンソロジーが発行部数の約半分近く売れたという事実は感動的だった。なんせイベント当日までアンソロジーが最悪なら全然手に取ってもらえないという悪夢何度もうなされただけあってむしろ想像以上に売れたことの方が嬉しかった。

 僕と加奈は帰りに打ち上げと称してファミリーレストランに入り今日のことを振り返った。

「今日のイベント、まさかあんなに売れるとは思わなかったなあ。すごくよかった!」

お祝いというわけで奮発して注文したシーフードミックスピザをつつきながら加奈は行った

「うん! 結構いろんな人が来たね。昔からプラノスファンの人も最近好きになった人もいたみたい」

「私としてはさっき聞いた宗助くんの活動からプラノス好きになったって人がいたのがびっくりだなー」

「あれは僕も驚いたよ」

 加奈にはイベントの最後辺りに例のロリータ服の女の子の話をしていた。

「意外と私達と年が近くてあのゲームが好きって人もいるんだね」

 今回のイベントで見れた報酬はかなり幅広い層のファンがいるということだった。

 男性もいれば女性もいて、さらに同世代の人もいれば大人もいる。

「大人の参加者もたくさん来たからあのゲームのリアルタイム世代の人にも本を買ってもらえたってのが嬉しい」

「光さん、なんて言うかなあ。報告するの楽しみ」

 元はこの企画を考えた主催者である光さんこそがこのイベントの光景を見るはずだった。僕はあくまでも代理にしかすぎない。

それでも無事に本を発行してイベント参加を終えたことには一つの山を乗り越えたような達成感もあった。

「こうやってイベントとか見ると、もっと多くのプラネットノースファンを見たいなって思っちゃうなあ」

「じゃあ次は僕らの個人サークルとして参加って手もあるかもね」

「そうだねー。そんなこともできたらいいね」と笑いあった

打ち上げはお互いのアンソロジー原稿の苦労話など終わったことに対する感想会で盛りあがった。


 家に帰る途中もイベントの嬉しさの興奮でフワフワした気持ちになり、家に帰るとイベント前の緊張感で熟睡できなかったことと連日の疲れでその日は熟睡した。


 翌日僕は光さんにイベントを無事に終わらせたことを報告した。

 するとチャットでお礼を言いたいとのことで僕はチャットを繋いだ

「ソウジロウさん、イベントお疲れ様でした! ありがとうございました。本当は私が最初に言い出したことだったのにほぼお任せになってしまって……」

「いいんですよ。僕はどうしても光さんの企画を無駄にしたくなかったんです」

「まさか結構売れるんなんて思ってなかったのでびっくりです。私もこの企画考えた時は自分の本の売り上げ的に今プラネットノースのアンソロジー出したところでどれだけの人に売れるかはそこまで想像してなかった」

 イベントで『プラネットノース』のファンがが結構いたこの目で感じた。

 今までインターネット上の反応でしか見たことがなかったので実感しなかったがこうして生のイベントで体験するとその威力はすさまじかった。

 やはりイベントとは直接会場で買う人を見れるからいいのだ。

「結構売れたとはいえまだ在庫もそこそこあるんです。残りの在庫通販でさばけますかね?」

 僕は気になっていた在庫のことを言った。

 アンソロジーを発行するにあたって同人誌の頒布の仕方を調べたところ、イベントで直接売る方法以外にも通販にまわすという方法もあると知り、事前に通販告知もしていた。

 イベントに直接来れない人でも通販を利用すれば家へお届けできるということだ。送料は発生するがそのかわり間違いなく家へお届けできる。

 方法としてはアンソロジーの告知アカウントで通販の案内をアップロードして、通販での購入希望者が申し込んできたらダイレクトメッセージに住所と届け先主を教えてもらうやりとりをして送料と商品代をこちらの銀行口座に振り込んでもらい、教えてもらった住所へと発送するというものだ。

「またソウジロウさんがイベントに参加する機会があるならそこで頒布するとかあるよ」

「今日ちょっとその話題も出ましたがまた今後出るかは未定で……」

「またそれはこれから考えればいいよ。それから、約束、お願いね」

今日のチャットはそれで終わった。

「本が完成したら光さんに送る」という約束のことはもちろん忘れていない。

告知アカウントにて「通販のお知らせ」や受付についてツイートすると数時間後にはダイレクトメッセージに通販希望者の連絡が数件届いていた

「地方在住でイベント行けなかったので通販待ってました!」

「プラノス本がずっと欲しかったけど、今まで遠方でイベント参加をしたことがなくて見たことがなかったのでぜひ買いたい」

「プラネットノースの二十周年記念本が買えると知ったのでぜひ購入希望です」

そういったメッセージも同時に送られてきた。

 事情や遠方等でイベントに行けない人なども含めるとこの二十周年アンソロジーを欲しいと希望していた人は結構いたようだ。

 イベント頒布は直接に会場に来なければ買えないが通販なら直接家に送り届けることができる。つまりネットで注文すればそれだけで手に入るのだ。

 さらに告知アカウントを見ると早速イベントで二十周年アンソロジーを購入したと思われる人からの感想のリプも続々とついていた。

「みなさんのプラノス愛が伝わりました」

「ソウジロウさんがイベントまで毎日カウントダウンイラストをアップしていたから欲しくなった」という人もいた。

 どうやらあれら企画は蛇足かと思っていたがの努力は無駄じゃなかったようだ。

 こうして読者からのメッセージをいただくと光さんが同人活動を楽しんでいた理由が今ならわかる気がした。

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