第12話 ぼくにできること



 加奈はその宣告に表情が凍り付いた。

 原稿をしたことや打ち合わせをしたこと今まで楽しみにしてきて頑張ってきたことがこの宣告により全て崩れたのだ。

 僕は事情を包み隠さず話した。

「光さん、ツイッターを最後にツイートしたあの日、お父さんが事故に遭われたんだって」

 それはあの日、何が起こったのかの真相だった。

「え……」

 加奈は驚愕の表情で絶句した。

 SNS繋がりとはいえリアルでも何度か会っていた知り合いが突然に不幸があったのだ。

「あの日実家のお母さんからその連絡があってすぐ地元に帰ってくるようにいわれて……」

「だから急に実家に帰るって言ってたんだ」

 加奈は辛辣な表情になった。

 東京から佐賀という遠方の実家に帰った理由はそういうことだった。

「お父さん、病院に運ばれて手術したけど翌朝亡くなったって……。それでお葬式とか色々あってもうネットをしてる場合じゃなかったから……。それでずっと誰にも連絡できなかったんだって」

「嘘……」

 真相を語り、ショックを隠せない加奈は青ざめる。

 当然だ、僕も昨日これを知った時に同じ反応だった。身内を急に亡くすなんて辛いことなのだ。

「これからはお父さん亡くなったから大学の学費や仕送りの件とか実家に弟がいて弟達の面倒見る為に傍にいたいから地元へ帰るって。家族の生活費のために大学やめて地元に帰ってこれからは自分が家族を支えるために働くんだって」

 僕の話を三島さんは黙って聞いていた。知り合いの衝撃的な出来事である。

「お母さんもだいぶまいっててもう自分が傍にいないと弟達に心配かけない為にももうこっちには戻ってこれないって。アパートも引き払う予定でオフ会やイベント参加もやめるし、二次創作も同人活動も今後は活動休止だって」

「そんな……」

 今は光さんの作品が二度と見れなくなるということではなく光さん自身のことを心配していた。

 これまでの生き甲斐だった活動を辞めるほど、光さんにとっては深刻な状況なのだ。

「だから今はそんな状況で主催とかしてる場合じゃないからアンソロジー企画はお流れにしたいって」

 僕は一通り光さんからの連絡の内容を加奈に伝えた

「光さん、今そんなに大変な状況だったんだ……」

 全てを聞き終えると、加奈は黙り込んだ。

 アンソロジー企画の行く末を心配して、光さんにはただ何もできなかった自分達を恨んだ。

 僕も昨日知った時は驚いた。

 ここしばらく、光さんは親を亡くし、その後のことで大変だった時期に僕たちは何も知らずにのんきにアンソロジーどうなるんだろう?なことを気にしてていたことを恥ずかしく思った。

 家族の急死はかなりつらい。

 ましてや今後のことに関わることならば今一番辛いのはお父さんを亡くした光さんなのだ。

「光さん、今お父さんのことで辛いだろうしそれなのに連絡してくれたんだ。

残念だけどアンソロジー企画はやめるからこれから他の参加者にも伝えるって」

 しょせんネットで知り合ったにすぎない関係だったはずなのだがオフ会へ誘って共に参加したり、家へ遊びに行って一緒にゲームをしたとなると光さんはもはやただのネット繋がりの知り合いではないような気がした。

 同じゲームが好きで、今度は一緒に企画をしよう!と今後の計画まで立てていたのだ。

 しかししょせん僕らは他人で光さんに何かをすることはできない。

 企画がお流れになるのであればそれを受け入れるしかないのだ。

 この事が話終えると僕らは教室に入った。

 楽しみにしていたアンソロジー企画が僕らの今の今後の楽しみだった。

 あの企画が立った日から半年後にはどうなっているのか予想はつかなくて、でも参加者も集まり、みんなそれぞれ完成に向けて進んでいた。

 その計画も終わろうとしていた。


 HRが終わると、一時間目の担当科目の教師が教室に入ってくる。太り気味の教師は、今日もスリッパを履いていて、「おーし、授業始めるぞ」と野太い声を出す。

その光景に、僕は平常を保たねば、と授業に臨む。

 知り合いがどんな目にあっていても僕らの日常はいつも通りだ。

 こうして僕らがいつも通りの日常を送っている反面、同じ日本では急な出来事で日常を全て失った人も生活しているのだ。


 そうは思いつつも加奈と僕の心は一日沈んでいた。

 放課後の部室の時間になってもお互い、いつもより口数が少なかった。

 ゲームの資料が並び、机と椅子が置いてある簡素な部室ではいつも以上に静かだ。加奈部室で次に書き上げる予定のプラネットノース二次創作小説のプロットをノートに書いていた。

「これもアンソロジーに載せたかったな」と加奈ぽつりとつぶやく。

 そして企画のことを思い出したかのように加奈は言った。

「アンソロジー企画はしょうがないよね。主催者の光さんが今大変だもの。そんな時にのんきに私達と企画なんてしてる場合じゃないし……」

「そうだね」

 僕はもはや同意することしかできなかった。こういう時になんて言えばいいかも思いつかないのだ。

 僕は何も言えず机の上をただ見つめていた。

 この部室で、プラネットノースへの活動を何かしよう!と春に言って、動き出して、それがようやく形にできそうなところでこの結果になったのだ

「アンソロジー企画は諦めるしかないよね。せっかく企画を立てて宣伝アカウントまで作ったけど、そんな状態じゃね……」

 僕たちはお互いしんみりした表情で机の上を見ていた。

 せっかく楽しんでここまできたのにそれらが全て崩れていく、仕方ないことではあるが残念な気持ちでいっぱいだった。


 みんなが楽しみにしていたこともいとも簡単にあっさり崩れる。

 ここしばらくは楽しいことばかりが続いたが光さんは父親を失った。

 日常とはいとも簡単に失われるものなのだ、と感じた。

 こうして僕らが日常を過ごせるのは、家族が元気で何事もないからなのである。

 日常とは当たり前ではないのだ。みんなに守られていることで子供の僕らの日常は作られていく。

 しかし親を失ったとなれば大人だろうとその日からは全てを失うことにもなりかねない。光さんは生き甲斐だったはずの二次創作も同人活動どころか大学をやめて地元へ帰ることより将来の夢まで失ったのだ。

 そんな光さんを想えば一番辛いのは生き甲斐もできなくなった光さんなのだ。

 いつら残念がっていても企画倒れはやむなしだ。


 僕らは沈黙が続いた。

 数分ほどしてその沈黙を先に破ったのは加奈だった。

「なんか、私達がやっていたことって結局なんだったのかな?」

 加奈は落ち込んでいるのか、それとも何か悟ったのかどうしようもない気持ちに語り出す。

 その表情は美少女だからなのか、どこか儚げで美しい、と思った。

「高校生になった時、もう義務教育でもないこの年齢じゃ好きなゲームのことを話す機会なんてないと思ってた。だから『プラネットノース」が好きなこともこれからもずっと誰にも言わないんだろうなあ……って思ってた」

「……」

 僕は黙ってそれを聞く。

「この高校に入って、宗助くんに出会えて初めて同じ年であのゲームを知ってる人がいた!って感動したなあ。それで宗助くんがSNSとかこれをやるといいとか色々教えてくれたんだよね。それでイベント行ってみて、光さんと知り合って、オフ会行ったり、秋葉原行ったり楽しかったなあ」

 それはこの前ラインに送ってきた内容のことである。その時今までに見たことのない加奈の表情にドキっとした。影はあるものの、その瞳には光が宿っている。

「そんな私だったから、光さんがあの企画を出した時、こんな私でもプラノスの為に何かできる!って思った。絵も漫画も描けないけどこんな私でもファンとして何かできるチャンスだ!って嬉しかった。」

 加奈の言う通りだ。僕も絵や漫画が描けるとはいえせいぜいネット上にアップロードできるくらいで実際に同人誌を出そうという行動力にまで至らなかった。

しょせん僕は人出してくれた船に乗ることしかできなかったのだ。

「でもこうなったら仕方ないよね。今一番悲しいのはお父さんを急に亡くした光さんだもの。私達のわがままで何でも通るわけじゃないし」

「うん……」

 僕はただ加奈の言葉にうなずくしかできなかった。

 何と言ったらいいかもわからなくて、こんな時自分の無力さを思い知る。

 それ以上は何も言えないまま部活の時間は終わった。



 どこか心に暗さを引きずったまま、一日が終わった。

 その夜、自室のベッドに寝転がりながら僕は色々物思いにふけった。

 こうやってみんな自分の将来や置かれた環境によって動いてバラバラになっていく楽しい時間はいつまでも続かない、楽しいひと時だったと思い出が過去になっていく……。


 このままでいいのか?と僕は思った。

 今まで積み上げたものが崩れていく。

 高校に入学して、初めての同じゲームを好きな仲間に出会えて、いろんな経験をして、そして自分達で企画を動かす、そんな機会に巡り合えたのにこうして達成もできないまま終わっていく。

 せっかくのチャンスもこうして無残に終わるのだ。

 しかし加奈の台詞をよく考えた。加奈もまたあのゲームのことでこうして経験ができたことにより二次創作を書くという新しい挑戦ができたのだ。

 それは僕も同じで、僕もオンラインに自分の作品をアップロードすると反応がもらえたことが楽しくて仕方なかった。

 天井を見つめれば質素な室内灯の光が照っていた。それをぼんやりと見つめながら物思いにふける。

 ここまでの経験を無駄にしたくない、

「なんとかならないものかな……」

 僕はふと机の上に置いたスマホを見た。何やら通知の光が輝いている、

 なんだろう、と思いスマホを見てみるとツイッターにダイレクトメッセージが来ていた。


光さんだった。


 昨日の久しぶりの連絡に続いて何だ?と僕はメッセージを開く。

 そこにはこう記載されていた。

「土曜日の夜、チャットでお話できないかな?ソウジロウさんに聞いてほしいことがあるんです。もちろんソウジロウさんの都合が合えばでいいので無理にとはいいません」とその言葉に心臓がトクンと動いた。

 やはり改めて企画倒れな件のことをチャットでじっくりと話合おうということだろうか?

 もはやこれは決まったことなのだ。他人である僕に何かできることなんてない。

 そんな状況にぼくへ話とはいったいなんだろうか?

 しかし光さんだって辛い現状の中わざわざそんなメッセージをくれたのである。

ここで話を聞かなかったら一生後悔する、そんな気がした。

 僕は返信を書いた。

「わかりました。土曜日に予定を開けます」



 土曜日はやってきた。

 昨日はチャットをすることを決めたとはいえ久しぶりの光さんとのチャットに家族を失ったばかりの人とどう話せばいいのだろう?と僕はなんと声をかければいいのかと実は不安になっていた。

 家族を亡くすことは辛い、それはわかっていても今まで自分の知り合いで家族を亡くしたばかりの人と話す機会はなかったのだ。こういう時に自分の人生経験の浅さを悔やむ。

 しかしもうチャットをすることに了承してしまった以上逃げることはできない。

 

 覚悟を決めてパソコンを立ち上げチャット画面を開いた。

 まずは「こんばんわ」の挨拶から始まった。

 ここまでは以前と同じだ。

 「急に予定を合わせてもらってごめんなさい。実家のパソコンからだと今日しかチャットできる日がなくて。弟達が普段はパソコンを占領してるので……。もう以前みたいに手軽にネットできなくなったから」

 その光さんの発言に、環境がもう今まで通りではないのだ、と現実を突きつけられる。

 以前は光さんは一人暮らしだったので家族に気にせずにいつでも好きに絵を描いたり、パソコンも一人で自由な時間に好きなまま利用できていた。

 モモさんや喜助さんと同じように光さんもまたいなくなってしまうような気がして少し心が辛い。

「今日お話ししたかったのは、ソウジロウさんはプラネットノースについて何かできることがないかとか言ってたのでソウジロウさんにどうしても伝えたいことがありました」

 自分の悲しい現状でありながらこちらへ伝えたいことがある、インターネット環境が以前通りではなくともどうしても伝えたかったこととはなんだろうか?

 僕は真剣に光さんの発言と向き合うことにした。

 しばらくチャット画面が「入力中」という表示になり、長文を打ち込んでいるのか発言までのペースは遅くなるが僕はただじっと待った。

「私、嬉しかったんです」

その文字から始まり光さんの発言がチャット上に表示される。

「今時『プラネットノース」で同人活動してるなんて私一人でしたし。

いつもイベントで一人参加でイベントに本を買いに来てくれる人はいましたが、

自分と同じくプラネットノースの漫画や絵を描いてる人ってSNSとかネット上では同士がいるにはいてもイベントにわざわざお手紙まで持ってきてくれて作品の感想を熱心に伝えてくれたことソウジロウさん達の行動が嬉しくて」

今年の夏のイベントのことだ。

 あの時はまさかその唯一『プラネットノース』で同人活動をしてる光さんとのちのち企画に関わることになるなんて思ってなかった。

 あの時はあくまでもサークル参加者と一般参加者としてのやりとりだけでその後に オンラインでやりとりをしていくうちに関わることになったのだ。

「あの時、二人がくれた手紙を読んで、私が作品を通して伝えたい!と思って漫画にしたストーリーを理解してくれてるんだ!って感動しました。それにツイッターでの二人のあのゲームの熱意とか見てて、だからこそ私が参加してたオフ会にもぜひ二人を紹介したい!って思いました」

 僕に作品のコメントをくれたり、オフ会に誘ってくれたりアンソロジーの企画を立ち上げたり

 そういった関係はそれらの行動によりきっかけが生まれたのだ。

 でなければもしも今年の春に加奈と出会ったとしても、せいぜい二人で部活動内だけでプラネットノースについて語るくらいしかできなかっただろう。

 さらに光さんは長文を打ち込み、チャット画面は文字でいっぱいになった。

「私は中学生の頃から『プラネットノース」が大好きでいつか自分もああいうゲームを作りたいって夢がありました。ああやってゲームの世界でも人生観動かされたり、それがきっかけで何かの活動を始めるとか私もゲームを作る立場になってそのゲームをプレイした子供達に夢を持ってほしい、と」

 光さんの夢を初めて聞いた。

 大学であの分野を専攻している理由を前に少しだけ言っていてその時もまさかそれもあのゲームがきっかけだったとは、と僕は驚いたのである。

「それでゲーム制作も学べるの道を目指してたからどうしてもコンピューター制作授業の学部のある大学に進学したくてあの道を選んでいました。私が昔からその夢を持った時、母は趣味よりももっとまじめに将来を考えなさいって現実的な進路にしろとか私の夢を否定して反対してたんです。でも父は「やりたいことに一生懸命向かうのはいいこと。夢を追いかけなさい」って言ってくれて学費に仕送りだって高いし、地元を離れての一人暮らしの費用も出してまで私の夢を支えてくれてたんです」

 それで遠方の土地から関東の大学へ来た理由なのだ。光さんは真剣に将来に向き合っていたのだと知った。

 長文の画面だが僕はどの発言もしっかり読んでいた。

「だからどうしても「プラネットノース」の何かをしたくて上京してイベント参加できる環境が整ったから同人活動も始めたんです」

 それが光さんにとっての「プラネットノースへの活動」なのだ。

 僕が加奈とあのゲームについての何かをしたかったように光さんもずっとそうやって活動していた。

「でも、父ももういないし。私はここで夢を諦めてもう同人活動も二次創作やってる余裕もないし、せっかく上京してできた友達ともお別れだし、皆さんが参加してくれると言ったアンソロジー企画も蹴る形になって本当に皆さんに申し訳ないです」

 加奈も言ってた通り、今一番悲しいのは光さんだった。

 家族を亡くした悲しみだけでなく、昔からの夢までも諦めなければいけないしこれからは家族を支えなくてはいけない。それならばやろうとしていた計画も諦めるしかないという現実を突きつけられてるのだ。

 僕達がいくら企画倒れを嘆いていても仕方がない。一番今辛いのは主催者である光さんだ。

「先ほどからしんみりした話ですみません。いきなりこんなことを愚痴られても付き合っている方も辛いだけですよね」

 卑屈になっている光さんに「いや、いいんですよ」と僕は返した。

 今はとにかく誰かにこのことを話したい状況なのかもしれない。

 モモさんや喜助さんといった他のプラネットノース繋がりのフォロワーはみんな忙しく、今こういった話に付き合う余裕があるのは僕か加奈くらいだ。

「なんでこんな話をソウジロウさんにしたかったっていうと、私は大学をやめることになったから将来の夢をあきらめますけど、ソウジロウさんはまだ高校生だし、今からでもいくらでも活動だってどんなこともできます。だからこれからもプラネットノースの活動も将来も夢にむかって頑張ってほしいです。これからも仲間を大事にして学校生活やオンラインとか活動も楽しんで、そしてやりたいことを目一杯充実させてください」

 その文章と共に、続けてチャット画面には新しい発言が書き込まれる。

「以前『プラネットノース』についての活動を何かしたい、とか言ってたけど、

楽しんだもの勝ちなんだよ。私は二次創作や同人活動という場が表現方法だったけど、きっとソウジロウさんにも自分に合ういい方法が見つかると思います」

 自分に置かれた状況にも屈せずこうして励ましの声をかけてくれる。

 今日のチャットは光さんにとっては今のもやもやを誰かに聞いてほしかっただけかもしれない、とも思ったがそれでもちゃんとこちらに気を使ってくれてるということに、やはり光さんは大人だと思った。

「私、二十周年本の原稿もほぼ完成はしていたんです。でもそこへ父の事故のこと聞かされて、地元へ戻ったらあの通りで。原稿ができていてももうアンソロジーを発行してイベントに行くことができないんですよね。私はもうイベント会場のある東京へは戻れません」

 そこまでできていたのならば、あと一歩のところだったのか、とやはり計画は順調だったのだと知った。その件がなければ。

残念です、とは言えない。

「今日は本当にありがとうございました。こんな暗いお話にお付き合いありがとうございました」

 何を言ったらいいかもわからなくてただ適当な返事をしてこちらはほぼ話すことが何もないままチャットは終わった。


 光さんとのチャットを終えると僕は再びベッドで横になり考え込んだ。

 光さんの発言を見て、色々と思い起こさせられるものがあったのだ。

 今の環境もいつまでもこのままじゃない。

 親の死別。学校の退学、将来をあきらめることは誰にでもいつでもおこりかねない。

 つまりやりたいことができるのは今のうちだけなんだ。

 環境が整っていて、仲間がいて、活動をできる環境の生活で、年齢の若さ今しかできない。それを今無駄にできない。

 春に加奈に出会って。初めて同士を見つけて、活動を始めて、いろんな出来事があって。

 それでこの企画まで立ち上げたのにここで達成もできずに終わろうとしている。

 本当にこれでいいのか?

 せっかくみんなで楽しみにしていた企画も本当にこのまま終わっていいのか?そのことが心の中をぐるぐると回った

「なんとかならないのか……」と考えたが何もできないままでいる。


 このままでいいのか?今までこのゲームの話題探しといえばツイッターや検索サイトでプラネットノースの関連用語でサーチエンジンで検索をしてヒットした情報をみるくらいだった。

 昔はインターネットを覚えた小学校の頃はSNSがまだ普及し始めだったので

あの頃は巨大匿名掲示板にプラネットノースの専用スレがあったのでそこを見て、毎日新たなレスや書き込みがないかを見るだけのいわゆるROM専だった。

 匿名掲示板など小学生の子供にとっては学校の教師や家族に「恐ろしい場所だからトラブルに巻き込まれるので書き込みをしてはいけない」と言われていたからだ。

だからあの頃はただ、他の人の会話を傍観するだけの立場だったからなおさら「いつかは自分も情報を発信する側になりたい」と密かに憧れていた。

 なので今、自分のアカウントを持って好きにゲームへの話題を出せる、プラネットノースのイラストをアップロードし、同じプラノスファンと共有し合う。

 それはいわゆる自分の幼い頃の夢が1つ叶ったようなものだった。

 今となっては同じ学校に同士が見つかり、活動を始め、オフ会参加なども連ねてここまで来た。

 参加者が希望に満ちて企画を立てたこの計画を終わらせていいんだろうか?


 しかし自分に何ができるというのだろう?

 光さんの苦しみを自分に分かち合うことはできない。慰めの言葉や同情をかけることはできてもだからといってその人の家庭環境や人間関係を変えられるわけではないのだ。

 しょせんは他人というものはいざ何か不幸が起きた人の前では無力なものだと実感した。

 こんな自分が何かしたい、なんて何様のつもりだろうか、図々しいとも思える。

 思えばアンソロジー企画も光さんが立ちあげて、僕はその計画に乗っただけでほぼ光さんが主導で動いていた。

 つまり僕は流れに乗っただけで自分からは原稿を書こうとしたくらいなのだ。

 でもせめてなら自分にできることは他にはないのだろうか?何か小さいことでもいい。

 光さんはツイッターでフォローして作品にコメントをくれたことから始まって、やりとりが続いた。

 イベントで直接会ってみて、光さんの同人誌に感動した。光さんは同人活動という金や労力をかけてまでこの時代にあのゲームへのファンとしてできる活動をしていた。

 それだけじゃなくて他に仲間を増やしたいと思っていた僕と加奈を自分の知り合いのオフ会に誘ってくれた。

 そのオフ会でよりこのゲームへのファンの愛を見てますますこのゲームが好きになった。

 そして僕たちにまでより多くのプラネットノースファンへと作品を見せるチャンスをくれたのだ。

 そこまでしてくれた人にこんな時何もできなくていいのだろうか?

 アンソロジー企画はあくまでもファンの創作活動の一環であってもちろん非公式だ。公式以外の話は認めない!というファンから見ればアンソロジーや同人誌といったファンの二次創作活動を嫌う人もいるだろう。

 しかしたくさんいるプラネットノースのファンの中でもこうしてアンソロジー企画をやりたいと立ち上げれば参加者が集まったのも事実だ。

 それならば非公式でもファンとしての活動の範囲なら二次創作だって表現としては十分ファンとしての「好き」という形だ。

 せっかくそれが実現しようとしていたのにこのまま終わっていいのか?


 どうすれば?何ができる?

頭の中で思考を巡らせていく。


 色々考えていくうちに一筋の光が指したように僕の頭の中にある考えが閃いた。

「そうだ、じゃあ……」


 その思いついたことをすぐに行動せねばならない。

 そう思いすぐさま先ほどシャットダウンしたパソコンを再び立ち上げた。


 いつまでも誰かがやっていることに流されていくだけじゃだめだ。

 そう思ったら何かしたいならすぐに行動を起こさねばならない、そう思ったからだ。

「光さん、話があるんですけど…」僕はある決心と共に光さんにダイレクトメッセージを送った



 翌週の月曜日、僕は教室で加奈が登校してくるとすぐに話しかけた。

「おはよう。加奈」

 休みのうちにラインで伝えてもよかったのだがこれは加奈には直接伝えたかった。

「おはよう、宗助くん、なんか今日生き生きしてるね」

 先週はあんなにしんみりしていたはずの僕の顔はきっとこの世の終わりみたいな顔だったのだろう。

 しかし今は違う、その絶望の中へと希望が生まれたのだ。

「うん、あのね……」

 僕は休日のうちに決まったことを加奈に報告した。

「アンソロジー企画、なんとか達成できそうだよ」



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