第11話 突然の……

 それから二週間ほどが過ぎた。

 順調にことが進む日々を送っていた中、それは突然起きた。


 ある日のとあるツイートを境に、状況は変わっていった。

 僕はアンソロジーに載せる漫画のネームが、加奈は小説のプロットが完成させた。

 アンソロジーの発行は三月で載せる原稿の入稿締切はその数週間前なのでまだまだ時間に余裕はあるのだが僕たちはいち早く原稿を完成させたかった。

 それは初めてウェブ上ではなく同人誌という紙の媒体でプラネットノースのファンの手元に届ける為にも、より完成度の高く満足できる内容にしたかったからだ。

ようやくお互い原稿作業に入れるといった具合にアンソロジー作業は着々と進んでいた。

 ツイッターの画面を開くとタイムラインに違和感を感じた

 毎日のようにタイムラインにツイートを流す光さんのアカウントがここしばらくぱったり見ない。

 そういえば光さんのツイートを最近見なかった。

光さんはアルバイトをしてるし大学のこともあってシフトとか課題とかあるだろうし、今は忙しいだけかもしれない。そういうこともあり、別にフォロワーがツイートをしない日があるなんて珍しくもなかった。

 しかしそういえばここ一週間光さんのツイートを見た記憶がなかった。

数日ほどツイートができない日だってあるだろう、と思ったが気になった僕は光さんのプロフィール画面にとんだ。

 そしてツイートログを見ると五日前の夕方にある言葉を残していた。


「急遽実家に帰ります」 


 顔文字もなく、短文で質素なツイートが投稿されていたのを最後に、光さんはその後一切ツイートをしてなかった。

 時間は五日前の夕方である十八時四十六分。それっきり一切ツイートをしていなかった

「え、実家へ?なんでこんな時期に?」

 僕は急なことに驚いた。

 こんなお盆でも正月でもない、ましてや学生の長期休みでもない時期に実家に帰るとは

 そのツイートをしたのは水曜日。

 明日が休日でもないこんな平日の真ん中にいきなり地元へ帰るとは大学はどうしたんだろうか?とも疑問が上がった。

 光さんの実家はたしか佐賀県だと言っていた。東京からはだいぶ遠い場所である。

 遠方の実家に急に帰ることになったということはそれだけ重大な用事だったのだろうか?

 それとも何か重大なことでもあったのだろうか?僕は心配になった。

 しかしそうかといってただのフォロワーにすぎない僕には光さんのリアルな事情を知ることなんてできるはずもなかった。


 そして数日間の時間が流れた

 毎日のように朝から夜の寝るまで原稿進歩状況などをしていた光さんのツイートがぱったり途絶えて数週間。

 光さんはアンソロジー主催の件もあるし、僕と加奈はそのことが気がかりだった。

 僕たちはアンソロジー原稿にも大体先が見えてきて、その入稿について等の相談をまたしたかったからだ。

「光さん、何があったんだろう?あんなに毎日ツイートしてたのにあの日以来まったく出てこない。なんかあったのかなあ?」

 僕と加奈は光さんが心配だった。アンソロジーの主催の件もだが、一応知り合いとしてもだ。

「もしかして、実家に帰ってそのままこっちに戻ってこれない事情があるんじゃないかなあ?家族に東京に戻るのを反対されてるとか?」

 それはどうだろうか? 

 本当はもうすでにアパートには戻っていて大学にも行っているが単なるそのことをツイートにしていないだけかもしれない。

 大学はあまりにも休んでいると出席日数の問題がある。

 もしも何らかの事情で東京へ戻ることができないのだとすれば大学の講義を休んでまで実家にいる用事とはなんだろうか? 

 アンソロジーの件で連絡を取りたくて試しにダイレクトメッセージを送ったりしたが返信は来なかった。

 最終手段としてアンソロジー告知アカウントの主催の連絡用メールアドレスに連絡を送ってみることしにした。

「最近どうですか?こちらはようやく本格的に原稿に取り掛かりました」という連絡だ。

 しかしこれを送っても返信は来なかった。

 連絡手段は途絶えたのである。光さんのプライベート用の連絡先は知らないのだ。

このまま主催がいなくなったったら企画はどうなるんだろうか?と不安な日々を過ごすことになった。

 いや、今は企画のことよりも光さん自身のことも心配だった。

 もしかしたら考えが変わってもう企画を投げ出したくなったのだろうか?

 でもあれだけ活動に熱心な光さんがそんな簡単に主催を降りたがるとは思えない。

もとはといえばこの企画も光さんが言い出したことだ。

「そうだ、ももさんとか光さんの友達なら何か知ってるかな?」と思った。

 光さんとはオフ会以外でのリアルでの付き合いもあるモモさんなら光さんのことを何か知ってるかもしれない。

 しかしそんなことをいくらなんでもあくまでも同じジャンルで知り合っただけのこちらがプライベートなことにまで侵入していいのだろうか?という違和感もあった。

 ネットやイベントで知り合ったとはえ主催と連絡手段が取れないからといって人間関係に外野がつっこむのはタブーとされるのではないだろうか?

 しかしやはりアンソロジーの企画の件で音信不通という状態は不安でしかなかった。

 やはりここはもう少し待ってみるしかないだろう、という結論になった。


 どうやら同じことを思っていたのは僕だけではなかったらしくオフ会参加者のグループチャットにも光さんについての波紋は広がっていった。

 チャットでも光さんの話題が出たのだ。

「最近、光さんはタイムラインでもお見掛けしませんね」といった発言からだ。

アンソロジーの執筆参加者とはたまにチャットをしていた。

 どうやらアンソロジー参加者みんな光さんについてはわからないらしい。

 あれだけツイートをしていた主催者が失踪したのだ。


 参加者はそれぞれみんなアンソロジー原稿と私生活で忙しく、頻繁にはやりとりできないがみんな着々と原稿は完成に向けて頑張っているようだ。

 それだけプラネットノースのファンが集まり、二十周年企画を成し遂げたいという熱意からだった。

 僕は今日はたまたまオフ会参加者だったモモさんとチャットをしていた。

「光さんのことはわかんないですね。私も、あのツイート見てから心配になって電話かけたり、メールやライン送ったりしたんですけどね。私以前光さんと同じバイトだったから連絡先知ってるです。こっちに戻ってきてないのかもしれません」

 光さんの失踪理由は本当にもう理由は誰もわからないのだ。

 共通のゲームが好きな者同士で知り合ったとはいえ、実際にこういったことが起きるとあくまでもリアル方面のことはわからず誰も何も知らないままになる。

「以前聞いたんですけど、光さんの実家は中学生と小学生の弟さんもいるので何かあったら弟達の面倒見なきゃいけないからなかなか帰ってこれないとかあるかもしれません」

 そうだったのか。初めて聞いた。

 光さんはゲームの話題や同人活動についてのツイート以外の日常の話だと創作についてかゲームの話ばかりであまり実家のことや家族の話題は出さないので知らなかった。

 大学で何を勉強してるかということだってこの前遊びに行った時に聞いたぐらいだ。ツイッターはあくまでも趣味をつぶやくツールとして使っている人はリアルの話題をネットに出さないのも当然である。

「そうだ。いずれツイッターにも書くつもりでちょっと報告があるんだけど」

 モモさんは改まった発言をした

「私結婚するの」

 それはおめでたい報告だった。

 モモさんは社会人としてすでに働いて自立している大人なので相手がいて結婚してもおかしくない年頃だ。

 僕はまだ高校生なので周囲に結婚する報告をした友人がいない年頃なのでそのことにどう反応したらいいかわからなかったがこういう時は祝福するものだ、とマナーで習っていたので

「おめでとうございます」と発言した。

「それでこれからは新しい家庭を迎えるために色々やることありますしこれからは家庭のこと第一にして、って旦那さんの両親にも言われてて……。旦那さんもこれから仕事忙しくなるし、同居が始まったら私がちゃんと家事しないとで光さんのことも気になるところで悪いけど、もうオフ会とか、参加できなくなるしアンソロジー企画は最後のプラノスの活動になるかもしれないです。これからは結婚式のこともあって色々忙しくなるからネットやゲームもしてる余裕なくなると思います」


 今まで親戚以外は同級生としか付き合いを持ったことがなかった僕には社会人の知り合いがいるということはこうなること、という現実を突き当てられたような気がした。

 学生と違って自立している分、生活の変化で自由がなくなるのは仕方ないことだ。

それにより新しい生活が始まる分今までとは何かが変わっていくことで失うものもあるのである。

 せっかく知り合うことができた新しいプラネットノース繋がりの仲間だったがこればっかりは仕方ない。

「だからこそ、アンソロジー企画は最後の活動になるから楽しみにしてたんですけど、これからどうなるかわからないですね」

 光さんが不在の今、そのアンソロジー企画も雲行きが怪しくなってきた、と僕はこの時思った。


 翌日、またもやオフ会仲間とチャットをすることになり今度は喜助さん話すことになった。

「光さんのこと、心配だけど、僕らじゃどうしようもないですね。僕もアンソロジー企画は楽しみにしていたんですけど」という文面から始まった。

 主催者の都合で企画がどうなるかもわからないが参加者達がいくら残念がっても

 主催者にも事情というものがある以上仕方ない、とわかっていても僕たちはついこういった話をしてしまうのである。

「実は俺、ちょっと今日お話しがあってチャットさせていただいたんですけど」とまたしても喜助さんも改まった態度をとった。

 昨日のモモさんの結婚はおめでたい話ではあるがそのかわりオフ会等の参加はもうできなくなるということだ。

 その感じがあり、喜助さんの改まった態度にはなんだか嫌な予感がした。

「オフ会主催者のモリタさんやアンソロ主催の光さんにもそのうち伝えるつもりでしたけど。俺、この企画が終わったら今後はツイッターとかネットに出るのもオフ会参加もやめさせていただきます」

 その文面に、僕はああやっぱり、と思いながらチャット画面をただじっと見つめた。

 喜助さんもアンソロジー企画を最後に今後はをやめるというのだ。

「うち、親父が一応社長なんですよ。昔からそういう家系で……」

 喜助さんのプライベートも初めて聞いた。

 年齢が近い分、もっと親近感があると思っていたが実際はすでに家柄がそういう立派な家の子供だったのだ。

 しかしそれならば古いゲームなどいろんなゲームに若くも手が出せていた理由も納得だ。

 高校生ではあるが家庭が裕福で経済的には恵まれていてゲームなど趣味にまわせる金銭面が安定していたためなのかもしれない。

 その発言に今まで勝手に抱いていた親近感が遠ざかったような気がした。

「いつかは俺が後継ぎしなきゃいけないし、そうなるとどうしても大学に進学しなきゃいけないんですよ」

 予感は的中だった。やはり喜助さんもそういった報告なのである。

 年が近く、同じ高校生として親近感を抱いていただけにオフ会後もやりとりをしていたのでその喜助さんがネットも活動もやめるのは残念だと思った

 僕と違って家庭の事情があるなら仕方ない、とは思うが同じゲームが好きで高校生という年の近いこともあり、喜助さんとはこれからも仲良くできると思っていただけに少しショックだった。

「うちの高校は進学校なんでこれからは授業も勉強も忙しくなるし。大学に行くにはもっと勉強しなきゃいけなくて。今までは勉強の息抜きとして、ゲームやったり、途中までは趣味に打ち込みたいと思ってたから中学時代から『プラネットノース」にはまって。そしたら今でもそのゲームすっごく好きっているってことを教えてもらって、去年光さんに誘われたからツイッター始めたり、オフ会参加とか色々してたんですよね。でももうそろそろそういった趣味も潮時かなって。そろそろ本格的に受験勉強に専念したいっていうか……」

「そうですか……」

 残念だとは思ったがリアルの事情がある以上仕方ない。それを引き留めるのも変な話だ。

「だから俺はアンソロジー企画が終わったら趣味への活動はやめます。でも俺は『プラノス』が嫌いになったわけじゃないです。今でも大好きだし、その情熱は今後も変わらないです!だからこそこの企画にも乗ったわけで……。アンソロジー原稿は俺のプラノスファンとしては努力の結晶にするんで。ソウジロウさんは俺がいなくなっても高校生のプラノスファン代表としてがんばってください!」

 喜助さんとはそんなやりとりをして終わった。

 彼もまた、リアルでの生活が忙しくなって自分自身の将来の為へと頑張るのだ。

 昨日に引き続きまたしても仲間がいなくなることを予告されたのはちょっとだけ物悲しい気分だった。


 オフ会主催者だったモリタさんは社会人として秋から仕事がとても忙しいシーズン職種とのことでアンソロジー企画が立って以降はほぼツイートもなくなって近況がわからずたまにアンソロジー企画のことを触れた内容を本当に時々ツイートするくらいだった。

 僕はチャットを終え、パソコンをシャットダウンすると、なんとも心の中に穴が開いた気分だった。

 いろんなことが一度に起こり、考えがまとまらない頭を冷やすためにも気分転換に部屋の空気を入れ替えようと僕は部屋の窓を開けた。

 秋らしく涼しい風が部屋に入ってくる。空を見上げると星が見えた。輝いてる星、もあれば光が薄い星もあり、てんてんと点滅する飛行機の光、それはまるで僕たちの繋がりを表しているようだった。

「みんなそれぞれ忙しいし、仕方ないか。いつまでもあの時のまま。なんていかないし」

 この楽しい日常はずっと続くと思っていたがそれは永遠ではない。

 こうして時間が経つにつれ、みんなが新しい道へ進めばそれと引き換えに失うものもあるのだ。

 アンソロジー企画も主催者が音通不振の今ではどうなるかもわからない。

 今まで順調に進んでいたものが次第にちょっとずつ崩れていくような気がした。

 せっかくできた繋がりも失われていく。

 新しいものを得れば失うものもある、とはいうがやはりこうして一度得たものを次々と失っていくのは辛かった。

 もちろん今でも学校の友達と過ごすのは楽しいし、クラスメイトで部活仲間に「プラノス」仲間の加奈がいる。

 リアルの生活方面では何かが劇的に変わったわけではない。

 僕はまだ高校一年生でそこまで本格的に将来のことや進路について悩んでいるわけでもない。

 僕の周りは何一つ変わっていないし、変化もない。

 あくまでもオンラインで繋がっていた「同じジャンルを通じてできた関係」が終わっただけなのだ。

 僕の家族や学校での交友関係に変わりがないのなら今まで通りにしていればいいだけの話なのだがそれでもやはり一度手に入れた環境を失った寂しさもあった。

 そこへラインの通知音が鳴った。加奈からだ。

「いきなりだけど……私、宗助くんに出会えてよかったと思ってるよ。そのおかげでずっと誰にも言えなかった「プラネットノース」の仲間ができて、いろんな活動して、そして新しい挑戦もできて。宗助くんが誘ってくれなかったら今の私はないよ。また明日学校でね」

 なぜこのタイミングで加奈はこんなことを送ってきたのか。

 たまたま言いたかっただけなのかもしれないがこのタイミングなのでさりげない励ましに僕は涙が出そうになった。

もしこのまま光さんがいなくなれば加奈が自分から参加表明をしてたアンソロジーもどうなるかわからない。

 加奈とってもその不安定な気持ちがあるだろうけど、加奈なりにどうにもならないことは仕方ないと受け入れられているのかもしれない。

 もしも本当にこのままアンソロジー企画が倒れれば、モモさんや喜助さんとの最後の共同活動もなくなる。


 何もすることはできないまま時間だけが流れていった。



 不安定な状態が続いた三週間後ダイレクトメッセージに新着通知が来ていた。

「誰だ?」と思いスマホ画面をいじるとその差出人は光さんだった。

「光さん!?なんで……!?」

僕はそのまま二度ともう返事が来ることがないまま終わるのかと思っていた相手から突如にメッセージが届いたことに心臓が飛び出しそうだった。

スマホを持つ手が震えるのがわかる。

 今まで何度も連絡を送っても返信が来ることのなかった相手からやっとの返信。

もう来ないのかもしれない、と諦めつつ心のどこかでは待っていたことだった。

今までずっと音通不振で今頃になって連絡をくれたことにドキドキしたが、反面また光さんまでもがモモさんや喜助さんのように去っていくのではないかと思え

僕はメッセージを読むことが怖くなった。

 しばらくスマホから目を離していたがしかし読まなくては前に進めないような気がする、と数分後、ようやくスマホ画面をフリック入力で指で操作し、メッセージをタップした。

 そこにはこう書かれていた。

「いきなり音通不振になっちゃってごめんなさい。みんなに迷惑かけてしまったことをお詫びします。アンソロジーの主催のこともあるのにまるで逃げ出すような形にもなってしまって本当にごめんなさい」

 今までずっと連絡が取れなかったことに対する謝罪の言葉が並べられていた。

そして僕は本文を読み進めた。

「ソウジロウさんががこっちのことすごく心配してくれてるのはメッセージから伝わりました。そうですよね今アンソロジー企画の主催のこともあったのに。せっかく皆さんが私の企画の為に原稿を作ってくれていたのに私の事情で音通不振になって、勝手だったと思う。本当のごめんなさい」

 光さんは謝罪の内容を何度も重ねていた。

 その文面には謝罪よりも僕は光さんが無事でよかった、とほっとした。

 そして次に届いた光さんからのダイレクトメッセ―ジを開いた。

「ミココさんにもメッセージ送るつもりだったけど、ソウジロウさんはミココさんと同じ学校なら、できればもし学校でミココさんに会うならソウジロウさんから伝えてほしい。私から言うのもなんだか辛くて」

 そしてその下の本文をスクロールするとその内容に僕は驚きを隠せずにいた。


 

「そうか……! そうだったのか! だから光さんずっと……」

 今まで光さんがなぜいきなり音通不振になったのか。そこには光さんが東京からも、オンライン上からもいなくなった理由が並べられていた。

 僕はダイレクトメッセージを何度も読み返した。



 翌日、朝のHR前にて加奈に昨日のメッセージの件を伝えることにした。

 光さんは何度もあの内容を打ち込むのは辛いから同じ学校なら加奈に伝えてほしい、と言われたからだ。

 朝の生徒玄関で生徒が登校してくる。

 十二月という寒い冬なので生徒はみなコートやマフラー等と言った防寒具を身に着け、女子は短いスカートにタイツを着用している者もいて外では白い息を吐く。

 去年は受験生だったので十二月は入試まで残り三カ月という時期で受験勉強に集中していたが志望校に合格した今年は無事にその高校で学校生活を送れている。

そんなことを考えながら加奈を待っていた。

 加奈は紺色のコートと赤いマフラーを付けて、寒そうな素足にいつもの紺のハイソックスだ。

 加奈の姿を見つけると駆け寄った。

「加奈、話があるんだけど」

 僕の辛辣な表情に、加奈はどことなくあまりいい知らせではない、と察していたのか「何?」と聞いた。

「ここじゃちょっと。学校のことじゃなくてネットのことだし」

 僕は登校してきたばかりの加奈を連れて人通りの少ない廊下へ行く。

 あんまり学校などリアル生活の場ではインターネット上のことを言うのは内輪ネタになるのでなるべく人前じゃない方がいいと思っていたからだ。

「実は、昨日光さんから連絡が来た。それを加奈にも伝えてほしいって言われて」

すぐにそのことを伝えた。

「そうなの!? で、なんだって?」

 アンソロジー企画を立てていたがその主催者が音通不振になり

 ずっと連絡が取れなかった光さんからの伝言。

僕は言う覚悟を決めて、口を開いた。

「うん、実はね……」

光さんからの連絡の内容を説明することにした。

僕の口から加奈に直接伝えてほしい、と光さんに言われたからだ。そのくらい深刻な内容だった。

どこから話せばいいのか、わからなかったけど、順番に話すことにした。



「光さん、もうアンソロジー企画できないかもしれない」

と、そうつぶやいた。



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