第9話 ゲーム発売二十周年の企画をしよう

夏休みが終わり、二学期が始まった。

学校が始まると、僕は夏休みにも色々あったなあと思い返し、イベントに行ったり深い夏だったと思い出に浸った。


 オフ会が終わった後、その時の参加者とはちょくちょくツイッター上でやりとりをしていた。

 さらにプラネットノースやゲーム繋がりのフォロワーも増えたことで僕のSNSは充実していた。

 普段はフォロワーとはツイッターでのやりとりがメインだがそれぞれの参加者とは光さんのようにチャットIDを交換して時々チャットでリアルタイムで会話したい時があるとグループを組んでチャットをする時もあった。

 やはりツイッター上でのやりとりは返信までに時間差がどうしても発生するがチャットだとリアルタイムで会話ができる分、ツイッターよりも楽しいのだ。

主な話題は「プラネットノース」をはじめとしたゲームの話題ばかりである

 今まではツイッター等SNSでのみのやりとりは文字数の都合でいまいち本気でプラネットノースに熱く語れない語れないものだったが一度リアルで会った者同士だと少しだけ距離感が縮まったような気がしてなおかつ文字数の制限のないチャットではいくらでも存分に話すことができた。やはりリアルですでに会ったことのある人物は話しやすいものだ。

 そして同じゲームが好きという共通の話題があり、オフ会同様それについて語るのにはネタが尽きなくて毎日しゃべっていても次々と話題が出るほどだ。

 とはいえそれぞれお互いの生活があるので毎日ツイッターのように簡単に絡んだりするのは無理だ。

 それでも週に一回のペースで休日の夜などみんなが自宅にいる時間帯などはメンバーが集まりやすかった。

 SNSでのフォロワーとのやりとりも楽しく、ウェブ上にプラネットノースの作品をアップし、学校では加奈と部活動、そんな日常が続いていた。


 ある日、タイムラインで光さんがグループチャットでプラノストークをしよう!という誘いを出してそのままチャットに僕も参加する流れになり今日は他のメンバーとの都合が合わず、光さんと僕と加奈の三人でチャットをすることになった。

 他のメンバーは最近のところ多忙なのかタイムラインでも見かけることが少なく時間が合わないからだ。

 チャットではこの三人での組み合わせのトークは初めてだ、と僕はチャットを繋ぐ瞬間緊張していた。

 よく考えたら夏の同人誌即売会でリアルで会った組み合わせである。


「こんばんわ。夏のオフ会楽しかったですね」という光さんの挨拶から始まった。

 チャット画面では次々と発言が書き込まれていく。

「ソウジロウさんもミココさんもオフ会ではプラノス愛を語ってて、本当にあのゲームへの情熱が伝わってきました」と光さんは発言した。

 僕はカタカタと熱心にキーボードで文字を打ち込み、返信をした。

「あんなにも今の時代にもプラノス大好きな人がいるってわかったらもっといるかもしれませんね」

そう書き込んだのだ。

「そうですね。日本中ならもっと各地にプラノスファンはいるかもしれません」と加奈ことミココの返信がついた。

「私もこうやってお二人に出会えたのも運命感じます。今年はせっかく『プラネットノース』⒛周年なんだから私達で何かしたいですねみんなでプラネットノース二十周年をするとか。公式が何もしないなら私達ファンでやっちゃおう的な」

「みんなで二十周年生誕祭するとかどうです?みんなでプラネットノースへの思い出を語るツイートを流すとか」

 ふとその発言を見て、僕はその意見に目から鱗だった。

プラネットノースの制作会社はもはやプラネットノースは過去に発売したゲームの一つであり、今年が二十周年でも大した動きはないがそれならばオフ会みたくファンの自分達が二十周年企画をすればいい、とのことだ。

 もちろんファンが勝手にやる活動なのでオフィシャル的には非公式だし、あくまでもファンの中だけのお祭りになるが。

「それ楽しそうですね!」

 光さんがアイディアを出して加奈は賛同していた。

 二十周年記念にそういったハッシュタグを作り、タイムラインへ流してプラネットノースファンが二十周年記念ツイートを流しまくる、といったアイディアだ。

 チャット画面に「こういうのはどうだろう?」という提案が流れ、一通り話終えるとふと加奈が発言した。

「私も同人誌とかそういうプラネットノースの本作りたいなあ」

 加奈ことミココさんはは続けて発言した。

「光さんみたく、印刷した紙の本作りたいなあ……なんて願望もあるんですよね。私は小説ですけど。以前光さんの同人誌、買ってみてオンラインだけじゃなくて形にするのもいいなあって思って。」

  それは加奈の本音だった。イベントに行った後からよく同人誌についての話題を出していた。

 光さんの同人誌に感動して、自分もこんな風に本を作ってみたいと。


 この時、何か歯車が回り始めていた。

「いいんじゃないですか?やってみてはいかがでしょう?」

 光さんは即座に肯定の返答をした。

「ミココさんが小説を書いて、ソウジロウさんが挿絵を描くとかどうです?」

「でも私、本にするほどの長いお話とか書いたことないし……。今になってようやく小説の形が書けるようになってきたってレベルでとても同人誌を出すほどじゃ……」

「同人誌は世に形を出すのが楽しいのでどんな内容でも誰でもできますよ。

私も最初はくっそ部屋な絵しか描けなかったけど今こうして本作ってますし、ようはやる気ですね」

 同人活動の経験者の光さんは謙遜した発言をした。

「下手だなんてそんな! 光さんの絵はすごく綺麗ですよ!」とすかさず加奈が返信する。

そこへ僕も思ったことを書く。

「高校生に同人活動はハードルが高いですよね。印刷費イベント参加費とかお金かかるし、学業との両立での制作活動するとか難しそうで……。でもそういう自分の書いたものが何か形になるっていいなあと憧れてるんですよね」

 加奈の発言に僕は付け足すように答えた。

 それは以前から創作活動の枷となっている悩みだった。

「活動というほどでもないけど、何かやるとしたら『プラノス』は関係ないですけど

私達、学校の学年末に出す小冊子でちょっとだけ部活動一環として自分達のイラストとかトークとかを載せて新入生への部活動紹介になることをやるんですよね。こういった活動くらいで精いっぱいかなあと思ってて」

「へえ、二人の学校ってそんなことやるんだ。自分達の活動の記録を全校生徒にアピールする機会ですよ。いいですね,まさに青春です」

「私達ができること同人活動は無理でってそのくらいが精いっぱいですね」

「でも同人活動も楽しいですよ! 学校の小冊子だけだとそれを見せられるのは同じ学校の中とかその高校への進学希望者の中学生とかじゃないですか?でも同人誌なら好きな作品の二次創作が描けるし、イベントに来る人に買ってもらえるし、もっと多くの人に自分の活動を知ってもらえる機会にはなりますよ」

 光さんの同人活動への情熱は本物だ。

「でも私達まだ今年同人イベント初めて行ったくらいですし……」

「僕も同じですね。同人活動についてよく知らなくて」

結局僕らにできる活動はせいぜい学校の中とあとはSNSで好きな作品へのトークや二次創作をアップロードするくらいなのである。

加奈が部活に入った時「プラネットノースをもっと布教したい、等と言ったが実際に高校生にできる活動は幅が限られているのだ。

せいぜいネット上と同じ学校や周囲の中で楽しむしかない。

それがわかっているから僕もオフ会に参加したりはしたがそれ以上の活動はできなかった。

しかしそういう僕らの発言に対し、光さんはある提案を出した。

「それなら、私達で作っちゃいませんか?」

光さんの発言に、僕はタイピングの手が止まった。

なんだかまるでこれからとんでもないことが起きそうな、そんな予感すらした。

「作るって何をですか?」

加奈が発言すると僕も似たような発言をかいてしまった。

「私達」という語句が気になるのだ。

「私が作る」ではなく「私達」とはどういう意味だろうか?

光さんが単独で何かをするのではなく僕達も巻き込んで何かをするということだろうか。

「だから……」

僕は息を飲んで光さんの発言を待った。

この時の次の発言がチャットに表示されるまでの時間は待っている分いつもより長く感じた。

「『プラネットノース』の同人誌ですよ!」

光さんはやはりそう発言した。

「同人誌?光さんがまた作るってことですか?」

その言い草にいまいち理解できず、加奈はそう書き込んだ。

「はい。それを今度はみんなで作ろうってことですよ」

「みんな?」

そして光さんはこう書き込んだ

「いわゆるアンソロジーというものを発行するのです」

その書き込みを見て、見慣れない単語に僕は頭にクエスチョンマークがついた。

「アンソロジー?なんですかそれ」

「聞いたことないですか?同人活動の世界では同じジャンルが好きな人同士で集まって、合同誌やアンソロジーを出したりすることがあるんですよ」

同人イベントに行ったのだって初めてだった僕らにはすぐにはピンとくるものはなかった。

すると光さんは「ここを見てください」と言ってチャットにURLを張り付けてくれた。

それはアンソロジーについての説明のウェブページアドレスだった。

僕はさっそくそのページでアンソロジーについて解説を読んだ。

同人誌とはサークル主が単独で出す「個人誌」の他にも「合同誌」「アンソロジー」といったものもある。

『合同誌』や『アンソロジー』はつまり一つつのジャンルにしぼってその同じジャンルのテーマにそった同人誌を複数で作るというものだった

『合同誌』と『アンソロジー』の違いは、合同誌は仲が良い参加者が協力して原稿を集め本を作り、その本の売り上げをそれぞれに分割するのものでアンソロジーは同じジャンルの参加者を集め主催の元に原稿を集めて主催者が印刷費など製造にかかる費用をすべて出して本を発行し、売り上げもすべてその人のものになり参加者に売り上げはいかない、という違いだった。

これがアンソロジーというものか、と納得した。

しかしあくまでも二次創作はファンの活動であって公式は関係ない。

二次創作自体が版権的にグレーになっているのでもしも公式が訴えたらアウトである。

同人活動とはそんな一歩間違えれば危険スレスレな大きな活動なのだ。

そこでやはり気になっているのはやはり「私達」という発言だ。

「アンソロジーについてはわかりましたが……これをみんなで作るって……僕らもですか!?」

「そう、『プラネットノース』が好きな人達を集めて私達でアンソロジーをみんなで作ろう!ということです」

光さんの発言にやはり僕らも巻き込まれていると悟った。

「今年で二十周年だし、何かみんなでできることないかなって思ったらこれがいいと思うんです」

たまたま今日のチャットでふと出た話題から話がとんでもない方向へ行っていることに僕は驚きを隠せなかった。

「そんなこと私達でできるんですか?」

「アンソロジーの私達で参加者を私達で集めて。私達でプラネットノース二十周年をお祝いする、そんな記念本を作るという企画はいかがでしょう?」

光さんのぐんぐん進んでいくその発言に同人活動のいろはも知らない僕と加奈は置いていかれそうになりながらもなんとか話題についていく。

「同人誌については読むことはできても作る方の知識は全然知らないんですよ?ましてや一緒に本を作ることに参加なんて……」

加奈はすぐには賛成にはできない意見を発言した。

「大丈夫。アンソロジーは参加者が集まれば発行については主催者に任せればいいから私が印刷費とか製本は私がやるし、私がイベントにサークル参加して頒布するってことで」

「それって絵が描けなくても参加していいんですか? 私はまだオンラインで小説書いてるくらいで作品としての本に出すの内容は書けないんですけど……」

「そこは大丈夫ですよ。別に絵が描けなくても小説じゃなくても考察やコラムとか自由に書いてくれればいいんです。要は『プラネットノース」についての内容ならなんでもOKです』

 同時活動をすでに経験している光さんの言うことにはなんとなく説得力があった。

「発行日は今から半年後の三月開催のゲーム系オンリーイベントにして、二十周年記念アンソロジーで内容は絵でも漫画でもいいし小説やコラム、考察とか文章もOKで!それにみんなで参加するってのはどうでしょう?」

同人活動に慣れている光さんはもうそんな先の予定を計画していた。

学年で生活をする学生にとっては一年のうち四カ月というのはとても長い時間だ。

僕はそんなすぐに先のことまで決められない、と思ったが先ほどのアンソロジーのページを見て、こういった共同制作は早い段階で数か月後のイベントや発行の同人誌を決めるのが当たり前、という部分を思い出した。

急ではあるが今決めなくては半年後のイベントには間に合わないのだ。

「でもそんなあと数か月くらいで参加者集まりますかね? さっきアンソロジーの説明ページ見たらそういうのって企画は一年くらい前から立てて参加者を募集した上で原稿とか集めるみたいですけど……」

急に動き出したこの企画に僕は不安を感じた。

ただでさえ発売も昔でマイナー気味なゲームにましてやアンソロジーの参加者なんて集まるだろうか?

そもそも参加者が集まって発行にいたっても売れるかどうかがわからない。ただでさえブームが過ぎ去ったコンテンツはどんどん過去に埋もれていくのが今の世の流れだ。現在流行中のゲームであればそういったファンの活動もまだ流行の波に乗れるかもしれないがプラネットノースはあまりにも時代が昔なのだ。

もしもそういった同人誌を発行したところで手に取ってくれる人がいるだろうか。

「それなら私の『プラノス』繋がりが参加してくれると思いますよ。去年からずっとみんなで「来年の二十周年に何かしたい」って言ってたのできっとこの話にのってくれると思います。私の方からもみんなに呼びかけてみます。あとはツイッターで他の参加者募集すればいいのです」

光さんの知り合いで「プラネットノース」を好きな人が参加するなら、と思えば少しだけ安心な気がした。

僕のツイッターのフォロワーもすでにプラネットノース関係だけで七十人にのぼっていた。

その中からでもこういった企画を呼びかければ参加者は集まるかもしれない。

しかしやはりどこか不安もあった。

「私達で作るプラネットノース二十周年アンソロジー。どうでしょう?」

しばらく僕は何も言えなかった。

キーボードを打つ手が止まり、チャット画面は光さんの発言を最後に止まった。

そんな企画を動かすようなことに軽々しく乗っていいのかという心配があったからだ。 

もしも参加する、と言っておきながらあとからやっぱりできません、と逃げることは許されない。そうなると責任も重いのである。

約三分間のチャット画面のログが途絶えた中悩んでキーボードを叩く手が止まり、チャットの発言ができずにいる僕に対してその沈黙を破ったのは加奈の返信だった。

「私、やりたいです」

その加奈の発言に「おいおいマジかよ」と僕は加奈の行動の早さに驚いた。

「そういう何かプラネットノースの為に動ける企画、乗りたいです!文章でよければ書けます!」

加奈はその話に賛成だった。


僕はどうする? 

同じ学校で、クラスメイトで部活仲間、何よりリアルでの数少ないプラネットノース仲間の加奈が乗り気なのに僕はやらない、なんていうのも変ではないか?

そんな迷いはあるものの僕は返答できなかった。

「ソウジロウさんはどうかな?」

「僕も……考えてみます」

情けないと思いつつすぐには決められない自分にイラつきながらも、返信した。

「いきなり急な計画ですみません。原稿締め切りはイベント二カ月前くらいになるからまだ数か月ありますし、そこはゆっくり考えてください」

そう言われこの日は時間も時間だったので今日はここでチャットをお開きにした。


何かとてつもなく大きな計画が動き始めている、そんな大きな出来事に巻き込まれているような、そんな予感がして寝る時にとても心がドキドキしていた。


早く回答をせねば、と思うがなかなか踏み切れなかった僕は翌日学校にて加奈に光さんの企画へ参加する理由を聞いた。

「加奈、昨日のチャットの件なんだけどさ」

ようやく二人っきりになれた放課後の部室でその質問を投げた。

「なんでいきなりアンソロジー参加したいって思ったの?」

僕は参加はどうしようかまだ踏ん切りがつかなくて迷っていたからだ。

だからなぜ加奈がやる気になったのか知りたかった。

その加奈の考えによっては僕も気持ちがまとまるかもしれない、そんな期待があったからだ。

加奈は「うーんと、ね」と理由言い始めた

「私ね、宗助くんにプラネットノースの活動を広げる為にってことでSNSをを勧められてツイッター始めたじゃん?」

返ってきた言葉はまずそれだ。

「最初はあまり期待してなかったんだけど、SNSを始めてみたら、ネット上には『プラノス』好きな人がいっぱいいて、リアルではあんまりあのゲームの話題もできない生活だったから。今の時代でもあのゲームの愛を叫べるっていいな、って思ったの」

その理由に、僕は何も言わずに聞いた。

「人の語りを見るだけじゃなくて自分の語りにも反応をもらえるって、楽しくて。

ほら、私あまり今までゲームの話とか友達にはあまり言えなかったから。だからあれ以降少しでも『プラノス』ファンの目に入ることがしたかったんだよね。宗助くんのおかげでそうやって考え方変わったわけだし」

加奈のその表情にはその悟りがあった。

僕が最初に加奈をSNSに勧めたことが大きかったのか。

「それでさらにイベント行ってみて光さんの同人誌読んでみたら、好きな作品について形に出せる世界ってなんて素敵なんだろうって思った。ただネットで発言するだけじゃなくて同人誌という形にする、それを手に取ってもらえるのが自分にもできたらな、って。だからアンソロジーの話が来た時、チャンス! って思ったの。まだ自力で本を作るまでの力はないけど誰かの話に乗るならできるって」

先ほどとは打って変わってあまりにも生き生きと話すその様に加奈の心からの本音を聞いた気がした。

僕としては加奈にSNSを勧めたのは仲間を増やしたい為にやっていたことだがそれは結果的に加奈にとっては大きなきっかけになっていた。

「私としては、この高校に入学して、宗助くんと出会ってこうやってまた『プラノス』についていろんな話が広がるのがとても嬉しいことなんだよ。だからこそ、あのゲームについての活動が何かできるならそれが例え非公式でも、版権的にはグレーな二次創作でも何かやりたかった。そんな感じかな」

少しだけ微笑んだその表情にだからこそ今がそのプラネットノースについて何かができるチャンスの時なのだと僕は思った。

まさか昨日のチャットで加奈がそんな想いでそこまで考えていた上での発言だったとは、と考えながら「加奈がそう思ってるなら僕もやりたい」と思った

「僕もやっぱり参加しようかな」

僕は考えを巡らせてその決断をつぶやいた。

加奈がこういった真剣な考えで動いているのに僕が何もしないのはダメだろうとも思ったからだ。

「本当! じゃあさっそく今日の夜にでもそのこと光さんに伝えたら?

嬉しいなあ。もしこの企画、宗助くんは乗らないってことだったら一人で参加するの不安だったんだ!昨日の反応的に、宗助くんはあんまり乗り気じゃないような気がしたから」

加奈のその笑顔はいつも僕も元気になる。

それはクラスメイトの中でもマドンナ的存在の加奈だからなのか、それとも僕の異性に対する感情なのか。それともただのゲーム仲間としてなのか、それはわからないけど

ああ、加奈の笑った顔が好きだなあ、と僕は思った。


その夜僕は光さんにダイレクトメッセージを送った。

「昨日のチャットで言っていた企画についてなのですがアンソロジーの件、僕も参加します」

もう決めたことだ、主催者に言えばもう後戻りはできない

そう覚悟を決めつつ、そう書いたメッセージをエンターキーを押して送る。

カチっと送信ボタンを押したその瞬間「よくやった」と僕は達成感を得た。


約一時間が経つ頃にメッセージに光さんからの返信が来ていた。

「企画に乗ってくれてありがとう!今告知ページとか作ってますので、みんなで無事に企画ができるよう頑張りましょう!」

そのメッセージに、僕はいよいよ大きな企画に参加することになったのだと確信した。


光さんがアンソロジー企画を考えて二週間が経過した。

オンラインには「プラネットノース二十周年記念アンソロジー」というアンソロジー告知アカウントと告知サイトがが完成していた。

光さんの仕事の早さについにチャットで生まれた企画が動き出そうとしている、と僕はそのページを表示しているパソコン画面を見てドキドキした。


そして参加者の現在に確定メンバーの名前がアップロードされていた。

そこには参加者メンバーには「主催者・光」とあった。

執筆参加者の名前はあいうえお順に

「喜助・ソウジロウ・ミココ・もも・モリタ以下募集中」の僕と加奈を含めた夏のオフ会参加メンバーだった。本当にあのオフ会メンバーに誘いをかけて了承を受けたらしい。

それぞれがイラスト、漫画・小説、考察といった形で参加することになる。

僕は漫画を描き、加奈は小説で光さんはもちろん漫画という形だ。

そしてさらに「参加者募集」の文字に「参加希望者は十二月末までに主査者への連絡をお願いします」と書かれていた。

 オフ会参加者以外にもプラネットノースファンでアンソロジー参加者を募り、みんなで作ろうということだ。

「いよいよアンソロジー企画が本格的に動き出したんだな……」

 完成された告知サイトを見て自分の名前が表示されているのを見るともう今さら引き返すことはできない。後には戻れないと。

それならば僕ができる限りの全力を尽くした作品を出そう、と思った。

 僕はアンソロジーに載せる原稿はどうしようかと色々考えたりした。

 加奈にラインで相談した。

「アンソロジーって何を書く?」という質問だ

すると「宗助くんはもちろんあの画力で漫画描けばいいんじゃない?私はもう原稿用の小説考えてるよ!」と即座に返信が来た。

 加奈はすでにアンソロジーの原稿用の小説のプロットを練っているとのことだ。

 僕は漫画を描くことにして、加奈は小説という媒体にすることになった。

 僕は漫画で加奈は小説で主催者で同人活動をしている光さんももちろん漫画という形だ。

 加奈はプラネットノースの二次創作小説を書き始めてからもずっと家で文章の練習をしていたようで文章力がメキメキ上がってきて「いつか『プラネットノース』の小説をいつか印刷物の形で発表したい」と前から思っていたらしい。

 その夢が今、実現しようとしているのだからそれはもう熱心にやっているようだ。

 実際にアンソロジーが発行されるのは半年後というまだまだ先のことだが、そういった企画はすでに何か月も前から動き始めねばならないということになる。

 先のことがどうなるかもわからない状態だが乗りかかった船なのでできることは全力で果たそうと思った。



 学校の部活でもプラネットノースのアンソロジーに載せる予定の原稿はどんなのがいいかな?という話をしたり家に帰れば主催者やアンソロジー参加者との打ち合わせのチャットをしたりする、そんな日々になっていった。

 幸いにもアンソロジー参加者を募ったところ、初期で決まっていたメンバーよりも

さらにツイッターで名乗りを上げたプラネットノースが好きな五人の参加者が決まった。

 その募集した執筆者の五名はすでに二次創作の経験がある人ばかりで皆漫画や小説などのなんらかのストーリーものでの参加を希望していた。

 もともとこういったアンソロジーの執筆者募集の場合は最初から何らかの二次創作に関わっているものがそのジャンルを題材なアンソロジーに参加したいという気持ちで集まる。

 それならば問題なく僕ら以外の執筆者もすでに決まったのである。

 企画は今のところ順調だった。


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