第8話 レトロゲームの店に行ってみよう


 オフ会の数日後。

 夏休みも残りあとわずかとなった平日の昼。

 日曜日に約束した通り、僕はまたもや加奈と待ち合わせで今度は秋葉原に来ていた。

 秋葉原の駅は平日の昼だが混雑していた。

 アニメのポスターや展示物のある秋葉原駅で僕は加奈を待った。

「おまたせー。秋葉原の駅ってややこしいからちょっと迷っちゃった」

 そう言って待ち合わせ場所に現れた今日の加奈はガーリッシュあふれるファッションだった。

 髪をシュシュでまとめ、水色のキャミソールワンピースにサンダル。オフ会の時とはまた違う加奈のファッションにときめいた。

 よく考えたら女子高生と二人っきりで繁華街ってこれ、デートじゃないか?

 今まではイベントやオフ会といった他の人もたくさんいる場所に行ってただけなのでそんなことは気にしていなかったのだが今日は二人で街を歩くのである。学校や部活で会うような形でもなく完全にプライベートだ。

 もしもこんな姿をクラスの奴らとかに見られたらクラス一の美少女とデート、なんて思われるかもしれない。


「どうしたの?行こうよ?」

 そんなことを考える僕を上目に加奈は顔をのぞき込む。

 そうだ、これはデートなどではない。加奈にとってはゲーム研究会の外での活動として店に一緒に行くだけなのだ。

 一瞬でも横やりな考えになった自分を恥じた。


 そして僕らは歩き出して秋葉原駅前に出た。

 建物上には大きな飾りはは現在放送中のアニメなど二次元作品広告だらけのまさにサブカルチャーに特化したビル街。

 学生の夏休みということもあってなのか平日だというのに大勢の人が行き来する大通り。

 夏の終わりとはいえ天気もよく日差しが暑い。

「すっごーい。あちこちにアニメの看板があるー!」

 駅を出ればすぐにアニメ系ショップのビル店舗が目に入る。

 現在タイアップ中のアイドルアニメの看板がビルの窓に取り付けられており、美少女キャラクターのイラストがあちこちに見受けられる。

 ビル街の店頭には電化製品が並んでいて、ワゴン商品などを見ることができる。

 PCのパーツや最新のゲームハードなどの取り扱い店が多いのはまさに電気街という感じだ。

「すっごいね。まさに街一つがアニメやゲームの町って感じだよ!」

 すでに秋葉原に何度か来たことのある僕にとっては見慣れた風景だが加奈にとっては斬新らしい。

「こんなにアニメやゲームの絵がいっぱいある街初めて来た!なんだかまるで街の中でイベントを開催してるみたいだね!」

 路上にはティッシュ配りをしているメイドさんがいたり、でまさに二次元の街という感じの場所だ。

 しかし僕らの今日の目当てはアニメや最新のゲームではない、あくまでもレトロゲームの取り扱い店がお目当てなので最新のメディアを取り扱うこの駅前とはやや目的が外れている気がする。

「じゃあさっそく教えてもらった店へ行こうか。お目当てのお店はここからちょっと歩くから僕から離れないで」

 そう言って僕はスマホのグーグルマップを見ながら方向を確認して先を歩くことになった。

「案内よろしくね」と加奈が後ろをついてきて二人で歩き始める。

 僕らはオフ会で教えてもらったレトロゲームショップに向かうことにした。

スマホのマップを見る限りそこは街から外れたひっそりとした場所にある個人商店だった。

 僕はあらかじめ店の名前でネットで検索をして店の所在地を調べておいたスマホでマップを見ながら進む。街の中心部から外れた駅前から離れたやや歩く必要のある距離だ。

 今までは基本的に秋葉原は駅前周辺にしか来たことがないのでその店の存在を知らなかった。

 こんなひっそりとした場所にある店なんて教えてらわないと絶対知らないよなあと思った。

 歩いて目的地へ向かう途中、加奈が話を振ってくる。

「ねえ、オフ会の後もあの時の参加者さん達と話したりした?私は結構光さんやモモさんとやりとりしてるんだけど、みんなやっぱりプラノス愛が深くて、オフ会で対面してからますます絡みやすくなったって感じ」

 加奈は前のオフ会のその後のことを聞いて来た

「そこそこツイッターででやりとりしてるよ。喜助さんとか年近いから話しやすいし」と話を返したりしながら歩いた。

 オフ会以降、僕たちはやたらツイッタ―などでオフ会参加者だったフォロワーとのやりとりが多くなった。

 やはりオンラインだけではなく実際にリアルで対面したからこそその人の顔や人柄を知ることでますます話しやすくなった、と加奈と同じことを思っていた。


 人通りの多い駅前周辺から道を曲がり、進めば進むほどビルよりも住宅街になっていく。

 街の喧騒から離れて人通りの少ない道を歩き始めると男女二人っきりで街を歩くとかやはりデートってやつになるんじゃないだろうか?と先ほど思ったことは再びよぎる。

 人通りの多い街中だとそれはない、と思えたがやはり次第に人が少なくなってくる場所へ二人で歩くそう意識せざるをえない。

 加奈と二人きりなんて学校の部活中に何度も経験したことなのだが学校の部活動はやはり校内で多数の生徒がいて部室にもいつ人が来るのかわからないので二人きり、ということを意識していなかった。

 しかし学生にとっては学校の外、とは普段と違う空間でさらにプライベートな夏休みという日にわざわざ二人っきりというのがポイントだ。

加奈にとってはあくまでも「同じゲームが好きな人とそのゲームの関連物を一緒に買いに来ただけ」かもしれないが僕にとっては女子とこうして外を歩く日が来るとは思っていなかった。


そうしてるうちに目的地にたどり着いた。

「着いたよ。ここみたい」

「ここがその店かあ。なんか普通の建物だね」

 加奈の言う通り店の外見は普通の建物で、ひっそりと看板が出ていた。

 駅前周辺のような店頭がオープンになっているわけでもなく、外見は普通の建物でしかも一階は別の店だ。

「2Fゲームショップまちかど」という看板がついているのでかろうじてここがゲームショップとわかる。

「こんな店、教えてもらわないと絶対知らないままだったなあ」

 僕はただでさえ秋葉原は駅前周辺以外の場所をうろつくことはないためビル街から離れたこんな場所は知らなかった。

 店の右側に二階の店へと上がるための階段があり、そこを上れば目的の場所だ。

「でも、こういう人通りの少ない場所にあるのは隠しショップみたいだね」

そして二人で階段を上った。

 階段で二階に上ると「ゲームショップまちかど」と店のロゴマークが入った入口のドアがあった。

 階段脇にあったこのショップのマップを見るとと二階と三階がゲームショップとしてテナントを借りているようだ。

 二階がゲームソフト、三階が攻略本等ゲーム関連グッズというフロアマップだ。

僕らドアを開けて店に入った。

「いらっしゃい」と男性の声が聞こえた。

 中に入るとそこはまるで今までの普通の建物とは違う世界が広がっているような感覚がした。

「わあ、すごい」

 加奈が感激の声を漏らす。

 普通の建物の外見の外とは打って変わって、店の中はコンピューターゲームのポスターがいっぱい貼ってあり、いかにも老舗のゲームショップです、という店内だ。

 奥にはカウンターがあり、何やら店員と思われる中年男性がパソコンの画面をいじっていた。

 ゲームソフト、というよりも現在主流ではないハードのカセットがびっしり陳列された棚があった。

 レトロゲームの商品が多い店とのことは本当で店の中には現在に主流ではないゲームハードのソフトがたくさんあった。数世代前のゲームソフトもいっぱいあるのだ。

近所にあるゲームソフト取り扱い店では現在販売中の現行ハードのソフト、もしくは中古を取り扱っている店でもその一世代前のハードのソフトなど最近のゲームの商品しかない。

 しかしここは違う。

 二世代前のハードだろうと三世代前、それどころか僕らが生まれる前の二十年前ものどころか、コンピューターゲームが流行り始めた時期の三十年前のハードのカセットまで取り扱いしてるのだ。

 中には普通に陳列されてるだけではなくカウンターのガラスケースの中にもゲームソフトが陳列されており、ガラスケースの中の商品はどれもプレミア価格のゲームソフトで六千円から一万円もする高額商品ばかりだ。

 ゲームソフトがガラスケース入り、というのを見ると本格的なゲームショップだと思った。

 こういうショップではレアな商品はあえて普通に陳列せずにガラスケース入りにしていて店の人にガラスケースの鍵を開けてもらわないと中の商品が買えないのだとネットで見たことがある。

「すっごーい!見て!私が子供の時にプレイしたゲームソフトいっぱいだよ」

 昔のゲームソフトを取り扱っている店だけあって十五年ほど前に発売されたアクションゲームのソフトのラインナップが見える。

 僕が子供の頃にプレイした十年前のゲームソフトのラインナップに思わず懐かしくなった。

「みてみて。われらがプラネットノースもあるよ!}

 商品の棚を見ているとそこにはしっかりと「プラネットノース」のソフトもあった。二十年も前のゲームでありながらこれは移植も配信もない為なのかソフトの値段が五千円と中古品が多いこの店にしては高めだった。移植や配信がない分、現在世に出回っている限りのソフトがプレミア価値になっているのだろう。

 もう今の時代ではすっかりゲームショップに置いてないことが当たり前な自分の好きなマイナーなゲームソフトまであると思うとこの店の品ぞろえは感心する。

一階フロアのゲームソフトコーナーで僕らは商品を見ていた。

「このソフト知ってる?キャラが可愛いんだよ」と加奈が一つのゲームソフトを見ていった。

 パッケージ絵にはライトノベル調のイラストが使われているが人気が芳しくなかったのかその後続編などが出なかった単特タイトルのゲームだ。

「知ってるよ。昔借りてプレイしたんだ。このゲームのシステムが難しかったなあ。今はプレミアついてるのか!」

 今までお互いがプレイしたゲームソフトの思い出を語りながら珍しいソフトがないかをチェックしていた。

 ここならまだ配信もしていない昔のゲームソフトもそろっているからだ。

 もしかしたら新しいお宝発見があるかもしれない、と二人で宝を探すハンターばりの物欲で探す。

 なかなか普段は来ることができないレアなレトロゲームショップという滅多に来れない場所に楽しんだ。


 この店の他のフロアも見てみることにして二階のフロアを一通り見終わると三階のゲーム関連グッズのフロアへ行くことにした。

 階段を上がり、三階の扉を開けると、再びここはレトロゲームの天国だ。

「うわあ、こんなにたくさんのゲーム攻略本、本屋でも見たことない!」

 この店のゲーム関連商品の品揃えは膨大だった。

 フロア丸ごとが攻略本に設定資料集のゲーム関連書籍のコーナーになっているらしく本屋並に本棚が立ち並び、それらは全てゲームの関連書籍で埋められている。

 古いゲームの攻略本から設定資料集に十数年前のゲーム雑誌のバックナンバーなどまさにレトロゲーム好きから見れば宝の山ではないかと思える品揃えだった。

「見て!宗助くん、これ前にオフ会で言ってた「プラネットノース」の攻略本じゃない?」

 加奈は書籍の陳列されている本棚であいうえお順に「は行」の棚からプラネットノースの攻略本を見つけた。

「ほ、本当だ! まさか本当にあるなんて……」

 今までネットショッピングでしか見たことのないもう出回っていない。

 レアな昔のゲームの攻略本が今実際に目の前で販売しているのを見て僕はすごい品ぞろえの店だ、と改めて感動した。

 しかしネット通販の価格からして予想はしていたがその攻略本の値段はやはり高かった

「傷・痛み有の条件で五千八百円か……」

 ネット通販やフリマアプリだとおよそ一万円前後の値段で出品されているレア品ならやはり店頭でもそこそこな高額な値段がついているだろうとは思っていた。

 ましてや中古本のチェーン店ではないこういった専門店ならばあ相応の査定額が付くだろう。

 想像していた価格よりはずっと安いがそれでも高校生にとっては五千八百円とは高額だ。

 今まで二次創作でファンアートや漫画を描く際にはパーティキャラクターのイラストは説明書に載っている登場人物紹介の部分のキャラの公式イラストを参考にしていた。

 あとはゲーム画面のグラフィックから見たままに衣装や外見を想像し、そのイメージしたキャラクター像で描いていた。

 しかし前のオフ会で見せてもらった限り攻略本は説明書には載っていないキャラクターの綺麗な公式イラストが掲載だった。これがあればゲーム画面を見ながらではなくともサブキャラクターのイラストもわかる、二次創作をするにはぴったりの資料だ。

「うーん、今は決められないなあ」

 やはり値段に踏みとどまってしまうので今は一時保留にすることにして他の棚を見ることにした。


 次は加奈がお目当てのプラネットノースのサウンドトラックを探すためにCDコーナーを見た。

 この店はやはりゲーム関連の書籍だけではなくサウンドトラックCDやドラマCDといったCDにも強くCDの棚を見ているとそこにはおびたたしい数のゲームのタイトルのCDが棚に入っていた。

「すごい……。こんなにたくさんのゲームサントラはCDショップでも見たことないよ」

 僕は思わずその品ぞろえに声が漏れる。

 今までプレイしてきた名作シリーズからマイナーなゲームまでそれは様々なゲームのサウンドトラックやドラマCDにアレンジアルバム等が入っていた。

 有名なナンバリングがたくさん出ているシリーズもののゲームのCDはもちろん、もはや市場に出回っていない絶版CDもたくさんあった。

「『プラネットノース』はどこかな? えーと……は・ひ・ふ……」と

 上の棚から順番に五十音順にタイトルが並んでいるCDの背ラベルをを一枚一枚見ていくと加奈は声を上げた。

「あった!」

目的の「プラネットノース」のサウンドトラックCDは上から三段目の左側に入っていた。

「やったあ!見つけた!」

 加奈は目的のお宝を見つけたトレジャーハンターのように目を輝かせた。

「どれどれ……」と棚から1枚のCDケースを手に取ると僕たちは驚愕して言葉を失った。

「二万四千円!?」

 廃盤という札と共にプラネットノースにはその価格の値札が貼られていたのだ。

「高い!こんなにするの!?」

 加奈はようやく見つけた目的の物を今度はまたもや失ったような絶望感の凍り付いた表情を見せた。

 やはりネットオークションで数万単位で出品されているプレミアム価格のついている商品は専門店でもそこそこのお値段だった。

「フリマアプリでも高額でやり取りされてるだけはあるなあ」

 僕は自分にはとても手が出せない、と半場諦めの声で言った。

 ただでさえお小遣いでやりくりしてる身の高校生にはたった一枚のCDにこの値段は高すぎる。

 しかし加奈は諦めていないようだった。加奈はその手に商品を持ったまま話す。

「もし買うんだったらここがチャンスだよね。今買い逃したら他のお客さんが買っていってもう入荷しないかもしれないし」

 加奈は諦めきれないとばかりにここが最後のチャンス!と商品を見つめていた。

「そうだけど、ちょっと僕らには高すぎるね」

 中古商品とは完売すればまた再入荷のある市場に出回っている商品と違い、その品が売れればそれまでだ。

 もちろん他の人が先に買えば以降それが最後で再び入手できるチャンスはない。

 加奈はここで逃したら二度と手に入らないということでかなり迷っていた。欲しかった物が見つかった嬉しさと共に来た宝を逃すような焦りに加奈はうなった。

「でも、これがあればいつでも「プラネットノース」の曲聞けるんだよね……。ずっとサントラがあればって昔から思ってた。このサントラがあればCDプレイヤーで部屋で流すことだってできるし、パソコンに取り込めばiPodで外出中でもどこででも聞くことだってできる。もしも部屋のBGMにできて学校でも家でもiPodでいつでもプラネットノース音楽聞けたら最高だよね……」

 加奈はピアノでこのゲームの音楽をひくほどプラネットノースの音楽にはこだわりがあるらしい。

「これはいくらなんでも高すぎないかなあ?これだけのお金あればもっと他のゲームソフトとかも買えるよ」

「そうだね。これだけの価格なら他のゲームソフト買った方がいいかも……。でも私はそれでもこのプラネットノースの音楽が好きでサントラが欲しい。どうしてももっと音楽をよく聞いてピアノで弾きたい」

ぶつくさ言った後に加奈は悩みに悩んだ表情でしばし無言になった。

しかし十数秒が経過したところでようやく口を開いた。

「決めた!」

加奈は顔を上げるとそこには何かを決心した表情だった

「宗助くん、この辺りにコンビニないかな?ちょっと銀行ATMを使いたい」

一生に一回の決断とばかりに加奈はすでに何かを決心した様子だった。

「加奈、まさか……」

もしや、と思う声をかけると

「買っちゃう!ATMにならお年玉の貯金あるし今を逃したら二度はないかもしれないから。入手するなら今がチャンスだよ!」


 加奈が決意すると、僕らは店から一度出ることにした。

 グーグルマップでこの店から一番近いコンビニを探し、そして戻ってきた。加奈はコンビニATMでお金を引き下ろして戻って来たのだ。

 そして改めて欲しかった商品であるプラネットノースサウンドトラックCDをレジに持って行った。決断をして大金を出してまで購入すると決めた加奈の姿はどこか凛々しいものだった。

 カウンターには二階にいた店員とは違う年配の男性がいた。

 老舗のゲームショップの店員らしい雰囲気でいかにもこういった商売の熟練者といった風格だ。

 加奈がレジに商品を出すと店員は「二万四千円です」と値段を言うと加奈は引き下ろしてきた金額を差し出した。

 店員の男性は商品を微笑みながら袋に入れると

「お嬢ちゃん、いいもの買ったねえ、掘り出し物だよ。」とつぶやいて加奈に商品を渡した。

 おそらくこの年配の店員はこれまでもこの店でこういった高額商品やレア品を買う客を何人も見てきたのだろう。それに高額な商品が売れたことで商売としてもいい取引だ。

熟練の専門店の人が「いいもの」というほどなのならよほどの素晴らしい商品なのである。

加奈はそれだけ今ではもう市場に出回っていないプレミアム商品を手に入れたのだ。

加奈の欲しいものへの覚悟で大金をはたいた姿を見ていたらやはり僕もここに来たからには多少値段は高くても欲しいものを入手したくなってきた。

ようするにつられたのだ。

「やっぱ、あの攻略本買おう」

せっかくこの店に来れたのならば多少高くてもプラネットノースファンならば買っても損はない、という免罪符に攻略本を買うことに決めた。

中古はその場にある現品限りで誰かに購入されたら次はいつ入荷されるかわからない。それなら多少お高くても今が買いなのではないか、という加奈の理論の影響を受けたのだ。

さらに数点のゲーム系の二次創作資料になると複数のゲーム関連書籍を買うためにレジに出す。

もしも欲しいものを買うなら今だと思い、先ほどコンビニでATMでお金を引きおろし、そこそこの金額を財布に入れてきたのだ。

レジで年配の店員が一つ一つを丁寧に会計していくと

「合わせて一万二百円だね」と言った。その合計金額は一万円にまで届いていた。それは高校生にとってはとても大きな額である。

店員はニヤニヤしながら

「うちの店でいい買い物したねえ。どれもレア商品だよ。家で楽しんでね」と僕に言った。

 ゲームショップの熟練のような風格な店員にそういわれるとちょっぴり嬉しい。

僕たちは買い物が終わると、満足しきって店を出た。



「はぁー! 今日行ったお店、本当に楽しかったあ!」

満足満足、といわんばかりに加奈は悦に浸っていた。

僕らは駅前に戻り、ランチタイムを過ごすためにファーストフード店に入って雑談していた。

ハンバーガーショップの中は秋葉原を楽しむ観光客などであふれ、どこかのグッズショップへ行ったのか机の上に入手した商品を広げる客も珍しくない。

僕らもそんな感じの雰囲気で先ほどの店での購入商品を机の上に並べていた。

僕らは先ほどの戦利品を見て、財布の中は寂しくなったが心が満たされていた。

「昔と違ってこういうゲームソフト取り扱ってるおもちゃ屋とか中古屋とか少なくなったしねー」

今はレンタルビデオ店や中古書店チェーン店などがゲームソフトや攻略本にハードといったゲーム関連商品を取り扱うようになった背景もあり、やはりゲームの専門店は少なくなった。

もはやチェーン店の中古ショップ以外だとゲームの専門店ぐらいで現行ハードではない昔の古いゲームを見る機会がないのだ。

中古のチェーン店もどうやら状態の悪い古い物は処分する傾向があるようでなかなか店頭でもお見掛けしない。

「このサントラがあればいつでもプラノスのBGMが聞けるんだね!さっそく今日うちに帰ったら聞いてみようっと」

サントラのパッケージを眺めてうっとりしている加奈に、僕はふと気になった質問を投げかけた。

「そういえば加奈が「プラネットノース」にはまったのはショップで見つけて、って言ってたけどなんで数あるゲームソフトからこのゲームを選んだの?」

僕はかねてからの疑問を投げつけた。

同じ部活に入って共に行動しててもその理由は今まで聞いたことがなかった。

これまでに世に出たゲームソフトはたくさんある。

ましてや中古ゲームソフトならそれこそ先ほどのレトロゲーム専門店で見たように数々のゲームソフトがあるのだ。

プラネットノースは発売も二十年前と僕らが生まれる前でヒットといえるほど売り上げ本数も芳しくなかったのか続編が出ることもなく、今では配信もされていなくて若年層にも知られにくいゲームである。

なぜに他にある大ヒットタイトルや有名シリーズ等でもなくこんなマイナーなゲームが好きになったんだろうか?

「それはねー。まさに運命の出会いっていうか」

「運命の出会い?」

加奈は懐かしむように過去の話をし始めた。

「昔ね、たまたま行ったゲームショップでようやく自分用のゲームソフトが買えるってことで店の中でどのゲームがいいか悩んでたの。ほら、前に言ったじゃん。親に連れて行ってもらった店で自分用にゲームソフトを買うって話」

音楽室で僕らが初めて話した翌日、そういう会話をしたことを僕は思い出す

「うん、言ってたね」

「でもあんまりゲームもやったこともないし、ましてや私がプラノスに出会った子供の頃よりも前に主流だったハードのゲームソフトなんて何が面白いかわからないじゃん?」

たしかにそれはそうだ。まだインターネットすら使わない子供の時だと、ただでさえ現在主流ではないハードのゲームのレビューも見ることはない。それだと店頭でどのゲームが面白いかなんてわかるわけがない。

「その時に店の中にいた知らない男の子が話しかけてきて僕に必要ないからってその店のスタンプカードくれたの。「この店の割引ポイント入ってるけどもう僕はこの店に来ないから君使って」って。そしたら「なんのゲームを買うかに悩んでいるんならこれがおすすめだよ!って私に勧めたのが「プラネットノース」だったんだー」

そんなことがあったのか、と思いながらその話に耳を傾けた。

どこのだれかもわからないがその人こそがまさに加奈にプラネットノースを教えたのか、と思うとどこかジェラシーを感じた。

加奈はその時のことを思い出すと少し微笑んでいた。

「でもその男の子がくれたスタンプカードの割引、レジで出したら他の人のサイン入ってるからこのカードの割引は使えないよって言われて。他人が使えないもの渡すなよーとは思ったかな。だからその時のことはよく覚えてる。その子はプラネットノースに出会わせてくれたんだ。もうどこの誰かはわからないけど」

「ふーん」

 その時の男の子が誰かはわからないが、それで購入したゲームにはまり、今があると思うと世の中いろんなことがあるものだと僕は思った。

「でもプレイしてみたら自分の中でこれはすごい!ってなんだか心に来るものが来てそれでこんなに好きになったんだよね。それ以降もいろんなゲームをプレイしたけど、やっぱり私に一番印象に残ったゲームはこれだな、って」

加奈はそのプラネットノースとの出会いが忘れられないようだ。

元はたまたま偶然手に取るきっかけだったことがのちの人生観を変えるほどの名作だったのである。

そりゃ忘れられないだろうな、と思いながら僕は残りのジュースをすすった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る