第6話 イベントが終わって
イベントから数日後。
僕はツイッターとイラストSNSに新しいプラネットノースのイラストをアップロードしていた。
今回はいつもより手をかけて描いた気合の入れた絵だ。ペンタブで細かい線まで描き、フルカラーというすごく手間をかけた作品に仕上げた。
光さんの同人誌に影響されて、僕ももっとレベルの高い絵を描こうと思ったからだ。
自分と同じゲームでありながらあんな凄いものを見てしまっては自分のレベルはまだまだだと実感したから、というのも理由だ。
そのイラストをアップロードしてから数十分ほどすると、噂をすればその「光さん」からのリプライがついた。
「新しい絵、かっこいいですね! なんだか一気にレベル上がりましたね!剣の角度とかノースの表情とか素敵です」という内容だった。
「そりゃああなたに影響されましたからね」と思った。
さらによく見るとツイッターにはダイレクトメッセージが来ていた。
誰だろう?と開いてみると、なんとその光さんからだった。
憧れの絵描きさんに直接ダイレクトメッセージをもらう!?という状況に僕は一瞬混乱した
「な、なんで光さんが僕なんぞに……?」
そう驚きつつも僕はメッセージを開いた。
「ソウジロウさん先日はイベントでどうもありがとうございました!どうしても直接お手紙のお礼を言いたくて……。うちの作品をあんなに読んでいただけるなんて感激でお手紙読んでて涙が出そうでした」という内容だ。
とんでもない、むしろあなたのことについて感激したのはこちらだ、と思っているとメッセージには続きがあった
「ソウジロウさん、もしよかったら暇な時にスカイプとかチャットとかしませんか?ソウジロウさんの作品やお手紙からすると相当なプラネットノース愛が伝わってきます。何よりソウジロウさんもプラノスで絵や漫画を描いてる者同士としてぜひチャットとかでもお話したいな、と思いました」と書かれていた
「マジか!?」と僕は声を上げた。
リアルで実際に会っただけではなく次は個人でのチャットだと!?
同人活動などの創作活動などではSNSで繋がった相手とそういうチャットツールのIDを交換して共通の好きな作品について語ったり話するというのは同人文化ではよくある話だとして知っていた。
まさか光さんがそう言ってくるとは思わなかった。
何より僕はあの本の感想等、すでにどうしても本人に伝えたいこともあった。
もちろん普通にツイッターにリプライやダイレクトメッセージを送る形でもいいのだが今回は長い感想になりそうで文字数がひっかかりそうでと思っていたからだ。
何度も文字制限に引っかかる内容の感想を送るよりはそういったツールで会話をした方が早い。
同じゲームが好きで二次創作してる者同士でそういったやりとりをしてみたかったのも事実である。
(普段は加奈とよくやっているが学校での友人といったリアル知人以外でオンライン上での知り合いではやったことがなかった)
僕は光さんに了承してチャットツールのIDを交換してパソコンを付け、チャットツールを起動させると準備は整った。
チャット画面で光さんと繋がり「どうもこんにちは」と僕はたわいのない挨拶をした。
「こんにちはソウジロウさん。先日はどうも!お手紙すっごく嬉しかったです!」
まさかSNS等オンラインでやりとりしていた人と今度はチャットなんて、と展開の早さなど余韻に浸っていた。
あの同人誌を作った人とリアルタイムで会話をしている、というのも不思議な感覚だったが僕はなんとかいつも通りの平静を保ち、会話を続けた。
「こちらこそ、あれから光さんの同人誌、毎日楽しませてもらってますよ」
キーボードにタイピングをして即座に返信する。
本当はもっと色々と伝えたいこともあったが引かれるといけないので控えめに話すことにした。
「さっそく楽しんでもらえて嬉しいです、年齢を聞くのは失礼な話かもしれないけどソウジロウさんって高校生ですよね。私とそんなに離れてないくらいでしょうか?って思ったら親近感持ちました。プラネットノース好きな人って大抵若くても二十代後半くらいがメインかなと思ってたのでてっきりプラネットノースの絵をアップしてらっしゃるソウジロウさんもそのくらいかと思ってたので……」
光さんの言う通りプラネットノースはその発売した時代からしてメインのプレイヤー層はすでに三十代から四十代の世代が多いはずである。
それならば若くてもプラネットノースのファンは二十代後半くらいが妥当だ。
「高校一年生です。この春高校に入学しました」
僕は恥ずかし気もなく年齢を言った。
「お若いですね!私は今大学二年生で今年で二十歳です」
イベント会場で本人を直接見た時も思ったがやっぱり光さんは若かった。年齢が二十歳で現在大学二年生ということは僕より学年的には四つ上だ。
二十年も前のゲームで同人活動をしているのならそのゲームが発売した頃からのリアルタイム世代だともっと年上ではと思ったが光さんはやはり若かった。
「お若いんですね……光さんはなんで二十年も前のゲームで同人活動してるんですか?」
僕は素朴な疑問を訪ねた。同人誌のあとがきにはプラネットノースへのの愛は書かれていた。
SNSでも度々プラノス愛を語っている光さんではあるが同人活動をしている理由まではわからなかった。
「私は『プラネットノース』を知ったのは7年前で中学1年生の時なんです。あの頃初めてインターネット使ってたら「プラネットノース」のプレイ動画みつけて、それ見てたら「何このゲームすごい!」ってなって。それがきっかけでしたね。移植とか配信とかもないゲームだからプレイするのはハードから集めることになって大変でした。わざわざゲームをプレイするためのハードを見つけるところから始まってカセット中古で探すところから始めました。」
同人活動や二次創作をする人間においてそれぞれその作品を知った理由は様々だが光さんはプラネットノースのファン歴としては七年らしい。
そうなるとプラネットノースを知ってる年月でいえば僕の方が長かった。
「僕はあのゲームを知って十年ですね。今から十年前にプレイしたんです。六歳の時、テレビゲームを覚えて親戚に教えてもらって」
僕は自分のプラネットノースへ情熱をかけた年月を言った。
「そうなんですか!? じゃあソウジロウさんの方がプラノス歴ではちょっと先輩ですね」
二次創作としては光さんの方が腕前はずっと先輩なのにそんな人に「先輩」と言われ僕はちょっと照れ臭かった。
チャット画面には続々とタイピング入力の打ち込みが書き込まれる。光さんはタイピングも速い人なのか返信速度も速い。
「私が同人活動を始めたのは中学生から「プラネットノース」が大好きで、いつか好きの形を本にしたい! って思ったことからですね。それでひたすら絵の練習をしてて、いっぱしに作品が描けるようになって。だから大学進学で東京に来たのと同時にすぐ同人活動始めたんです。同人活動を始めたのは去年からだからまだ同人活動歴としては二年目ですけど大型イベントやゲーム系のオンリーイベントとかにちょくちょく参加してはプラネットノースの本を作ってます」
チャット画面にはそんな長文が書き込まれた。それで同人活動を始めたのか。光さんが活動を始めたのは意外と最近だった。
そりゃ僕も今年まで光さんのツイッターアカウントすら知らなかったのだからそこまで活動歴が長い人ではないだろうということに合点もいった。
「光さんの同人誌、どれもよかったです!でも同人活動って大変じゃないですか?僕もイラストとか描いてますけど、一枚の絵を描くだけでも大変なのに漫画にしてさらに同人誌として発行って」
僕はキーボードにタイピングを素早く打ち込んで発言を返した。
一枚絵を描くだけでも相当な労力なのになおかつ漫画で数十ページも書き上げ、本にする。それは大変な労力だと思ったからだ。
「イベント参加費も印刷代も高いし、大変は大変ですね。バイトしなきゃとても続けられませんし」
同人活動においては自費出版というだけあって本を作る代金、いわゆる印刷代には莫大な金額がかかるとは知っていた。
そのお金も全て自分で用意せねばならないのだ。
「大学とバイトのスケジュールでさらに同人活動ってかなり厳しいですね。大学の課題と原稿締め切りがかぶった日なんて地獄で徹夜は当たり前、大学が休みの日もずっとバイトしながら印刷代を稼いでくたくたになって帰ってきて短い自由時間で原稿の日々です」
光さんの生活を聞くとそれは相当なハードスケジュールだ。
そこまでして活動を続けて無理をしてでもこの時代に『プラネットノース』というゲームの為に生活で身を削ってまで同人活動をしてるのだ。
光さんの作品のクオリティが高い理由がわかった気がする。
それだけの苦労を重ねているからこそ、完成品はすごく感動的なのかもしれない。
まさに同人誌は血と汗と涙の結晶である。
「すごいですね……そんなに大変なのにイベントで毎回本を出しててそんなに大変なのに辛くなりませんか?」
「大変ですね。いくら私がイベント参加頑張っても毎回イベントにはこのジャンルのサークルは私だけでいつもオンリーワンです。全然買う人がいなくて本が全く売れないなんてこともありましたし」
有名なメジャーなゲームだったり今でもナンバリング最新作が出ているシリーズものの大人気ゲームなら現在でもファンが多くイベントで見た通りサークル参加者が多くて、それにともない一般参加者もそのジャンルのファンがたくさん来たりする。
しかしただでさえ二十年も昔に発売したゲームですでにそのゲームで盛り上がった時期もとっくの昔に終わり、以降公式からの続編発売といった新たな燃料もない、ただ衰退する一方のゲームジャンルでずっと同人活動を続けるのは大変だろう。
「でも私はこう思います。この作品に対する二次創作や同人誌を作ったりする人は少ないからこそこうやって私が今同人活動をすることで『今の時代にもこのゲームを好きな人はここにいますよ』って発信できるし、それはすっごくやりがいがあるんです。自分がこういった活動をすることで一人でも多くの人にプラネットノースというゲームを知ってもらいたいって。だったら私みたいなやつでも一人でもこういう活動をすることであのゲームのすごさを広げることに繋がると思うんです」
光さんの言うことは同じく二次創作をしてる身としてはよくわかることだった。
ネット上で語る人が少ないゲームだからこそ、自分がネット上にそのゲームの二次創作をアップロードすることでそのゲームを知らない今のユーザーにも知って欲しい、という気持ちは僕にもあった。
「それにね、こうやってソウジロウさんみたく今の時代にプラネットノースが好きっていう人と繋がれた時はすっごく嬉しいし、やっぱりその喜びの方が大きいからやっててよかったなってすごく感じます。お手紙本当に嬉しかったです。読ませてもらったけどすごく感動しました。私が作ったプラノス作品を理解してくれて、嬉しかったです」
あの同人誌即売会においてサークルへ手紙を持っていくということはどうやら噂にあった通り「サークル参加者が一番喜ぶ差し入れ」だったようだ。
「そういう嬉しいことがプラスになるからマイナスになることが多くてもプラスの方が結果的には多いんです。オンラインだけじゃなくてやっぱり直に同じゲームが好きな人と会えるイベントって貴重だと思うんです」
光さんのそのチャットの数々に、僕は今まで知らなかったことなども知った。
その後も僕は光さんと色々なことを話した。
もちろん「プラネットノース」のことが多いが話せば話すほど、光さんは話しやすい気さくな人だった。
そしてイラストや二次創作をしてる者同士の話などができて楽しかった。
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