第4話 イベントに行こう!
部活ではそれぞれの活動をし、お互いのスキルアップをして、自宅では各自SNSへ投稿をする。僕たちの活動は順調に進んでいた。
SNSに投稿すればするほどフォロワーからの反応はもらえてそれがかえって活力になる。
それが楽しくてますます創作威力は上がる。
SNSにアップしているだけではあくまでも僕たちだけが自己満足の中の「楽しい」であってプラノスを広めるという意味では何かが変わったという感じもしないけど。
それでも加奈と、同じゲームが好きな者同士で気の合う仲間との日々は楽しいものだった。
発売されたのが近年で流行中で今まさにはまっている人の多いゲームの語りをするのは楽しい。もちろんそれも楽しいのだが、発売されたのが二十年と自分達が生まれる前で、なおかつマイナーなタイトルが好きな者での集まりはそういった流行ものとはまた違う貴重な楽しさがあった。
マイナーだからこそ今まで同士に巡り合えなかった分、それが今ではそのゲームについてフルスロットルでぶつかれるということだ。
流行のものよりも古い作品での方がそういった感情は高ぶるのである。
加奈がゲーム研究会に入り、なおかつSNSでも作品を投稿したりする日々は楽しく、お互いの作品の感想を言い合ったりでなおさらにブラッシュアップしていく感じがした。
これは貴重な仲間がいなかった今まででは感じられなかったことである。
楽しい時間は流れあっという間に一学期は過ぎていった。
期末試験が終わって一学期も残すところあと少しになった。
「もうすぐ夏休みだねえー」
夏服を着た加奈が冷房の効いた部室で快適そうに過ごしながら言った。
白い半そでブラウスには下着が透けて、チェックの薄いスカートから見えるスラリと伸びた足が色っぽい。
こうして考えてみると、この一学期はずっとクラスのマドンナ的存在の加奈と過ごしたんだなーとなんとも僕は贅沢ものだと思った。
教室にいる時はお互いそれぞれの友人と話すことが多いがそれでも放課後の部活の時間は他の部員があまり顔を出さないこの部活では実質二人っきりである。
しかしあくまでも「部活内の活動」と「部活仲間」の範囲であって特に青春を感じさせるイベントが発生したわけではないが。
加奈はスカートから見える足を組んで、今日は何やら文章の練習なのか、それとも新しいストーリーのプロットを書いているのかノートに一生懸命文字を書いていた。
「このまま夏休み突入かー。ねえ、夏休みも部活するの?」
書いていたことがひと段落したのか加奈はノートを閉じた。
「夏休みは自由参加で来たい時に来れば、って感じかな。一応顧問の先生から鍵は預かってるからいつでも来れるようにはしておくよ」
僕は家より学校の部室の方が漫画やゲームなど作業を邪魔するものがない分、作業がはかどるし、他の部活の友人にも会いたいからという理由で学校に来るつもりではいた。
しかし僕は今、悩んでいた。
「うーん」とスケッチブックに描きかけのイラストを前に頭をうならせていたら加奈が「どうしたの?」と話しかけてきた。
「一学期の間、加奈に出会って部活動とかSNSでワイワイやってたりで楽しかったけど、僕達がこれでプラノスの為にできたことって終わりなのかなあって」
「確かに……。ネット上のプラネットノースファンには以前より繋がったり、ファンとしての気持ちが届いてるとは思うけど、あくまでもファンの行動であって今これをしたからって「プラネットノース」が今頃もっと知名度上がるとかなは期待できないってこと?」
加奈の言い方はやんわりではあるけれど内容は僕が考えていたは確信突いて来た。
確かに僕たちがこれらの活動をしてみてSNSなどネット上では反応をもらえたがリアルでは何も変わっていないのだ。
一応僕は「プラネットノース」についての活動を始めたことで友人達にも「最近こういうゲームのイラストを描いたりしている」と言ったりする機会はある。
しかしそれで新たな仲間が増えたわけでもなく、単に「へー、そんなことしてるのかあ」くらいの反応をもらえるくらいなのだ。
かと言いつつもだからといって自分から「このゲーム面白いからプレイしてみなよ!」というのも少々気が引けた。
なんせ発売が二十年前という時点で自分達の育ってきた世代のゲームではなければスマホ配信というものもなく四世代前のハードがなければプレイできないという点ですでにハードルは上がる。
万が一ということも期待して家族がそのハードを持ってる、という友人にオススメしてプレイしてくれ!と言ったことはあるがソフトを貸してプレイしてもらってもいまいち自分の趣向に合わず最後までプレイできなかった、クリアしてもはまるほどではない、ということばかりだった。
わざわざ時間をとってプレイしてくれただけでも嬉しかったのでそれ以上のことは何も言えなかった。
ゲームへの感想をどう受け取るかは結局人次第なのである。
なのでこうして加奈以外のプラネットノースを好きという同士にはネットではたくさん繋がることはできてもリアルの生活では巡り合えず、実際にプラネットノースについて語り合える機会にはあんまり恵まれなかったのだ。
「今のところあのゲームについて見たり語れるのはうちでゲームしてる時と、ネット上でファンの語りや作品を見るのと宗助くんとしゃべってる時だけだね」
やはり加奈も僕とまったく同じでリアルだと家族友人知人以外でゲームについて語ることはないようだ。
しかも加奈は女子高生というまさに現代流行のものを追いかけるのがメインみたいなものなので古いゲームの話となると友人に振るのすら難しいようだ。
このままではいかん、と僕は思った。
しかしこの部活に加奈を誘っておいても二人で実際にできることには限界があった。
お互い家族親戚知人など学校や家以外ではこのゲームが好きだ!と語ることも作品を発表するができるのはネットの上だけになる。
このままでいいのだろうか?
せっかくここで始めたことがただ身内とネットだけで楽しむだけで。
ここはネット以外にもリアルでプラネットノースが好きということを感じられる出来事が欲しい。
「うーん。じゃあ……」
僕はかねてから薄々考えていたことを言う。
一昨日辺りにSNSで発見した知識だ。
「この夏、イベントに一緒に行ってみようか?」
僕は数日前の見つけたその案を出した。
「イベント?何の?」
不思議そうなな表情をする加奈に説明する。
「えーっと、加奈は同人誌って知ってるかな?いわゆる自分の作ったものを本やソフトにして形に出すっていう。オリジナルもあれば二次創作が多いっていう文化で」
「ネットとかでたまに見るよね。薄い本がどうたら……っていう。あれのこと?」
「うん、まあそれだね。それで、それを頒布する同人誌即売会。夏にまた一つ大きなそういうイベントがあるんだ」
「同人誌即売会ってたまにテレビのニュースで見たことある!大きい会場でたくさんの人が来るんでしょ?」
いわゆる日本では展示場等の大型施設を利用して開催されるイベントだ。
同人誌やロムなど、それぞれ自分で作った物を自費出版など自己負担で作成し、それらのイベントに参加することで配布するというものだ。
「うん、それ。それに行ってみない?」
僕は思い切って加奈をそのことに誘ってみることにした。
「あんなに人が多いイベントにー!私達が!?暑くない!?」
加奈は行ったことのない場所に想像した暑さで悶えた。
7月中旬の今日ですら近年の夏の暑さは毎日のようにテレビで熱中症の予防をしろと喚起する暑さだ。
そんな日中の暑い時間帯に真夏の空の下で人が多く集まるイベントはただでさえ暑い会場をさらに暑くする。
熱中症だとか毎日のように注意を呼び掛ける近年の夏のさらに暑い場所へ行こうというのだ。
「宗助くん、そうゆうイベントに行ったことあるの?」
「ううん。行ったことはないよ」
テレビで見るだけでただでさえ暑くて混雑してる場所、とても自分はあの中へ行くには体力に自信がないなと思っていたので今まで敬遠していた。
そんな場所にクラスメイトの女子を誘うのもなんだかという気はしたが、今年はちょっと興味がある。それには理由があった
「でもなんでそのイベント行こうって話になるの?」
理由を尋ねる加奈に僕はイベントの目的を話すことにした
「ほら、僕たちによくコメントくれるフォロワーさんいるでしょ?前に言ってたSNSにも作品をいっぱい投稿してるすごく絵がうまい人」
「ああ、例のあの人……だっけ?それがどうしたの?」
例のあの人、とは以前プラネットノースの作品に僕達が感激したあの「光さん」のことだ。
僕らはなんだかんだお互いあの後もその「光さん」とはやりとりをしていて今は「プラネットノース」のファン活動(という名のSNSに作品アップ)するもの繋がりでちょくちょくやり取りをしていた。
「今日はこういう作品をアップした」など報告したりSNS上でそこそこ挨拶する仲になっていたので加奈とのリアルの会話でもその人の話題を出すようになった。
もちろんあくまでもネット上の話であり本人に直接会ったことはないけれど。
しかし、そのイベントに行けば状況が変わるかもしれない。
「あの人の最近のツイート読んでたらどうも今度の夏の同人イベントにサークル参加して本を出すみたいなんだ」
「そういえばイベントが近いから原稿しなきゃ。とか最近やたらツイートしてるもんね」
「そうそれ。多分夏のイベントで発行予定の『プラネットノース』の同人誌今作ってるみたいだよ」
「えっ!プラネットノースの同人誌!?」
加奈は「プラネットノースの」という部分に食いつくように興味を示した。
同人誌とはオフセット本として印刷所を通して自費出版で本を発行する産物である。
つまりイベント参加者、サークル主が自分が描きたいと思う話を原稿として書き上げて印刷所へ入稿。そしてそれをイベント会場で配布するという形だ。
もちろんイベント参加費もその同人誌を作るお金も全て自己負担なのだが。
それでも日本の同人や二次創作という文化はもはや世界に誇るものになっていた。
「原稿ってなんのことかわかんなくてあのツイートよくわからなかったけどその原稿みたいだ」
つまりはプラネットノースの二次創作を今度はネット上にアップするだけではなく紙の本として作っているということなのだ。
「つまりSNSにアップしてるような漫画今度本にして夏にイベント参加ってわけみたい」
「同人誌……『プラネットノース』の同人誌が読める……」
今まではネット上で数少ないプラネットノースのファンアートや二次創作を見るくらいで満足していたのだがそれは毎回ネット端末にアクセスして画面上だけだ。
しかしそれを紙の同人誌として光さんが発行するのであれば通常の本のように直に手に取って読めるということだ。
僕は念のためにスマホを見せた。
「ほら、これ」
スマホ画面でツイッターのリストを使い、夏イベント参加サークル一覧リストに入れておいたのでその画面を見せた。
例の「光さん」のサークルも今年の夏のイベントに参加予定だった。
二十年も前に発売したゲームで現役で同人活動をしてる人がいるという事実に自分も最初見た時驚いたが、さらにこれから開催されるイベントで本を頒布するという点にも注目だ。
それならば今までに読んだことのないネット上にアップした作品とは違う今までに未発表のものを紙の本という形で読めることになる。
僕はさらに同人誌即売会についての説明を細かくした。
同人イベントにはサークル参加という形で作者自身がサークルスペースで本を配布し、それを買う立場は「客」ではなくあくまでも「イベント参加者」なのだとかそういう基礎的なものだ。
それを聞いた加奈は「つまり……」と切り出した
「じゃあそのイベントってサークルスペースでつまり、サークル主のその、作品を書いているご本人がいるってことだよね」
「そうだよ。今年のイベントに参加する「プラネットノース」のサークルスペースに行けばそこにいるサークル主が光さん本人ってことになるかな」
「私達以外のあのゲームのファンを実際に会うチャンスかあ……そして本も買えるんだね」
ごくり、と加奈は唾を飲み込んだ。
ウェブ上とはいえその「光さん」の作品は素晴らしい、というもの以外にもご本人のプラネットノースの愛がとても深いということが普段のツイートの内容で見受けられた。
やはり二次創作などプラネットノースの作品を書いているだけあってその作者もとてもあのゲームを愛しているということがよくわかる。
「今日のプラノス絵は五章の再会をイメージして描きました」などゲーム内のドットはお世辞に二十年前ということもありあまり等身の高いグラフィックではないのだがそれを見事に光さんは等身の高い自分の絵柄でそのシーンを忠実に再現していてまさにもしもプラネットノースが今のグラフィックのゲームであればこのような図になるだろう、という本編再現の絵が多く
そのフォロワー数もいつものいいねやRTの反応もかなり高かった。
「いつもツイッターでやり取りしてる光さんにリアルで本人に会うチャンスなのかあ」と加奈はつぶやいた。
僕もその「光さん」という方の同人誌を買いたいというのが本音だった。
「行ってみる?」と投げかけた
「うーん……。「プラネットノース」の同人誌を手に入れるチャンス……読みたい……」と加奈はうなった。
「「プラネットノース」のサークルもあるけど、いろんなゲームとかたくさんのジャンルの同人誌も買えるんだよ。ゲームが好きならこういうのも見ておくのもいい経験かなって思うんだ」
同人誌即売会はその「プラネットノース」という一つのジャンルだけにとどまらず複数のジャンルのものが直に見れるという意味では滅多にない経験かもしれない。
ゲームが好きなら一度は行ってみたい、と僕は昔から思っていたからだ。
しかし今まではまだそこに踏み切るほどの勇気がなかったのだ。
思えばゲームが好きならば数々のゲームの二次創作やファンによる活動を直で見ることのできる同人誌即売会は貴重な経験になるだろう。
そう解説すると加奈は決心したようだ。
「前から気になってた人の本が手に入るかもだし……。こんなチャンス滅多にないし行く!」
加奈は意を決めて行くことに賛同したのだ。
「わかった。じゃあもうちょっとイベントについて詳しく調べておくよ」
こうなったら交通手段にどれだけの準備が必要なのか等同人誌即売会について色々調べておいたほうがよさそうだ。
ツイッター上でのイベント参加者フォロワーのツイートをチェックしたり、ネットで検索した知識を仕入れたり、イベントに行く前に知っておいたことについても調べておこう。
「じゃあ、詳しいことわかったらまた連絡するから」
数日が経過して、終業式も終わりあっという間に夏休みに突入した。
部活は自由参加ということにしていたので加奈は来る日もあれば来ない日もあったが僕はなるべく毎日のように部室に来るようにしていた。
家だとつい誘惑に負けてだらだらしてしまうが学校の部室だと作業を中断するものがないので集中してイラストを描いたり創作活動に集中できるからという理由だった。
幸いこれも部活動の一環ということで受理されているのでそんな理由で部室を使うのはダメだ、とか言われたりはしない。
それに学校に来れば他の部活の友人など誰かに会うことができる。
創作活動の刺激として家に閉じこもってるよりなるべく人と会った方がいいと思っていたからだ。
自分の作品の作業に集中する傍ら、同人誌即売会について調べることもやっていた。
同人イベントについて調べていくうちに、まずは事前のサークルチェックをしろとか夏なので熱中症予防の装備を整えた方がいいとかだ。。
そして自宅で同人イベントを開催する会社のサイトから参加サークルのサークルリストを見ることができるのでそれを閲覧するとサークルカットだけでも驚くべき数の参加サークルにも目をこらした。
「うわ!昔のゲームこんなに!?「プラネットノース」以外にも色々ある! 『スカイダンジョン』『ドルディアファンタジー」『ホーリーナイト』まで!」
昔従兄弟が自分のプレイし終わったゲームソフトを譲ってくれてプレイししたゲームのジャンルの参加サークルもたくさんあった。
それはもう現代ではネットの話題にもなってないくらいの過去のマイナーゲームのサークルなどもあった。
有名どころのシリーズものから単発タイトルのマイナーものまで実に幅広いサークルが参加することのである。
今までプレイし終わって年数が経つと話題にも出さなくなっていたがそれでも昔プレイしていた頃は熱中していたゲームの二次創作等の方面がこんなに賑やかなのは
どこか嬉しい。
もちろんゲームとは純粋にそのゲームの中だけが作品の全てで公式関係者以外が書いたファンの二次創作などそのゲームと認めない!な二次創作反対派もいるが僕は自分もゲームのファンアートを描いてる以上二次創作は大好きだ。
公式じゃない部分で盛り上がるのをよく思わないユーザーがいるのも知っている。
だけど僕にとっては自分もその方面に足を突っ込んでいる以上、二次創作については否定的な意見はない。
「すごい、これがイベントかあ。こんなにいろんなジャンルがあるんだ」
とただ感嘆の声しか上がらなかった。
二次創作や同人文化とはこんなにも参加サークルがいる分、創作側の活動をする人も多いということだ。
二次創作とは版権的にはグレーなのはよく知っている。
本来元の作品のキャラクターやストーリーを利用しての二次創作は公式が訴えたらアウトである。
これらのファンの活動は公式からは目をつぶられているのでファンの活動や交流の一環として見逃されているだけなのだ。
しかし僕はそういった事情は自分が考えてもどうにもならないのであれば深く考えずに楽しめるなら楽しもうというスタンスだ。
一番のお目当てのジャンルである「プラネットノース」のサークルを検索してみることにした。
検索欄にタイトルを入れると『プラネットノース』のサークルカットを発見した。
自分が知ってるゲームのありとあらゆるジャンルのサークルが参加していということがさらに驚いたのは
すでにそのマイナーな知名度ゆえにすでに絶滅危惧ジャンルであろう「プラネットノース」にもサークルがあることだ。
『プラネットノース』の主人公のイラストのついたサークルカットでサークル名は「ライトシンフォニー」
サークルカットがSNSで散々見たおなじみの絵柄ですぐにSNSでよく見る例の「光さん」のサークルだとわかった。光さんが頒布する同人誌はどんなものだろうか?
ウェブ上では『プラネットノース』の二次創作はイラストと漫画・小説などがあるが、どうやら光さんの出そうとしている同人誌は漫画本らしい。
「オールキャラギャグ本出します!」とサークルカットには書かれていた。
今まではネット上だけでしかみれなかった子供の頃から大好きなゲームの二次創作を今度は紙の本という形で入手できる機会と、ネット上でやりとりしている人物にリアルで会う機会、そしてプラネットノースというゲームのサークルが現在のイベントにもあるのを目にするのは非常に楽しみになってきた。
日程が近づくにつれ僕は調べたイベント情報を加奈に伝えた。
イベント会場マップ、特にチェックしたサークル一覧のマップは絶対持ってこないと目的のサークル配置場所にいけない。
同人誌即売会とはいわゆるサークル参加者のサークルスペースが会議用の細長い机になっていて、それが会場ではサークル配置に従って設置されている。
多くは「島」と呼ばれる形にジャンルごとに配置されていて、サークル数が少ないジャンルは同じゲーム会社のジャンルごとに配置されているなど、ネットでゲーム系の同人イベントに過去に参加したことのある人のブログなどを読んで学んだ。
さらに目当ての場所に行くには会場でちゃんと人込みに飲まれないようにすることが大事だ、
夏なので水分補給をするためにペットボトルの飲み物は多めに持ってくること、他にも冷却シート等熱中症予防のグッズを持ってくるといい、ということもだ、。
さらに同人誌は一冊の値段が高いのであちこちで同人誌を何冊も買うことになるとそれは千円から数万円をあっという間に越えるかもしれないので大金が必要になるから所持金はあらかじめ多く持ってくること。
だけど万札はサークル側にとっては大量のお札でお釣りを返すことになるなど嫌がられるのでなるべく小銭を用意すること、などだ。
そうしているうちに夏休みはイベントの日程へと近づいていった。
SNSでサークル参加者である「光さん」の近況を見ると今は原稿を終えすでに原稿を入稿したとのことでイベント当日には新刊も頒布になることをツイートしていた。
「当日お会いできる方。はよろしくお願いします! フォロワーさん大歓迎」と書かれていた。
イベントが開催されるのは日曜日。
その数日前に加奈は部室に来てイベントの打ち合わせをする為に僕と話すことになった。
「ねえねえ、せっかくこれだけツイッターとかで交流してて直に会うとなれば「光さん」何かご挨拶した方がいいかな?」
加奈は夏休みに入って授業がない分、そのあり余った時間でここ最近は一気に「プラネットノース」の小説を数本書き上げていた。
その「光さん」も原稿が終わったこともあり、僕が投稿したプラノスの作品や加奈の 小説にも目を通していてよく感想のやりとりをしていた。
同人誌即売会ではオフイベントということでオンライン、SNSですでに交流のある人通しならリアルで会うことを機会にオフイベント、つまりイベント会場で挨拶をするという文化もあるらしい。
「うーん、それはどうかなあ?」と僕は顔をしかめた。
全ての参加者にいえるわけではないが、中にはサークル参加でも話しかけられたくない人や距離感が近い人を怖がる人もいると聞く。
もしも初対面で「ネットでよくお世話になってるものです」と話しかけたところ、サークル参加者にとっては嫌がる人もいるかもしれない、という情報を掲示板から得ていた。
ネット上で仲良くしているからとリアルで会う時にネット上と同じノリでべたべたされたら困る、というサークル主も一定数いる。
ましてや同人誌即売会などオフイベントはサークル参加者と一般参加者でそういったトラブルがあるとよく掲示板で見た。
「それは人柄によるとも思うけど」
「そうだよね、やっぱりいきなり話しかけられたら嫌かな。せっかくSNSに上がってる作品の感想伝えたいんだけどな。せっかくのプラノスのファンで相互フォローの人に直で会えるチャンスだし」
加奈は残念そうな表情をした。
加奈の言いたいことは僕も同じ気持ちだった。
「光さん」はプラノス好きからしてもそのゲームのファンじゃない人からも高評価を得られる凄い作品を描いているからこそネット上でいつもやり取りしてるようなコメントだけじゃなくて直接会うならば直に感想を伝えたいという気持ちはあった。
あくまでもやりとりはネット上だけだが作品の感想や僕達が作品をアップする度にコメントをくれることにも感謝の気持ちを伝えたかった。
なんとかいい方法はないかと考えたところ、これまた掲示板で得た情報を思い出した。
「じゃあさ、手紙とか、そういう手土産持っていくのはどうだろう?」
と僕はアイディアを出した。
「手紙? そんなこと同人誌即売会でやっていいの?」
初めて聞く手段だ、と言わんばかりに加奈は身を乗り出して聞いた。
「うん。よく同人誌即売会においてサークル参加者と一般参加者のやりとりにおいてよく行われるのは手紙交換なんだって」
事前にネット上でやりとりをしている者同士なのならば同人誌即売会といったイベントで直接会う時は話をするのもありだがその中でもっとも良い手段は作品の感想などを書きとめた手紙を持っていくことだ、という情報をネットで見たのだ。
「例えば、それまでのそのサークル主の作品の感想を書くとか、挨拶とかを書いてそれをサークル主に渡せばいいんだ」
同人誌即売会でよくある光景で、一般参加者はサークル参加者にいわゆる「差し入れ」というものを持っていく文化もあるようだ。
それは手土産として小さいお菓子を持っていくとか、イベント会場に役に立つような実用的なグッズ(夏なら冷却シート、冬ならカイロなど)を渡したりする。
いわゆる一般参加者とサークル参加者の挨拶やコミュニケーションになる。
その中でもサークル参加者が一番喜ぶのはその人の作品の感想を書いた手紙だという。
同人活動・創作活動をしている者は自分の作品の感想を伝えられることがとても嬉しいのだ。
僕もネットにアップした作品にコメントが付くととても嬉しいのでその気持ちはわかる。
自分の作品に対しての熱意のある手紙をもらったらそれは嬉しいと思う。
「そっかあ。たしかに作品の感想書けばイベントで直に話さなくても、気持ちを伝えることはできるね」
「光さん」はすでにオフラインの同人活動以外にもネット上、つまりオンラインにも多数の作品を発表していた。
それならばすでにオンランインで投稿された作品の感想を伝える手段として手紙は有効だ。
「それに何か小さいお土産をつけるとかすれば立派な挨拶になるよ。もしも手紙を渡す時はあとで誰がくれたかをわかるようにSNSのアカウントとか名前を書いておくといいんだって」
手紙をもらう側からしたら誰かからわからない手。紙をもらうようりもきちんと差出人が誰なのかがわかる方がいい、と聞く。
僕はネットで調べた知識を加奈にに教えた。
「今まで『光さん』がアップしてきた作品見ててすごく感想を伝えたいと思ってたけどSNS上じゃ文字数制限とかあってうまく伝えられなかったし。もしかしたら手紙なら長文もいけるしいい作戦かも!」
加奈はその方法をいいアイディアだ、と目を輝かせた。
「あと事前にツイッターで「イベント当日にはご挨拶に伺います」とか本人に言っておくのもいいかも」
これもSNS上で事前に相互フォロワーなどすでにやりとりがある者同士では有効な方法である。
先にイベント当日にそのサークルスペースに伺うことをサークル主に伝えておけば当日まとまりやすいとのことだ。
「なんか、イベント楽しみになってきたな!」
加奈はすっかりイベントが楽しみだとやる気に満ちた表情をしていた。
その晩、さっそくツイッターのタイムラインを見れば加奈は光さんに「当日はサークルスペースにお伺いします」とツイートしていた。
それに対して光さんからは「ミココさん、イベントいらっしゃるんですね!当日はお会いできるのを楽しみにしてます!」と返信がついていた
加奈だけではなく僕にとっても自分と同じくネット上に「プラネットノース」作品をアップしてる人と実際にお会いするチャンスだ。
二次創作がどんな感じで同人誌という形で発行されるのか見たいし、普段やりとりしているフォロワーさんとリアルで対面するのは初めてだ
僕も『光さん』に挨拶のリプライを付けて、さらに当日渡す為の手紙を書くことにした。
今までオンラインでアップされている作品の見てきた感想や伝えたいことを便せんに書こう!と決めたのだ。
しかしいざ文房具屋で買ってきたレターセットの便せんを目の前にすると普段手紙を書く習慣がない分、頭が真っ白になって「何をかけばいいのだ?」と改めて自分の伝えたいことを生の人間に手紙にするということに戸惑った。
ペンを持ってみたが学校の宿題や勉強の予習復習をするのと違って、自分の気持ちを文面に出すことに慣れていなくて手が動かない。
「うー、ここ数年はすっかりメールやラインがメインだったからなあー」
僕は自分の文章力のなさを嘆いた。
あまりにもパソコンのキーボードで文字を書くことやタブレットやスマホなどデジタルで文字を書くことに慣れてしまいこうしてしっかり手書きの文章にするのは学校の勉強や作文の授業のみなのだ。
普段デジタルに慣れきってしまった分、アナログ手法に戸惑う。
いっそのこと手紙とはいえパソコンのキーボードで打った文章をプリントアウトして手紙として持っていくか?
しかしそれでは結局デジタルなので普段のツイッター上のやりとりと同じになってしまうのではないだろうか?
そんなことを考えていると加奈からのライン通知が来た。
「今イベントにサークル参加する『光さん』にプラノス作品の感想の手紙を書こうと思ってるけど、どんな風に書けばいいと思う?」
なんと今の僕と同じ状態なのか加奈も手紙に何を書けばいいのかが迷ってるようだ。プラネットノースが好きなのであればウェブ上にある「光さん」のプラノス作品の感想について、いざ書こうとすると難しいものだ。
僕はとりあえずネットで同人誌即売会におけるサークルさんへの手紙の書き方を検索してその中から参考になるものを選んで加奈に回答を返信をすることにした。
「作家さんに渡す手紙は書き手の自分語りになると嫌な人が多いみたい。サークル主としてはオンラインでやり取りをしてるとはいえあんまりお互いのことをよく知らない人が自分のことばっか書いてきたら作家さんとしては嫌じゃない? だからなるべく作家さんの作品のことを中心に書いた内容がいいと思うよ。ある程度の自己紹介ならすでにツイッターとかオンラインでできてるはずだし」
そう送ると「アドバイスありがとう」と帰ってきた。
加奈に教えたことを復習するように僕も手紙を書き始めた。
自分語りにならないように、「光さん」の作品の感想を書くように、と心がけたらなんとか文章が書けた。要はオンラインにアップされて今まで見てきた「光さん」の作品の感想を伝えればいいのだとわかったからだ。
そうなるとまず初めて「光さん」の絵を見た時に感じた興奮や、プラノスの世界観をよく表した二次創作漫画など書けることはいくらでもあった。
「初めてイラストを見た時に、まさにプラネットノースの世界を表現されていて素晴らしい絵だと思いました……と」
そういったことを書き溜めていくと色々書くことは出てきた。
「ノースの表情のシリアスさと背景の宇宙がマッチしてます……と」
一度筆が乗れば次々と作品の感想は書くことが浮かび上がっていった。
「なんだ……書くこといっぱいあるじゃないか」
一度書き始めたら「光さん」の作品で感動したことはたくさんあり、自然と手が動いて気が付けば便箋二枚分を書き終わっていた。
「手紙はこれで大丈夫。あとは準備だな」
その他にも僕はイベントのマナーや会場への行き方、知っておくと便利なイベント情報を調べてひたすら復習した。
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