第7話 燃える国

「この悲鳴はなんだ!? 何が起きたんだ!?」


 出雲は自室の窓を開けて外を見た。夜空に輝く満月の光が美しい夜に似合わない悲痛な叫び声が王都中に響いていた。その声は死にたくないや助けてなどであった。出雲はもらったばかりの長剣を手に取ると、部屋の扉を勢いよく開けて外に出た。


「何があったんだ!?」


 出雲は声がする方向に走って行くと、王都の中に魔物の姿が見えた。一体どうしてだと考えるも、今は追われている人を助けないとと思い魔物のいる方向に走る。


「魔狼か! 他の騎士団は何をしているんだ!? どこにるんだ!」


 そう叫びながら出雲は長剣を鞘から抜いて迫って来る魔狼の腹部に突き刺した。魔狼は悲痛な雄叫びをあげながら地面に倒れた。魔狼に追われていた母娘は出雲にありがとうございますと頭を下げて言った。


「当然のことをしたまでです! 今のうちに早く逃げてください!」

「分かりました! ありがとうございます! ほら、行くよ!」


 母娘は出雲の元から離れると、王都の西側に走って行った。出雲はあっち側に避難する場所があるのかと思った。


「今は早くみんなを助けないと! だけど、俺はどこに行けば……」


 出雲は王都の中を走り回りながら魔物を倒していると、王城から爆発音が聞こえた。その音を聞いた出雲は、何が起きているんだと目を見開いて王城を見つめていた。


「一体何が起きているんだ……王城が爆発した……いや、呆けている場合じゃない! あそこには第二王女がいるんだ! 助けないと!」


 出雲は王城に向けて走り出した。途中で魔物の群れが王都の人々を襲っている姿が見え、出雲は魔狼や牙が発達して鋭い爪を持つ熊が変異した姿であるロウベアを倒していく。道を途中で騎士団員とすれ違い、出雲は王城に向かいますと言った。


「ここは任せろ! 君は王城へ急ぐんだ!」

「はい!」


 出雲は王城へ向かって走り続けると、城の入り口に爬虫類型の魔物が剣や槍を手にして攻め入っている姿が見えた。出雲はその魔物を見ると長剣を持つ手に力を入れてどけ叫んだ。


「俺は助けないといけないんだ! そこをどけー!」


 出雲は長剣に魔力を込めて爬虫類型の魔物を両断していく。その際に爬虫類型の魔物がどの言語化分からないが何かを発していたのを出雲は聞いていたが、それどころではなかった。


「どこにいるんだ!? 王女様はどこに!?」


 出雲は王城の中に入ると、その悲惨さに驚愕をしていた。王城の中は騎士団員や魔物が倒れていた。どちらも既に事切れているようで、出雲は顔を歪めた。


「既に王城の中でも戦闘が! 早く行かないと!」


 階段を上っている途中で黒い霧から出現してきた魔物と戦いながら、上階を目指していく。最上階に到達をすると、騎士団員が倒れているのを見つけた。


「ここでも戦闘が! くそ! 無事なのか!?」


焦りが隠せないほどに悲痛な顔をしながら周囲を見渡すと、確か最上階のと呟いた。


「そうだ! 最上階の東側の角部屋……確かそこが部屋だったはずだ!」


 出雲は部屋の場所を思い出すと勢いよく走り出した。東側に近づくにつれて爬虫類型の魔物の死体や倒れている騎士団員が増えていた。やはり第二王女を狙っていると確信をした出雲は、第二王女の部屋に走った。


「ここが部屋か! 部屋の扉の前に騎士団員が倒れてるし、扉に夥しい血が付着してる……この部屋の前で戦闘が起きていたんだな……」


 出雲は意を決して王女様入りますと言いながら、部屋の扉を開けると目の前に剣を持つ骸骨の魔物と第二王女を庇う王の姿が見えた。


「娘を殺させるわけにはいかない! 娘はこの世界を救う鍵なのだ! この世界に光をもたらす大切な娘を殺させない!」

「お父様!」


 第二王女である篁愛理が王のことをお父様と呼んだ瞬間、骸骨の魔物の長剣が王の体を貫いた。その姿を見た王女は悲鳴を上げて地面に倒れそうになる王の体を支えた。


「お父様どうしてなんですか!? なんで私なんかを守ったんですか!」


 血を吐き出している王の体を見て、王女は貫かれた腹部に左手を当てた。その王女の左手が赤く染まる程に夥しい量の血液が流れ出ていた。


「お前を……蔑ろにしていたわけでは……ない……むしろ、お前の……人生を考えて……私から離れさせたのだ……」

「そんなこと今言わないでください! もう一度元気な姿で言ってください!」


 王女が泣き叫びながら王に話しかけていると、出雲は骸骨の魔物に対して長剣を振るった。すると、骸骨の魔物の左半身が変化をし、筋肉と肉が出現した。左半身だけを見ると人間と変わらない見た目へと変化をした魔物は、出雲の攻撃を持っている長剣で防いだ。


「おマえはオれタチのキョうイとなる。いマココでコロす!」

「させない! そんなことは俺がさせるわけないだろう!」


 左半身だけ肉が出現したせいなのか、片言でハッキリとは聞き取りづらい声色となっていた。その怪物は愛理が脅威だと気が付いているようで、睨みつけていた。しかし出雲は長剣を構えて殺させないと骸骨の魔物に対して叫んだ。


「早く逃げてください! ここは俺が食い止めます!」


 出雲が二人に言うと、愛理が出雲を見ながらもしかしてと言葉を発する。


「もしかして出雲なの? どうしてここに……」

「子供の頃に守る剣になると言いましたよね? そのために騎士団に入ったんです。それにこのような状況の時に守れないと騎士になった意味がありません!」


 出雲がそう返すと愛理はありがとうと小さく呟いた。すると血を吹き出している王が出雲と愛理に話しかけた。


「お前たち二人が希望だ……世界を守ってくれ! 世界を守る答えは伝承にある……それが道標となるだろう……」


 その言葉と共に王は首から下げていたネックレスを引きちぎり、出雲の足元に幾何学模様の魔法陣を出現させた。


「出雲君と言ったか、君に娘を託す……必ず世界を救うのだ……さぁ行け。お前たちの力で世界を……」


 王は出雲と愛理に言うと、立ち上がって骸骨の魔物に向かって行く。骸骨の魔物は王の体を剣で切り裂くと邪魔だと叫んでいた。


「行け! 国のため、国民のため……そして、この世界の平和のために!」

「必ず守り通して世界を救います!」

「お父様の想いを受け継ぎます!」


 二人はそう言葉を発すると、幾何学模様の魔法陣が輝いて二人の姿がそこから消えた。二人の姿が消えたことを確認した骸骨の魔物は、雄叫びを上げて王の体を再度切り裂いた。


「邪魔をしてくれたものだ! どこに飛ばしたかも分からないし、これは骨が折れる」


 左半身だけが肉付いていた、骸骨の魔物は全身に肉が付いていた。頭髪も生えた元骸骨の魔物は、青年の姿になっていた。出雲が村であった鱗が生えていた魔族とは違い、種類が違う魔族な様子である。

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