第8話 別大陸へ
「この姿にやっとなることが出来たが、本丸を取り逃がしてしまった。お前のせいだぞ」
そう言いながら元骸骨の魔物は目の前で倒れている王の頭部を軽く蹴った。王は呻き声をあげると、お前の想い通りにはさせないと消え入りそうな声で呟いた。
「この世界をお前たちの……想い通りにはさせない……この世界はあの二人が取り戻す……」
「そんなことはさせるわけがないだろう。この私……マルクがお前の希望を壊して見せよう」
マルクはそう王に言うと王を抱えて目の前に出現させた黒い霧の中に消えていった。マルクがどこに行ったが分からないが、王と共に消えたことでこの大和王国が危機にさらされたことや、騎士団が応戦したが国民に被害が出たことは明白である。
マルクと王が消えてから数時間が経過すると、騎士団の生き残りや副団長が集まって領土内の国民の生存確認や倒しきれていない魔物の討伐に向かっていた。襲われたのは大和王国だけではないようで、大和王国があるユメリア大陸全土の国々で王族や国民が襲われたようである。
理由は分からないが、ユメリア大陸のみでこの襲撃が怒っていた。近かったからか襲いやすかったか分からないが、ユメリア大陸の国々で一夜のうちに危機的状況に陥る国々が多かった。大和王国の王は、出雲と愛理に全てを託し、ここ世界に迫る闇から救ってほしいとの願いを込めて転移魔法で飛ばしたのであった。
ユメリア大陸が闇に覆われようとしている最中、出雲と愛理は見知らぬ大陸に転移をしていた。二人を移動させた転移という魔法は、使用者が指定した地点に強制的に移動をさせる魔法である。転移魔法はある種伝説となっている失われた魔法であるため、使用ができる人はいないとされていた。出雲と愛理はその魔法により見知らぬ大陸の草原に姿を現した。出雲は転移の衝撃で頭痛がするも、我慢をして隣に倒れている愛理に声をかけた。
「大丈夫ですか!? 怪我などはありませんか!?」
「うぅ……頭が痛い……」
愛理は頭部を摩りながらゆっくりと立ち上がった。転移場所も相まって着ている白を基調とした落ち着いた印象を与えるドレスの裾が汚れていた。
「あ、ドレスが汚れてます!」
「大丈夫よ。それに今は二人でどうにかしなきゃいけないし、昔に会っている同い年でしょ? 普通に話していいわよ」
「い、いえ……そんなことは……」
出雲がそんなことはできませんと言っていると、愛理が出雲の顔を右指で指して命令よと笑顔で言った。
「わかりました……わかったよ愛理。なんかこんな風に話すの凄い久しぶりだね」
「そうね。お父様に連れて行かれて以来だから、六年ぶりかしら」
二人が話していると、遠い場所から魔物の雄叫びなような声が聞こえた。
「な、何だこの声は!?」
「魔物の雄叫びなの!?」
二人は声のする方向を向くと、馬車の荷台に男性と女性が一人ずつ乗って追って来る魔物と戦っていた。馬車の御者は早く魔物を倒してくれた荷台にいる二人に叫んでいた。
「わーってるよ! 静かに馬車を操ってろ! 今倒してるから!」
「そうよ。魔物退治は私たちに任せてなさい」
そう二人は言いながら男性は自身の魔力を弾丸のように射出する特殊な小型の銃を、女性は魔力を矢にして射出する弓を用いて馬車に迫って来る獣型の魔物を倒していく。
男性の方は髪を立てている黒髪短髪の髪型をし、着ている黒いスーツからでも分かるスラッとしている体型である。また、鼻が高いが眼力のある目をしているので自信の高さが中性的な印象を受ける顔から発せられていた。
男性の隣で弓を持って戦っている女性は、茶色の背中を少し超す長さの髪をしている。大きくはないが、吸い込まれるような綺麗なエメラルド色の瞳と相乗効果がある端正な顔立ちをしている。また、男性とは違って紺色のTシャツに茶色のジャケットを羽織っており、茶色のショートパンツを履いていた。
「魔物が減らねえ! もっとスピードは出ないのか!」
「これ以上は出ない! 何とかしてくれ!」
「そうなるわよね。ほら、二人で何とかするわよ!」
女性が男性にそう叱咤した瞬間、出雲たちが左側から魔物に攻撃をし始めた。その二人の姿に驚いた男性は、小さく笑って協力に感謝をした。
「どこの誰かは知らないが、協力に感謝する!」
「魔物の雄叫びが聞こえたから来ました!」
「私たちも協力します!」
女性は愛理のドレス姿を見て、どこかの姫なのかと思っていた。だが、今はそれよりも協力してくれたことが嬉しく思っていた。
「頼んだわよ!」
「はい!」
愛理は大きな声で返事をすると、左手を前に出して氷結と叫んだ。すると追ってきている魔物の集団の足元が氷だして、魔物が転んでしまった。
「いいじゃねえか! 馬車を止めてくれ! 一気に片付ける!」
「分かったわ!」
二人は銃と弓を隣り合わせに魔物に向けた。そして、同じタイミングでバーストショットと叫んだ。すると倒れている魔物の集団に火と風属性の魔法が一直線に放たれた。
「俺たち二人の必殺技だ! これでも受けな!」
「これで倒せなかったら笑っちゃうわね」
「そんなこと言うなって。ほら、ちゃんと魔物は消え去っただろ? この攻撃は強いんだって」
二人がそう話していると、一体の犬型の魔物が牙を剥いて襲い掛かってきた。男性は女性を抱いて庇うと、犬の魔物が突然両断された。
「危ない!」
出雲が叫びながら長剣で襲い掛かってきた犬の魔物を切り裂いた。
「大丈夫ですか!?」
「おう、助かったぜ。お前さんもやるな」
「ありがとう。あそこのお姫様にも感謝しないと」
二人が笑顔でいると、トコトコと小走りで愛理が三人のもとにやってきた。愛理を見た出雲は大丈夫かと声をかけた。
「うん。大丈夫。ちょっとドレスが汚れちゃったけどね」
「ドレスのままじゃこれから活動できないわね。どうしたものかしら……」
愛理が出雲に話すと、荷台に乗っていた男がお疲れ様と話しかけた。愛理はありがとうございますと返答をした。
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