第6話 プロローグの終わり
出雲は馬車の荷台で王都に到着するまで治療を受けていた。頭部や全身の内出血など多数の怪我を負っていた。出雲は次第に全身の痛みに顔を歪めるも、女性騎士団員が大丈夫だからと出雲に優しい口調で何度も言っていた。
「ありがとうございます……緊張が解けたら急に痛みが現れてしまって……」
「よくあることよ。戦闘中では痛みを感じないけど、終わったら感じるのはここにいる騎士団の人も経験をしていることよ。だから安心していいのよ」
「はい……ありがとうございます……」
出雲はそう返事をすると、眠りに落ちてしまった。その後、馬車は一時間前後で王都に到着をすると、馬車はそのまま病院の前に移動をした。
「到着しましたよ。起きてください」
「うぅ……」
出雲は痛む体に鞭を打って荷台から降りると、目の前に王都にある王都中央病院が目に入った。王都中央病院は国一番の病院であり、常に先端の医療技術を採用をしていると有名である。魔法と医療技術を合わせたその治療技術は世界で見ても医療技術が高いため、治療を受けに他の国から人が来るほどである。出雲たちは王都中央病院のスタッフに先導をされる形で院内に入ると、そのまま個室の病室に案内をされた。
「この部屋でお願いします。すでに治癒魔法によって治療はされているようですが、念のために各種検査を行います。他の負傷をした騎士団の方々も無事に助かりますので、大丈夫ですよ」
「よかった……ありがとうございます!」
出雲は無事だという言葉を聞いて、胸を撫で下ろした。出雲は検査入院により二日間入院をし、二日目の午前中になると出雲は退院していいと主治医の男性に言われた。
「傷も治りましたし、退院して大丈夫でしょう。何かご自身で体に違和感などはありますか?」
「いや、大丈夫です! もう全快です!」
出雲は自身の体を軽快に動かしながら主治医に大丈夫だと伝えた。すると、部屋の扉が静かに開いてそこには一人の女性が立っていた。出雲はその女性を見ると素早くお疲れ様ですと頭を下げながら言う。
出雲の病室に入って来た女性は、極々一般的な黒いパンツスーツを着ていた。その女性は肩にかかるまでの黒髪をし、目鼻立ちがハッキリしている凛々しい顔をしていた。また、服の上からでもわかるスタイルの良さも相まって人目を引く綺麗な見た目をしている。
「元気になったようだな。身長が少し伸びたか? 私ももう越されてしまったな」
「副団長ありがとうございます! それに俺はもっと強くなりたいと思います!」
「その強くなりたいという気持ちを忘れずにな。と、私がここに来た理由だが、君が先日に戦った魔族と名乗った二人のことを教えて欲しい。既に支部長たちには聞いているので、最後に君からも教えてもらおうと思ってね」
副団長が出雲に言うと、出雲は窓際に置いてある丸椅子に座ると副団長にその時のことを話し始めた。
「初めはただの珍しい魔物だと思いました。村を攻めてきた魔物の一番後ろにいて、不思議な感じがしました」
「一番後ろにか。そこは全員同じ証言をしているな。続けて。」
「はい。現れた魔物に対して支部長が攻撃をして後ろにいた魔族以外を一掃しました。すると魔族が新たな魔物を呼ぶと、支部長以外の騎士団員たちは戦いだしました。その新たに現れた魔物以外に、人型の魔族がもう一体現れていました」
出雲の説明を聞いていた副団長は、何かをメモに取っているようである。副団長はメモに書き終えると、出雲にそのもう一体の魔族も強かったのねと言った。
「はい。既に聞いていると思いますが、その魔族も初めは片言で話し、全身に鱗が生えてました。鱗は二体の魔族に生えており、男性女性といった性別があるようでした」
「やはり性別が存在するのね。ということは、魔族は繁殖をして文明を築いているかもしれないわね……」
出雲と副団長が話していると、一人の男性が入って来た。その男性は副団長にお時間ですと話しかけると、もうそんな時間なのねと呟いた。
「長々とごめんなさいね。明日は休暇にしておいたからゆっくり体を休めて頂戴。あ、折れた剣は新しく発注をしておいたから、本部によって帰ってね」
「分かりました!」
その出雲の言葉を聞いた副団長は笑顔で返すと男性と共に部屋を出て行った。
「俺も本部によって帰るか。検査料金とかはどうなるんだろう?」
出雲は一階ロビーの会計受付に向かうと、受付にいる女性職員が出雲に対して料金は騎士団本部に請求をしますのでと言われた。
「そうなんですね! ありがとうございます!」
「お大事にしてくださいね」
「はい!」
そう言いながら頭を下げると、出雲は病院を後にした。外に出るとお昼時であり、出雲は大通りを歩いて王都特製ハンバーガーを買って食べながら本部を目指した。本部は王城の側に設置してあり、本部の窓から王城がよく見えることで有名である。騎士団本部は地上五階地下三階の長方形の作りとなっており、前面がガラス張りの作りとなっているが反射をして建物内が見えない特殊なガラスとなっている。
「なんか久々に来た気がするな。本部って色々な人がいるからなんか苦手なんだよなー」
頭部を軽く掻きながら渋々という顔で本部の鉄製の正面ドアを開けると、そこには広い空間が広がっていた。出雲は入り口の左側にある受付カウンターに座っている女性に話しかけた。
「すみません。黒羽出雲ですが――」
「あ、お話はお聞きしています。地下一階にある武器保管庫の職員にお話しください」
「分かりました」
出雲は一階ロビーの奥にある地下へ降りる階段に向かった。階段を下りていくと何名かの騎士団員か本部職員か分からないがすれ違った。
「ここも多くの人が働いているな。いつの間にか職員が増えて、いつの間にか顔見知りが消えていく。悲しい職場だ」
出雲は戦場で倒れた騎士団員や、支援に来てくれた騎士団本部職員を思い出しながら地下一階に到着した。地下一階に降りると、目の前に武器庫と書いてある鉄の扉が見えた。出雲はその扉を静かに開けると、広い空間が現れた。
「ここが武器庫か。入るのは二回目くらいかな?」
ゆっくりと武器庫に入ると、両サイドに置かれている棚に様々な武器が置かれていた。剣に槍に斧と多くの武器種が置かれている棚の間を進むと、奥の方に武器庫の担当事務員たちの姿が見えた。忙しなく動いている事務員の男性に出雲は話しかけた。
「すみませーん。お話が言ってると思いますが黒羽出雲です」
「あ、黒羽さんですか。お話は伺っています。こちらの長剣ですね」
そう言いながら男性事務員は受付カウンターの下から布で巻かれている長剣を取り出した。その長剣を受け取った出雲は布を取る。
「ありがとうございます。あ、鞘はどこですか?」
「あ、申し訳ありません。こちらです」
「ありがとうございます!」
鞘を受け取った出雲は長剣を入れて武器庫を後にした。騎士団本部から出た出雲は家に戻って体を休めようと歩き始めた。日が出ている眩しさを感じながらも、王都の大通りを通って家に戻る。途中で知り合いと会って談笑をしながら家に戻っていった。
「やっと家に到着した。ゆっくりしたいときに知り合いに会いまくるから、疲れちゃったよ……少し眠いから仮眠しよう」
出雲は押入れから敷布団を取り出して床に敷いた。そして布団の中に入って寝始めた。数十分、数時間寝たか分からないが、出雲はゆっくりと目を開けた。すると辺りは既に真っ暗であり、喉が渇いたなと小さな声で呟いていた。
「確か奥の方にある冷蔵庫に飲み物が……」
出雲は冷蔵庫の中に保存用の容器に入れていた飲み物をコップに注いで飲み始めた。すると、外から悲鳴のような声が聞こえた気がした。
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