第4話 強さの壁

「男性型の魔物が……目の前に……」

「えッ!?」


 出雲が男性型の魔物がいた方向を向くと、出雲の眼前に既に立っていた。男性型の魔物は足で出雲の左頬を蹴った。その攻撃を受けた出雲は後方に吹き飛んでしまい、漁業で使う荷物を入れている倉庫に衝突してしまった。


「黒羽君!?」

「無事か!?」


 出雲が吹き飛んだ方向を見て無事か確認をしていた。出雲は倉庫に衝突をした衝撃で気絶をしてしまい、意識を失っていた。出雲が意識を失っている最中、支部長と残った騎士団員の人たちが魔物と戦っていた。数分か数十分経過したか分からない程に時間が経過すると、出雲の意識が戻った。


「頭痛が……うぅ……俺はどれくらい意識を失っていたんだ……」


 ゆっくり身体を起こすと衝突した時には建物の形があったとにも関わらず、現在は建物がそこにはなかった。出雲戸惑いながら周囲を見渡すと地面が陥没していたり先ほどまで共にいた騎士団員が地面に血を流して倒れている姿が見える。また、周辺の建物が破壊されており、地面には陥没後以外にも血の跡や破壊された長剣が転がっていた。


「みなさん!? 大丈夫ですか!?」


 出雲が近くで仰向けに倒れていた男性騎士団員に話しかけると、出雲に対して生きていたのかと消え入るような声で呟いた。


「気絶していただけです! 何があったんですか!?」

「お前が気絶した後に……支部長以外の全員があの男性型の魔物と戦ったが倒すことはできずに、右腕を切り落として腹部に一撃しか与えられなかった……」

「それでも凄いです! 後は任せてください! あ、支部長はどこにいるんですか?」


 出雲が支部長のことを聞くと、男性騎士団員はあそこで戦っていると海の方向を指差した。支部長は海上にて女性型の魔物と戦い続けていた。女性型の魔物以外にも海竜と男性型の魔物が生き残っていたが、支部長は深手を負いながらもその三体と戦っていた。


「俺一人になってもお前たちを斬り倒す!」

「やってみるがいい。お前に私は倒せない!」


 始めは片言だった女性型の魔物は、いつのまにか流暢に言葉を話すようになっていた。出雲は何があったんだと困惑していると、目の前に男性型の魔物が現れた。


「なんで目の前に……俺だって!」


 出雲は側に落ちていた長剣を手に取ると、目の前にいる男性型の魔物に斬りかかろうとした。だが、その攻撃は左腕しかない男性型の魔物に軽々と左手で受け止められてしまった。


「オマえのコうゲキは、カルすギる」

「そんな!? でも、それでも……俺はお前を倒さなければならないんだ!」


 出雲は剣を持つ手に力を込めて、長剣を押し込もうとした。しかしその出雲の攻撃は簡単に弾かれてしまった。弾かれた出雲は腹部に隙が出来てしまい、その腹部に男性型の魔物の蹴りを入れられてしまった。


「ぐぅ……強すぎる……お前は何者なんだ!」

「ナにモの……オれたチはマのモのダ……そして、お前たちを滅ぼす存在だ!」


 目の前にいる男性型の魔物の喉に鱗が生えた瞬間、流暢な言葉を喋り始めた。その光景を見た出雲は、目を見開いて驚いていた。


「急に言葉を流暢に話してる!? 何をしたんだ!?」

「我々は常に進化をする。魔の者……これからは魔族と呼んでもらおうか!」


 自身のことを魔族と呼んだ男性型の魔物は出雲に詰め寄って、ルクスと呼べと言った。その言葉を聞いた出雲は、お前の名前なのかと聞いた。


「そうだ。魔族には個というのがなかったが、これから増えていく。手始めに俺はルクスという名前にした」

「手始め? もっとお前のような魔物が増えるというのか?」


 出雲が言った魔物という言葉を聞いて、ルクスは違うと叫ぶ。


「俺は魔族だ! 魔物などと一緒にするな!」


 違うと叫びながら出雲の左頬を殴った。出雲は殴られた衝撃で吹き飛ぶも、気絶することはなかった。


「ルクスだろうか魔族だろがどうだっていい! 俺は守るためにここにいるんだ!」

「俺より弱いくせに守るなんて抜かすな!」


 ルクスが左手で出雲を殴ろうとした瞬間、誰かがルクスの腕を握ってその攻撃を止めた。その手は先ほどまで支部長と戦っていた女性型の魔物であり、いつの間にか出雲たちの場所に移動をしていた。


「ルクスと言った? 魔族の品を下げる行いはやめなさい。人族と同じになるわよ?」

「それはすまなかった。こいつがイライラさせるもので」

「分かればいいわ」


 女性型の魔物がルクスの腕から手を離すと、さっきまで戦っていた男はあそこに倒れているわよと出雲に言う。支部長は女性型の魔物に倒されてしまい、木製の漁船に埋まりながら気絶をしていた。


「支部長!? お前がやったのか!?」

「そう言ったじゃない。聞いていなかったの? 私が倒したわ」


 その言葉を聞くと、出雲は女性型の魔物に長剣を振るおうとするもその長剣は女性型の魔物の手刀によって叩き折られてしまった。


「そ……そんな……」

「あなた弱いわね。さっきまで戦ってた男の方が強かったわ」


 そう言われた出雲はその場に座り込んでしまい、ここで死ぬのかと考えていた。だが、一向に殺される気配がなく何が起きたんだと目の前にいる魔族の方を向いた。すると目の前の二体の魔族が何やら話しているようであった。


「そうね。今はそれで行きましょう」

「それがいい。俺たちを進化させてくれた人が呼んでいるようだし」


 そう言うと二人の魔族は踵を返して海の方へ歩いて行く。数歩程度歩いていた女性型の魔物が出雲の方を振り向いて、言葉を発した。


「私の名前を言ってなかったわね。私はルカよ。覚えておくことね」

「もういいだろ。行くぞ」

「はいはい」


 二体の魔族はそう言い合っていると、海の中に消えていった。出雲はそれから数分動くことができずに地面に座っていると、助けないとと小さな声で呟いていた。痛むからに鞭を打って立ち上がると出雲は近くに倒れている騎士団員から声をかけていき、生きているか確認を始めていく。幸いにも全員生きてはいるが傷が深く、すぐには動ける状態ではないようである。

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