第2話 伝令
世界が闇に覆われる数日前、王国騎士団の一員である黒羽出雲は町を歩いていた。王都の空を見上げて歩きながら早朝の綺麗な空気を吸って深呼吸をしている。現在十七歳である出雲は同じ年の人々が学校に通っている年齢だが、出雲は騎士団に入団をして魔物や国に対する脅威と戦うことを選んだ。
出雲が暮らしている大和王国はユメリア大陸の東部に位置する大陸一の巨大な王国である。王都八雲と周囲の地域に存在をする都市からなる王国であり、出雲は王国騎士団の本部がある王都八雲に一人で暮らしている。
出雲は幼いころに住んでいた大和王国の外れにある小さな村で両親を魔物の襲撃により失うが、妹と二人で逃げた。だが、妹が川に流されてしまい離ればなれなってしまっていた。出雲はその後、王都八雲にある孤児院で生活を始めるとそこで一人の少女と出会った。その少女は王の妾の子であり、後に第二王女となる篁愛理であった。
愛理は綺麗な薄いピンク色の髪をしており、二重の目が綺麗な可愛い顔をしている。妾のこということもあり、愛理は十歳になるまで出雲と同じ孤児院にて生活をしていた。愛理が十歳の誕生日の際に王が自ら愛理を迎えに来て、お前は第二王女として生を受けたのだと愛理に伝えた。その時から出雲と愛理は離ればなれになってしまうも、出雲は騎士団に入って愛理を守って行こうと決めた瞬間でもある。
「今日で騎士団に入って一年か。早いような長かったような……騎士団は王直属の組織だから愛理と話す機会も多いけど、あっちは俺を覚えている気配はないな」
出雲は町を歩きながら、早朝から開店をしている行きつけのパン屋の前で足を止めた。
「出雲じゃないか。こんな朝早くからどうしたんだ?」
「目が覚めちゃって、朝食を食べる前に少し歩こうかと思いまして」
出雲に話しかけた初老のパン屋の男性は、いつもの食べるのか聞いてきた。
「朝食をまだ作ってないし、パンを買います。えっとー……」
出雲は屋台に置かれているパンを見て悩んでいた。いつも買っているウィンナーパンを買うか、ツナマヨネーズパンを買うか悩んでいる様子である。するとパン屋の男性がこれを食べなと一つのパンを手渡してきた。
「最近開発したウィンナーメロンパンだ! 結構美味しいんだぞ!」
「ウィンナーとメロンパン……本当に美味しいんですかそれ……絶対美味しくなさそうなんですけど……」
出雲が絶対に美味しくないと言うと、店長の男性が出雲の口の中にウィンナーメロンパンを押し込んできた。押し込まれた出雲は勢い余って食べてしまった。出雲は口の中に入っているウィンナーメロンパンを噛むと、その味に驚く。
「甘いし肉汁が溢れてるし、美味しくないよこれ! うげぇ……」
「そうか? 俺は好きなんだけどなー」
店主の男性は美味しいんだけどなと何度も言いながら、新開発をしたウィンナーメロンパンを食べていた。出雲はウィンナーパンを二個買うわと言って料金を支払った。
「いつもの買ってくわ」
「また新しいの作るから、次こそは美味いと言わせてやるからな!」
「楽しみにしてますよ」
そう言い出雲は家に向かって歩き始めた。出雲は集合住宅の一室にある小さなワンルームの部屋に三年ほど一人で暮らしている。仕事の資料や騎士団の活動に必要な荷物と普段着る用の服しかなく、とても質素な部屋となっている。パンを買って部屋に戻った出雲は、部屋の窓を開けて新鮮な空気を入れながらパンを食べていた。
「今日もしっかり守るために働かないとな。俺と同じような境遇に合わせることなどさせない」
出雲は幼少期に両親や妹を失った悲しみを、他の人々が味わう必要がないように動いていた。それと同時に第二王女を守る剣になりたいとも考えていた。出雲はパンを食べながら孤児院にいた時に、第二王女である篁愛理に救われたことを思い出していた。
「同じ孤児院にいた時にうじうじしていた俺を励ましてくれて、そんなに守りたいなら王直属の騎士団に入って私を含めて守りなさいって言ってくれたんだよな。そのあと愛理ちゃんは第二王女だと判明して王に役目を果たせって言われながら王宮に連れて行かれてしまったんだっけ……」
出雲は騎士団の制服である青と白の綺麗な色が目立つ服に着替える。長袖長ズボンでありながら、特殊な魔法によってその環境に適した気温に調節されたり防御力が高められる調整がされている。着替え終えた出雲は、腰のベルトに支給されている長剣を付けると家を出た。
「何度か愛理ちゃんと会っているけど、もう俺のことは忘れちゃってるだろうな。でも俺は約束通り、騎士団に入って国の人々や君を守っているよ」
集合住宅の入り口前で空を見ながら出雲が小さく呟いていると、入り口に一人の騎士団員が慌てて走ってきた。
「伝令! 王都八雲の北部五十キロ地点にある村に魔物の群れが襲来予定! 騎士団で動けるものはすぐに駆け付けるようにとのことです!」
「分かりました! すぐに向かいます!」
出雲はすぐに駆け出すと、伝令に来た騎士団員が北側にある小屋に馬が用意されていますと叫んでいた。
「ありがとうございます!」
「気を付けてください!」
出雲は大急ぎで北側に向かうと、国との境の場所にある小屋に言われた通り馬が一頭いた。出雲はその馬を見るとすぐに跨った。
「北部にある村だと、海沿いにあるあの村か!」
出雲は馬に跨って、王都八雲から北部にある海沿いの新里村に向かって走り出した。
「俺以外の人も向かっているのかな?」
出雲は他の騎士団員も向かっているのか気になっているが、今は早く向かうことが大切だと考えていた。王都八雲から出発をして一時間が経過すると、次第に新里村が見えてきた。村の入り口には十頭の馬が待機しており、既に騎士団員が村にいることを示していた。
「先に既に騎士団員がいるみたいでよかった。魔物はもう倒したのかな?」
出雲は村の中に入ると、そこに村人の姿は一人も見えなかった。出雲は村の奥に進むと、新里村は漁村なので、木で作られている船や多くの魚を捌いたり保管をする施設が見えていた。
出雲は海の方に進むと、そこに騎士団員が数人立っているのを見て、小走りで駆け寄った。
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