騎士と姫騎士の楽園奪還~その楽園は天国か地獄か~
天羽睦月
第1章 終わる世界
第1話
満月がよく見える深夜。大和王国全土に悲鳴が響いていた。その悲鳴は老若男女問わず響いており、国民全員が国の外に逃げ出そうとしていた。しかし、誰一人国から逃げ出すことはできなかった。
「どうして国から出られないんだ! おい! そっちからはどうだ!?」
「こっちもダメ! 何か膜なようなものがあって出られないわ! なんで出られないのよ!」
王都八雲だけではなく、大和王国の全ての都市や町に村の住民が外に出られなかった。また、国中を守護している王国騎士団員も外に出れなかった。騎士団員は国民の暴動や不安を収めようとするも、話を聞かれることはなかった。
国土全ての都市や町で国民が悲鳴を上げている最中、王都八雲にある王宮にて一人の騎士が階段を駆け上がっていた。その騎士とは騎士団に入団し一年目の黒羽出雲である。出雲は綺麗な耳までかかる長さの黒髪を振り乱しながら階段を駆け上がり、右手には支給品の長剣を強く握っていた。また、青と白が映える騎士団の制服には赤い血のような血液が付着していた。
出雲は目鼻立ちがハッキリしている顔立ちをしているが、どこか幼い雰囲気が残っている。その出雲の右頬にも赤い血液が付着しているようであった。出雲は頬に付着している血液を気にも留めずに階段を上り続ける。
「どこですか! どこにいるんですか王女様!」
出雲は焦りながら王宮の階段を上り続けていると目の前に黒い霧が一ヵ所に集まりそこから魔物が現れた。その魔物は狼や人型の死霊系の魔物が数体現れていた。
「また邪魔をする! 俺は早く王女様を助けないといけないんだ!」
出雲は長剣を強く握り、目の前に現れた魔物を両断していく。出雲は消えろと叫びながら最上階に到着した。最上階の廊下には数名の倒れている騎士と魔物と相打ちになっている騎士がいた。
「騎士団のみんなが……ここで戦闘が行われていたんだ……」
出雲は倒れている騎士団の仲間を見ながら、奥にある部屋を目指す。最上階の東側にある角部屋が出雲が救おうとしている王女がいる場所である。
王女とはこの大和王国の第二王女であり、出雲を幼い頃に救ってくれた人物である。出雲は幼い頃から第二王女と関わりがあり、騎士団に入ってからは話す機会が増えていた。出雲は孤児院にいた際に救われた恩返しのために命を懸けて守り通すと考えていたのだが、今現在第二王女の安否が分からないので出雲は不安で押し潰されそうであった。
「この部屋だ! 王女様! 入ります!」
出雲が扉を開けると、そこには第二王女に迫る人型の魔物がいた。その魔物は錆びている長剣を持ち、骸骨の姿をしていた。その骸骨の魔物の前にはこの大和王国の王が立ち塞がっていた。
「娘を殺させるわけにはいかない! 娘はこの世界を救う鍵なのだ! この世界に光をもたらす大切な娘を殺させない!」
「お父様!?」
王女がお父様と呼んだ瞬間、骸骨の魔物の長剣が王の体を貫いた。その姿を見た王女は悲鳴を上げて地面に倒れそうになる王の体を掴んだ。
「お父様どうしてなんですか!? なんで私なんかを守ったんですか!」
血を吐き出している王の体を見て、王女は貫かれた腹部に左手を当てた。その王女の左手が赤く染まる程に夥しい量の血液が流れ出ていた。
「お前を……蔑ろにしていたわけでは……ない……むしろ、お前の……人生を考えて……私から離れさせたのだ……」
「そんなこと今言わないでください! 元気な姿で言ってください!」
王女が泣き叫びながら王に話しかけていると、出雲は骸骨の魔物に対して長剣を振るった。すると、骸骨の魔物の左半身が変化をし、筋肉と肉が出現した。左半身だけを見ると人間と変わらない見た目となっていた。変化をした魔物は出雲の攻撃を持っている長剣で防いだ。
「おマえはオれタチのキョうイとなる。いマココでコロす!」
左半身だけなのか片言でハッキリ聞き取りづらい声色となっていた。その怪物は王女の脅威に気が付いているようで、王女を睨みつけていた。しかし出雲は長剣を構えて殺させないと骸骨の魔物に対して叫んだ。
「逃げてください! ここは俺が食い止めます!」
出雲が二人に言うと、王女が出雲を見ながらもしかしてと言葉を発する。
「もしかして出雲なの? どうしてここに……」
「子供の頃に王女を守る剣になると言いましたよね? そのために騎士団に入ったんです。それにこのような状況の時に守れないと意味がありません!」
出雲がそう返すと王女はありがとうと小さく呟いた。すると血を吹き出している王が出雲と王女に話しかけた。
「お前たち二人が希望だ……世界を守ってくれ!」
その言葉と共に王は首から下げていたネックレスを引きちぎり、出雲の足元に幾何学模様の魔法陣を出現させた。
「出雲君と言ったか、君に娘を託す……必ず世界を救うのだ……さぁ行け。お前の力で世界を……」
そう王女に言うと、王は立ち上がって骸骨の魔物に向かって行く。骸骨の魔物は王の体を長剣で貫くと、邪魔だと叫んでいた。
「行け! 世界のために! この国のために!」
「必ず守り通します!」
「お父様の想いを受け継ぎます!」
二人はそう言葉を発すると、幾何学模様の魔法陣が輝いて二人の姿が消えた。この瞬間から世界の命運を懸けた戦いが始まるのだが、時は数日前に遡る。
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