あっ、ミュート忘れてた。俺の命やばいわ。

コースが決まり、レース開始となる。


もちろん、初心者御用達のコースを選択である。


無理に難しいコースを選んでしまうとコースアウトして、忖度どころではなくなる。


「ここは、我の得意なコースじゃん。負けないからね。」


卑弥呼様は息巻いている。


ここは、初心者コースでありミスが少ないため、得意と勘違いしているのだろう。


彼女のプレイスキルは得意なコース云々とか言うのはおこがましいレベルなのだ。


 


「卑弥呼様、正々堂々と戦っていきましょう。」


俺はにこやかに笑って、返した。


 


絶対に、卑弥呼様と正々堂々戦いたくないよ。


勝ったら、生死をさまようくらい首絞めてくるんでしょう。


そんなの嫌ですから。


 


ロード画面が終わり、審判がスタートのタイミングを取っている。


普通なら、スタートダッシュのタイミングを取っていくのだが。


 


だが、俺たちは違う。


その意識の違いが、次の瞬間で分かる。


俺らは卑弥呼に勝たせたいんだ。


――――俺と、豆民と、ひみ民の3者の願いであり、3者の目的だ。


 


卑弥呼様はもちろん、全員がスタートダッシュを失敗させた。


これが俺ら3者の結束の力だ。


卑弥呼は、気持ちよく勝ってくれよ。


 


コメント


:スタートダッシュ全員失敗は草。


:これが団結する力なんだね。


;すげーよ。おい。これ切り抜かれるぞ。


:ここまでくれば、感動するわ。


:本気で勝たせるつもりで草。


 


コメントを見て、シュールすぎることに気付いてしまった。


いつもならこれで笑っているのだが、今回は命がかかっているから笑えない。


でも、みんな守ってくれてありがとう。


 


そして、俺は動き出す。


 


「卑弥呼様、くしゃみが出そうだから、ミュートにしていいですか?」


俺は、卑弥呼に尋ねた。


もちろん嘘である。


ミュートを口実にリスナーと裏で作戦会議を行っている。


この忖度レースは俺の作戦があって、ようやく起動する。


 


「いいよ。我も集中したいし。」


卑弥呼は了承してくれた。


どこか冷たい感じを受けた。


 


「・・・」


卑弥呼は何かを考え始めている。


俺への視線が強くなっている。


何かを察したのであろうか。


首絞めの時に見せた。殺し屋の顔になっていた気がした。


マジで怖いんですけど。


――――――――――――――――――


 


 


さっそく、ミュートにし、リスナーと作戦会議を行う。


「おい、聞こえるか。」


コメント


:聞こえている。


:OK


;OK。


:OK


:OK


「どうやら、聞こえているみたいだな。」


 


「最初の指示は、絶対に卑弥呼様に甲羅とかバナナを当てるな。


バナナはすべて俺が踏んでいくからよ。」


コメント


:お前が優秀に見えてきたよ。指示を出す才能があるんだな。


:バナナ全部踏む(意味深)


;卑弥呼さまに攻撃したら、順位すぐにおちそうだもんね。


:エドワードさん。分かりました。


:なんか、お前が全力で可哀想だわ。


 


コメントを見る感じ、妨害勢はいなくて安心した。こういった感じのことをすると、アンチや妨害厨が湧くのだが、ありがたいことに湧いてこない。


やはり、俺のリスナーにもひみ民にも感謝しないとな。


 


レースも中盤になっており、俺たちの忖度があってか、卑弥呼は12番中2位という好成績を残している。


 ミュートを外して、卑弥呼への接待に回った。


このまま作戦会議を続けると、怪しまれるからね。


 


「さすが、卑弥呼様2位ですよ。このまま、油断しなかったら、高順位ですよ。」


俺は卑弥呼を褒めた。


こういうやつは、褒めれば上機嫌になって、周りが見えなくなる。


 


「我もうれしいよ。我らのプレイが下手なせいか。リスナーもプレイ下手だね。」


卑弥呼は嬉しそうに言っていた。


 


 


「確かにそうですね。似たようなリスナーが集まりますね。」


俺はにこやかに返事をした。


「あっ、落ちたよ。また、落ちた。」


卑弥呼様は崖に何度も落ちたみたいで、あわてている。


それに伴い、順位も11位となり、俺はとうとう卑弥呼様の順位を抜いてしまった。


「卑弥呼様、話しかけたせいでプレミさせてしまいすみません。」


俺は胃がキリキリするのを感じながら謝った。


「いいよ。そんなことで怒っていたってしょうがないし。」


明らかにいらいらしながら卑弥呼様は答えてきた。


 


「豆君さ。くしゃみ多くない?我の気のせいかな?」


卑弥呼はなにか気付いているのだろうか。


ピンポイントの嫌なタイミングで聞いてくる。


 


「春先だから、花粉症ですよ。」


 


「我さ、そういう悪意とか。騙しに関しての勘は働くから。


悪いことしているんだったら、言ったほうがいいよ。」


卑弥呼の言葉には明らかに殺意が籠っていた。


 


「あははh、そんなわけないですよ。くしゃみ出そうです。ミュートしますね。」


俺は、すぐに逃げたかった。


怖すぎる。


もしかしたら、ミスをしたかもしれないが。


リスナーと俺だけの関係に逃げたかった。


 


――――――――――――――――――――――――


 


 


「おい、おまえら、卑弥呼様の順位が落ちているぞ。


お前ら、すこしペースを落とせ。」


 


コメント


:ミュート。ミュート。


:あっちに聞こえているぞ


:やばいってこれは。


;ミュートしろ。


:次回、豆、死す。


 


 


あっ、ミュート忘れてた。俺の命やばいわ。


 


前の職場でも、注意しなさいと怒られていたわ。


結構ミスりやすいんだよねw。

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