こうして、忖度レースが始まろうとした。
時間が経ち、マリモカートの準備に取り掛かっていた。
「卑弥呼様、フレンド戦以外だと荒らしが出ると思うんですよ。だからフレンド戦にしましょうかね。」
俺は、卑弥呼に提案してみた。
もちろん、荒らし対策のためではなく、俺の忖度リスナーを連れていくための準備である。
野良プレイヤーとか連れてきてみろよ。
忖度どころの問題ではないって・・・
「我はいいけど。」
卑弥呼はあっさりと了承してくれた。
野良とかフレンドとか気にするレベルまで達していない卑弥呼にとって些細な問題である。
俺と、卑弥呼と、リスナーとでレースをするメンバーが集まりだした。
コースの選択画面になり、少し時間がかかりそうで、マリモカートについて考えた。
そもそも、マリモカートは、普通のレースゲームとは異なっており、道におちているアイテムボックスを拾って、アイテムを使える。そのアイテムの中身は完全ランダムだが、順位が高い時は弱いアイテム、逆に順位が低い時は強いアイテムが出るとしっかりと逆転要素を残している。
レースが3分後ぐらいに始まりそうだったので、俺は動き出した。
「卑弥呼様、くしゃみが出そうだから、ミュートにしていいですか?」
俺は、卑弥呼に忖度がばれないかとどきどきしながら、聞いた。
これは、もちろん嘘である。
ミュート中にリスナーと作戦会議を行っていく。
「いいよ」
卑弥呼はすぐに返答してくれた。
この純粋無垢な卑弥呼の笑顔を見ていると申し訳ないと思ってしまう。
でも、卑弥呼が気付かなければ、卑弥呼にとってもいい話である。
だから、忖度であることを気付かないで・・・
「ありがとうございます。」
俺は言った後、すぐにミュートにした。
申し訳ないという気持ちは持っているが、今の俺にとって首絞めより恐ろしい事は無いという気持ちが勝っている。
――――――――――――――――――――――――
「おい、お前ら。聞こえているか?」
卑弥呼には聞こえないようにミュートにしたため、リスナーに向かって言っている。
コメント
:聞こえている。
:OK
;卑弥呼様の配信では、お前の声聞こえていないぞ。
:OK
:OK
どうやら、みんなには聞こえているみたいだ。
機材トラブルで、作戦会議が出来なくなってしまうと忖度レースどころではない。
無事に行えて安心している。
「レース中にいきなり止まったり、逆走とかの明らかにすぐに分かる忖度はやめてね。」
目に見える忖度は、されているほうにとってバカにしていると思われるのだ。
俺もそれをされたら、いい気分にならないし。
忖度というのはばれないことが大前提である。
しかし、俺はこういった重要なことで大きな失敗をする傾向がある。
だから気を引き締めます。
絶対にミュートは忘れない。まずはそこの徹底だ。
コメント
:忖度って、ばれたら、やばいよね。
:OK
;忖度も、大変だね。
:OK
:OK
「まず、最初の忖度だ。みんなスタートダッシュミスれよ。」
スタートダッシュのミスは、結構普通に見られているため、軽い忖度としてはいいだろう。
むしろ、卑弥呼もミスるから同じスタートラインに立っているんだよな。
これ以上の忖度をしろというのか。
神は本当に残酷だ。
コメント
:スタートダッシュは時たま、ミスるよね。
:OKって言いたいけど、参加していないんだよね。
;ひみ民ですが、エドワードさん協力させてください。
:OK。ミスればいいんだね。
:エドワードさんの胃が心配ですから、協力します。これからのコラボに響きますからね。
ひみ民よ、ガチでコラボ相手がいないことが悲しいのは痛いほど分かるが、俺は卑弥呼とコラボしたくないよ。気を使わないと、首絞められるからな。
――――――――――――――――――――――――
これ以上作戦会議を長引くのであれば、気付かれる恐れがある。
ミュートを切って、卑弥呼に繋げた。
「卑弥呼様、くしゃみでミュートにしてすみません。」
俺は、卑弥呼に謝った。
こういうやつには、自分が少しでも悪いことをしたら、すぐに謝る必要がある。
理不尽に切れてくるからな。
「いいよ。我もゲームに集中するときはミュートにしちゃうからね。」
卑弥呼はニコッと笑って許してくれた。
無邪気に笑う卑弥呼を見ていると申し訳ない気持ちになるが、しょうがない。
お前は暴力ですべて解決しようとするからこういうことになるんだぞ。
「よっし~、勝負事ですから、絶対負けませんからね。卑弥呼様」
俺は内心とは全く正反対の意気込みを言った。
まじで、卑弥呼勝ってよ。と切実に思ってしまう。
胃がキリキリしてくる。だから、お守りを強く握ってしまう。
こうして、忖度レースが始まろうとした。
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