・・・卑弥呼は何か勘違いしているよ。

卑弥呼はネットのコメントに殺意を湧かないが、

リアルの人間に対しては殺気を出しまくるリアルコミュ障なお嬢様である。

―――つまり、彼女にとってリアルな俺は殺意を出していい対象。


さらに彼女は知り合いに負けるとイライラするって殺意を出しまくりながら言っており、現実の人間に負けることにかなりの抵抗を覚えている。

つまりは負けず嫌い。違うな。勝敗を含め全ての出来事を思い通りにしたいお嬢様と考えられる。


これらのことを総合すると卑弥呼に勝ったら首絞めという結論に至ったというわけだ。


ゲームスキル皆無の卑弥呼とのコラボを開始する前に、リスナーにも忖度をさせないとかなり手加減している俺にすら勝つことはできない。

しかし、過度な手加減はプライドの高いお嬢様の逆鱗にふれるのだろう。

だから、リスナーにもお願いせざるを得ない。


――――――――――――――――――――――――――――――――――――

リスナーに頭を下げることは初めてで、かなり緊張している。

大声教の俺が教えを破り、配信を静粛に開始した。


「おはエド。皆様にお願いしたいことがありますが、お時間を頂けうれしいです。」

卑弥呼の件をネタとして扱われたくなかったため、政治家が重大な発言をしているように丁寧に発言した。


コメント

:おは豆。どうしたんだw

:おは豆。真面目な空気で草

:おは豆。例の卑弥呼様の件?

:卑弥呼様におびえすぎて草w



みんな、すまない。

豆いじりに返す余裕はないわ。

俺は、首絞められたくないんや。


やはり、恐怖の化身卑弥呼の件と豆民は理解している。


「100コメントという大量のコメントを打っていただきありがとうございます。」

俺はいつもの流れができずに謝罪の気持ちで一杯であったが、それを押し堪えて俺は丁寧に対応した。

―――いつもなら豆について突っ込むのだが、突っ込むほどの心の余裕がなかった。


コメント

:豆が、恐怖でいつものツッコミできていないw

:卑弥呼様はこわいからねw。ガチ百合だから、男性Vに対してね。

:勝手に卑弥呼様の件になっていて草。

:これ、ネタでとらえていいのかw?


どうやら、リスナー間でもネタである可能性があると思い、探り探りであるみたいだ。

いつもフランクの喋りをしている人間が、いきなり丁寧語になった時点で疑う気持ちは分かる。

それでも、真っすぐに敬語で話しかけていく。

間違っていない人間なら通じると信じているからだ。



「皆様が思っている通り、卑弥呼様とコラボする件です。

卑弥呼様のゲームスキルが思っていたより低くてですね。

そのくせ、卑弥呼様は負けず嫌いなんですよ。

だからですね。皆様、一緒に忖度をお願いします。」

長年にかけて築きあげた信頼関係は本物だと信じており、丁寧語を使い続けている。



コメント

:いいよ。

:いいけどさ、絶対、事務所でなんかあったよね。

:あの人は、ガチだからなw。

:これは、豆の命が危ないからね。

やはり、長年作ってきた関係は崩れていなかった。



「ありがとうございます。放送では、嵐対策を銘打ってフレンド戦にしますね。


卑弥呼様と私と豆民の皆様で走ることになります。

だから、卑弥呼様のリスナーに負けないようにレースに参加してください。

指示は、レース中に出します。

あと、レース中走らないなどの明らかに分かる忖度はやめてくださいね。」

安堵したためか、少し早口になっており、この配信を終わらせようとしていた。



コメント

:分かったで。

:よっしゃー任せろ。

:卑弥呼様にも気持ちよくなってもらいましょう。

:卑弥呼様の世話役はVにいないし、初めてだね。

:卑弥呼様の世話はたいへんそうだね。

:卑弥呼専属の執事になっている時点で草。


分かってくれたのうれしいんだけどさ。

卑弥呼専属の執事は卑弥呼リスナーなんだよな。俺は違うから。

こんな奴の世話は1度きりでもこんなに嫌だからね。

冗談でも、それはライン超えたぞ。


「そこは卑弥呼様のリスナーでしょう。

私には高貴な卑弥呼様を支えきれないですよ。」

俺は、やんわりした口調できっぱりと否定した。


コメント

:はじめまして、ひみ民です。卑弥呼様は人と関わることが苦手ですが、自分から誘っている時点でなにかしらの魅力があり、資格は絶対にあります。

: エドワードさん、はじめまして。卑弥呼様のリスナーです。少なくとも私はそのような考えは持ちません。

: ひみ民です。卑弥呼様が初めて自分から選んだ殿方ですので、私は歓迎していますが。


胸やけしそうな礼儀正しい大量のコメントに俺は一瞬戸惑っていた。

しかし、すぐにさっきのアーカイブで見ていた卑弥呼リスナー(通称はひみ民と言うらしい)と分かる。

とりあえず、ご主人様と同じで圧がすごいんだよ。

やはり、卑弥呼への愛が重いな。


あっ、そうだ。

卑弥呼は女性Vだから、ガチ恋勢はいるはずだ。

ガチ恋勢に暴れてもらって、コラボ配信をなくしてもらう。


「ひみ民的には、男性Vとコラボは嫌悪感を抱いている方が多いと思います。

大切な卑弥呼様には、きれいなイメージは保ち続けてもらいたいですもんね。」

俺はガチ恋ひみ民の嫉妬心に火をつけようとして、大暴動を期待した。


コメント

:嫌悪感はありませんね。むしろ、うちの卑弥呼様をよろしくお願いします。$1万

:卑弥呼様が心を許しているのは理さんしかいないからですね。コラボ先は増えてほしいです。

:エドワードさん。心の闇が深い卑弥呼様を助けてください。$1万

:私は卑弥呼様が認めてくれた方ですので、信頼しかないです。


うそだろ?暴動を起こそうとしたら、卑弥呼のこと頼まれたんだが・・・

不登校の親が初めて来た友達に茶菓子をやっているような空気が出ており、卑弥呼を無下に扱うことが申し訳ないと思った。

だから、人気女性Vにもかかわらずガチ恋勢0人の事実に噴き出すことができなかった。


「ひみ民のためにコラボがんばって。卑弥呼様に気に入られるように頑張りましょう。

だから、卑弥呼様に気持ちよくゲームを楽しんでもらいましょう。」


不登校児の親の前ともあり、卑弥呼を称える演技をしている。

―――顔は苦笑い。


コメント

:卑弥呼様の対策頑張ろう。

:忖度しないとなw

:卑弥呼様とは、なんやかんやでうまくやっていけそう。

:私もひみ民ですが、雰囲気が好きです。チャンネル登録しました。


実は、配信の結果に内心喜んでいた。

豆民には卑弥呼のやばさをなんとなく受け取ってもらい、卑弥呼が不機嫌になったら、

配信に乗ってはならないことが起きる事を理解してもらう。

ひみ民としては、卑弥呼がわざわざ連れてきたコラボ先を潰すわけにはいかない。

そのため、負けず嫌いである卑弥呼が切れてしまい、コラボ先を失うことは避けないといけない。


俺含む3者が忖度することに賛成している。


こうして、配信を切った。


――――――――――――――――――――――――――――――――――――


配信を切った後、ぼんやりしていると・・・

なんで、卑弥呼は俺とコラボをしようと思ったんだろうか?

俺はふと疑問が浮かんだ。


ひみ民からの反応を察すると、コミュ障である卑弥呼が勇気を出してコラボだから特別であろう。


あの時は、首絞め・同担拒否を許してもらったこと・理みたいな狂人発言したことぐらいだ。

狂人発言でたしかに距離は近くなったのは認めるが・・・

狂人発言前から興味は持たれており、女として未完成である卑弥呼だからこそ感じた魅力があったのだろう。

その魅力によって、卑弥呼のソロ配信でも少し見えていた純粋無垢な笑顔を見せてくれた。

―――あの時の顔が妙に魅力的で忘れきれない。


どうして、あの笑顔を見せる女性が、暗殺術や恐怖の与え方なんておぼえてしまったのだろうか。

それほどのトラウマを受けてしまい、変わってしまったのだろう。



人生経験豊富なひみ民が彼女の心には闇があると言っている。

―――俺の妄想は、おそらく的外れていないのだろう。


俺には魅力なんてないし、ここまで成り上がったのは事務所とリスナーの力が9割で、あと同期に恵まれていたことだけだ。


俺は夢を途中で捨てて、今は亡きルナちゃんの幻想を追い続かないと生きていけない人間で、小さい男である。

・・・卑弥呼は何か勘違いしているよ。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る