卑弥呼は、初めて男性に興味を持ってしまったのだ。

◆◆◆


お互いの勘違いをある程度理解するためには、卑弥呼の過去を少しばかり知る必要がある。


卑弥呼は女子中学生までごく普通の純粋な女の子であった。

だが、女性らしい体に成りつつある時に、恋愛感情という女性らしさを捨ててしまったのだ。


女性が女性らしさを捨てるということは、それほどの事故があったわけだ。

事故については、一部ぼかして説明する。

―――女性らしさを戻そうとする卑弥呼に対して、この件を忘れて輝かしい人生を歩んでほしいという気持ちがある。


中学生の時、既に卑弥呼はスタイルが良く、男子からちやほやされていた。

そのちやほやされていることに関しては、女王様気分になれるため心地が良かった。

今でもちやほやされることは好きであり、それがなければVも続いていないだろう。


ある放課後、とある生徒から告白をされて、それを断った。

それで終わればいいのだが、その生徒は暴力行為を卑弥呼に行った。

当時は純粋な少女であったため、正当防衛でその生徒に暴力行為を返した。

これが初めて人を傷つけた行為であり、当初は罪の意識を持っていた。


その次の日、あらぬ罪を被せられ、卑弥呼はいじめにあった。

だが卑弥呼はいじめに耐え抜くために、いじめたものに対して恐怖を与えることや暴力で逆襲していった。

彼女は生き残るために全てのいじめを打ち返していき、結果として暴力に対する罪の意識も薄くなっていった。

あの日、告白してきたのが男という生物であるから、特に男に負けたくなかった。

だから、卑弥呼にとって男性を屈服させることは当たり前のことである。

―――男子生徒、男性教師、暴走族の組長と自称していたもの、校長など。


つまり今の卑弥呼が男性嫌いかつ屈服させることを当たり前としたのは、理不尽な暴力であったためである。


とある狂人の救いによって、女性に対しては許しており、男性とはビジネスの話はできるところまで回復しているが。人と話す機会が少なかったためコミュ障は治らなかった。


◆◆◆




「はぁ~。我、先輩ぞ。言葉には気をつけろ!!!それに、我のアリス愛は誰にも負けないから!!!」

卑弥呼は、気にくわない腐った男性を全て薙ぎ払ってきた怒鳴り声を出した。

これで、今までの男性同様に屈服するであろうと思っていた。


「僕は、アリスたんへの愛なら誰にも負けません。」

だが出し切れるだけの気力で睨み返しながら、言い返してきたのだ。


 俺は人生を変えてくれたルナちゃんのためにも、相手がどんなやつでもアリスたんへの愛で負けたくなかった。これを否定したら、楽しかった思い出もルナちゃんが生きていたという証もどこかに飛ぶからだ。


だから、体が死んでもアリスたんが好きであるという魂までは無くしたくない。


「なるほどね。まだまだ、痛みが足りないみたいね。

ちなみに、我は同担拒否なの。

だから、イライラがとまらないの。」

卑弥呼は同担拒否であることが原因で、この場に呼んで首絞めを行っているわけだ。

同担拒否は、現在イライラさせる原因の一つであるが、

それよりも卑弥呼は今まで屈服できていたはずの男性が倒れないことにイライラし始めていた。

イライラが強くなった影響で、首を絞める力が強くなった。


息ができなくなり、意識が朦朧としてきたが、少しでも反撃をしたかった。

―――軽くとも反撃できたら、卑弥呼にアリスたんへの愛を認められる気がしたから。



「卑弥呼さんの握力なんかで、僕のアリスたん愛は消えませんよ。」

 わずかな息を使って、出し切れるだけの声を出している。

しかし、この声は弱弱しく、風が吹いたら聞こえないくらいの声である。

―――これが俺の出せるだけの100%中の100%だ。


全ての男性に負けたくない卑弥呼は、生死のギリギリのラインまで絞め続けた。

これで、卑弥呼はエドが屈服するだろうと判断した。


しかし、生死をさまよいながら俺は小さいが気迫を出し続けていた。

そのため、卑弥呼は少し驚いた顔になっていた。



◆◆◆

卑弥呼は、初めて男性に興味を持ってしまったのだ。

―――まだ異性としてではないが・・・


あの告白から男性を嫌いになり、全ての男性を恐怖で屈服させてきた。

しかし、目の前の男は屈服させられなかった。

それは、卑弥呼にとって未知の経験であり初めての世界である。

だから、その世界に入りたいと思い、初めて自分から男性に話したいと思った。


エドは単純にアリスへの愛によって我慢比べしているのであって、卑弥呼は怖いし、おそらく今までの男と同じ度胸である。


・・・卑弥呼は勘違いしている。


残念ながらエドはこの瞬間から、迷惑で美しい猛毒の蛇に巻き付かれてしまったのだ。


◆◆◆




「豆よ。お前の愛は少し丈夫みたいだね。我は、お前に興味を持った。

お前はどれだけアリスを愛しているんだ?」

 卑弥呼は真剣さを増して凝視しつつ、興味深そうに聞いてきた。


卑弥呼の目は、子どもが遊園地に行ったような顔になっていた。

―――初めてというのはなぜこんなに心が躍るものだろうか。


~エド視点

卑弥呼はアリスたんへの愛を認めてくれたため、興味そうな顔になっていると俺は直感した。

同担拒否とか関係なしで、アリスたんに付いて語りたいんですね。


だから、本気の愛を伝えることが卑弥呼に許してもらうことの近道と考えている。


正直、一秒でも早く卑弥呼と離れたいと思っている。

あの首絞めは苦しくて、きついだけの理不尽の暴力であり、2度と受けたくないものだ。

~~~


「アリスたんのアーカイブをおかずにして、自慰行為を毎日しているくらいには好きです。アリスたん以外の女性でここ1年は抜いていません。」


 今出しきれる声を必死にだしているが、首が絞められて声は安い笛みたいになっており、うまく発声できていないと思うが。

―――俺のアリスたんの愛は100%中の120%は卑弥呼に伝わっているはずだ。


俺は嫌われるために、ドン引きされるようなド下ネタを入れている。

きっとこんな変態と絡みたくなくなり、この場からすぐに去るだろう。



◆◆◆

しかし、この狂った回答も彼女にとっては、むしろかなりの好印象である。

最初の救世主は狂人だといろんな人物に言われており、卑弥呼にとっては狂っている人間こそが幸せを運んでくれると勘違いしている。


エドは、知らぬ間に卑弥呼の好感度を上げてしまったのである。

◆◆◆



「我はこんな変態の首を絞めていたのか。でもさ、君はライバーとして面白いよ。」

卑弥呼はその変態発言の回答に満足そうな表情をうかべており、手をほどき、俺の首を解放した。


あれ?なんで、満足そうな顔を浮かべているんだ。

そうか、なるほどな。2期生のコネ入社同士で、アリスたんのことが好きなんだね。



「豆よ。アリスとコラボはこれからもやっていいから。」

 少し感心したような顔になり、この場から卑弥呼は去った。


俺は、内心かなり喜んでいた。

―――殺し屋卑弥呼に、許されて解放された。



だが嫌われるためとはいえ、あんな変態発言を女性の前でしてしまった恥ずかしい気持ちが強く残る。

とはいえ卑弥呼は女性として、俺とは絡みたくないし首絞めもしたくなくなるだろうと俺は安堵した。

―――失った物は大きいが、得た物もかなり大きい。


ただ、俺の中で心残りなことが一つあって、最後辺りの子供みたいに笑っている顔がどこか愛おしいとほんのちょびっとだけ思った。

―――あの顔は本当の卑弥呼の顔だと思えた気がしたからだ。


今までは笑いを道具として使い、彼女の仮面ばかり見ていたわけだし。


でも、これで卑弥呼との絡みは最後になるので、これ以上は卑弥呼の表情は見れないわけだが。



◇◇◇

俺は自室に帰り、卑弥呼の圧で疲れ果ててベッドに俯せてうとうとしている。


卑弥呼に解放されて、

ゲームの許諾の確認も終えて、

本日はすっきりと本業である配信ができそうだと俺は安堵している。


毎日配信をしている俺は配信のネタなどは基本用意しないわけで、配信開始前などに台本を書いたり声の調子を整えたりはしないわけだ。

だから、配信前でもゆったりと過ごすわけだ。


ただ、配信前にこんなに眠いのは初めてで、すこしひと眠りしようと思った。

―――卑弥呼との出会いというのはそれほど特別なものだった。


卑弥呼は恐ろしくて、怖い女性であることは変わらないし、2度と会いたくない。

ただ、生物としての強さを得る代わりに、女性として大切なところを捨てているような印象には、構いたくなる可愛さがほんの若干ある。

それは、俺の偏見であり幻想であるというのは分かっている。


その幻想を考えていると心地よく夢の世界へと行った。

―――――――――――――――――――――

起きた直後、配信開始のボタンを押して、エドワードとしての気合も同時に入れていた。


「おはエド。おまいら、今日は雑談するぞ。」

今まで寝ていたことを悟られないような元気な声で俺はリスナーにあいさつした。


俺は大声教であり、宴会や配信の初めなど盛り上げる系のイベントを行う時は大きな声を出さないと調子が出ないのである。


大声教

―――つまらないことも大声さえ出せば面白く聞こえるという才能なき俺が作った宗教。


大声教は世間に広げる気はなく、俺だけしか信者はいないわけだが。



コメント

:おは豆。

:おは豆。

:おは豆。

:豆。生きとったのか。

:おは豆。卑弥呼様の話お願いします。

:卑弥呼様怖かったでしょう?


ほらほら、俺が寝起きってこと気付いていないじゃん。

大声は最強なんですよ。


「おれは、豆じゃねぇ~。挨拶は、おはエドだからね。」

いつものように鉄板の流れを返して、コメント打ってくれる豆民に誠意を全力で返している。


フライング気味に卑弥呼の件について、聞いてくるものが多くいる。

それにしても、みんな卑弥呼様って言うんだね。

我とか口癖で、暴力を当然のように行っているところ見る感じ支配欲強そうだもんな。


俺も『様』付けようか。

一応、これからの関りはないけど、保険は大切だからさ。


「昨日、卑弥呼様がコメントしたから、やっぱりその話題をしないといけないね。」


もちろん、この話題は触れなくちゃならない。

触れないほうが余計な詮索をする野次馬系のリスナーがいる。

こういったリスナーの対応を間違えると炎上させられる恐れがあり、冷静に対応していかないといけないのだ。


「卑弥呼様と話したけど、意外に気さくでいい人だったよ。アリス談議で花咲いちゃって、楽しかった。あの人のアリス愛は深い。でも、俺には負けるけどね。」

我ながらくさい演技で笑っており、すぐにバレそうだ。

―――ただ、情報に関しては、ばれてもいい真実の情報と嘘が織り交ざっており、審議をかけて確かめることは難しいだろう。


 卑弥呼に首絞められたことを言ったら、炎上するリスクしかないため言えるわけないだろう。

お前らが思っていること以上を卑弥呼にやられているんだよ。

卑弥呼の話題を広げたら、首絞められるんだよ。


コメント

:嘘乙。

:嘘乙。

:嘘乙

:お前、目が泳いでいるぞ。絶対、何かあっただろう。

:卑弥呼様に洗脳されている。


コメントで嘘だとバレていても、そのまま無視で突っ切ったほうが良さそうだ。

 このまま卑弥呼の話題をすると下手なことを言いそうだったので、別の話題に逃げようとした瞬間・・・


なんだろう。この寒気は・・・

例のあの人から逃げようとした完璧なタイミングで、

こういうホラー的なことが起きるのって、

例のあの人の登場のときではないか。と確信してしまった。


おそるおそる禁忌の魔導書を読むようにコメント欄をみると、

クトゥルフの世界へ導きそうな匂いが漂うコメントがぽっと出てきた。


卑弥呼:今日のアリス談議は最高だったね(*^^)v。明日、マリモカートでコラボしよう(#^.^#) 


お前さ、出てくるタイミングがクトゥルフとかホラーの世界なんよ。

俺の中でお前のイメージって、殺人鬼とかクトゥルフみたいな恐怖を表すものでしかないんですよ。


コメント

:仲良くなっていて草。

:卑弥呼様が自分から誘うって珍しいわw

:お前はM、卑弥呼様は過度なSだから、性癖の一致じゃん。

:豆さ、Mということは知っているけど。歪んだな。

:虐待系もいけるのは、正直引くわ・・・


 あんな変態発言した相手にコラボしてくるなんて、卑弥呼は何を考えているんだ。

―――卑弥呼の一番大切な救世主が狂っていることを知らないエドにとって、知る由もない事だろう・・・ 正直、不遇としか言えない。


って、豆民は毎回勘違いしているっての。

僕が好きなのはロリっ子のSであってね。年上は好きじゃないの。

恐怖とか虐待系が大好きライバーに認定されそうだわ。

今卑弥呼が居なかったら、まじで説教だぞ。


「もちろん、いいですよ・・・」

あまりの恐怖に屈服させられて、抜け殻みたいに声が小さくなっている。

―――こんな文字で屈している時点で、今まで出会ってきた男と大差はないのだ。

しかし、あの時はアリスたんへの愛を比べているので、屈服しなかったため、ある意味運命のいたずらに振り回されている。


これを断ったら、リスナーに不仲だと思われてしまい、事務所から説教を受ける可能性とキラライブのブランド低下の恐れなどのリスクが多いからしょうがないだろう。


それ以上に、危険なことが起こりそうだったので思わずYESと答えてしまった。


卑弥呼:やった(*^^)v。



コメント

:卑弥呼様とコラボ決定w

:卑弥呼様って、同期と理先輩以外とコラボしないよね。どうなるんだろう。

:豆虐される未来しか見えんわw


クトゥルフ世界に迷い込んでいるため、記憶がこの辺からあいまいになってしまっている・・・

コメントにどのように返していたか分からなくなっている。


あの首絞め女と殺伐としたマリモカートをすることを考えると、胃がキリキリし始めた。

また、お守りを買いたいな。

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